君は僕のペット 前編
「お母さん再婚するわっ玉の輿よ。」
ある日の昼下がり、カフェでランチを食べながら母が嬉しそうに言った。
私が小さい頃からいろいろ自由な母だった。
子供の私から見てもすごく華やかで聡明で社交的な魅力のある女性だ。
父の浮気が原因で私が1歳の時に離婚している。
バリバリ仕事をしながら女手ひとつで私のことを育ててくれた母にはすごく感謝していた。
仕事で知り合った社長さんとお付き合いしているとは聞いていたけれど……
今までいた数ある恋人のひとりぐらいにしか思っていなかった。
「おめでとう、お母さん。」
私を20歳の時に産んでいるので母はまだまだ若い。
ずっと良い人がいたら幸せになって欲しいとは思っていた。
新しいお父さんか……
いや、全然記憶にないから初めてのお父さんて感じかな。
どんな人だろう…緊張するなぁ〜。
私は母と違って自分の気持ちをさらけ出すのは苦手だ。
母が言うにはいつもポケ〜っとしてるらしい。
でも自由奔放な母に振り回されたおかげで神経はだいぶ図太く育ったと思う。
「今からここに来るから。真知も明るくちゃんと挨拶するのよ。」
えっ……いきなり?!
どうりで新しく買ってきた服を私に着せたわけだ。
こんな花柄でヒラヒラフリフリなワンピース……
オマケに頭にデッカいリボンまで付けられた。
私は今、高校一年生だ。
どうも母の中では私は小さい子供のままらしい。
まあ身長が150cmもないし顔立ちもまだまだ幼いから仕方がないのかも。
でもこんな服を着せられたら小学生の発表会にしか見えない……
「来たわ。菅原さんっ。」
ええっ!もうっ?!
心の準備が何も出来ていない……心臓がいきなりドキドキ度MAXだ。
「はっ初めましてお義父様っ真知と言います!」
差し出された手を両手でガシッと掴んで挨拶した。
緊張しすぎて顔が見れない……
「……よろしく。真知ちゃん。」
少し笑いながら返事をしたその声は、思った以上に若かった。
恐る恐る顔を上げてみると、息をのむぐらい綺麗な男の人が立っていた。
どう見てもハタチ前後にしか見えない……
お母さんっなんて若いツバメをGETしちゃってんの?!
「やだ真知。そちらは息子さんの蓮君よ。」
「えっ……?」
蓮と言われたその彼の隣りにはとてもダンディーな男性が微笑みながら私を見ていた。
あっ、そうよね。いくらなんでも若すぎるよね。
ホッとしてそちらの男性と手を握る。
うん?息子?
この人の息子ということは─────
「こんな綺麗なお母さんととっても可愛いらしい妹ができるなんて幸せです。」
爽やかに笑うこのイケメンが……
私のお兄ちゃんになるってこと?!
新しいお父さんだけでも衝撃もんなのにお兄ちゃんまでついてきた。
しかも新しいお父さんは大企業の御曹司だった。
玉の輿どころのレベルじゃないっ超スーパー玉の輿だ。
次結婚するなら金持ちがいいとは豪語はしていたが……
マジかお母さん…マジなのか。
結婚式はお互い再婚同士ということもあり家族だけでこじんまりとやった。
庶民的な公立の高校に通っていた私は、蓮と同じセレブな私立の学校へと二学期から編入することになった。
試験も何もしてないのに……
金の力がなせるワザってすごい。
家ももちろん結婚先の豪邸へとお引越しだ。
目まぐるし過ぎて気持ちがつていけない。
いくら私の神経が図太いといっても完全にキャパオーバーだ。
ただ過ぎていく変化に呆然と身を任し、何も言えずにいる私を蓮がずっと横にいて気づかってくれた。
「本当のお兄ちゃんだと思って甘えてね。真知ちゃん。」
見た目完璧、性格抜群に良いお兄ちゃん……
優しくされればされるほど戸惑ってしまう。
まったくの異世界に迷い込んだ気分だ。
ようやく一通りのセレモニーが終わり、父と母は長い新婚旅行へと旅立って行った。
しばらくは豪邸で蓮と二人っきりである。
まあお手伝いさんや使用人がいっぱいいるのだけど。
「真知ちゃん、部屋まで案内するよ。」
一度荷解きをするためにやって来てはいるものの、広すぎる屋敷で鈍い私は迷子になりそうだった。
私達の後ろからは、私の鞄を持ったお手伝いさんがついてきている。
それくらい自分で持つのに……
この環境に慣れる日がはたしてやってくるのだろうか……
「遠慮せずにお兄ちゃんって呼んでね。」
そうは言われても……
私とは似ても似つかぬひとつしか違わないこのイケメンさんをお兄ちゃんと呼ぶにはかなりの抵抗があった。
部屋に着き、私の荷物を置いたお手伝いさんが頭を下げて出ていく。
「ありがとうございました。」
私もお礼を言って深々とお辞儀をした。
「そんなこといちいちしなくていい。」
蓮に少しいらだった口調で注意された。
「真知、コレ付けて。」
何やらプレゼントの入った袋を私に乱暴に投げ渡してきた。
開けてみるとチョーカーのような首飾りが入っていた……
いや、チョーカーというより首輪っぽい。
犬や猫が付けそうなあのペット用の首輪だ。
「あの……コレ?」
「付けて。」
コレを……私が………?
意味がわからなかった。
「今日から真知は僕のペットね。」
母が再婚すると言ったここ最近の衝撃的な日々の中で
一番のインパクトだった。
「それ着けて初めて会った時の服に着替えて。30分後にまた来るから、散歩に行こう。」
首輪を手に無言で固まっている私を蓮がのぞきこむ。
「ちゃんと言うことを聞くんだよ。ポチ。」
そう言い残して部屋から去って行った。
ポチ……?
ああなるほど。真知だからポチか……
上手いこと言うな。
てことは私は犬なのか。
散歩って首輪にリードも付けるのかな。
四つんばいで歩くとかは…いくらなんでもないよね。
オテとかオカワリはしそうだな。
ご主人様って呼ばされるのかな。
ついさっきまでお兄ちゃんって呼んでねって言っていたのに……
いや、違うか。ご主人様って言うのはメイドだ。
私は犬だからワンとしか言えない……
いやいやいやいやいや。
なに犬になろうとしてるんだ私っ!!
あまりの衝撃度に正常な判断ができなくなってしまった。
おかしいっ…アイツおかしいぞっ!!
私は母に助けを求めようとスマホを手にした。
母はもう海の上だ。
豪華客船で1ヶ月に渡り世界を旅する。
つい先程、蓮と一緒に運転手さん付きの車で港までお見送りに行ってきたところだ。
助けを求めたところで帰って来れない。
せっかくの新婚旅行なのに心配をかけさせたくはない……
友達の連絡先の画面を開ける。
でも母が再婚するから遠くに引っ越すことになったとしか説明していない。
いきなりセレブなイケメン兄からペットになれと言われて首輪を渡されたんだけどどう対処したらいい?などと言われて誰が信じるだろうか……
私ならとち狂ったとしか思えない。
転校先も今は夏休み中でまだ一回も登校していない。
たくさんいるお手伝いさんや使用人はどうだろう?
ただ機械的に無表情で働く姿を思い出す……
あの人達にとっては主人は蓮の方だ……
私みたいな新参者の味方になってくれるとは到底思えない。
味方なんていない。
となれば───────
私は扉を開けようとドアノブに手をかけた。
何度ガチャガチャやっても開かないっ外から鍵がかかってる!
窓に走って行き外を確認する……ここは3階だ。
落ちたら死ぬ。
無理っ……逃げ場なんかない。
武器っ!何か武器になるようなものは……
いや、戦うより隠れた方がいいかもっ……
「用意できたかい?」
広いウォークインクローゼットに隠れているところをあっさりと見つかってしまった。
「ふーん…僕の言うことが聞けないんだ。」
蓮は隅に縮こまっている私のところまで来て、逃げられないように両手で私を囲うように壁ドンした。
「ポチにはお仕置きが必要みたいだね。」
おっ、お仕置き?!
首輪とかペットとか平然と言う男のお仕置きって一体なに?!
私は怖くてギュッと目をつむった。
「えいっ。」
蓮はそう言って私のおでこにデコピンした。
───────はい?
えいって……デコピンだけてっ……!
「なにその拍子抜けしたような表情?いろいろやらしいこととか想像しちゃった?」
蓮がイタズラっぽい顔をして笑った。
「しっ、してないし!」
「ちょっと動かないで。」
首筋がひんやりとした。
蓮が私の首に首輪をかけ金具をしめる。
「これでポチは僕から逃げられないからね。」
首輪には小さな南京錠が付けられていて、自分では外せないようになっていた。
「あのっ……これって…」
蓮は私の言葉など無視して上機嫌でクローゼットに吊るされた服を探し始めた。
あの花柄のワンピースを手に取り私に見せる。
「僕が着せてあげようか?」
「自分で着ますっ!」
真っ赤になって答えた私を見て蓮がクスっと笑った。
「良い子だ。15分だけ待つから早くね。ポチ。」
こうして、蓮と私の奇妙な関係が始まったのである。
蓮にお散歩と言われて連れて来られたところは可愛い服がいっぱい並んだお店だった。
私が今着てる花柄のヒラヒラフリフリワンピースと同じブランドのものだ。
聞けば蓮の父の会社が経営するお店らしい。
今は私の父のお店ともなるのだが……
「好きなの選んでいいいよポチ。プレゼントしてあげる。」
全然趣味じゃない。
私のクローゼットにかけてある服見たよね?
こんなプリティな服を私が着たら小学生にしか見えないんだって。
「使用人にポチが持ってきた服は全部捨てるように言ってあるから。買わないと明日から着る服ないよ?」
なんですと?!
「下着もね。」
はあ?!
私はお店の壁際に置いてある下着コーナーに目をやった。
レースやらリボンやらがこれでもかってくらいてんこ盛りだった。
あれを私がつけるのか?!マジか!!
「ポチが明日からノーブラ、ノーパンでも僕は構わないけど。なんなら全裸でも……どうする?」
「買います!」
ほぼヤケクソで店員に勧められるままに爆買いした。
こんなの着るのやだけど、全裸よりマシっ!
帰りにご飯を食べて帰ろうと蓮に言われた。
とても高そうなお店……
フォークにナイフにスプーンがたくさん並んでいてどれを使っていいのかまるでわからない。
蓮が料理が運ばれてくるごとにコレを使うんだよと丁寧に教えてくれた。
「美味しい?ポチ。」
さっきからずっと料理を食べてる私を嬉しそうに見てる。
この人いったいどういうつもりなんだろう……
いろいろ聞きたいことはあるのだけども、口下手な私はどう話を切り出せばいいのかがわからない。
それに蓮て……
男なのに見た目がとても綺麗すぎて…恥ずかしくて直視できない。
母親がイタリア人の血が混じったハーフだと言っていた。
クォーターである蓮も顔立ちが少しハーフっぽかった。
「ポチはどうして僕とあまり話をしてくれないの?」
──────それは……
「会った時からそうだったでしょ?」
初めて真っ直ぐに見た蓮の顔はとても寂しげだった。
「僕のこと嫌い?」
私は普段でも口数の多い方ではない。
喜怒哀楽を表現するのも苦手だ。
母の再婚が決まってから気持ちがついて行かなくてさらに口数が減り無表情になっていた。
でも蓮はそんな私にも最初から優しくて常に声をかけて気を遣ってくれていた。
「ち、違うよ…」
嫌われてると思わせるほどに、私の態度は酷かったのだ。
「私人見知りする性格なの。それに…すごく綺麗だから……緊張する。」
「……綺麗?僕が?」
驚く蓮の目を見て私は大きくうなずいた。
「参ったな……」
蓮は手で口を覆い私から目をそらした。
指の間から小さなため息がもれる……
「ポチがうちに来てくれて、本当に嬉しいよ。」
嬉しいという言葉とは裏腹に、とても悲しそうなのはなぜなのだろう……
この蓮という人を、もっと知ってみたいと思った。
今日から二学期、私もセレブな高校生の仲間入りだ。
今まで自由な母に振り回されて何回も転校したことはあったけれど……
まったく畑違いの場所に行くのはさすがに緊張する。
うまく溶け込めるだろうか…
初対面でもフレンドリーに話せる人が羨ましい。
いつも運転手付きの車で送ってもらっている蓮と一緒に私も送ってもらった。
ど緊張している私の手を隣に座っていた蓮がギュッと握った。
「大丈夫。ポチを少しでもいじめるやつがいたら僕が半殺しの目に合わせた後、学校から追放してあげるから。」
綺麗な笑顔で恐ろしいことを言うんだな……
休憩時間になったとたん、私の周りには女の子達の人だかりができた。
「ねえねえ、蓮先輩っておうちの中ではどんな感じ?」
「好きなタイプとか知らない?」
「蓮先輩の髪の毛とか手に入らないかしら?」
「どんなデザインのパンツ履いてるの?」
蓮すごい人気だな……
まああんだけ格好良ければそうなるか。
親同士が結婚して私が妹になったことはもう学校中で噂になっていたらしい。
この子ら名家のお嬢様なんだよね?
結構聞いてくることどぎついな……
「ねえその首に巻いてるの首輪だよね?なんで付けてるの?」
隣に座っていた男子が割って入って聞いてきた。
─────なんて答えよう……
「それは僕が真知にプレゼントしたものだよ。」
みんなの視線の先に蓮が立っていた。
「兄妹になったお祝い。可愛いでしょ?」
一瞬の沈黙の後黄色い悲鳴が上がる。
みんな可愛いです〜とか私も欲しい〜とか口々に言っていた。
「真知、ちょっとおいで。」
蓮につれられ屋上に続く人気のない階段へとやってきた。
まだ半日も経ってないのに疲れた……
矢継ぎ早にくる質問攻めに戸惑いまくりだった私は精神的にかなり参っていた。
あんなに知らない子らに囲まれるのはキツイ。
私は階段の段差に座り込んだ。
「ポチ、男の子と喋るのは禁止ね。」
立ったままの蓮を見上げると顔が怒っていた。
「話しかけられても?」
「もちろん。破ったらお仕置き。」
お仕置きって……私は無意識に以前デコピンされたおでこをスリスリと触った。
「次はデコピンじゃないよ。あん時ポチが考えてたやらしいお仕置きをするから。」
「か、考えてないし!」
蓮が私の視線まで腰を下ろしたと同時に私を引き寄せ強く抱きしめた。
えっ?!いきなり何?
「心配だな。ポチは可愛いから……変な虫がすぐ寄って来そうだ。」
かっ、可愛い?!私が?
「蓮の方がよっぽど綺麗だよ!モテモテだったしっ。」
「……蓮?」
しまった!慌てすぎてつい呼び捨てにしてしまった。
お兄ちゃんと呼んでねと言われてたのに……
「ご、ごめんなさい。」
私の肩に両腕を回したまま、横からのぞき込んでくる蓮の視線が近い……
「いいよ。ポチなら呼び捨てしても。」
耳元に息がかかりそうな距離で蓮がささやく……
「むしろ……ポチに呼び捨てにされると
……ゾクゾクする。」
なっ………
ダメだ……顔が…
これ以上ないってくらい熱いっ。
「ポチ、ゆでダコ。」
「だって蓮っ言い方やらしい!」
「そう?ポチがエッチなこと考えすぎなんじゃない?」
「違うしっ!」
私は蓮から逃れるように階段を駆け上がった。
「あの子達なんとかして…私、ああ言うのはすごく苦手なの。」
「すぐ治まるよ。僕のことを騒いでいるやつらは僕を見てるわけじゃないから。」
うん?どういうこと?
「僕がお金持ちだから騒いでるんだ。それは父であって僕じゃない。」
何を言っているんだろう……
みんな蓮が格好良いからきゃあきゃあ言っているのに。
そう言えば以前も私が蓮のことを綺麗だと言ったらすごく驚いていたっけ……
「……蓮て…鏡見たことあるよね?」
あまりにも不思議なので思わず尋ねてしまった。
「鏡は嫌いだから見ない。」
見ない?鏡を見ないの?
朝はお手伝いさんが身なりを整えてくれるから見なくても平気と言えば平気だが……
まさかそんな答えが返ってくるなんて思わなかった。
なんでなのか理由を聞こうとしたらチャイムが鳴った。
「じゃあねポチ。良い子でいるんだよ。」
「……うん。」
自分の教室へと帰っていく蓮を見送った。
いろいろ蓮て、謎だらけだ。
「真知、帰ろうか。」
放課後、蓮が教室までわざわざ迎えに来てくれた。
また質問攻めにあっていたので助かった。
「帰りにパルフェに寄ってみる?」
パルフェとは今ちまたで大人気のスウィーツのお店だった。
「ポチ甘いもの好きだろ?」
「行きたいっ!」
尻尾があったらブンブン振ってると思う。
「れ────んっ!」
後ろから駆けてきた女の子が蓮の腕に絡みつく。
「もう蓮たら夏休みの間全然会ってくれないんだもん。桃香寂しかったぁ。」
誰この女子力高めなフワフワ系お嬢様は?!
「……ごめんね桃香。父の結婚とかいろいろあって忙しかったんだ。」
「あらっこちらが噂の妹さんね?」
彼女は私の手を取り可憐に挨拶した。
「私は野村財閥の一人娘の桃香です。蓮とは……」
「真知っごめんだけど車で先に帰ってて。」
蓮はそう言って桃香の腰に手を回し、私の前から急いで去って行った。
一瞬だけ見えた桃香の私に対する勝ち誇ったようなあの表情……気のせいかな…
蓮から甘いもの食べに行こうって誘ってきたのに……
この胸に沸くムカムカした感情はいったいなんなのだろう……?
「どしたの?そんな所に突っ立って。」
私に話しかけて来たのは教室で隣の席に座ってる男子だった。
まだ蓮の姿が見えている……
彼と話しているところを見られたらきっと怒られる。
黙って帰ろうとした私にさらに話しかけてきた。
「あぁあの二人か。学校のベストカップル。」
「えっ……付き合ってるの?!」
蓮に彼女がいるなんて意外だ。
「親公認のフィアンセだよ。」
なななっ?!
なんだって──────っ?!
私は部屋のベッドに突っ伏してふて寝をしていた。
私から一時間あとに帰ってきた蓮がドアを勢いよく開けて入ってきた。
「なんでポチは約束守れないかな?」
すごく苛立った声をしている。
どうやら私が男の子と喋ってたところを見てたようだ。
なんだよ。自分だって私との約束破ったくせに。
「起きてるんだろ?」
「起きてません。」
「ポチ、そこ座って。」
「座りません。」
「お仕置きされたいの?」
「デコピンでもなんでもすればいいじゃないですかっ。」
なんでこんなにイライラするんだろ。
別に私は蓮にとってはただのペットで、恋人でもなんでもないし…第一義理とはいえ兄妹だし。
恋愛対象じゃないくらいわかりきってることなのに。
なんで蓮にフィアンセがいるって知ってこんなに心がかき乱されるんだろう。
「ポチ……キスってしたことないだろ?」
はい?
なぜ今それを聞く?
私はベッドから顔だけ起こして蓮を見た。
「お仕置き、なんでもしていいんだよね?」
えっ……
ベッドのすぐ側まで来ていた蓮から逃げようとしたら腕を捕まれ押さえつけられてしまった。
「ポチ、舌出して。」
「…舌?なんで?」
「僕にそんな態度二度としないように、激しいお仕置きしてあげる。」
─────────っ?!
えっ、いわゆる大人のキスってやつ?
そんなのムリだよっムリ!
ファーストキスだってまだなのに!!
「ごめん蓮!ごめんなさいっ!」
「もう遅い。スイッチ入ったから。」
蓮が手で私の顎を強引に上に向け、唇を近づけてくる……
蓮、本気だ。完全に怒らせてしまった。
「無視しようとしたけど二人が付き合ってるって言われたから気になって…あの人フィアンセなんでしょっ?!」
蓮がビクッとして動きを止めた。
「……あの男が喋ったの?」
激しく舌打ちをして蓮は私から離れた。
助かった……
「あの男殺していい?」
いや、ダメだろ!
連は怒りが収まらない様子で頭をくしゃくしゃかいていた。
「結婚するんだ?」
「しないよ……!いや…なるべくなら避けたいと言った方が適切かな。父が決めたことだから、無視はできない。」
蓮は眉間にシワを寄せながら大きなため息をついた。
「父はすごく怖い人なんだ。会社を大きくすることしか考えてない。息子の僕も…ただのコマとしか見てない。」
そんな政略結婚みたいな話今でもあるんだ。
「父が母と結婚したのもそうだ。そこに愛情なんてなかった。母が…イタリア社会の大物の娘だから結婚したんだ。」
蓮のお母さんは蓮が6歳の時に病気で亡くなったと聞いていた。
蓮の口からお母さんの話を聞くのはこれが初めてだった。
母と口にする度に、蓮の顔が辛そうにゆがんだ。
「ああっクソっ!気分が悪いっ!」
そう言って蓮はベッドに座る私の太ももに寝転がってきた。
「ポチの膝枕で寝る!」
えっ……寝るって。
「僕が眠るまで頭なでなでしといて。」
ちょっと何それ……可愛い。
「なにニヤついてんの?」
「だって急に甘えてくるから……」
「お仕置きの代わりだよ。早くなでてっ。」
「……うん。」
私は蓮の頭を優しくなでて上げた。
「あのわがまま性格ブス女…ポチに得意げな顔してただろ?ぶん殴りたかった。」
蓮も気付いてたんだ。
なんか……蓮が私のためにそう言ってくれるだけでとても嬉しかった。
「いいよもう。大切なフィアンセなんでしょ?」
「……ポチ、怒るよ?」
しばらくなでてあげていると蓮は寝息を立て始めた。
私の前でこんなに無防備に寝れるだなんて……
私がペットだから安心しているのかな?
それならペットも悪くないなぁって思った。




