↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第四章 高校1年生 夏休み
PR
98/142

第51話-B  高校1年生 ~ずっと続けばいいのに 2~

(こんな時間、なかなか持てないよね)


桂花は、アイスもなかを口に運んでから由奈を見た。


湯のみは、まだ温かい。


由奈がお茶を一口飲んでから言った。


「そういえば、桂花、前に実習の班が大変だって言ってたの、最近は、どう?」


「どうにかやってるよ。みんな、前よりはまとまってきたかも」


「そっか、よかったね」


「うん、私も結構言いたいこと言って、変なことしてる子がいたら、注意もしたりしてるんだ」


桂花はそう言って笑った。


「へぇ、すごいね」


由奈は桂花を見て頷いた。


(桂花、自分から言ってるんだ……)


すると、


「桂花ちゃん、お風呂どうぞ」


由奈の母から声がかかった。


「はーい」


桂花が先に浴室に行った。


そして、桂花が風呂上がりの匂いをまとって座敷に戻ったとき、すでに布団が敷かれていた。


「布団、敷いてくれたんだ」


「うん。さっき、おばあちゃんと一緒に」


端に動かされた座敷机の上には、魔法瓶が置いてあった。


由奈がそこから麦茶を注いで桂花に手渡した。


「ありがとう」


床の間の前に置かれた行燈の灯りが、やわらかく室内を照らしている。


さっきまで台所から賑やかな声が聞こえていたが、今は片付ける音だけが聞こえてくる。


「すごいね、この行燈、ついてるの、初めて見た」


桂花が近づいて覗いた。


由奈が微笑んだ。


「なかなかいいでしょ」


桂花は頷いて麦茶を一口飲んだ。


「やっぱり、この家、いろいろ素敵だわ」


「私もお風呂いってくるね」


由奈が部屋を出ていき、桂花は静かな座敷で一人になった。


ふと、部屋の中を見回す。


整えられた布団と、やわらかな行燈の灯り。

床の間には、撫子と青もみじが静かに活けられていた。


少し離れたところで、食器の音とかすかな話し声。


桂花は小さく息を吐いた。


(……やっぱり、いいな)


ぼんやりとして過ごしていると、しばらくして由奈が戻ってきた。


桂花は麦茶を注いで由奈に渡した。


「ありがとう」


遠くで、ぱん、と乾いた音がした。


「花火だ」


由奈は立ち上がって襖を開け、縁側の方へ出る。


カーテンを少しだけ引くと、夜の向こうに小さな光が上がった。


「ここから、結構見えるんだよ」


「ほんとだねー」


音が少し遅れて届く。


二人は並んで、しばらく黙って花火を眺めた。


すると、寝巻き姿のおばあさんも座敷にやってきた。


「あら、見てるのね」


「うん。やっぱりここ、よく見えるね」


「人もいないし、落ち着いて見られるね」


桂花が言うと、由奈は微笑んだ。


おばあさんは少し空を見上げてから、やわらかく続けた。


「こうして見るくらいが、ちょうどいいわよね」


三人で、ゆっくりと花火を眺める。


大きな音はないけれど、光だけが夜に広がっていく。


「きれいだねぇ」


「あの色、いいね」


「うん」


何発かの花火を眺めてから、


「じゃ、由奈ちゃん、桂花ちゃん、ごゆっくりね」


おばあさんは座敷から出ていった。


二人だけになる。


少しの間、何も言わずに花火を見ていた。


「……由奈はさ」


桂花が、ぽつりと言った。


「やっぱり、ここにいた方がいいよね」


由奈は少しだけ笑った。


「ここって、こっちの世界?

そうかな?」


桂花は頷く。


「家族はみんな優しいし、学校も楽しそうだし」


少しの間。


「……桂花もいるしね」


由奈はそう言って、少しだけ視線を落とした。


「だから今夜は、特にいい時間だなって思うよ」


桂花は何も言わずに、もう一度花火を見た。


「でもさ」


由奈が続ける。


「行かなかったら、たぶん後悔すると思う」


静かに言う。


「やっぱり、気にしちゃうと思う」


桂花は小さく息を吐いた。


「……うん。それは、わかる」


また一つ、花火が上がる。


音が少し遅れて届く。


「正直、怖いけどね」


由奈が小さく言った。


「うん」


「迷うし、これでいいのかって思うけど」


少しの間。


桂花が続けた。


「……行かないのも、やっぱり違うよね」


由奈は桂花を見て頷いた。


「うん」


「だから、桂花と一緒に選ばれてよかったって、思うことにしてる」


桂花は少しだけ笑った。


「それ、私も思った」


また静かになる。


花火の光が、ゆっくりと消えていく。


「まぁ……」


桂花が軽く言った。


「考えても仕方ないよね」


「うん」


由奈も笑った。


「どうせ行くんだし」


「だよね」


そう言って、花火に目を向けた。


二人ともさっきまでより穏やかな表情。


「それにさ、学校別々になって、なかなか会えなかったけど、あっちに行ったら毎日一緒にいられるよね」


「そうそう。それはいいよね」


「大変なことあってもなんとかなるよ、きっと」


「うん」


花火が一斉に上がり、空が明るくなった。


「もう、花火、終わりだね」


「うん」


空が静かになった後、由奈がカーテンを閉めた。


部屋の中に、行燈の灯りだけが残る。


二人は麦茶を飲み干し、そのまま布団に入った。


やわらかな灯りの中で、静かな時間が続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。