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図書室からつづく異世界   作者: 柚子水
第一章 小学校時代
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第8話-A 雨の図書室 ~図書委員会~

由奈と桂花は、昼休みを図書室で過ごすことも多かった。


教室は居心地が悪かったが、図書室に行くと安心できる。


静かにするのが決まりだし、先生や司書さんといった大人の目もあるから昼休みを賑やかに過ごしたい子たちはやってこない。


全体的に、おとなしそうな子や真面目そうな子が静かに本を読んでいる。


そして、二人が図書室に行くのは昼休みだけではなかった。


図書委員でもある二人は、月一回の委員会活動の時間にも図書室に行く。


委員会の時間は、普段見慣れた光景とは違う。


各クラスの委員が集まり、委員会担当の先生や司書さんと一緒に、よりよい図書室を作るための活動を考えたり実践したりする。


学校の委員会は他にもたくさんあって、五年生と六年生の各クラスから男女二人ずつが割り当てられる。


六年二組で委員会を選んだとき、ほとんどが仲のいい二人組で入りたいところを選んだ。


図書委員は、昼休みや放課後の貸出当番があるし、委員会でもやることが多い。


そういう面倒くさいイメージがあって人気がないので、由奈と桂花の二人は立候補ですぐに決まった。


男子は健斗と晴基が図書委員になった。


クラスの中心にいる、賑やかな男子二人が、地味なイメージの図書委員になった。


「えっ、あの二人が図書委員?」


「なんか、合わないね」


そんな声が教室のどこかから聞こえた。


もちろん、健斗と晴基は楽できそうな委員会に手を挙げていたが、考えることはみんな同じ。


そういうところに、他のクラスメイトも手を挙げた。


そして、健斗と晴基の二人組は、くじやじゃんけんでことごとく負けたのだ。


――六月の委員会活動の日


外は雨。


委員会が始まる前、クラスごとに割り当てられたテーブルに四人で座る。


健斗と晴基は毎回、少しつまらなさそうな顔をして図書室に入ってくる。


由奈が桂花に言った。


「委員会に来るとき、あの二人、いつもダルそうな顔してるよね」


桂花は頷いた。


二人は席に座ると、だいたい由奈と三人で雑談を始める。


由奈は彼らとわりと仲がよかった。


だからこそ、華恵たちがいない委員会の時間は、以前のように話すことができた。


教室では窮屈そうに過ごしている由奈が、委員会では健斗や晴基と楽しそうに話している。


そういう姿を見て、桂花は心の中でため息をついた。


(由奈、やっぱり教室にいるときとは全然違う。

ほんとの由奈はこういう子だよね……。

私はどちらにいても、そんなに変わらないけど)


由奈が時々、桂花を巻き込んでくるが、桂花はあまりしゃべることができない。


(三人を観察している方が気楽でいい。なんか、面白いし)


桂花は人見知りで、男子と話すのはあまり得意ではない。


女子でも話しやすい相手としか話さないし、ましてや華恵(はなえ)軍団(ぐんだん)のメンバーは苦手だ。


桂花は目の前の三人をぼんやりと見た。


由奈は、男子が言う少し荒い言葉にも笑って返せるし、女子があまり興味がなさそうな話題でも、自然に広げることができる。


(由奈は近所や親戚に男の子が多いって言ってたし、こういうの慣れてるんだろうな)


由奈は相手によって話し方や言葉の選び方を自然に切り替える。


(高野って、由奈と話してるとき遠慮ないな。

他の女子には、わりと気を使ってる?)


この日の委員会活動は、図書室に掲示する標語を画用紙に書いてデザインすることだった。


クラスごとに作業する。


晴基と由奈が画用紙やマジックを取りに行っている。


健斗と桂花の二人が席に残され、お互い黙って座っていた。


桂花は健斗や晴基のように明るく目立つ男子は特に苦手だったが、

由奈に巻き込まれるうちに、少しずつなら話せるようになった。


特に晴基とは話しやすい。


(きっと、古山は気を回してくれてるんだよね)


晴基は、普段から相手の性格を汲んで、相槌、目線、発言のタイミングを考えているように見える。


(高野と二人は無理。これ、一番困る組み合わせ……)


桂花が由奈と晴基が早く戻ってくることを願っていると、健斗が話しかけてきた。


「小藤さんはこういう作業得意なの?」


「え?」


急だったのと意外だったのとで、桂花は怪訝そうな声を出してしまったかもしれない。


健斗が少し慌てたように言った。


「あ、ごめん。別に、意味はないけど聞いてみた」


桂花も慌てて返した。


「あ……、うん、こういうの嫌いじゃないよ」


(高野、一応、気を使ってくれたのかな)


由奈と晴基が画用紙二枚とマジックのセットを持って戻って来た。


「とりあえず、これだけ各クラスに渡されたけど、画用紙、まだあるからどんどん書いてねって言われた」


「じゃ、お前らやってよ。こういうの、女子の方が得意だろ」


晴基が由奈と桂花の方に画用紙とマジックを押しやった。


「えー、私、あんまり得意じゃないのに。古山くんの方がうまいじゃん」


由奈は笑いながらそう言って、マジックで画用紙に描き始めた。


桂花も小さく笑ってマジックを手に取った。


男子二人は適当なことを話して遊んでいる。


しばらくすると、健斗が由奈が描いているデザインを見てあれこれ言い出した。


由奈は笑って答えている。


「もう、うるさいなぁ」


由奈が描くと健斗がからかい、由奈もいつもの調子で言い返す。


そんな光景が繰り広げられていた。


向かいに座っている晴基が桂花の画用紙を見て言った。


「小藤さん、うまいなぁ。センスあるよな」


桂花はちらっと顔を上げて、できるだけ照れを隠しながら言った。


「適当だよ」


由奈と健斗も桂花の画用紙を覗いた。


「ほんとだ、うまいなぁ」


「桂ちゃん、図工、得意だもんね」


「それと比べて、お前、なにこれ」


健斗が由奈の画用紙を指して言った。


由奈が言い返した。


「えー、いいじゃん、これ」


「いやいや、この色使った方がいいだろ」


「えー、そっちの方が変じゃん」


「んなことねーし、ちょっとそのマジック、貸してみろよ」


そう言って、健斗がいたずらっぽく笑いながら由奈に手を差し出した。


すると由奈は、はっとした顔をした。


そして、黙ってその手を見た。


――少しの沈黙


由奈は視線を上げて笑顔で言った。


「……わかった、高野くんが言った通りでいいよ。きっとその方がいいからさ。

はい、これ」


そう言って由奈は健斗に画用紙とマジックを渡した。


桂花は思わず小さく口を開けた。


(あれ?)


「えっ?」


健斗もきょとんとした顔で由奈を見ている。


「私、新しい画用紙もらってくるね」


由奈はそう言って立ち上がり、新しい画用紙を持って戻ってきた。


由奈は座りながら言った。


「桂花、今の終わったら、これ一緒にやろ」


「えっ?……うん」


(由奈、さっきの、普段なら言い返すとこじゃない?)


桂花はそう思って由奈の顔を見たが、由奈はいつも通りに見えた。


(由奈、あんなん、本気で怒ったりしない……よね)


健斗を見ると、渡されたマジックを手に拍子抜けした顔をしていたが、戻ってきた由奈に言った。


「これ、俺がやるの?」


「うん。

あっ、それともこっちの新しい方に描く?」


そう言われて健斗は目をぱちぱちさせた。


「え……」


「どうせなら新しいやつに描こうぜ、健斗。二人でやるぞ」


晴基が由奈に手を差し出して新しい画用紙を受け取った。


「そっか。じゃ、これね」


由奈は晴基に新しい画用紙を渡し、


「こっち、続き描くね」


健斗の目の前から途中まで描いた画用紙を取り戻して続きを描き始めた。



その後、健斗はほとんど何も言わずに晴基が描くのを眺めていただけだった。


時々、小声で晴基のデザインを褒めているのが聞こえた。


「やっぱ、晴基、うまいな」


由奈と桂花も黙々と作業を進めた。


「ほら、わりといい感じでしょ?」


由奈はそう言って完成した自分の画用紙を桂花に見せた。


「うん、そうだね」


「桂花もできてるなら先生に見てもらおう」


「うん」


由奈と桂花は一緒に先生のところに画用紙を持っていき、先生や司書さんに褒められて満足していた。


その後、委員会の時間が終わり、由奈と桂花は二人で図書室を出た。


教室へ向かう二人の足取りは、どこか重かった。


――窓の外では雨足が強くなり、空が暗くなっていた。







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