Rati 37. 隠された孤児の少女
あの日の事を思い出していたら今日の任務も終わりを告げた。
帰るか……。
こうして、俺はその儀式に対抗すべく新たな修行が始まったんだ。
最初は色々情報が多くて混乱しそうだったけど大事なのは……。
・レヴルナは二つの相反する勢力がともに共同で展開した生贄の儀式
・二つの勢力は世界の崩壊をもたらす祟神を止める事が目的であり、一方は生贄を用いて、一方は別の方法で止めようとしているという事。
・カードギャングのRenatusは儀式を行う勢力の下請け組織であり、多くのメンバーは利用されてることに気付いていない
・じーちゃんやカゲミツの属する八咫烏は生贄を止めるため、儀式に参加する事で祟神を鎮静化しようとしているという事
・鎮静化するには、生贄を止めてきた末裔である【適正者】が儀式に参加して止めなければならない
これが一連の出来事の真相であり……レヴルナが開発された理由。
あとは……俺がハクと話せるようになった理由。
それは、強くなるためにサクヤ達と修行を行ったことや……。
カゲミツの持つ強い力に引っ張られて眠っていた力が目覚め始めたからだろうとじーちゃんは言っていたっけ。
そのカゲミツが適正者として戦う理由は……。
幼い頃、行方不明となった姉貴……ユリネさんを見つけ出す事。
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Rati 37. 隠された孤児の少女
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広大な武家屋敷の一角で、天村 髄継によって一人の少女が組織長の前へと連れられていた。
「スネツグさん。 その子が宇良々の孤児ですか?」
「うむ。 この子は類まれなる力を宿しておる。 以前話したように組織で隠すべきかどうか、貴方に診てもらった方が早い」
かつての古代の日本に、鬼の一族と汚名を着せられ蔑まれた存在達がいた。
孤児の少女はその末裔であり、髄継の道場生の一人。
聡明な彼女は、新たな世界で生き抜くため力を求めた。
そして髄継を頼ったところ、組織へと招待されていた。
隠された自分の一族のルーツや力の説明を受けるが、それはまだ子供には難しい内容だった。
しかし、その情報はまるで止まっていた運命が動き出したかのように孤児の頭の中へと自然に入り込んでいったのだ。
幼き孤児がその内容を理解するのにはそう時間はかからなかった。
「いいのかい……? いくら肉親のためとはいえ、これを受け入れれば、君は普通の日常には戻れなくなる。 儀式に関わり、生贄とされる可能性も高い」
「……」
「もし再び出会えたら、それはたった一人の肉親をも欺くことにもなるだろう。 君は正気でいられるのかい?」
「……」
少女の胸の中に、たった一人の大事な存在。
先輩や後輩、同門である友人たちの顔が浮かんでは消えていった。
それは己自身が皆の前から、世界から姿を消すという選択を表した走馬灯のようだった。
「答えはいつでも構わないよ……今日は帰って……」
「構いません……例え、これから……私が生贄になっても」
たった一人の肉親を想う少女の決意が力となり、真っ直ぐな瞳に現れていた。
「綺麗な瞳だ……君には、今日から別の名前を名乗ってもらう。 過去の自分を隠し通し、新たな力を得るためにね」
心に灯る揺らぎのない炎を見た一人の男は、少女へと告げた。
「君に新たなコードネームを与えよう……」
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ショップで仮面の男と遭遇した任務からの帰り道。
俺の家の前につくと、カゲミツは立ち止まった。
「カゲミツ、よってくか?」
「……ヤマト、儀式の日に女性が君を案内したって言っていたね」
「あぁ、顔は隠してたけど女の人で……よく分かんねぇけど、サクヤもたぶんその人に優しくしてもらったって言ってたな」
あのお姉さんから貰ったお守りが、おそらく儀式のダメージを1度だけ軽減してくれていた。
もしあれがなければ、俺は儀式を続けられず供物となって死んでいたかもしれない……いや、絶対に死んでいた、と思う。
今でもあの日のことを思い返すと、それが寒気となって胸の奥を通り過ぎていくのを感じる。
「その人は確か、ライラと言っていたね。 それは確かなのかい?」
あの儀式の日、能面を付けたLupinusは顔を隠したお姉さんへとこう言っていた。
【案内ご苦労さま、ライラ。 君は指定位置へつけ】
Lupinusは本名を隠し通しリングネームを名乗っている。
きっと、ライラという名前もそれに近いようなものだろうな。
「俺の記憶ではそう呼ばれてたな」
「……そうか」
カゲミツの表情を見て、俺は疑念の卵が槍でつつかれたような錯覚に陥った。
「まさか……その人が、姉貴……百合音さんだってことか?」
「あくまで可能性の話さ。 君やサクヤを気遣う女性といったら、僕たちの間では姉さんくらいだろうからね」
そうか。
あの人が泣きそうな声で、俺の友達の事を聞いてきたのも……カゲミツを知っていたから。
日常を過ごすカゲミツを知りたかったから……。
「……これは、希望の芽ってヤツが見えたんじゃねぇか!?」
「あぁ……死にかけた大和には悪いけど、それを聞いて僕は……姉さんが生きてるかもしれないって思って、心から嬉しくなってしまったんだ」
「気にすんなよ。 ユリネさんには世話になったし、俺も手伝う。 もうお前を一人で戦わせねーからな」
「大和は……優しいね……」
カゲミツの緩んだ顔を見て、胸の奥が少し傷んだ。
確かに、俺はカゲミツと共に百合音さんを取り戻したいという気持ちは本当だ。
こいつは、今の俺よりももっと幼い頃から過酷な運命を受け入れて、修行をして力を手に入れて儀式で戦ってきた。
任務ではとんでもなく冷静で、頼りになるけど。
俺と全然変わらない年齢で、学校で過ごしてるときは普通の少年なのに。
そして……俺たちの前から消えた幼い頃も……。
同じように笑って、悪戯をして、走り回る普通のやんちゃ坊主だったんだ。
そうだ。
カゲミツは【ウララ】だった。
俺たちは、道場に来なくなったウララは転校したと聞かされていたけど。
行方不明となったユリネさんを探すため、力を手に入れるためにウララは俺たちの前から姿を消したんだ。
そして、次の儀式が多くなるだろうというこの地に、戦力として再び戻ってきた。
それを知って、俺は……俺たちはもうこいつを一人にしないって、サクヤと約束した。
サクヤは別の役割があるから修行中で任務には同行してないけど、心は俺と同じだ。
当然この事もカゲミツに話してある。
「だからさ、あんま一人で抱え込むんじゃねえよ。 俺も父さんを探したいからな!」
「あぁ、君のお父さんともいつか会えるといいね」
今まで父さんは、たまに連絡をくれて、組織もその行方を把握していた。
顔を合わせる事は全くなかったけど、あの手紙をくれた日から、一切声も聞けていない。
……じーちゃんにも一切連絡がなく行方不明。
でも、この任務を続けていれば、父さんとも数年ぶりに会える。
そんな気がすんだよな。
「じゃ、僕は行くよ」
「なんだよ、泊まってきゃぁいいのに」
「寝相の悪そうな君と一夜を明かすの何てごめんだね」
「そうかよ」
相変わらずだぜ。
「ヤマト、ありがとう……」
皮肉屋なところはかわらないけど、転校してきたころと比べるとあいつも随分、打ち解けたな。
相棒の鬼と共に歩いていくカゲミツの背中を眺め、あいつが初めてお礼を言ってくれた日の事を思い出した。
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4章‼ ~新たな始まり、修羅を行く孤児……!~:終幕
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