発覚・上
「いやあ、美味かったです! ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
鱧を食べ終えた一行は、道の駅の足湯でのんびりしながら櫻子に鱧の礼を口にした。約束通り櫻子が全員の会計をして、道の駅でも「家族に」とお菓子なども全員分用意した。
「しかし……俺は一人暮らしなので、多分持て余すので捜査課の皆と頂く事にしますわ」
宮城は、そう言うと改めて頭を下げた。
「……そうだった。奥様、亡くされていたのよね。ごめんなさい、宮城さんの家庭環境をあまり知らなくて」
以前、竜崎から宮城は妻を亡くしていると聞いていたのに、すっかり忘れていた。櫻子は申し訳なさそうに、瞳を伏せた。
「いや――あ、その話警視の耳にも入ってましたか。すんません、それ嘘なんですわ。結婚しろってうるさい昔の上司達にそう言ってたら、今もその話が広がっていて……」
宮城は、恥ずかしそうに少し困った顔で笑った。竜崎も櫻子も驚いて、ポカンとした顔になってその宮城を見つめた。
「……え? 課長、それ本当ですか?」
「ああ、お前も知らんかったか。地元の奈良に兄夫婦と両親がいるが、俺は独身やで。仕事ばっかりで、こんな年になってしまたんや。竜崎は、お母さんとお姉さん、弟さんの四人暮らしやったな?」
宮城は自分の顎に手を当てて、確認する様に竜崎を見た。
「はい。父と母は、俺が大学生の時に離婚して……父の浮気が原因です。その父は、当時浮気相手だった人と、今も一緒みたいですね」
「そう言えば、笹部さんの家族は?」
篠原は、聞いた事が無い笹部の家族環境に興味が出たようだった。以前篠原の家に来た時、彼はひどく興味深げだったのを思い出したのだ。
「……普通、かな。共働きの両親と、三人家族だよ。親は今、神奈川に住んでる」
ここに居る五人でも、育ってきた道のりは随分と違う。櫻子はずっと自分だけが不幸だとずっと思ってきたが、刑事になり様々な加害者や被害者を見て、幸福な人は一握りなのだと実感していた。
「――気を付けてね。桐生は、どこにいても私達を見てるから」
少しの幸せでも、桐生は笑顔で踏み潰す。それが自分に向けられるなら耐えられるが、彼がここに居る人たちに危害を加えないかが心配なのだった。
ピコン、と櫻子のスマホが鳴った。「ごめんなさい」と謝ってから、櫻子はスマホを取り出した。そして、画面を見て指で操作しだす。
「……嘘でしょ」
櫻子が呟いた言葉に、思わず隣にいた宮城はそのスマホ画面を見てしまった。それはどうやら、SNSの一つの画面らしい。
『タヒにたい人、DMに連絡してね。一人が寂しいなら、一緒に最後まで傍にいるから』
アイコンは、ナイフを持った黒塗りの人物のイラスト。『タヒ』の意味が分からない宮城は、櫻子の顔を見る。
「警視、これは……?」
「タヒは、隠語よ。横にこの2文字を並べれば『死』をもじった――昔でいうなら、『ギャル文字』かしら……に、なるのよ。これ、大阪キタ・ミナミ、が位置になってるわ」
つい最近、これと似た事件があった事を宮城も直ぐに思い出した。『Z間九人殺害事件』だ。SNSを使い『一緒に死にたい人』や『死ねない人、代わりに殺します』など募集して、応募してきた人物を殺害した残酷な容疑者が捕まったばかりだった。
続いて、宮城のスマホが鳴った。慌てて足湯に落とさない様に、宮城は通話ボタンを押した。
「はい――え、五人? 何やて!?」
向こうからの言葉を聞いた宮城は、驚いた声を上げて思わず立ち上がった。その為、折っていた背広のズボンの裾が湯に浸ってしまった。
「一条警視! 北区のアパートの一室で、切り刻まれた……多分、五人分の遺体が発見されました!」
その場にいた、全員が凍り付いたように動きを止めて宮城を見つめた。
「……優雅に、日常を楽しんでいられないわね。戻りましょう、多分これと関係あるわ!」
「それも――ボスの『情報網』さんからですか?」
立ち上がり足を拭きハイヒールを履こうとした櫻子に、笹部が声をかけた。
「ええ、そうよ」
「……そうですか、分かりました」
笹部も、同じようにお湯から足を出す。そうして一行は、比較的まだ傷の浅い竜崎が帰りの道を急いで運転した。
櫻子達は、夕方には曽根崎署へと戻って来た。署は、マスコミや署員たちであふれかえっていた。櫻子は、そのマスコミの多さにうんざりとした表情を見せた。




