疑問・上
「その事件が発生した年と月は正確には覚えきれなかったけど――幼児殺人事件や警官連続殺人、ミナミ通り魔事件に、風俗嬢連続変死事件とか……他にもあったかもしてない。警視のタブレットを見てから、曽根崎署で関西の未解決事件を調べてみたんだ。そうしたら確かに、データベースに『彼』起こした事件は表示されなかったけど、タブレットに書かれていた事件と似た事件が起こっているんだ。ここ十年くらいの間に、未解決事件として」
電話口の竜崎は声を潜めているが、背後では捜査一課らしき男たちの声が微かに聞こえている。例のバラバラ殺人事件の捜査で、騒がしくなっているのだろう。
「それはもしかして……?」
「『彼』が繰り返しているのか、誰かが模倣しているのか……今はまだ分からないけど」
竜崎も、まだ確証と思える判断材料を見つけられていないのだろう。
「警視は、『彼』は500件くらいの事件を起こしているけれど、まだほとんど証拠を見つけられていないって言ってたよね?」
「ええ、確かに言ってました」
「君たち『特別心理犯罪課』が出来る前――今から二年ほど前なんだけど、未解決事件が起こったんだ。場所は東三国で、コンビニ前連続通り魔事件」
その事件は、篠原も新聞やテレビを見て記憶に残っていた。現場にいた人すべてが殺害されて、目撃者もいなければ証拠も何も残されていない事件だったように思う。今も捜査されているようだが、何も見つけられず未解決になるだろうと当時安井が言っていた。
「もしこの事件が繰り返し起こっているなら――次は、連続一家殺害が起きると思う」
「え……?」
竜崎の言葉に、篠原は言葉を失った。今回のバラバラ殺人ではなく、一家殺害?
「二件の間に虫食いがなければね。確か、次がそれだったんだ。当時は、現場は箕面だったよ。だけど今回の事件は、多分『彼』の新しく行っている事件――正確には、犯人を作り上げて事件を起こして事になるのかな?」
「では、先ほどの現場は模倣ではなく――き……『彼』が裏で起こしている事件だと?」
「そうだと思う。これの捜査も勿論しないといけないけれど、『連続一家殺人』が起きないかも、用心した方がいいかと思ってさ」
竜崎がそう言った時、電話口の向こうで宮城が「竜崎!」と呼ぶ声が聞こえた。
「はい、今行きます! ――ごめん、呼ばれたから行くよ。覚えているうちに、知らせておこうかと思って。警視に話すとあの人は無茶をするかもしれないから」
それじゃあ、と電話は切れた。
精神科医の方は、笹部が調べているらしい。が、中々桐生の尻尾は見つからないようだ。今回の犯人もまた、桐生による被害者……なのだろうか。
「お仕事の話?」
ジュースを飲み終えた唯菜が、コップをテーブルに置いて首を傾げた。
「うん……少し難しいお仕事なんだ。おじさん、頑張れるか不安だよ」
それは、半分本音だ。櫻子を守りたいと言いながら、彼女が平気な死体の山を見ただけで、こんなにも自分は恐ろしさで参ってしまっている。
「頑張りましょうね。おじちゃんならできるよ!」
そんな篠原の風呂上がりの頭を撫でて、唯菜は学校で先生にして貰った励ましの言葉を口にして小さく笑った。
櫻子と同じく幼くして両親を失い、それでも他人を励まそうとする健気な姪に育った。それと同時に、その成長を見届けられなかった兄夫婦の無念さを思うと、篠原はそれを不憫に思い胸が苦しくなる。
「そうだな。精いっぱい頑張るよ、有難うな。唯菜」
「うんうん。それで、いつさくらこちゃんと結婚するの?」
「は!?」
至極真面目な顔で尋ねる唯菜に、篠原は思わず声を上げてしまった。




