第17話-B 中学3年生 ~納得~
少し間が空いて、桂花がその場を離れた後──
晴基は、前を向いたまま、ちらっと健斗を見る。
「健斗さぁ」
「ん?」
「……由奈のこと、ちょっと気にしてる?」
健斗は一瞬だけ動きを止めた。
「は?」
晴基は特に笑いもせず、淡々と言う。
「今さ、なんかムッとしてた気がした」
「ムッとしてねーし」
「太田と由奈が一緒に歩いてたとこ。あれ、あんま面白くなさそうだった」
健斗は小さく舌打ちして、前を見る。
「別に」
「ふーん」
少し間があってから、健斗がぼそっと言った。
「……由奈ってさ」
「ん?」
「別に太田じゃなくても、誰とでもああなるよな」
感心なのか、文句なのか、自分でもよく分からない言い方。
晴基は少し意外そうに、健斗を見る。
「なにそれ。急に」
健斗は肩をすくめる。
「いや……誰とでも普通に話せるの、地味にすげーなって思っただけ」
「なに、元カノと比べてんの?」
「ちげーよ」
健斗は首を振った。
「由奈ってさ、誰とでも話すし、話してると相手も楽しそうじゃん。
俺ともさ、昔、バカみたいに言い合ってたし、
それなりに、いろんな話もしてたし」
一瞬、言葉を探してから続ける。
「ああいうの、誰とでもできるわけじゃねーんだなって思って」
晴基は、少しだけ口元を緩めた。
「今もさ、由奈とまた言い合えばいいじゃん」
健斗は、少し黙ってから苦笑した。
「ははっ、なんだよ、それ。
由奈、今は太田と楽しそうだし」
それを聞いて、晴基は小さくため息をつく。
「でもさ、それって健斗が引く理由にはならなくね?」
「別に引いてるとかないし。由奈なんてカンケーねーし」
それ以上は言わず、黙る。
二人はそのまま歩き出す。
しばらくして、晴基が空を見上げながら言った。
「由奈さ、目立たないけど、わりとモテるよな」
健斗は素直に頷いた。
「あー……それはある」
少し驚いたように付け足す。
「ってか、晴基もそう思ってたんだ」
晴基は軽く笑う。
「まぁ、同じクラスだし、見てればわかる。
小学校の時からさ、なんかそんな感じしなかった?
目立つタイプじゃないのに、いつも人の周りにいるっていうか。足立とかさ」
健斗は「足立」の名前を聞いて、胸の奥が少しざわついた。
晴基は、健斗の目が一瞬泳いだのを、見なかったことにして続ける。
「じわじわ来てさ、気になっちゃうタイプ?」
健斗は少しだけ目を見開く。
晴基は、健斗の反応を横目で見ながら言う。
「なんとなく、男に『好き』って言わせない空気あるじゃん。なんか、線ある感じ」
健斗は、由奈と話していた男子たちの顔を思い浮かべる。
「優しいし楽しいし、話も聞いてくれるのに、詰められないっていうかさ」
晴基は続ける。
「だから、仲いいまま時間だけ過ぎて。
そのうち由奈は、別の男子とも普通に仲良くしててさ。
『あれ?俺だけじゃなかった?』ってなってそう」
晴基は少し間を置いて、言った。
「由奈のこと、ずっと気になってる男子、結構いそうだよな。
告白させない感じもあるし」
健斗は、妙に納得して黙り込む。
(今の太田も、そうなのか?)
そして、小さく息を吐いて言った。
「……それ、付き合えてたらどうなってたんだろって、ずっと考えちゃうやつだな」
晴基は健斗の横顔を見て、ふっと笑う。
健斗が低く呟く。
「由奈の“特別”ってさ……分かりにくそうだよな」
晴基は何も言わず、そのまま前を向いた。




