#21蜘蛛の男
う〜ん、よく寝た。
あれ、今何時?ん?2026年?うっそだぁ!だって、前回の投稿は2024の4月……で……
(時計をチラ見)
2026年2月ってマ?(めっちゃごめんなさい)
残りの混じり物たちを探すのをカノンとリオルースに任せて、私はデスパちゃんを呼び出し、その背に跨った。
私が向かったのは魔王城の周辺にある大きな館。館は古びて、不気味な雰囲気を纏っている反面、きれいに手入れされて、整ってもいる。
「ここで合ってるはず…」
手の中の紙切れに目を落とす。
そこには、あるこの家の住所、『いつでも頼る様に』といった旨の走り書き、そして、ある人物の名前があった。
「モーリッシュ・アンモビウム……臣魔七冠『怠惰』の蜘蛛人族…」
このメモを私は昔から持っていた。
思えばデスパちゃんも、何故か昔から私の使い魔だった。
使い魔にするには誰かから譲ってもらうか、自力で下すかしかないらしい。
私の自我がまとまった生後約半年ごろには、既にデスパちゃんがいたから、恐らく誰かに譲ってもらったんだろう。
では誰から?
私は、このモーリッシュなんじゃないかと思っている。蜘蛛っていうのが同じだし、モーリッシュにはつい先日魔王からかばってもらった事もある。
何かあるのかもしれない。
臣魔七冠ということは、それなりの権力がある。魔王軍の重役にも顔が効くはず。なにか、交渉に使える情報をくれれば御の字、それが駄目でも、交渉の場を整えるのに協力してくれれば万々歳。
「テラ・オー・シュリンムストです。『怠惰』様にお会いしたく、お伺いしました」
結構声を張って叫ぶと、その直後に門が勢い良く開いた。
「うげっ…」
また挟まれた。
ウィーディ同様、よほど私を扉でぺちゃんこにするのが好きなようだ。
不敬で処刑してやろうか。
『黒の主よ、その門を通るがいい』
遠くから男の声が聞こえる。モーリッシュの声だと思う。なんの魔法だろうかと考えながら、門をくぐり、バラの庭園を横切る。
ちらりと庭園を覗けば、魔蝶が蜘蛛の巣にかかり、うごうごと逃げようとしているのが見えた。
そういう巣はいくつもあって、色鮮やかな魔蝶が手のひら程の蜘蛛に襲われている光景はなかなかショッキングである。
玄関の前まで行くと、またひとりでに扉が開いた。
今度は挟まれる前に避ける事ができた。
「お邪魔します」
館の中は薄暗くて、視界の端には蜘蛛がかさかさと蠢いている。蜘蛛嫌いを殺す為にあるような館だ。
どちらへ行けばいいかキョロキョロしていると、どこからともなく、小型犬サイズの蜘蛛が出てきた。
この蜘蛛は、数歩進むごとに後ろを振り返る。
「ついてこい、かな」
その蜘蛛に従って進んで行けば、ある部屋の前でピタリと止まった。
「ここね。ありがとう。蜘蛛さん」
案内してくれた蜘蛛にチップ代わりのチーズをあげて、重厚な扉にノックする。
(ここまですんなり通してくれるってことは、害意はない…?いや、それともこれから騙したりとか?)
「テラ・オー・シュリンムストです。メモを見て、ここまで参りました。入室してもよろしいでしょうか」
「…………。」
返事は返ってこない。もしかしてあの蜘蛛に騙されたんだろうか。だとしたら私はなんかよくわからない蜘蛛にチーズを餌付けしただけになる。念の為、もう一度、今度は腹から声を出す。
「あの!『怠惰』様!テラ・オー・シュリンムストです!入室しても…」
「はっははははは!!!!!」
背後から男の笑い声がした。
「?!」
驚いて後ろを振り向けば先程私をここまで案内した蜘蛛がひっくり返って笑っていた。
「まさか…」
「そのまさかですよっと!」
例の蜘蛛はむくむくと大きくなり上半身から順に人の形を取っていく。そのなんとなく胡散臭い顔には見覚えがあった。
「お久しぶりですねぇ!テラ第四王女殿下!ご機嫌麗しゅう?」
「『怠惰』様のせいで大暴落中ですよ。よくもからかってくれましたね」
「いやいや、私とて騙し、からかうことになるとはこれっぽっちも思っていませんでしたよ。まさか、全く気付かれないとは!いやぁ申し訳ありませんでしたねぇ(笑)」
「いちいちうるさいですよ」
多分だけど、この男申し訳ないなんて思っていない。くそが!
でも、このモーリッシュという男はヒョロガリ胡散臭い系イケメン。きっと前世ならば粘着質厄介系のヲタクが、これでもかと湧いていたことだろう。
そう思うと少しだけ溜飲が下がった。
「それで?姫君がここまでいらしたということは、私に何か御用があるのですね?」
へらへらしたままモーリッシュは首を傾げる。2メートルはあるような男のあざとい動きにいらっとしたけれど、本題の方を優先することにする。
「まぁ、立ち話もなんですので、この部屋にどうぞお入りください」
一一一一
モーリッシュの屋敷の応接間には大量の蜘蛛の巣が芸術作品のような美しい形で張り巡らされている。ちょっとした好奇心で、蜘蛛の巣にちょんと触ってみた。すごくベトベトして後悔した。
ふわふわのソファに座らせてもらうと、どこからともなく子犬サイズの蜘蛛がお茶の用意を始めた。
「それで?如何されましたか?」
「実は、今ちょっと混じり物を集めてるんです。でも、欲しい子たちはみんな強い魔族たちに奴隷として飼われていて」
「私にどうしろと?」
モーリッシュはもともと細い目を更に細くして私を見つめる。
「その強い魔族たちから混じり物たちを手に入れる交渉に使える、何か有益な情報を教えて下さい」
「なるほど…それで私の臣魔七冠としての威光と権力を借りに来た、ということですね」
モーリッシュは手元のティーカップの中の揺れる水面を興味なさげに眺め、そして呟く。
「嫌です」
「……」
いや、覚悟はしていた。モーリッシュは『怠惰』の二つ名から分かる通り、自分の興味が湧かなければ一切動かない変態悪魔だとウィーディに聞いていた。寧ろここまで話を聞いて貰っただけ運が良かったと思うべきだろう。
「そうですか。ありがとうございまし」
「ですが!」
私が帰ろうと立ち上がった次の瞬間、モーリッシュが声を張り上げた。
「私がいいことを2つも教えて差し上げましょう」
「…?」
「1つ!姫君は思い違いをしている!」
モーリッシュは役者のような動きで私に顔を急接近させる。
「思い違い?」
「ああ、そうですとも!姫君は交渉によって奴隷を手に入れようとしてらっしゃいますが、そもそもその考え方が間違いなのですよ」
「間違い?」
モーリッシュが私の耳の真横で囁く。私が夢女だったなら致死量の顔面だと思われる。趣味の良いしつこすぎない花の香りがしていらっとした。
「姫君も魔族ならば、力で奪ってしまえばよろしいのです」
魔族は実力至上主義。殴られても殴られたほうが悪く、奪われても奪われたほうが悪いのだ。それは今までの魔族生の中でよくわかっている。でも、
「今の私では序列の高い魔族にはまず勝てな…」
そこまで言って、モーリッシュがニコニコと笑っているのに気付いて、ある嫌な予想が頭をよぎった。
「ええそうですね。あなたはウィーディに甘やかされているお陰で驚くほどに弱い…ならば、強くなればよいのです」
背中に嫌な汗が伝った。
「あの、もしかして、2つ目って…」
「ええ、ええ!2つ目はこの私が!直々に!姫君の為に!」
「姫君が死ぬ直前まで追い込んで差し上げましょう!!!!!」
詰んだなぁと思った。
これからちょくちょくまた頑張ってみます。
よかったらまた読んでくださーい!
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