第13話-A 中学2年生 ~クラス対抗リレー~
体育祭の前には、各学年、各クラスが色分けされ、同じ色になったクラス同士で団を組む。
小学校は4クラスが4色に分かれて戦ったが、中学は9クラスもあるので、色も増える。
ハチマキなんて普段は巻かないので、慣れないうちは照れくさい。
体育祭当日。
夏の盛りは過ぎているが、まだ暑い。
競技がない時は、団席で腰掛けているよう言われているが、木陰で涼んでいる生徒もちらほら見受けられる。
小学校の時ほどではないが、いくつも競技が行われる。
一番盛り上がるのは、やはりリレー。
晴基は、運動神経がよく、足も速い。
団対抗も学年別クラス対抗も走者に選ばれた。
由奈も、小学生の頃からリレー走者に選ばれたり選ばれなかったりしていたが、今回は、学年別のクラス対抗で走者に選ばれている。
「由奈は、地味に運動神経いいんだよね」
桂花は、クラスが違うが、昼休みには一緒にいた。
「地味にって。酷いなぁ」
由奈は笑いながそう言った後、少し苦々しい顔をしながら言った。
「でもさ、クラス対抗、松原さんも同じ時に走るし、ちょっと気が重いんだよね」
小六の時の中心女子で、由奈達を端に追いやっていたリーダー格の松原華恵。
由奈たちは、小学校を卒業する頃には華恵との関係は悪くなかった。
――けど、
華恵は、自分に従う子達と集まって、ターゲットにした子を排除してきた。
集団で、気に入らない者の悪口を言ったり、行動をバカにすることで、精神的に追い詰めるやり方。
由奈は、彼女が負けず嫌いで自分より目立つ存在を恨む傾向があることを知っているので、由奈は不安に思っている。
「別に、松原さんに勝っても負けても、由奈のせいじゃないし。競技だもん」
桂花はあっさりと言った。
そういう桂花に、由奈は少し困った顔で言った。
「あの子は、思わないこと知ってるくせに」
「うん、知ってる」
「でしょ」
二人はそこで笑い合った。
「でもさ、あの子も、結構、立場なくなったと思うよ。中学に入った頃、誰かの悪口言ったり、バカにするようなことばっかり言うから、嫌がられてたって」
桂花は言った。
「うん。それ、聞いたことある」
由奈は、そう言いながら、内心、ほっとした。
華恵のようなやり方は、受け入れられるべきじゃないと思っていたから。
「だから、大丈夫だと思うよ。あの子が負けて文句言い出したら、今ならきっと、周りが白い目で見るから」
桂花の言葉に、由奈は口元だけで笑って頷いた。
いよいよ、学年別のクラス対抗リレー。
由奈はたまに選ばれるけど、足が特別速い自覚はない。
それこそ、華恵はいつも選手に選ばれていたが、由奈はそこまでではない。
由奈は、晴基にバトンを渡すことになる。
晴基はアンカー。
由奈は、とにかく、順位を下げないことを目標にする。
――いよいよ
リレーが始まり、緊張が高まる由奈。
足が震えるが、前の男子が4位で走ってきたのを見て、大きく息を吸い込む。
由奈は、バトンを受け取り、全力で走る。
走り出すと周りの音が聞こえなくなり、前の走者の背中を追うことに集中する。
由奈の二人後ろが華恵だが、由奈には見えていない。
後ろの気配も感じるが、相手が誰であれ、抜かされないようにするだけだ。
桂花は、由奈とは違うクラスだが、桂花のクラスは、最後から二番目にいるので、自然と由奈に目が行く。
華恵が一人抜かして由奈のすぐ後ろに付けているが、なかなか抜かせないでいる。
由奈は、もう少しで前の走者に追いつけそうだ。
桂花の手に思わず力が入る。
(由奈、そのまま、抜かして古山にバトン渡して!)
必死にそう祈った。
由奈は、最後の直線で、ただ前だけを見て走った。
——背後の足音が、隣に並ぶことはなかった。
喉が焼けるような息苦しさの中で、必死に腕を伸ばし、華恵には抜かれないまま、三位とほぼ同時に晴基にバトンを渡した。
バトンが離れた瞬間、脚の力が抜け、視界がふっと揺れた。
そして、歓声が沸き上がり、それに押し出されるようにして、一拍も置かずに晴基が走り出す。
合図も声もないのに、観客席のざわめきが一段階、跳ね上がる。
晴基は、あっという間に遠ざかっていく。
(やっぱ、古山、速いな)
桂花は、思わず呟きそうになる。
「速っ……!」
そして、桂花の傍で誰かの声が漏れたのが聞こえた。
晴基が一気に差をつけて二位と並んだことで、盛り上がりが最高潮に達する。
桂花は、同じ小学校出身者として誇らしい気持ちにさえなった。
(古山、一位になれ!)
再び、手を強く握りしめて祈った。
小学校を卒業した後、中一の時には晴基と関わったことなんて皆無だったのに、こんなところで、かつて彼と同じクラスだったことを意識することになったのが意外だった。
もっとも、自分のクラスの応援しがいがないから、というのもあるが。
由奈と晴基のいるクラスに、ずいぶん肩入れしてしまっている自分に気づく。
晴基が二位を抜かして一位と並んだことで、みんなが息を飲むような空気になった。
この場の主役は、誰がどう見ても、晴基だった。




