名前
「休憩するか」
「はい」
気づくと日がどっぷり暮れていた。
6時間以上ぶっ通しでやっていたみたい。
初めて来た家で寛いで楽しみすぎた。
言い訳じゃないけど、憧れのJINさんとMIOとプレイできてめちゃくちゃ嬉しかったし楽しかったんだ。
「春臣、俺そろそろ帰るな。
お兄さん、楽しかったです、今日はありがとうございました」
そう言うと二人とも?顔してる。
俺、なんか変なこと言ったか?
「ご飯食べていかないの?」
「いや、帰るよ」
「なんで?」
出た! 春臣のなんで? が出た!
「この後用事とかあるのか?」
とお兄さんに聞かれる。
「いえ、用事はないです」
「それなら食べていきなよ」
「いやいやいやいや、初めて来た家でそんな図々しいことできません」
ぷはっ! とお兄さんが笑い出す。
「そんなの関係なくない? 初めてだろうが10回目だろうが一緒に飯食ってもいいじゃん」
そう言われてもなあ。
コンコンコンとノックされる。
「葉山くん、ご飯食べるわよね?」
「今、帰るところです。お邪魔しました」
「ええ!? 用意しちゃったから食べていって!」
話がご飯食べる前提なのはなぜだ?
「ほら、行こう、海凪」
春臣が俺を階下に引っ張っていく。
お前、家だと結構主張するのね。
リビングに連れて行かれるとお父さんらしき人がいた。
「こんばんは、お邪魔しています、葉山海凪と言います」
「こんばんは。葉山くん、ご飯食べるよね?」
どうしてこの家族はご飯をそんなに食べさせたいのだろうか?
というか、目の前ではお父さんとお母さんがにこにこしながら着席を促してるし、隣では春臣とお兄さんが早く座れと俺を押す。
どこに拒否権があるのでしょうか?
「すみません、ご馳走になります……」
「はい、どうぞ召し上がれ」
というか、ダイニングテーブルがずっと気になってたんだ。
なんだ、この大量の唐揚げは。
山だよ、山、唐揚げの山、しかも大皿で二つ。他にもサラダやら名前の知らない料理がいくつも並んでる。
こんなに食うのか? この家族は。
「母さん、またこんなに唐揚げ作ったの?」
と春臣が呆れてる。
「だって男の子は唐揚げ好きでしょ?」
「相変わらず決めつけすごいな」
とお兄さんが笑う。
ポテチとコーラと同レベルの思考だ。
笑ってしまう。
「ん? どうかした?」
春臣が不思議そうにしてる。
「いや……手土産なにを持っていこうか迷ってた時に妹と友達に相談したら『ポテチとコーラでいいじゃん』って言われて、男の好きなものってそれだよなあっ話してて。唐揚げも男全員好きだよなって思ったら笑っちゃいました、すみません」
黙々と食べていたお父さんが咽せながら笑ってる。
お兄さんと春臣も、
「それな!」
と笑う。
お母さんは、
「ほらね! みんな好きなのよ!」
と得意気だ。
「海凪は妹がいるんだ」
「そう」
「葉山くんの『みなぎ』ってどんな字なの?」
とお父さんに聞かれる。
「海に凪でみなぎです』
「へえ、海にちなんだ名付けなのかな?」
「そうみたいです。母親が結婚して苗字が葉山になった時に、葉山と言えば海だ! と海がつく名前にしたかったらしいです。
名前に山と海、両方入ってることに気づいたけどまあいいかと。
俺が生まれた時の海が凪いでたから海凪です」
「そうなんだ、妹の名前にも海が付くの?」
と春臣が聞く。
「うん。妹が生まれた時に雪が降ってて……」
「待って! 当てたい!」
お兄さんがストップをかける。
いきなり妹の名前当てゲームが始まった。
「海が付く名前で雪が降ってたんでしょ?
雪に海でゆきみ?」
お兄さん、✕
「じゃあ逆? 海に雪でみゆきとか?」
お母さんも参戦するが、✕
「ワードは二つ出てるのに組み合わせと読みがわからない……」
春臣が悩んでる。
「うーん、雪に海でゆきか?」
お父さん残念、ちょっと惜しいけど、✕
「惜しいの? なんだ?」
そろそろ正解言おうかな。
「正解は雪に海でせつかです」
「せつか!」
「これは出なかったなあ」
「なるほどね」
「わからなかった……」
「でも本人は気に入らないみたいです」
「なんで?」
また出たよ、春臣のなんで? が。
「俺の名前の海凪の方がかわいいってずっと言ってます」
「わかる!」
とお母さんがいきなり声に力を込める。
「どうしたの? 母さん」
「子どもって名前に一度は絶対文句言うのよ」
「俺、言ってないよ」
とお兄さんが反論する。
春臣も、
「俺も言ってない」
と言ってる。
「嘘おっしゃい!」
ひいっ!
「龍臣は『苗字とくっつけると龍神じゃん、名前が強そうなの嫌だ!』って言うし、春臣は『なんで春生まれじゃないのに春なの?』ってずっと言ってるじゃない!」
ウケる。
「だってその通りでしょ?」
お兄さんも負けない。
「俺、春生まれじゃないのに……」
静かに責める春臣。
お父さんが笑ってる。
そのお父さんに
「どうしてその名前になったんですか?」
と聞いてみた。
「あれ? そう言えば聞いたことなかったな」
「そうだね」
いや、まずそれを聞こうよ神野兄弟。
俺が男の子なら臣がつく名前にしたかったんだよね」
「なんで?」
お前はどうしてすぐなんで?って言うんだ?
癖か? 子どもか?
「うーん、なんとなく」
うわあ、ざっくりなやつだ。
「かっこいいじゃない、臣って」
わかる気がする。
「だからその上の部分は母さんに任せた」
ほうほう。
「龍臣は『たっくんって呼びたいから龍臣にしたい』って。字は龍が合うかなと」
「理由が強そうより酷い気がする……」
お兄さんがため息をつく。
「なんで? たっくんって呼びたかったんだもの」
なんで? は遺伝か。
「俺は?」
次は春臣だよね。
「春臣の時も同じ。上の部分を母さんに任せた」
まさか。
「『はるちゃん』って呼びたかったんだもん」
やっぱり。
「秋生まれなんだから『秋臣』じゃダメだったの?」
そりゃそうだ。
「『あきちゃん』より『はるちゃん』の方がかわいい!」
この世は暴論が蔓延る。
お母さんは全国のあきちゃんを敵に回した。
「画数とか深い由来とかじゃないんだ」
「それもチラッとは考えたよ。
でも父さんと母さんが好きな名前をつける、その方が一層大切にしたいと思えるんじゃないか?」
お父さん!それ、かっこいい!
「年取っても通用する名前なのは有り難い」
「確かに」
お兄さんも春臣も納得。
二人ともいい名前だと思うよ、俺は。




