第48話-C 高校1年生 ~不安だけど、前へ 3~
ドラッグストア近くのコンビニに入り、昼ごはんを見繕う。
「先生は、こういうのがいいかな」
健斗が手に取ったのは幕の内弁当だった。
「うん、いいと思う。ちゃんとしてるし」
そのままかごに入れる。
「晴基は……」
「がっつりだよね」
二人で顔を見合わせて、ボリュームのある弁当を選ぶ。
「桂花は……」
由奈は少し考えてから、笑いながら言った。
「……作業してくれてるし、これくらい食べられそうだけど」
「普通に食うよな」
結局、同じ弁当をもう一つかごに入れた。
「私は、おにぎりでいいかな」
「俺もそれでいいや」
由奈が選んだものと同じおにぎりを、健斗も手に取る。
会計を済ませ、店を出た。
外の空気は相変わらず暑い。
健斗は弁当の入った袋を両手に持ち、歩き出す。
「重くない?私も持つよ」
「大丈夫。俺の荷物持ってもらえれば」
由奈は、小さな袋を見下ろした。
歯ブラシと汗拭きシート。
「……軽いけど」
「いいじゃん」
健斗は笑って歩き出した。
(なんか、悪いな)
由奈は健斗の横顔を見た。
ふと、高校で重い荷物を持とうとしたときのことを思い出す。
男子が当たり前のように持ってくれて――
(ああいうの、ちょっと“女子扱い”って感じで、嬉しかったりするんだよね)
少しだけ視線を落とす。
(でも……)
由奈は健斗の持っている袋に目を向けた。
(高野くんは、そういう感じじゃないよね)
小学校に戻ると、ちょうど昼前だった。
書庫の小部屋に入ると、魔法陣はかなり進んでいた。
「おー、すげぇ」
「すごいね」
由奈と健斗は感心してじっくり眺めるが、晴基と桂花は口数が少なかった。
「ちょっと疲れた……」
「ああ。もう休憩だな」
由奈と健斗は買ってきた弁当をそれぞれに渡す。
「え、私これ?」
桂花が弁当を見て眉をひそめる。
「古山と同じって、ちょっと心外なんだけど」
「あはは、やっぱり、そう思うよね」
「食うだろ」
「食べるけどさ」
そう言いながら、蓋を開けた。
ふと、桂花の視線が止まる。
由奈と健斗が、並んでおにぎりの包装を開けていた。
同じ種類――シーチキンマヨネーズと鮭。
桂花は由奈と健斗をちらりと見た。
「へぇー。一緒の」
「だ、だって手ごろじゃん」
由奈は早口に言った。
「そうだね」
桂花はそう言って弁当に箸を伸ばした。
「いただきます」
晴基は既に弁当に集中している。
「これ、いい幕の内だな」
椅子に腰掛けた先生がぼそりと言った。
「俺、コロッケもあるけど」
健斗が袋を覗く。
「由奈も食べる?」
「え……」
少し迷ってから、首を振った。
「桂花が残したら、そっちもらう」
「そっか」
一瞬の間。
「じゃ、なかったら半分こな」
由奈が顔を上げる。
「……でも、それ高野くんのじゃん」
「いいよ」
少しだけ間が空く。
「……ありがとう」
健斗は小さく笑って頷いた。
桂花ももくもくと食べて、結局、すべてのフライを食べ終わった。
「やっぱり、食べられたじゃん」
由奈は笑って言った。
「これ、おいしかったよ」
桂花は容器の蓋を締めて手を合わせた。
「先生、ごちそうさまでした」
「由奈、コロッケ、食べる?」
健斗がコロッケを手にして言った。
「大丈夫だよ。
高野くん、ちゃんと食べなよ」
「……そっか」
健斗はコロッケにかじりついた。
「はー、食べたらちょっと元気になった」
晴基が壁にもたれて言った。
「細かいところあったもんね、お疲れさま」
「もう、山は越えた感じだよね」
桂花がお茶を飲んで言った。
「もうちょい休んでから再開するか」
晴基が肩を回しながら言った。
そのとき、小部屋の扉がノックされた。
「えっ」
一瞬、空気が止まった。
「誰?」
健斗が小声で言った。
(こんな時に……?)
小部屋には鍵がかかっている。
いきなり開けられることはないと分かっていても、
心臓が少しだけ速くなる。
志野先生が立ち上がり、静かに扉へ近づいたとき、
「中島です」
外から聞こえた声に、全員が息を抜いた。
「あー、びっくりした……」
桂花が小さく肩の力を抜いた。
先生が扉を開ける。
そこには、普段より少しラフな格好の司書さんが立っていた。
「もしかして、驚かせちゃったかしら」
やわらかく笑って、小部屋に入ってくる。
それだけで、さっきまでの緊張がふっとほどけた。
「こんにちは」
「今、ちょうど昼休憩中です」
「わぁ……すごい」
司書さんは床に描かれた魔法陣を見て、目を細めた。
「雰囲気あるわねぇ」
ゆっくりと近づきながら、感心したように言う。
「結構細かいのね。大変だったでしょう?」
「はい。ちょっと疲れました」
桂花が笑いながら答えた。
「お疲れさま」
そう言って、司書さんは持っていた箱を机の上に置いた。
「差し入れ。溶けちゃうから、先に食べて」
蓋を開けると、中にはきれいに並べられたシューアイス。
「わぁ……!」
「やった!」
さっきまでの疲れが、一気に軽くなる。
それぞれが手を伸ばし、ひとつ取る。
ひんやりとした感触。
「冷た……」
思わず笑いがこぼれる。
「志野先生も、どうぞ」
「ありがとうございます」
司書さんはもうひとつの袋を指さした。
「こっちは溶けないものだから、三時のおやつにどう?」
「それ、めちゃくちゃ助かります」
晴基が素直に笑った。
「やっぱ甘いものあると違うよな」
健斗が言いながら、もう一口かじる。
由奈も静かにシューアイスを口に運ぶ。
(……なんか)
冷たさと甘さが、じんわり広がる。
(……こういうの、いいな)
由奈は部屋を見回してから、もう一口、シューアイスをかじった。




