1 メイとカイト
絡まれるのは日常茶飯事。
今日もメイは、因縁をつけて絡んできた連中をその拳で沈めていた。
「くそどもが、弱すぎだろ」
メイはわずかに目を細めた。
足元に転がる自称・精鋭たちのリーダーが、震える声で「化け物……め……」と呪詛を吐く。
「はっ! こんだけ雁首揃えて惨敗したお前らが弱すぎるんだろうよ!」
メイは苛立ちを隠さず、ぐしゃりと男の頭を踏みつけた。
この程度の喧嘩では暇潰しにもならない。
――時間の無駄だ。
「つまんねぇやつらだな。行くぞ、テオ」
転がる連中を一瞥し、メイは背後で静観していた片腕に声をかけた。
「メイさんが手を出すなって言うから、出さなかったけど、弱すぎて逆にストレスになったんじゃないですか?」
やれやれと肩をすくめたテオがメイに歩み寄る。
しかし、メイからの返答はない。
テオが眉をひそめて顔を覗き込むと、メイはある一点を見つめたまま、ピタリと固まっていた。
「……メイさん?」
テオがその視線を辿る。
そこには、路地裏の汚濁とは無縁の、恐ろしく整った顔立ちをした金髪の男が立っていた。
男はどこか他人事のように、のんびりとこちらを伺っている。
「わーぉ、なんだこれ。ひでぇな? 絡まれてたの? 大丈夫か?」
男がメイを真っ直ぐに見た瞬間。
「べ、べつに、絡まれてなんか……っ」
先ほどまで男の頭を踏みつけていた狂犬が、急に借りてきた猫のように声を震わせる。
「……メイさん?」
あまりの豹変ぶりに、テオの困惑は頂点に達した。
「そうなの? でも、手が赤いよ? 痛くねぇの?」
金髪の男――カイトが、歩み寄ってメイの右手をそっと取った。
その瞬間、メイの細身の体が雷に打たれたようにビクッと大きく跳ねた。
「……っ、あ、っ!」
指先が触れただけ。
それなのに、体中から力が抜けるような、甘ったるい衝撃が全身を駆け抜ける。
「ぐっ…、心臓の音がうるせぇ」
「ん? どうしたの?」
不思議そうに小首を傾げるカイトから顔を反らして、なんとかメイは息をつく。
「べ、べつに……。それより、お前……名前は?」
「ん? 俺? 俺はカイト」
「カイト……」
声までイケメンか!
メイは耳が熱くなるのを感じてふらりとよろける。
「……メイさん? 大丈夫ですか?」
テオが恐る恐る肩を叩くが、メイはもはやカイト以外何も見えていない。
「カイト。…俺について来い、今すぐだ!」
「え? いや、なんで……?」
「黙れイケメン。いいから来い。 返事は『はい』だろ!」
さっきまでの威圧感はどこへやら、耳まで真っ赤にしたメイが、カイトの腕を掴んで強引に引き歩き始める。
歩き方はどこかぎこちなく、膝が笑っているのがテオの目には丸見えだった。
「……まじかよ」
一人残されたテオの深いため息が、路地裏に吸い込まれていった。




