Rati 64. 生贄の子供達
サクヤとユリネさんを取り戻すため、地下へと続く階段を降りて開けた部屋へと辿り着いた。
辺りは松明で照らされ、部屋の中央にステージ型のような祭壇めいたものが用意されている。
「来たか、お前ら」
そして、その上に立つ少年は……嘘だろ……!?
「なんで……!」
――――――
Rati 64. 生贄の子供達
――――――
「レッド! ブルー! なんでお前らが!」
対抗戦で俺達とバトルして、夏休みにも仲良くなった3人組のうちの2人……。
「モモミチ。 碧は知ってるだろ?」
「グリーンがどうかしたのか……?」
俯くブルーの代わりにレッドは真剣な表情をして俺達と向かい合った。
「あいつ。 下の子らを面倒見てるおふくろさんが倒れちまってんだ。 そして、夏休みも終わってすぐ、朱鳥ノ宮から奨学金を利用しないかと持ち掛けられた」
「朱鳥ノ宮から……!?」
……ショーガクキン?
「モナカ……」
「授業料を免除してくれるって事だよ。 その分を生活費に充てればいいってことさ」
「そ、そういうことか」
家庭環境で悩むグリーン達を利用したって事か……?
そんなの……レヴルナじゃねぇ……。
「後は想像通りさ。 俺達は、ちょっとしたレヴルナの手伝いってやつをさせられることになったんだ」
「なら、そのグリーンはどうしたんだ!? まさか……生贄に……?」
「安心しろ、ちげーよ。 グリーンの代わりに、俺達が代役に就いたんだ。 あいつは家で何も知らずに兄弟の面倒を見てるだろーよ。 俺達もこんな事になるとは思ってなかったけど、むしろあいつは来れないで良かったかもな」
「お前ら……」
「魔法陣が成された以上、俺達は戦うしかないらしい。 タッグバトルでな」
G.D.は、レヴルナを楽しんでるだけの俺達を生贄や駒としてしか見てねーってのかよ……。
「誰でもいいぜ。 祭壇に上がれ」
「ここは俺に任せろ……!」
俺達のガキ大将が我先にと前に出た。
なら、ここは俺も!
「モモちゃん、俺が一緒に……!」
俺が共に祭壇へ上がろうとしたところ、肩を掴まれいつもと違う覚悟の決まった声に止められた。
「ヤマト。 この先で大事な役割があるんでしょ? ここは僕が行くよ」
「モナカ……!」
モモちゃんとモナカ……栗ノ木小の三英傑のタッグだぜ!
「これは、あの時と同じか? 廃墟マンションで行われた半端なヤツだ」
「彼の言う通り、バトルでとてつもなく疲労はするが命の心配はないだろう」
イシガミ先輩とヨシュアさんの言葉に胸の底が安心したぜ。
とりあえずここは、モモちゃんとモナカに任せよう。
「皆、先に行け。 後から追いつくからよ」
「二人とも、頼んだぜ!」
モモちゃん達が祭壇に立つと魔法陣が起動した……!
それと同時に、次の扉が開いていく。
「……カゲミツの兄貴! お姉さんとサクヤ、絶対に取り戻してくれ!」
「僕らの事は心配しないで!」
「モモちゃん、モナカ……。 必ず、二人の心意気に応えてみせる」
二人なら、きっと大丈夫だ。
レッド達と無事にバトルを終えられるだろう。
心の中で4人の身を案じ、俺達は階段の先を下っていく。
この暗闇の先を……俺たちが変えるんだ!
「儀式に慣れていないと疲労は相当なものだけど……。 ともあれ、モモちゃん達が最初で良かったかもしれないね」
「あぁ、確かに。 この先はきっと……」
そう。
この先は、おそらく適正者達による魂のやり取りになる。
覚悟を改めてしばらく進めば、二つ目の部屋だ。
先ほどと同じような祭壇のステージが中央に存在していて、魔法陣の装飾がさっきの部屋とは違い複雑なものとなっているように見える。
そして、その祭壇の上に一人の男が立っている。
次の相手……?
「ひゃははは! 俺の相手は本当にガキ共だってぇのか? こりゃぁいいぜ!」
「ここは俺が……」
イシガミ先輩が祭壇に上がろうとした時、彼は腕を掴まれて止められた。
ヨシュアさんだ。
「ここは僕が出る。 君は先に進んで次の相手が弱い事を願うんだね」
祭壇にいる男は……それほど危ない相手なのか?
「カゲミツ、あの男は強いのか?」
「……ヤツは、組織のブラックリストにも登録されている野良の呪術師さ」
俺のご先祖様とは違う、野良の呪術師……。
「ヤツは龍脈に流れる力を儀式とは別の形で利用し、各地で事件を起こしていたとされているんだ。 テロリストってヤツさ。 今の現代社会じゃ証拠もなく逮捕できないから、僕らの組織が行方を追っていたんだ。 どこかとコネがあるのか、逃げ足が速く捕縛が難しいとされていたけれど……G.D.に属していたなんて……」
「俺ぁ、んな組織に属してなんざいねぇ。 取引を持ち掛けられたんだ。 純粋な子供から取れる混じり気のない生気が手にできるって聞いたからなぁ! カードギャングとかいうのに協力してやったのもそれが理由だ」
こいつ、カードギャングのRenatusにいたのか?
あの時はヨシュアさんと戦ったけど、運命が一歩違えば俺達はこんなヤツを相手にすることになっていたのかもしれないという可能性に肝が冷えていく。
未知な男の危険な表情に狼狽えているとヨシュアさんは鼻で笑った。
「この通りさ。 ヤツは今まで仮面をつけていて御尊顔は僕も初めて見たけど、カゲミツくんはともかく君達じゃ荷が重い。 戦績はパッとしないけど、あの素顔はプロリーグでも見た顔だからね」
学園最強の男は何も問題が無いように祭壇の上に昇っていく。
味方になるとこうもたのもしいなんて……。
「ここは僕が相手をする。 君たちはライラを頼む、くれぐれも儀式が始まらないようにするんだ」
「へっ、そういう事らしい。 お前ら行くぞ!」
イシガミ先輩の言う通り、ここは先に行かせてもらおう。
俺達はヨシュア先輩へと声をかけ、先に歩みを進めていく。
新たな広間……そして、祭壇の上にいるあの男は……!
「来たか。 ヨシュアがいないようだが、まさか手前であの三下の相手をしているというのかい?」
「Lupinus……!」
「そう警戒しなくていい。 この魔法陣には細工をしておいた。 とてつもなく疲労はするだろうが、この戦いで君たちの誰かが生贄になる必要はない」
なるほど。
やっぱりLupinusは……被害がなるべく出ないようにG.D.に属しているのかもしれない。
さっきの、危険な相手を雇ったりするのは彼ではないし。
今回の儀式のように何かおかしいと思わされる事には彼も比較的、適正者である俺達を頼ってくれている。
これで分かった、きっとヤツらは一枚岩の組織じゃない。
「そういうワケだから、僕たちは時間稼ぎをすればいいのさ、信じるかどうかは君達の自由だけどね」
「サクヤは、無事なのか……!?」
「もちろんさ。 儀式の大広間に適性者が来るまで、それまでは彼女は屈強な守護者に丁重に守られているよ。 もちろんライラもね」
今回の儀式を止めるためには、やっぱり適正者が必要なんだ。
「さぁ、僕の相手は誰がしてくれるんだい? 僕としては是非ともヤマトにリベンジしたいところだが……」
前に出ようとした俺はまたもや止められた。
「もちろん、俺が相手をする。 この先は適正者にしかこなせない役割があるだろーからな」
「イシガミ先輩……!」
「心配すんな。 俺達はとうとうここまで来た。 あの人を、ライラを救ってやれ」
その言葉に、カゲミツは肩を震わせていた。
相手はあのLupinus。
生贄にならないという言葉も100%は信じ切れない。
あの時の俺みたいに奇跡的に勝利できるかもしれないけれど、純粋な勝率は0に近い……。
「イシガミ先輩。 この戦いが終わったら、貴方とも純粋なゲームを……」
「へっ、そういうのは全部終わってからにしろや。 行け」
そう言ってイシガミ先輩はカゲミツの背中を軽くはたいた。
皆の想いを背にして、俺達は暗闇の先へ進むことができた。
果ての闇に包まれた階段の先も、今では一筋の光が指しているように見える。
サクヤ、ユリネさん、待っていてくれ……!




