第45話 高校1年生 ~あの頃と今~
先生と司書さんにお礼を言って、四人は帰り始めた。
少し薄暗くなり始めている。
四人は校門を後にした。
由奈と桂花は、健斗と晴基の後ろを少し離れて並んで歩く。
「ねぇ、桂ちゃん、同窓会って微妙だよね……」
由奈が呟くと、桂花は頷いた。
「でも、先生の中では、私たちの壮行会も兼ねてるんでしょ?
行かないわけにはいかないよね……」
「そうなんだよね……」
「高野や古山みたいなのは、なーんも思わずに参加できるんだろうな」
「うん。むしろ楽しめるんだと思う。
あっ、でも、高野くんは莉乃ちゃんと気まずくない?」
「あー、そっか。
でも、渡瀬さんは、きっとチャンスだと思うよね。
当日、あの子が綺麗にしてくるの、目に見えるわ。
それに、他の子たちもきっとあの頃のまんまで……」
「だよね。……ここ最近忘れてたから。
……ああいう人たちに気を使いながら過ごす感じ。
ますます、その場に居たくないかも……」
桂花はうんうんと頷いてから言った。
「高野、逃げ切れないイメージあるよね」
「うん。前は莉乃ちゃんにはっきり断ったみたいだけど、また会ったらわからないよね。
高野くん、押し切られちゃうイメージがある」
「あはは。由奈、そんなこと言っちゃう?
でも、わかるわ」
「ね、わかるでしょ。
他の子たちも、高野くんや古山くんのところに集まりそう。
でも、やっぱり……見ごたえあるのは莉乃ちゃんだろうね」
桂花は頷いてから、ふと前を見た。
「……ん?
あ……っ、ちょっ……ねぇ、由奈……」
桂花が固まった。
「……どうしたの?」
由奈もつられて前を見ると、前を歩いていた男子二人が立ち止まってこちらを見ていた。
「あ……今の話、聞いてた?」
由奈と桂花は口ごもった。
健斗はむっとした表情のまま、ため息をついてから口を開いた。
「……あのさ」
低い声。
由奈と桂花は俯いている。
「はい……」
「俺は、絶対に莉乃に押し切られないから」
健斗は静かに言った。
少しの間。
由奈は少し顔を上げて、おずおずと言った。
「え……“絶対に”は、ないんじゃ……ない?」
桂花は思わず由奈の顔を見た。
(由奈、それ、わざわざ言わなくてもいいし)
健斗は由奈を見て言った。
「……ないったらない」
また、少し間が空く。
「でもさ、万が一ってこともあるし……」
「ないって」
「そんなことわかんないし」
「……またかよ」
健斗は小さく吐き出すみたいに言って、少し間を置いた。
「そういうのやめろって前も言っただろ」
声は強くないのに、少しだけ硬い。
「……それはそうだけど」
由奈は一瞬だけ言葉に詰まってから、
「ただ、思ったこと、桂花と話してただけだし」
「じゃ、俺も、それは違うって言う」
「いいじゃん、こっちはこっちで話してるんだから、気にしないでよ」
「間違ったこと言ってたから違うって言っただけ」
「そこまで言うなら、ちゃんと見てるからね」
「むだむだ! なんもないから」
健斗はそう言って手をひらひらさせた。
「なにその態度」
「うるさいな、お前がいつまでも変なこと言ってるからだよ」
「えっ、私が変なの?!」
「そうだろ」
「そんなことないし!」
「もう、歩きながら話そうぜー」
晴基がそう言って歩き始め、桂花もそれに続いた。
「ねぇ、あの二人、いつもの感じってことで大丈夫かな?
喧嘩にならないよね?」
「はは。ちょっと心配になったけどな。大丈夫じゃね?」
「高野、夏祭りのときのせいで、本を読むペース落ちたんだよね?」
「ああ、きっとそうだろうな。
ここのところ、健斗、思い詰めてたっぽいし。
だから、由奈と言い合えるの、悪くないんじゃね?」
「はは。由奈ってさ、高野の気持ち、全然わかってないよね」
「ああ。
健斗も自分でどこまでわかってるのかって感じだけど。
あいつは態度に出てるよな」
「そうだね。
由奈の気持ちは全然わからないけど」
そして、道が分かれる場所に差しかかった。
由奈と健斗は、まだ言い合いながら歩いていたが、
そこまで来たところで、由奈は手を上げた。
「じゃあ、またね」
「おう。また集まる日、連絡するわ」
晴基が言った。
「うん」
桂花も軽く手を振った。
由奈は自分の家の方へ歩き出した。
すると、健斗もすっと並んで歩き始めた。
由奈は立ち止まって健斗を見る。
「高野くん、なに?」
「送る」
「なに言ってんの?」
健斗は一瞬だけ由奈を見て、すぐに目を逸らした。
「高野くん、反対方向だし」
「いいから、行くぞ」
「さっきの話の続きなら、また今度でいいじゃん」
「違うし。ほら、行くぞ」
健斗はそのまま歩き出そうとした。
「ちょっと、なんなの?」
由奈は少しだけ考えてから、小さく言った。
「あっ……この前、暗いところあって怖いって言ったから?」
健斗は一瞬だけ由奈を見て、言葉に詰まったが、
「……まぁ」
少し間を置いてから、そう答えた。
「そっか」
由奈は少しだけ納得したように頷いた。
由奈はふと気になって晴基と桂花の方を見た。
二人は面白そうにこちらを見ている。
(……見なきゃよかった)
すぐに目を逸らして前を見た。
すると、健斗が振り返って手を差し出した。
「え?」
「荷物」
「今日、全然重くないよ」
「いいから」
由奈は、ゆっくりとトートバッグを差し出した。
健斗はそれを肩にかけた。
「あ……ありがと」
由奈はそう言って目を伏せた。
健斗は由奈が歩き出すのを待って、歩き出した。
二人の後ろ姿を見送る晴基と桂花。
「へえ、高野、やるね」
「ああ、健斗、なんか変わったな」
桂花は苦笑しながら言った。
「でもきっと、由奈は全然わかってないんだよ」
「これはさすがにわかるんじゃないのか?
……いや、どうだろうな」
晴基は少し考えるような顔をしながら続けた。
「由奈、魔法陣の続き、小藤さんと二人でやるって言ったじゃん。
あれ、“なんで?”って思わなかった?」
「そうだね、あの流れでそれはないでしょって思った。
みんなでやるところだよね」
桂花は少し考える顔をした。
「……でもさ、小学校にいると、無意識にあの頃の感覚に戻っちゃうのかも。
だから、古山や高野は違う世界の人間って感じちゃうのかもしれない」
「は?どういうこと?」
「古山も高野も、六年のクラスの“一軍”だったじゃん。
で、うちら“三軍”みたいなもんで。
だから……なんか、気が引けるっていうか」
「は?なにそれ」
「私は由奈の気持ちわかるよ。
渡瀬さんがいたときだって、私も由奈も、ちょっと距離取っちゃってたし。
顔色も気になるんだよね」
「なるほどね……」
「だから、地味なことを一緒にやるイメージが持てないんじゃないかな。
古山たちにやらせるようなことじゃないっていうか」
「いやいや、俺らどんな存在なんだよ、同級生じゃん。
それに、由奈、今は“学校の王子”に好かれてる子に見えるけど?」
「あー……。由奈、それもわかってるのかなぁ」
「……わかってなさそうだよな」
「うん。だからさ、由奈は高野から好かれるなんて、これっぽっちも想像できてなさそう」
「健斗は自然だけどなぁ。……難しいもんだな」
「まぁ、見守るしかないよ。いろいろありそうで面白そうじゃん」
「だな」
そして、晴基と桂花もその場から歩き始めた。




