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君は僕のペット 後編

朝起きるとお手伝いさんが全てしてくれる。



着替えの手伝い、髪の毛のセット。

顔を洗うお湯でさえ部屋まで持ってきてくれてすぐタオルを差し出してくれる。


身支度が終えると食堂に行き、蓮と二人で出された朝食を食べる。

もちろん後片付けなんてしない。


なんか…人間として堕落しそうだ。


自分で全部やれるのに、機械のように無表情でやられると結構ですとも断りづらい。



いつも髪の毛をセットしてくれる年配のおばさんを鏡越しにチラリと見た。

この人ならいろいろ知ってそうなんだけど……

聞いて答えてくれるのかな……


ここに来てもうすぐ1ヶ月になるけども、お手伝いさんや使用人の人達と会話らしい会話をしたことは一度もない。



なんでここで働く人らは人間味がないのだろう?


蓮は6歳でお母さんを亡くし、怖いと言っていたお父さんと機械のような人達に囲まれて息が詰まりそうにはならなかったのだろうか?



「あの……っ。」


他のお手伝いさんが部屋から出て行き、おばさんと二人っきりになったタイミングで声をかけた。


「なんでしょうか?真知お嬢様。」

少し微笑みながら返事をしてくれた。


「良かったっ。もしかしてよく出来たアンドロイドなのかと思ってました。」

思わずとんちんかんなことを言ってしまった。

おばさんがたまらず吹き出す。


「無駄口を叩くと、旦那様が機嫌が悪いとそれだけでクビになったりするんですよ。」

ええっ?!

蓮が怖い人だと言っていたけど、まさかそこまでとは……


「お名前は?」

「ふふふっ…高橋といいます。」

話してみるととても優しそうな人だった。



「蓮て小さい頃どんな感じの子だったんですか?」

蓮の過去を知れば何かわかるかもしれない。


「蓮坊っちゃまはすごくママっ子で、病弱だった奥様の側からずっと離れませんでしたわ。日に日に弱っていく母親を見るのは…小さい子供には耐えられないと思ったんですけど、最後の最後まで…見送りました。」



そうなんだ…


蓮はわずか6歳でそんな辛い経験を……



「奥様と蓮坊っちゃまは大変お顔が似ているのですよ。ほんとそっくりで……」


高橋さんはそう言って黙って鏡を見つめた。



そうか……


蓮が鏡を嫌いな理由。

自分の顔を見るとお母さんを思い出すからなんだ。



「奥様が亡くなってからは屋敷でずっと一人でした。だから……嬉しかったんでしょうね。」


高橋さんが目を細めながら私を見た。


「ホントお二人は仲が良い。恋人同士みたいに。」

高橋さんがしたチャーミングなウインクに恥ずかしくて顔を伏せてしまった。


「さあ食堂に行きましょう。蓮坊っちゃまが待っておられますわ。」







食堂に行くと蓮が食べずに私を待っていた。


「遅いポチっ。早く座って。」

何席もある大きなテーブルで、蓮は決まって自分の左の席に私を座らす。


「美味しい?ポチ。」

食べてる私を嬉しそうに見つめる……


蓮はこの広いテーブルで、毎日ずっと一人で食べてたんだろうな。



「……蓮。」

「なに?」


「ずっと…こうやって一緒にご飯食べようね。」

急に言われて蓮は一瞬キョトンとした。


高橋さんからさっきあんな話を聞いたからつい口走ってしまった。

変だったかな……


連は手を伸ばし、私の首輪をそっとなぞった。




「当たり前だよ。ポチはずっと僕のペットなんだから。」





この首輪は、蓮の孤独が生み出した悲しい足かせなのかもしれない。




大事な人がいかないように……


また…自分一人を残して


いってしまわないように─────










母と父が長い新婚旅行を終えて帰って来た。


蓮や高橋さんがすごく怖い人だと言っていたので母のことを心配していたのだが、こちらが目のやり場に困るくらい二人はラブラブだった。



時間が合えば四人で食事をした。

会話を作るのは主にお喋り上手な母だった。

蓮も母とはとても楽しそうに会話をしていてホッとした。






今日は以前フワフワ系お嬢様の乱入で行けなかったパルフェに蓮と来ていた。



「ポチのお母さんはとても面白い人だね。」

美味しそうなメニューに悩む私に蓮が言った。


「でしょ?すごいバイタリティがあって娘の私はいつも振り回されっぱなしなんだから。」


「……僕の…考えすぎだったみたいで安心したよ。」

蓮が何か独り言のようにつぶやいた。



蓮はカプチーノ、私はケーキセットを頼んだ。

ここはオープンカフェである。

私達は外から一番目立つ席に案内された。


外からも店の中からもたくさんの女の子が蓮を見て赤らんでいる……

そんな中雑誌を読みながら平然とカプチーノを飲む蓮。


視線気にならないのかな?

まあこんなのいちいち気にしてたら蓮は外歩けないか……


「ポチはさっきからなに僕のことジロジロ見てんの?」

怪訝そうに言われた。

私からの視線は気になるらしい。


「クリーム、口に付いてる。」

そう言って蓮は紙ナプキンを私に渡してくれた。

美味しくてついパクパク食らいついてしまった。


「次付けてたら舐めとるから。」

こんな目線が集中してる中でそれは困る。



私は今日もヒラヒラフリフリワンピースだ。

これってどうも蓮の趣味っていうよりペットに着せる感覚っぽい。


きっとここにいるみんなからは小学生の妹にケーキをおごってあげている優しいお兄ちゃんにしか見えてないんだろうな。

私ってめっちゃ好感度UPアイテムじゃん。


そんなことを考えてたら蓮が私のおでこをペロっと舐めた。

周りから悲鳴が上がる……


「ななっ……?!」

一気に顔が真っ赤になった。

「クリームが付いてた。」


「おでこになんか付くわけないし!」

「でも付いてた。」


「こんなとこ付く人いないって!」

「でも付いてた。」


「蓮のウソつきっ!」

「だって付いてたも〜ん。」


クスクス笑いながら雑誌を読む蓮。

あぁもうこの笑顔…破壊力がハンパない。


私は真っ赤になりながら残りのケーキを食べた。








蓮との関係がとても心地よいものになってきていたある日、晩ご飯の場で父の言った言葉にみんなが凍りついた。


「真知にふさわしい結婚相手を見つけてきた。」



うん?……結婚?

結婚相手…えっ、私の結婚相手?!


「今度の土曜日にお見合いすることになったから用意しとくように。」


それって3日後だ……

もうそこまで話が進んでるの?!


「お父さん、真知にはまだ早いんじゃないでしょうか?」


私も母も唖然とする中、蓮だけが父に問いただした。

冷静を装っていたが声が震えている…

怖いと言っていた父に対して少しでも反論するなんて初めてなのかもしれない。


「お相手は真知のことを大変気に入っている。問題ない。」


「相手は誰なんですか?」

「TYグループの次期社長、藤堂 晴彦氏だ。」


相手の名前を聞いたとたん蓮が青ざめた。


有無を言わさぬ態度で父が席から立ち上がり、その後を母が何かを言いながら慌てて追った。



なに……私どしたらいいの?

お見合いって……私、結婚させられるの?

頭の中がぐるぐる回りまくる。


「……蓮…」

私はすがるような目で蓮を見た。

「ごめん、ポチ。気分が悪い……吐きそう……」

蓮は口を抑えながら洗面所へと走って行った。



一人ポツンと残された私は、そこから立ち上がることさえできなかった。








お風呂に入りパジャマに着替えたけど全然寝れそうにない。


気付けば蓮の部屋の前に来てノックをしていた。


「……開いてる。入って。」


蓮は片腕で両目を隠した状態でベッドに仰向けの状態で横たわっていた。

服が食事をした時のままである。

あれからずっとベッドで倒れていたのだろうか……



「どしたらいい?」

不安を抑えきれずに蓮に聞いてみた。

「どうしようもない。父の言うことは絶対だ。」

蓮がそのままの姿勢で答えた。


「じゃあお見合いして結婚しなきゃダメなの?全然知らない人と……」

「ポチの相手の藤堂ってやつは今36歳だ。」

私と20歳差?!母と同い年だ。


「そんな人がまさか本気で私を相手にしないよね?」

このお見合いは失敗して終わるかもしれないと思ったのだが……


「残念なことにそいつはロリコンで有名だ。ポチなんてモロどストライクだろうね。」


が───────んっ!!



マジか……マジなのか。



「父はこれが狙いだったんだ。おかしいと思った。いきなり再婚するとか言い出すから……」


蓮の腕の隙間から見える目元が濡れていた。

ずっと一緒にいようねと、つい先日確かめ合ったばかりなのに……


私は指でそっと…蓮の流れる涙を拭ってあげた。


蓮が伸ばしていた私の手を掴みベッドへと引っ張った。

体勢を崩した私は蓮に体を掴まれ、そのままベッドへと押し倒された。


「蓮、ちょっ……」

蓮は私の胸に顔を埋め、強く抱きしめてきた。

体が震えている……


「……ポチまでいなくなるなんてイヤだ。」


蓮の絞り出すような切ない声に胸が張り裂けそうになった。

私だってイヤだ……蓮と離れたくない。


考えただけでも涙があふれてきて止まらなかった。




「もう一人にはなりたくない……」





声を押し殺しながら泣く蓮を


私は一晩中なでてあげた───────










お見合い当日。


お互いの両親と場を仕切る仲人役の人と計7人が席に着いていた。


蓮の姿はない。

最近蓮が相手してくれないとチクッてきたフワフワ系お嬢様と今日は会うようにと父から言われたからだ。



蓮は今頃あの子とデートか……

考えるだけで気が滅入る。





私のお見合い相手の藤堂 晴彦は年よりは若くは見える。


蓮が言うにはロリコンだけでなく手癖も悪くかなりの変態らしい。

蓮からすぐ脱がされそうな服は危険だから着物にしろと言われた。

自分で言うのも悲しいがまるで七五三だ……



藤堂は身長も高くスポーツマンらしいガッチリとした体付きで日に焼けていて、見た目はイケメンの部類に入るだろう。



なのにロリコンなんだこの人……



母と楽しそうに談笑する姿からはとても信じられない。

でもモテそうなのにまだ一度も結婚してないということはそういう理由があるからなのだろう。



「良さそうな人じゃない。」

母が小声でささやく。

最初は自分と同じ歳だということで父に猛反対していたのに……


ロリコンということは母には言っていない。

母と結婚した理由が私をこの人に差し出すためだなんて口が裂けても言えるわけがない……



母がこの人を口説き落としてくれないだろうか……

心細すぎてこんなクレイジーなことを考えてしまった。



「ではあとは若いお二人でお庭でお話でもして来てはいかがかしら?」

はあ……やっぱそうくるよね。

二人っきりで何を話せばいいのだろう。






「真知さんはとても奥ゆかしい方ですね。」

物は言いようだなぁ……人見知りなだけですよ。


なんかこの人に嫌われるような言葉や行動をしてやりたいのだけれど、そんな大胆なこと私にはムリだ。


「私は真知さんのような方がとてもタイプなんですよ。今日会って確信しました。是非結婚して欲しい。」


せめて蓮がそばにいてくれたらなぁ……

勇気を出してガツンと言ってやれるのに。

この変態ロリコンやりチンヤローって……


「結婚する前に大事なのは体の相性だと思うんですよ。良ければ今から試しませんか?」


蓮に会いたいなぁ。

最近蓮のことばかり考えてしまう。


「ちょうど近くに着物の着付けもしてくれるホテルがあるのですがどうですか?真知さん。」


うん?


「ええ、そうですねぇ……」


何を聞かれたんだろうか。

適当に返事をしてしまった。


藤堂は私の腕をわしづかみにし、鼻息荒くズンズンと進みだした。


「あ、あの……ちょっと、藤堂さん?」

なになになになに?どうなってんの?!

腕が引っ張られて痛いんだけどっ。


「着く前に少し味見をしてもよろしいですか?」

お腹が空いているのだろうか?

だからこんなに急いでいるのか。


「はあ、どうぞ。」


何か持っている食べ物を食べるのかと思ったら、何だか人気のない庭の奥へと連れ込まれてしまった。


「真知さん意外と大胆ですね。ますます気に入りましたっ。」

何か目が血走ってるんですけど……

どう見てもお腹が減ってるんではないよね?

なんだかかなりヤバそうな気がしてきた。


「もうこんなに固くなってしまいました。触って下さい!」

藤堂は私の手をむんずと掴み、自分の股間に押し当てた。




「ぎゃあぁああ────────っ!!」




固いブツが私の手の平に思いっきり当たった。


人間本気でビックリすると、きゃーなんて可愛い悲鳴は出ないのね。

自分でも驚くぐらいデカい声が出た。


悲鳴の後はさっさと逃げなきゃとは分かっているのだが、涙目になってその場にへたり込んでしまった。


藤堂はひるむどころかナニをおっ立てて、煙がでるんじゃないかってくらい鼻息荒く私ににじり寄ってきた。



「こ、来ないで下さい!!」

なんなのこの人?!

変態すぎる!!この世のものじゃない!!


「たまりませんな〜。」

ヨダレを垂らして近ずいてくる。

今までこんなに鳥肌が立ったことなんてない。


私の着物の裾や襟を力任せに引っ張り脱がそうとしてきた。

これが今現実に自分の身に起こっていることが信じられず、頭が真っ白になった。


「真知!!」


聞こえるはずのない蓮の声が聞こえた。

もう何が現実なのか幻覚なのか全然わからないっ。



誰かが私に覆いかぶさる藤堂を後ろから引っ張って引き剥がし、私を優しくすくい上げてくれた気がした。





「大丈夫?!僕だよ…わかる?!」

我に返ったら蓮が私を抱きしめ心配そうにのぞき込んでいた。



蓮だ……蓮がいる。


これは現実だっ。




「ごめんねポチ…もっと早く来るんだった……」


「ふぇ…ふぇ〜んっ!」

蓮にしがみついて子供みたいに泣きじゃくってしまった。






「真知さんその泣き方サイコー!そそるっ!」

変態ロリコンやりチンヤローのテンションが上がる。




───────っ!




蓮が静かにブチ切れた。

綺麗な顔で凄むととても怖いっ。

藤堂も蓮の殺気立った雰囲気にたじろいだ。


「君は菅原家のご長男の蓮君だよね?このお見合いが破談になったら君の会社がどれだけの損失を被るかわかっているのかい?」


「はあ?関係ねぇなぁ。貴様は一発ぶん殴るどころじゃ気が済まねぇ。」


ここで蓮が殴ったりしたらあの父にどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。


「蓮っ止めて!」

「下がってろ。危ないから。」




どうしよう……止めないと…

どうしたらいい?




私は藤堂に向かっていく蓮の前に回り込み、蓮の顔を両手で掴んだ。



驚く蓮にめいっぱい背伸びをしてキスをした。



触れるか触れないかくらいの一瞬のキスだったけど、蓮を冷静にさせるには十分だった。



「……ポチ?」

目を真ん丸にした蓮の顔が赤くなる。





「藤堂さんっ私達付き合ってるんです!なのでっ藤堂さんとは結婚できませんっ!!」


大きな声ではっきりと言ってやったのだが、ロリコンヤローは鼻で笑いやがった。


「君ら血が繋がってないといっても兄妹だろ?そんなお子ちゃまみたいなキスで付き合ってるとか言われてもねー。」


今度は蓮が私の顔を両手で掴んだ。

「ポチ、舌出して。」

まさかまさかまさかまさか!

ムリムリムリムリっ!!



「ポチはアイツと結婚したいの?」

蓮が小声で聞いてきた。

んなわけがないっ!


「僕のこと嫌い?」

「……嫌いなわけないっ。す……」


私が口を開いたとたん蓮に強引に唇を奪われた。




蓮の熱いものが私の口の中に入ってくる────




こっ、これが大人のキス!


さっき可愛らしいファーストキスを終えたばかりの私が耐えれるようなシロもんじゃなかった。

頭がクラクラするっ!



「もういいっ!」


藤堂が私に激しいキスをしてくる蓮を止めた。

蓮は上目使いに藤堂を睨みつけると、ゆっくり私の口から離れた。



「わかった?真知は誰にも渡さないから。」



蓮は私を強く抱きしめ、藤堂に向かって中指をおっ立てた。


「ふざけやがって!!どうなるかお前こそわかってるのか!!」

「コレあげる。」

そう言って蓮はポケットから出した封筒を投げ渡した。


「中身、見てみて。」

蓮に言われ中に入っていた写真を見た藤堂の顔が青ざめた。


「それをばらされたくなかったらこちらの良いようにするんだね。」


藤堂はわなわなと小刻みに体を震わせたあと、逃げるように去っていった。






「ポチ、ケガはない?」

蓮がいたわるように私の体を見回す。


「なにあの写真?」

「うん?変態ロリコンやりチンヤローが中学生と売春してる写真。」

げっ……!


「バレたら間違いなく捕まるし、社会的にも抹殺されるだろうね。」

「なんでそんな写真持ってるの?」

「イタリアにいるおじいちゃんに頼んだ。さっき僕のとこに届いたんだ。」


イタリアのおじいちゃん?

確か前にイタリア社会の大物だとか言ってたっけ…


「イタリアの裏社会の大物なんだ。」

「裏社会?」


「そう、マフィア。」

まさかのリアルゴッドファーザー!!


「父は母が亡くなったことでパイプが切れたけど、僕は可愛い孫だから頼めば結構なんでもしてくれる。」


蓮がたまに半殺しとか殺していいとか言ってたのって冗談じゃなく本気だったのかも……



あれ……待てよ。


「あの写真があったんならわざわざあんなことしなくても良かったじゃん…」

思い出しただけでも顔から火が出そうだ。



「あれはポチがノリノリでやり出したんでしょ?」

「で、でも二回目のは蓮からでしょ?!」


「感じてたくせに。」

「感じてなんかないし!」


「もう一回してあげようか?」

「……私達、一応兄妹だから…」


「あれ?ポチってそういうの気にするタイプ?」

「普通に気にするし!!」





後日、変態ロリコンやりチンヤローは私との結婚話を一身上の都合により断ってきた。

そのお詫びにと父の会社にとても有利な条件で契約を結んだ。







あと、蓮はイタリアのおじいちゃんにフワフワ系お嬢様のことも頼んでいてヤバい写真を手に入れたらしい。

もう寄ってくることもないから大丈夫って言われた。


どんな写真かは怖すぎて聞けなかった……








母と父はまた旅行に出かけた。

今度は二週間かけてヨーロッパを回る予定だ。

きっかけはどうであれ、あの二人は仲良しのようだ。

さすが何人もの男と浮名を流した魔性の女、母である。







私と蓮も相変わらずな関係が続いている。



朝も放課後も蓮は私の教室の前までお見送りをしてくれる。

蓮が私にしてくれることはこれだけじゃない。

超過保護のお兄ちゃんだねって友達からはよく言われる。



「わっ、やばっ。」

もうすぐ蓮が迎えに来てくれるのに筆箱を落として散らかしてしまった。

慌てて拾い集めていると隣の男子も一緒に手伝ってくれた。


「真知ちゃんておっちょこちょいなところあるよね。」

「えっ……そう?」

「うん。見てて思う。可愛いよね。」


可愛い……

蓮以外の人からそんな風に言われてちょっと照れてしまった。



「……真知っ。」


はっ……しまった。


「帰るよ……」


顔が怒っている。

しっかり見られてしまったようだ。




「なんでポチは言うこと聞けないかなぁ。」


「筆箱を落としたのをね、手伝ってくれて……」

「言い訳は聞かない。僕がイヤなのっ。」


これってヤキモチなのかな。

蓮に聞いてもしつけだって返ってきそうだけど……



「やっぱあいつ殺していい?」

「いや、ダメでしょ!」



蓮と初めて会ったのは暑い夏の日だったけど、もうすっかり季節は巡り寒くなっていた。

さっきから吹いている冷たい風は北風一号だろうか。



「ポチもっと僕にくっついて。風除けになってあげるから。」

お迎えの車まではもうわずなか距離なのに、蓮は私の肩に手を回して寒さをしのいでくれた。


蓮とこうやって密着していると、とても温かくて心地が良い……



「今日の夜は僕の部屋に来てね。」

「えっ……なんで?」


「約束を破ったお仕置き。」

蓮がペロっと舌を出す……



「またそうやってっ……私にやらしいことするつもりでしょ?!」

「僕は何も言ってないじゃん。デコピンするだけだよ。」


「蓮がデコピンだけで済むわけないっ!」

「ポチがいつも物欲しそうな顔して見てくるから…」


「み、見てないし!」





蓮は相変わらず私にすごく甘かったりすごく束縛してきたり…兄弟なのにやらしいこととかも平気でしてくる。



振り回されっぱなしの毎日だけど、それでも私が蓮のことを大好きでずっと側にいたいって思うのは……



蓮いわく──────





「だってポチは僕のペットだから。」






なのである。














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