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幻夢の桜に恋をした。  作者: 壊拿
第二項:日常
9/17

馴染んだ場所、淡い花色 (後)

そして女は、男に激しい恋心を抱いた。


色彩豊かな生地たちを見つつ、男二人はどれが良いか考えている。


「日陽、あの赤いのとか良いんじゃね?あれを袴の帯にしたら可愛いと思う」


そう修哉が呟くと、すかさず悠真が成程!と相槌を打つ。

彼は、じゃあ紐専用で取っておきます、と隅に追いやる。


「葯野さんは、何かありますー?」

「そうですね…退紅の着物が似合うと思います。…日陽、少しこちらに」

「はい?」


生地をじっくり見ていた日陽が、義父に呼ばれて其方へ近づく。

すると、生地を貸してくれ、と言って日陽の肌に近付けた。そして、少し考えた後、修哉に視線を投げる。ちょうど重なり、じっと見つめ合う。


そして、「これを着物にします」と義父が言った。毎度おおきにでっせー、と算盤をはじく。パチパチ、と弾同士が衝突する音がまた心地良い。そして、悠真が言った。


「袴は如何しますー?一寸候補になりそうなものはこっちで用意しますけどー」

「あ、頼むー」「お願いします」


すると日陽が、店主を呼び止める。そして何か話をすると、分かった、と言って指示を出す。

どうやら退紅の他にも気になる色があったらしく、それを所望したようだ。

悠真が持って来たのは、退紅よりも少し濃い色だった。店主によると、それは「石竹色」といって。撫子科の石竹の花色から来ているという。そして交互にじっと見つめている。残念ながら、男二人にはあまり分からなかった。


そして、其れにあいそうな色を持って来た。これが絶対合う!と言って持って来たのは、緑よりも少し薄めの、若竹色と言うものだった。


「綺麗な色やろ?仕入れたばっかりの新色なんやけど、これを袴にしたらええとおもうで?」

「わぁ、素敵!」


そして、店主と日陽がまた着物の話で盛り上がっていると、外が少し騒ぎ始めた。


勘付いたのは、修哉だ。

それに呼応するように、陽久も外に視線を向ける。走っていく町人の一人に、声を掛ける。


「なぁ!何があったんだ?」

「ああ!?何か、橋の前であったみてーだぞ!」

「ありがと!」


そう言って、男二人は視線を交わらせる。次の瞬間、修哉は悠真に言い放つ。

完全に、仕事の口調だった。


「悠真、俺の可愛い妹を頼む!親父と騒ぎを見て、何かあったら収束させてくる」

「ん、りょーかいやでー!」


その、外へ出て行く兄の背中を、日陽は見ていた。

その背中が、とても頼り甲斐のあるモノに見えたなんて、いえる訳が無かったのである。




++


「親父、あれか?」

「そのようだな」


橋のたもとに到着すると、橋を塞ぐ大男が居た。どうやら、影倉戦争の中心人物、その子弟らしい。大男の前には、美しい金の髪を結い上げ、紅欝金の着物を纏った女性がいる。自分達が居るこちらへ来たいらしいが、男によって塞がられている。


「取り敢えず、この群衆を超えるぞ」

「へーい。…すみませーん、通して下さーい」


身長の高い二人は、いとも簡単に群衆の波を超えていく。やっと中心へ来ると、修哉が大男の背後へそーっと向かう。同時に、陽久が男の脇をすり抜けて女性の元へ向かう。男は陽久に気付いて手を伸ばそうとするも、修哉が大男の腰を思いっ切り蹴った為に敵わず。


前のめりに倒れてくる男を、陽久が女性の手を引いて引き寄せ、橋の脇に移動させる。男が倒れると、修哉がその上から座り込む。


「おお、すまねぇ。身体が勝手に」


そんな理由があるか、と群衆が心の内でツッコミを入れると、男の仲間らしき人物たちが出て来た。大男が倒れている内に、項辺りに踵落しを入れておいた。


「暫くそこでオヤスミな?」

「全く…何をしている」

「目が覚めたら、こっちが面倒になるだけだろ?」

「確かにな…。…今回はお前に一理ある」


その上から口調何とかしろよ!と言うと、後で存分に聞いてやる、と返される。群衆の中から出て来た男4人は、親子を見つめて殴りかかって来た。


「貴方は、こちらにいらして下さい」

「あ、…はい」


4人の攻撃を軽くいなして、修哉が腹部を殴りあげた。そして背後から切りかかって来た男に対して、今殴った男を投げつけた。陽久は、一人を足払いで倒れさせてから踏みつけ、残り一人の拳を掌で受け止めた。そして、受け止めた拳を固定したまま腹部を殴った。


「何分も掛かってないんじゃねーの?」

「そうだな…。兎に角、娘が待ってる。行くぞ」

「へいへい、…っと」


地面に倒れ伏す男達を放置して帰ろうとすると、修哉が先程の女性を思い出した。陽久も思い出して、駆け寄る。


「大丈夫ですかー?」

「え、ええ…大丈夫よ」

「怪我も…無いみたいですね、良かったー」


修哉が相手を気遣うと、陽久が口を開く。

修哉に、日陽の様子を見てくるように言うと、彼は慌てて先程の店に入って行った。

そして、陽久が女性に話し掛ける。


「お怪我はありませんか?」

「あ、はいっ! 有り難う御座いました」

「いえ… ところで、どちらに?宜しければ、案内させて頂きます」

「え!で、でも」

「構いません」


そう言って、女性に対して微笑んだ。




「…女性を一人にするのは、どうしても不安でしてね」




さ、行きましょうか。と、女性の腕を引く。二人が呉服店の前に着くと、日陽と修哉が待っていた。会計は修哉が【陽久の財布で】済ませたらしく、荷物を二人掛かりで持っていた。


「修哉、日陽。そろそろ夕食の食材を買いに行くぞ」

「へーい。…て言うか、親父も持てよ」

「日陽、貸しなさい。…それは私が持ちましょう」

「あ、はいっ」


「それでは、淑女様。道中お気をつけて」

「あ、有り難う御座いました!」


何度も頭を下げる女性に手を振りつつ、家族は消えて行った。

そして彼女は、店に駆け込んで店主に話し掛けた。



「悠真ちゃん!!ちょっと、いる!?」

「あ、凜子さんいらっしゃいってええええええええええ!!?何事!?」


先程出した生地をしまっている悠真に、女性が尋ねる。

自分より前に来ていた客と知り合いか。

名前は何か。

何をしている人か。


悠真は慌てるモノの、一度落ち着かせてから話し始める。


「えーと、銀髪の男の人が葯野 陽久さん。赤髪の男の人が月織 修哉さん。で、その妹が銀髪の女の子の日陽ちゃん。男の人達は軍の人やで、俺も世話になってんv」


「…陽久、さん…」



女性は、うわごとの様に呟いた。


女性は、アオキ 凛呼リンコと言った。

石竹色:桃色より、少し赤寄り。撫子科の石竹の花から。

若竹色:竹の幹色に因む。若い竹の色のような爽やかな緑色。


紅欝金:欝金の下染めに紅花を上掛けした黄味の橙色。オレンジ色ほど明るくはないけど、素敵。



恋愛フラグが立ちましたね。

大人の恋。片思いですね。素敵ですよね、ロマンチックです。

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