壱ノ一 花街に舞う鳥
寄ッテラッシャイ 見テラッシャイ
格子ノ蝶ガ御待チカネ
響ク囃子ト惑フ者
一度入レバモウ終ワリ
蝶ハ嘆ケド出ラレナイ
「…おい、そっちどうなってる?」
「あちゃー完全に軍に囲まれちゃったよ」
「ど、どうしますか!?」
鮮やかな朱色と黒の建物の影で声を潜めて話すのは、大正時代の風景には少し不釣り合いな西洋風の服を身にまとった三人の子供。だが、決して裕福な華族にも、ましてや皇族にも見えない。
彼らが覗く先には、振袖が特徴的な軍服の集団。
帝都軍、正式名称は「帝都幸京守護及び妖撲滅軍」。
なぜ子供の彼らが軍に追われているのか、また、何をしているのかなどの説明は後で聞いていただきたい。なぜなら、この場の緊張感はそんなことを優に語っている暇は一寸もないのだから。
「よ、よし!いつも通り正面突破しちゃおうよ!」
「いつもそんなことしてねぇだろ!…普通なら上あがって、屋根使う方が捕まりにくいけど…なんせ今日は」
一人の少年が厄介そうに振り向くと、彼らの格好とは反対に綺麗な着物を着た少女が怯えたように座り込んでいた。
「おまけ付きだ」
「ちょ、そんなモノみたいな言い方は…」
「大丈夫だよ!あたし達に任せてよ!!」
「おい馬鹿!!声がデカいんだよ団長は!!!」
少年が団長と呼ばれた少女の口を塞ぐ。その手を引っペがそうと暴れる少女とおたおたと慌てる少年。
「あ、あのう…」
着物の少女が恐る恐る声を掛ける。
「わっちは、ほんにここから出られるんでありんすか?」
付け焼き刃の廓言葉で話す少女。
吉原の禿・紅。
まだ年端も行かぬ幼い子とはいえ、吉原から出ることなど許されない。なぜそんな少女がこの三人と一緒にいるか、それは後で三人の説明を聞けば分かることだ。
「何、不満でもあんの」
「加紅くん!!」
「団長は黙ってて」
「あぁあ加紅君も茉優さんも!喧嘩しないでくださいぃ!」
少年-加紅は二人の手を払うと紅に近づく。また怯えたように、でも意志は持った目で加紅を見る紅。
「で、どうすんの」
「どうすると言われても」
「こっから出たいつったのはあんた。ま、団長が唆したってのもあるかもしれねぇけど」
「か、かがみく」
「歩夢もちょっと引っ込んでて。で?出たいの?出たくないの?出るなら出る。出ないなら一生此処で過ごす。早くして、時間無い」
「っ……!あんさんらがずっと下らない喧嘩してはるから、わっちは」
「文句なら後で聞く。今は出るか出ないかを聞いてる」
淡々とした加紅の言葉に、紅は口を噤んだ。そして
「禿とはいえ、吉原の者。半端な覚悟でこないなことは頼んだりしません」
「…ん、わかった」
加紅は再び二人の方に向き直る。
顔を見合わせ、三人は頷く。
「よし!じゃあ行くよ!」




