ツヴィ王国への船旅
エマ師匠の事情を知ったレオン様とトリス様が慌てて準備をしたが、間に合わず一日出発日をずらして出航する事になった。俺とドリーは船に荷物を積み終わって船内を見学していると、レーヴェを見つける。
「レーヴェ」
「エド、ドリー久しぶりですね」
「そうだね。レーヴェ船長、外洋は初めてだからよろしく」
「ええ。任せてください。エドにはお世話になっていますからね」
「お世話に?」
レーヴェに何かした記憶がないので不思議に思って聞き返したら、レーヴェが答えてくれた。ラーメンだったりハンバーガーがだったりとレーヴェの好物を作っていたので、レーヴェからいつの間にか慕われていたようだ。
「それにあの姉を制御できる人がいるとは思いませんでした。しかも結婚しても良いとは。好みの料理まで作ってくれる最高の義兄ですよ」
「レーヴェ、褒めてくれるのは嬉しいけど、ベスに聞かれたら後が怖いよ?」
「そうですね。秘密でお願いします」
レーヴェは出航前の準備で船員と話し始めたので、俺は邪魔しないようにとその場を離れる。船旅は長いので、レーヴェと話す機会もまた有るだろうと、船内を移動する。
「エド」
「エマ師匠も船内を見学ですか?」
「ええ。外洋の船は初めてで、ここまで大きい船は乗ったことが無いから見学しているの」
「俺もです」
俺、ドリー、エマ師匠は一緒に船内を見学して回る事にして、船員の邪魔にならないように見学する。
「エド、出発が私のせいで遅くなってしまったようで、ごめんなさい」
「エマ師匠が悪いんじゃないですよ。それにエマ師匠も聞かれたくなことを聞かれてしまったし」
「ですが、そのおかげで少しだけ事情が分かったのは良かったですね。過去のことだと忘れようとしていましたが、少し慰めになりました」
船内の見学が終わった後に、ベスとリオと合流して船が出航するのを待つ。
「エド、前回の船旅同様に魔法で速度を上げますが、魔法の制御は慣れましたの?」
「帆を壊すようなことは無いと思う。だけど万全な状態だとは言えないな」
「壊さなければ良いですわ。魔法を使う時はレーヴェから指示されますわ」
事前になるべく早くツヴィ王国に到着するために魔法を使うのは聞いていたのだが、俺、ドリー、リオは魔力が増えすぎたので魔力の調整が難しく、船に魔法を使って壊さない位に魔力を調整できるよう頑張っていた。
「前からそうだけど、一気に魔力を使うのは楽なんだけどな」
「分かりますわ」
「魔道具作ったり、魔法薬を作るのに魔力を制御ができないと失敗するから、早く慣れたいんだけどな」
「船の帆に魔法を使いながら慣れて貰うしか無いですわ」
船の上に居たら物を作るのは難しいので、ベスの言う通り船の帆に向かって魔法を使って慣れるしか無いようだ。
「船が動き始めるようですわ」
「よく分かるね」
「慣れですわ。船酔いしてしまいますが、船については多少詳しいですわ」
「船酔いは体質だから仕方ないと思うよ」
「体質ですの?」
耳の奥にある、三半規管と耳石器で方向と速度を探知しているのだが、目や体から異なる情報が送られることで脳が混乱してしまう。船などの乗り物は揺れが複雑なので、酔いやすいと説明する。
「エマから色々と教わったので、完全にでは無いですが分かりましたわ」
「だから揺れが少ない場所で、体感と同じように動く外を眺めていると楽になるんだけど、船だと外にずっと居るわけにもいかないからな」
「そうですわね。ですが船長をした時に酔った理由が分かりましたわ」
一緒に聞いていたエマ師匠が面白いと、俺に詳しい話を聞いてくる。エマ師匠が魔法での治し方を考え始めた。俺も治し方は知らないのだが、脳が混乱するのだから脳を安定させるか、脳や感覚を鈍らせれば良いはずだとエマ師匠に伝える。
「面白いですね。誰か船酔いしたら魔法を使ってみたいです」
「船酔いの薬作ってきましたけど?」
「無理に船酔いになる必要はありませんね」
「ですよね」
船旅はやる事がないので、エマ師匠は酔い止めの魔法を作る事にしたようだ。船酔いの患者が出るかは分からないが、患者が出たらエマ師匠が魔法の実験をする事になるだろう。
それとベスに船酔いを治めるには最悪飛べばいいと助言する。長時間飛ぶと船の速度と合わなくなるので、飛んでいる速度の調整が難しいのが難点だとも説明した。
「難しそうですが、それは良いですわ。ですが飛び続けられるのなら、移動に船は要りませんわ」
「そうだね。酔った時とか酔いそうな嵐の時に使えるかな。だけど、船内だと頭とか体をぶつけそうだけど」
「そうなると、使える時が限定的ですわ」
最初の船の動きはわからなかったが、船の速度が上がったようで揺れが変わったのが分かった。甲板も多少落ち着いただろうと、ベスが甲板に出ることを誘ってきたので、俺たちは甲板に出る。
「今は丁度良い風が吹いているようですわ」
「そうなんだ」
「ええ。魔法の出番はもう少し後になりそうですわ」
甲板でのんびりと景色を眺めていると、暇になってくる。これは何か暇潰しが必要そうだ。
「ベス、景色は綺麗だけど暇だね。川を登った時も暇だったけどもう少しやる事があったし」
「エドは動き続けていますから、何もしない時間は退屈そうですわね」
「そうかな? でもどうしようかな。エマ師匠みたいに何か魔法を作ろうかな」
「時間はありますから色々と試してみると良いですわ」
本を読んだら船酔いしそうだと持ってこなかったし、何か無いかな?
「ベス、船の速度が早いし釣りなんて無理だよね?」
「今回は急ぎですから、速度が落ちる場合は魔法で速度を上げますので無理ですわ」
魔道具を作ったりすると船酔いしそうだし、魔法でやりたい事と言えば、魔法格闘術と魔法を同時に使えるようにしたい。以前から練習はしていているのだが、上手く使いこなせていない。
「それなら二種類の魔法が使えるようにでも練習しようかな」
「二種類ですの?」
「魔法格闘術と魔法を同時に使えるようにしようって考えている」
「それは良いですわ。私も一緒に練習しますわ」
ドリーは魔法格闘術と魔法を同時に使うのもやりたいけれど、エマ師匠と酔い止めの魔法も作りたいと言うので、時間はあるのだからどちらもやれば良いと言っておく。
「僕も二種類の魔法が同時に使えるようにしたいですけど、その前に魔法格闘術を使いこなせるようにならないと」
「リオはもう魔法格闘術は使えるようになったよね?」
「はい。ですが使いこなせていない気がして」
「リオの年齢だとダンジョンで近距離で戦うのは効率が悪いだろうし、防御を上げるのが良さそうだ。後は、重いものを持ち上げる時に一時的に筋力を上げるような使い方なのかな。それなら二種類同時に使えそうだけど」
「なるほど。練習してみます」
近距離での戦闘訓練がしたいなら、俺が相手になるともリオに伝える。ベスも近距離での戦闘ならば教えられると、リオに伝えている。船旅は長いので時間がある時に練習に付き合って欲しいとリオに言われる。
時間もあるし、甲板の一部を借りて二種類の魔法を使う練習や、リオと戦闘訓練をする。結構な時間を使った後に皆に尋ねる。
「そういえば、そこまで揺れていないけど、船酔いはどうかな?」
「私は平気ですわ」
皆平気なようで、酔っている人は居ないようだ。船の船員で船酔いする人がいると思えないし、一緒に船に乗った随行の人たちも港町出身の人がほとんどだろうし、船酔いする人はあまり居なさそうだ。
ベスに食事にしようと誘われたので、移動する。少し不思議なのが、運び込まれた食料が思ったより少ない気がするのだが、釣りもできないようだし、どこかに補給できる港でもあるのだろうか?
「ベス、食料って運び込んだ物が少なかったけど足りるの?」
「少ない…? あ。分かりましたわ。食料は収納の魔道具に入っているので、少ない訳では無いですわ」
「なるほど。ダンジョンから直接持ち込んでいるのか」
「船舶用に依頼を出して解体などの指示をして買い取っていますわ。大規模な馬車での移動にも同じよう依頼を出しますわ」
ベスの説明に納得する。しかしそうなると新鮮な物が食べられるのだし、この世界で長期の船旅をしても壊血病は無さそうだ。ベスに壊血病について尋ねると、不思議そうにしている。エマ師匠が壊血病に心当たりがあったようで、話してくれる。
「かなり珍しいですが収納の魔道具に入った食べ物が無くなったり、魔法使いを排除している国では壊血病になるようです。ですが治し方も簡単で特定の薬草を生で食べるだけですね。確か船には薬草を収納の魔道具に入れた状態で積み込んでいるはずです」
「薬草を生で食べるんですかまずそうですね」
「まずいと思いますよ」
別に薬草でなくても果実でも良いはずなのだが、何故薬草を食べているのか。俺たちはあまり取った事がないが、ダンジョンにも果実は生っているので果実も収納の魔道具に入れられると思うのだが。実際砂漠でサボテンの身を魔道具に入れられたし。
「エマ師匠、果実を食べないのは何故ですか?」
「果実ですか?」
エマ師匠が壊血病の原理を知らないようなので、俺がビタミンCが足りなくなることで起きる欠乏症だと説明する。
「なるほど。薬草なのは食べて偶然治っただけかもしれませんね。病気に効きそうな薬草を食べたか、もしくは食べる物がなくて薬草まで食べた可能性があります」
「確かにそれはありそうです。収納の魔道具の中にあるものを順番に食べて行ったら偶然治っただけか」
ビタミンCは果実や野菜に多いと説明すると、ベスが納得した様子で、収納の魔道具には野菜や果実も入っていると言う。アルバトロスのダンジョンは一番近い階層が草原なので、野菜や果実も探せばあるので、収納の魔道具に入れて船に積み込まれているようだ。
「流石に野菜は量を集めるのが大変なので、腐りにくい野菜は生で積んでいますわ」
「収納の魔道具に肉は詰め込めるとしても、よくそんなに野菜を積めるな」
「この船は普通の船とは違って多めに食料を積んでいますが、どこの船でも食料は似たような積み方をしますわ」
何故そんなに積み込んで問題がないのか不思議に思って考えていると、食堂に着いたので座っていると水が出てくる。それで気づく、この世界は魔法使いが居れば水には困らないのだ。船に真水をほとんど積んでいないのだろう。それなら他の物を積み込んでも問題ないのだろう。
「料理も陸上と変わらない物が出るんだね」
「まだ出航したばかりですから、航海が長くなれば徐々に変わってきますわ」
「なるほど」
エマ師匠からビタミンCについて質問されたので答えながら俺たちは食事を食べていく。食事が終わると船内には驚いたことに風呂まであり、男女で交代して入っていく。
「船内に風呂まであるとは思わなかったよ」
「普通の船にはありませんわ。出航した初日ですからお風呂を用意できていますが、この船でも魔法使いに余裕がなければ用意されませんわ」
「そうなのか。なら魔法使いに余裕があると良いんだけどな」
「余裕はあると思いますわ。エド、ドリー、リオの魔力量が多すぎますから凪が何日も続かない限りは毎日入れますわ」
俺は人と比べても魔力が多い自覚はあったが、ベスの言い方だと凪が一日くらいなら風呂に入れるほど魔力量があるのか。この船に魔法使いが多く乗っていると言うのも、魔力に余裕がある事の一部ではありそうだ。
「エド、ビタミンCについてもう少し聞きたいのですが、ビタミンCだけ取り出すことはできるのですか?」
「錬金の要領でできるかもしれません」
「それなら薬として常備できそうですね」
「できますね。他にもビタミンは色々とあります」
水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンがあり、脂溶性ビタミンは過剰に摂取すると過剰症を発症する。水溶性ビタミンは多く摂取しても問題はないが、過剰に摂取すると腹痛になるとエマ師匠に説明する。
「少なくても問題ですし、多すぎても問題になるのですか」
「他の薬と同じですね。野菜や肉を食べているだけなら問題にはならないですが、ビタミンだけを錬金で抽出すると過剰に摂取してしまうことがありますから」
「薬と同じですか。錬金でビタミンを取り出す必要がありますが、販売するのは魔法薬の分野ではなく、薬の分野になるかもしれませんね」
「魔法薬ではないので、魔法で作り出す素材に近いかもしれません」
エマ師匠とビタミンの話をしていると寝ても良いような時間になった。今日は魔法を使って船を進める事なく終わりそうだ。
ベスに魔法を何故使わないのか尋ねると、船自体と帆の強度が足りなくなるので、潮の流れと風が十分にあるのなら魔法は使わないと教えてくれた。
ビタミンCの推奨量は100mgで過剰摂取は個人差ありますが1000mg以上らしい(2000mgとか取っても問題ない人も居る)。ちなみに、ビタミン剤でも飲まない限りは1000mgには到達しないです。
壊血病にはビタミンCが数十mgあれば予防になるようです。
追記
指摘頂いたのですが、魔法格闘術が魔法戦闘術に間違えていたようです。
造語なのでどっちにしても良い気がしますが、格闘術の方が意味的には合ってるので、格闘術で直しました(格闘術書いてたのは最初だけで、戦闘術の方が大幅に多かった)。
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