2.もう、逃げないから
「大好きよ、日向」
やっと叶った恋。
ずっと夢見てきたあなたの隣に、今私はいるんだ。
この幸せを噛みしめながら、壊してしまわぬように、失ってしまわぬように、大事にしよう。
私の全身全霊をかけて、この子を大切にしようと、思っている。思っているのに…
「あっ…」
重なった唇が、日向によって半ば強引に離される。ひゅうと冷たい空気が、二人の間にできたすき間に流れ込む。
キスをして気持ちが高ぶって、あと少しで幸せが最高潮になるというところで、日向はいつも引いてしまう。なぜなの?
もっと日向に触れていたかったのに、このドキドキを、しびれるような甘い幸せを、感じているのは私だけではないんでしょう?
どうしてそんな名残惜しそうな顔をするくせに、やめてしまうの?
「そろそろお母さんが帰ってきちゃうよ」
痛々しい笑顔で、日向はそう言と、さっさと自分の部屋へ向かう。
「日向…」
その背中に、かけたい言葉はたくさんある。
ねえ、なんでそんなに悲しそうなの?
一緒にいても、寂しそうな顔するのはなんでなの?
私は日向といれてこんなに幸せなのに、あなたはどうして満たされないの?なにがそんなに不安なの?
なにか悩みがあるんでしょう?私に言えないことなの?
頼りないかもしれないけど、相談してさえくれれば、私はいくらでも力になるのに。
相談してくれなくちゃ、私はなんにも出来ないのに…
バタン。
結局、なにも声をかけられないまま、日向は部屋に閉じこもってしまった。
「はぁ…」
思わずため息をもらす。
なにをやっているんだ私は。妹が、恋人が苦しんでいるというのに、相談にのることすらできない。
自分の無力さが歯がゆくて、悔しくてならない。
「こんなんじゃ、恋人失格だよね…」
日向の部屋の方をぼんやりと見つめて考える。
君の苦しみは、どうやったらなくなるのかな?
強くなくていい。完璧じゃなくていいんだよ。だから、少しでもいいから、君の弱いところを私に見せて。
一緒に悩んで、乗り越えさせてはくれないのかな?
「ごめんね」
気づけば、私の頬を涙が伝っていた。
ごめんね。頼りないお姉ちゃんで。
ごめんね。君の辛さをわかってあげられなくて。一緒に苦しんであげられなくてごめん。
ごめんね。幸せにしてあげられなくて。私ばっかり幸せで。
「こんなはずじゃ、なかったのにな…」
好きで好きで、一緒にいられるだけで幸せだと思ってた。付き合うことができて、ほんとに嬉しくて、私だけが舞い上がって。
私、だけが…。
あれ?おかしいな、考えてみればほんとに私だけだった気がする。
握った日向の手は冷たく冷えていた気がする。熱くなっていたのは私だけだった気が…
キスをねだるのも私だけだった。日向は私がお願いするから仕方なくキスしてくれていたのかも…
抱きしめたときに聞こえたドクドクと速い鼓動は、日向のものではなくて、私がどきどきしていたからかもしれない…
全部ぜんぶ、私の勘違いだったのかな?
日向も私といれて幸せなんだって、私達の気持ちは同じなんだって、思ってたけど…
ぜんぶ私の思い込みだったのかな?
怖い…。
もしそうだったらどうしよう。
もし日向に捨てられたら…きっと耐えられないだろう。
日向は私の一部どころか、すべてであるというのに。
怖い。怖い怖い怖い怖い怖い…
そうなる前に、いっそ私から終わらせてしまおうか…
捨てられるよりは、傷は浅いだろう。
「…だめだ。それだけは」
自分が傷つくのを恐れて、日向から目を背けてどうする。私は前にも、振られるのが怖くて自分の気持ちを押し込めて、結局日向を一人にして傷つけたじゃないか。また同じことを繰り返すつもりか。
私はどうなってもいい。たとえ傷つくことになっても、最後まで日向の側にいよう。
それが、姉であり、恋人の私にできるたったひとつのことなのだから。
「今度こそ、私は逃げないよ日向。」
テスト期間中だというのに…妄想が止まりません(泣)
これから真面目に勉強するので返信は遅くなると思います。




