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エピローグ   イトシイヒト  ~蓮

…years later.


「ん~~…」


初秋の朝方は妙に肌寒い。

薄着のまま布団に入った肌が、朝型の冷え込みに付いていけなくて、ついついすぐ傍に有る温もりに潜り込む。


「…何してる…」

「何って、ナニ」

「…何だ、それは…」

「ただ単なる添い寝よ~ ほら、頭上げて」


何かを頼めば無意識に従ってくれる昔の癖のまま、少しだけ浮いた寝ぐせの付いたその頭の下に自分の左腕を入れ、横向きのままコロンとその体を両腕で抱きしめる。


「あったか~い…」

「…」

「ふふふ…ぬくぬく~~…」


何時もは少しだけひんやりと感じる翔の体温が布団に温められて、冷え切っていた今のあたしの体には心地いい。


気持ちの赴くまま、胸元に有る翔の髪に手を入れて撫で上げる。

さらさらと絡まる事も無く指を滑って行く感覚にほんの少し酔いしれる。


ずっと昔、まだ、翔が小さかった頃。

夜に怯えて眠れなかったこの子をぎゅっと抱きしめて眠った事があったっけ…

泣かない、怯えない、良い子と言えば良い子だった翔だけど、この家に来て半年ほどまでは何回か夜中に起き出すことが有った。

当り前と言えば当たり前。

たった五歳の男の子が、いきなり両親を失い見ず知らずの家に連れてこられて生活することになったんだもの。

それでも、一生懸命泣かない様にしている翔は、本当に可愛くて、愛しくて……


―――― だ~から、最初は母性本能だったんだってば。


しがみついてくる手の小ささに、あたしが感じたのは間違いなくそんな温かな感情だったのに。


「…一つ聞くが…」

「な~に~?」


ぬくぬくぬく…

お互いの体温でゆっくりと温もっていく感覚に、失いかけていた眠気が戻ってくる。


「…なんで、この体勢なんだ…?」

「う~~ん? あたしがしたいから?」

「…俺はもう、ガキじゃないんだが…」

「え~…でも、あったかいんだもん…」


ぬくぬくぬく…

抱きしめた翔の体全体の温もりを、あたしの全部で包み込んで。

柔らかな卵を抱えた鳥の様に、幼い子供を抱きしめる母親の様に。


たとえどんなに大きくなっても、たとえどんなにたくましくなっても、


あたしにとって翔は、全身で温めてあげたいたった一人の人間で。


「…翔…」


もう一度、ちっちゃくなってくれないかな…

あったかくて軟らかかったちっちゃな翔。

あたしの、あたしだけのちっちゃな、ちっちゃな…


「…おことわりだ」

「へ…?」

「何のために、大人になったと思ってる」


どれほど俺が、大人になりたかったかしってるか。


ぎゅう…ただ添えられていた手が、いきなり意思を持ってあたしを力一杯抱きしめて。


「わっ!」


アッと思った時には強引に廻していた手を外されて、気が付いたら布団の上、両手を拘束されて押さえつけられている。


「え~と、あの…」


ま、まずいのではないでしょうか…? この体勢。


「は、放してくれるかな…?」


ほら、朝だし、起きる時間だし…

そんなあたしを見下ろして、翔のその氷の美貌がにっこりとほほ笑む。


「こっちは、精一杯がっつかないようにって我慢してるってのに。朝からようもまあしっかり煽ってくるな、お前は」


さあ、どうしてくれるこの始末。

圧し掛かられたお腹に確かに感じる熱。


――――― うわっ~~~!!


お願いだから、そこでその、天使の微笑みは止めよーよ!!


「…あさ、だよ…?」

「しってる」

「起きる時間…」

「今日は日曜だ」


お前も休みだろ?

そう言われたら、もう、何を反論する気にもなれないもう一人のあたしがいる。


強く、堅く、何処を取ってもあたしと違ってしまった、翔の体。

こんなにも大きく、こんなにも強く、あたしを―――― もう一人のあたしの感覚を呼び覚ます、何よりも大切なたった一人のあたしの男…


「…欲しい…?」


あたしが。


あたしだけが、ほしい?


「欲しい」


何時だって、お前が―――― 蓮だけが欲しかった。


いつも、翔はそうやって返してくれるから。


「…あたしも…」


ほしい… ―――― 呟きは、押し付けられた唇の間に消える。






なんて、贅沢ぜいたくな。

なんて幸せなあたしの恋。

今までの翔の全てを抱き締めて、あたしはその腕の力に溺れる。


好き―――― それだけじゃ足りない。

すき―――― その想いだけでは、伝えられない。



愛してる。

あい、し、てる。

翔を、あなたを、いままでのあなたをぜんぶ。



恋をした。

一生分の恋をした。


イトシイイトシイトイフココロ。


言葉の意味を抱き締めて、あたしは翔を自分の中に包み込む。






閉じられた瞼の奥、少しずつ強くなっていく朝の光りの中で、

あたしは翔を、力一杯抱きしめた。









完結いたしました。

約三カ月… 

何もかも初めてづくしの連載でした。来て頂いた皆様、本当にありがとうございました。

色々と至らないところばかりが目につきますが、精一杯やった…と思っております。

今後ですが、詳しい後書と、おまけをひとつ、下記のブログ内で更新しておきます。気が向いたら覗いてやってください。ちなみに、オマケは一応ぬるいですがR18とさせて頂きますので、申し訳ありませんが、18歳未満の方はご遠慮ください。

無事完結出来ました事、来て頂いた皆様に感謝いたします。

本当にありがとうございました。

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