第17話-A 中学3年生 ~一緒に帰る相手~
秋が深まった頃から、由奈は帰り道を男子と歩くようになった。
足立でもない。
教室で由奈に話しかけていた、四組の男子でもない。
――同じクラスの、太田。
健斗は、三年生になってから同じクラスの女子と付き合っていたが、長くは続かなかった。
仲はそれなりに良かったし、かわいい子だったとは思う。
けれど、付き合い始めると、なぜかうまくいかなくなった。
二ヶ月ほどだっただろうか。
由奈と太田は、もはや、ちょっと有名なペアだった。
太田は人当たりがよく、学級委員などをずっと任されている。
先生からの信頼も厚い。
華やかさはないが、女子からそれなりに人気がある。
由奈も太田も成績が良く、雰囲気も穏やかだ。
同じ高校の、同じコースを目指しているという話もある。
二人が「付き合っている」という確証はないけれど、
並んで歩いている姿を見ていると、安心感があった。
桂花から見ても、由奈と太田は気が合っているのが分かった。
けれど、太田と付き合っているのかと由奈に聞いても、「別にそうじゃない」と返ってきた。
「じゃあ、なんで毎日一緒に帰るの?」と茶化してみても、
「太田くんのこと好きな子が一緒に帰りたがるから、太田くん、それが嫌なんだって」
いまひとつ、理解しづらい理由を言われた。
(それで、由奈が一緒に帰らないといけないの?)
桂花は、内心で首をかしげた。
放課後のやわらかい陽の光が、校門付近のアスファルトに影を落としていた。
健斗と晴基は、鞄を片手に無意識に歩みを止めていた。
少し後ろを歩いていた桂花は、二人に気づきながら、俯いて通り過ぎようとした。
だが――
「小藤さん、久しぶり」
晴基から声がかかった。
「……そうだね。何?」
桂花は仕方なく顔を上げ、少しぶっきらぼうに答えた。
その言い方にも動じず、晴基はあっけらかんと聞いた。
「由奈って、太田と付き合ってるの?」
桂花は一瞬、言葉を探すような顔をして肩をすくめた。
「あー……あれ、分かんないよ。本人は否定する。
ていうか、古山って、由奈と太田と同じクラスじゃん。知らないの?」
「いや、クラスではそういう風には言われてないんだよな。
でも、あの二人、だいたい毎日一緒に帰ってない?」
「うーん。あれ、太田のこと好きな子に近寄られないためらしいけど……」
その一言に、健斗と晴基の声が揃った。
「は? なにそれ」
「いや、私だって、由奈に同じこと言ったよ」
少しおかしな空気になった、そのときだった。
後方を見ていた健斗が声を上げた。
「あっ」
晴基と桂花も、つられて同じ方を見た。
――すると、
ちょうど、由奈と太田が並んで歩いてきていた。
遠目に見ても、自然に並んでいて、違和感がない。
(なんというタイミング……)
桂花は、思わず期待してしまう。
(これは……面白いことになるかも?)
由奈は、こちらに気づいているのかどうか、
太田と話しながら、まっすぐ前を見たまま近づいてくる。
すると、突然、晴基が大きく手を振った。
「由奈ちゃーん!」
晴基が「由奈ちゃん」なんて呼ぶのは、これまでなかったはずだ。
明らかに、わざとらしく呼んで、軽やかに手を振っている。
由奈は驚いた顔でこちらを向いた。
そして、太田と並んだまま、ペースを変えずに歩き、三人の近くまで来た。
由奈は楽しそうな表情で言った。
「久しぶり! どうしたの?
この三人が一緒って、どういうこと?」
けれど、由奈は足を止めなかった。
桂花たちの返事を待たず、手を振りながら、そのまま遠ざかっていった。
晴基が、ぽつりと呟いた。
「あいつ、雰囲気……ちょっと変わったよな。
なんか、女の子って感じになったか」
桂花も笑って頷いた。
「そうだね」
健斗は、何も言わずに手を振った。
さっきの晴基の言葉を聞いたとき、
その指先が、ほんの一瞬、止まりかけたようにも見えたが、
晴基も桂花も、それには触れなかった。
健斗は、由奈たちの背中を、誰よりも長く見送っていた。
夕暮れの風が、三人の間を、ふっと吹き抜けていった。




