ダンジョンの確認
俺は魔力が増えすぎたことで魔法の使い勝手が変わったので、訓練して修正していると一週間以上経った。今日も訓練をしようと思って屋敷に着くと、ベスから声をかけられる
「お父様がお呼びですわ」
「レオン様が? 何かあったの?」
「近隣の都市に連絡をしに行っていた者が帰ってきたようですわ」
「そうか、もう帰って来たんだ」
遠い都市に関しては帰ってくるまで時間がかかるようだが、近隣の都市から人が帰ってきたことで、今後の判断ができるようになったようだ。
「お父様、参りましたわ」
「時間が惜しいので早速始めよう。帰ってきたのはまだ一人なので判断が難しいが、ダンジョンから魔獣が溢れてはいないと返事がきた」
「ダンジョンはどうするつもりですの?」
「もう一通ダンジョンから魔獣が溢れていないと返事が返ってきたところで、草原まではダンジョンを開放する作戦を立てている」
作戦が実行された場合は、俺たちにも作戦に参加して欲しいと要請され、俺たちは同意する。
アンの魔法が問題になるが、魔力を外に出すことは成功しているのだし、魔法格闘術を使えるようになっても、どちらも使える可能性が高いと考えられる。だが実際のところは分からないので、アンは危なくならない限りは戦闘に参加しないで見学する事にする。
「魔獣が溢れていなければ、草原にも魔獣は居ないと予想される。草原に魔獣がたどり着いているのならば、すでに外に出てきていてもおかしくはない。ゴブリン以降の魔獣と戦闘になる可能性は低いとは考えている」
レオン様が説明してくれた仮説は合っていそうだ。だがレオン様は楽観的すぎる可能性もあると、最悪の可能性も考えて行動するために俺たちに協力を願ったと説明してくれた。
「作戦を実行するのは、連絡に行った者が返ってきた次の日を予定している。ベス、すまないがダンジョンでの総指揮を頼みたい」
「ダンジョンの中に入るのですから、お父様もレーヴェも入れませんから、分かっておりますわ」
次の日であれば魔力が減っていても問題ないと、俺たちは今日も訓練をする事にした。
それから一日後に人が帰ってきたとベスから教わり、ダンジョンから魔獣は溢れていないと返事を貰ったようだ。なので、更に次の日が作戦の実行日になった。
「かなりの人数だね。騎士、魔法使い、それに冒険者か」
「一気に草原まで確保をして、それから草原に人を常駐させると聞いていますわ」
「常駐って人数がよく足りたね」
「ガーちゃんが住む森の魔道具が出来るのが遅ければ、人は足りなかったようですわ」
ジョーたちが頑張って作った魔道具のおかげで、なんとか回せるようで安心した。冒険者がどのような人たちかとベスに聞くと、冒険者はゴブリン以降の階層に行った事がある人で構成していると教えてくれた。
「だから冒険者はダンジョンなのに少なめなのか」
「戦力になると考えられる人を選別するのに丁度良いと考えたようですわ」
「確かに時間をかけて選別するよりは合理的かも」
今回の総指揮はレオン様に頼まれたベスが再び指揮を取る事になり、ベスが合図をすると俺たちは進み始める。ベスが総指揮を取る事になっているが、実際は作戦が決まっていることもあり、騎士たちが指示を出すことでダンジョンを一気に進んでいく。
「流石にこの人数だと魔獣や動物を袋叩きにするから早いな。強い魔獣がでた時が心配だけど今のところは問題なさそうだ」
「私としては強い魔獣がでなければ仕事はないので楽なのですが、気は抜けませんわ」
「ベスが指示を出さないで済むといいんだけどね」
「そう願っておりますわ」
皆、緊張しながら進んで行くと、草原の終わりまで辿り着けた。レオン様の仮説通り魔獣は溢れていない。草原の終わりまで強い魔獣は居なかった。
「緊張しましたわ。ですが溢れた魔獣が居なくて良かったですわ」
「それで、これからさっき言ったように人を立てて警戒するの?」
「ええ。事前に誰を置くかは決めてあるので、他は撤収しますわ」
来た時と違って帰りは警戒はしているが、イフリートと戦う可能性が無くなったので緊張感が全然違う。リスポーンした魔獣を袋叩きにしながら進むとダンジョンから外に出る。
「今気づいたけどダンジョンのリスポーン速度って結構違う?」
「ねずみ返しの前、アルバトロスでは草原まで、かなり早くしているようですわ」
「やっぱりそうなんだ」
「管理者が変更したと伝えられていますわ」
サソリとコカトリスのリスポーン速度も変えてくれたら良いのにと思うが、どの程度の範囲まで変更できるか分からない。砂漠までリスポーン速度が上がったらワームを倒し続けると無理なので、砂漠を越えるのが不可能になってしまう。
「お父様に報告するために戻りますわ」
俺たちはベスと共に屋敷へと戻る。ベスからのレオン様に報告が終わるとレオン様は安堵した表情になった。
「溢れた魔獣がいる可能性が低いとは思っていたが、いなかったと聞くと安堵するな」
「あの人数がいるのならばイフリートでも倒せたとは思いますわ。ですが被害が出ないとは思えませんでしたわ」
「そう言った意味でも良かった」
ベスとレオン様がダンジョンの今後の予定を話した後に、俺たちの話になる。
「ベスには予定通りにツヴィ王国に向かってもらいたい」
「分かりましたわ。王都まで向かった方が良いんですの?」
「迷っていたが止めよう。メイオラニア辺境伯に伝えれば良い」
メイオラニア辺境伯はツヴィ王国で港を持つ辺境伯で、アルバトロスから船を出すとツヴィ王国で一番早く着くのがメイオラニア辺境伯の港で、メガロケロス辺境伯とメイオラニア辺境伯は昔から交易が盛んで仲が良いのだと以前に教わった。
「船長はレーヴェに任せる。ベスは休んでいると良い」
「助かりますわ」
俺はベスが助かると言った意味が分からずベスに尋ねてみる。
「ベス、助かるってどう言うこと?」
「私、船にだけは弱いのですわ」
「船酔いするって事? 以前に川で船に乗った時は平気そうだったけど?」
「あの程度なら平気ですわ。それに酔うと言ってもそこまで酷くはありませんわ。ですが船長していると酔いが酷くなるのもあって、無理ですわ」
確かにアルバトロスからターブ村に行く時もベスは船長ではなかったな。ベスが船長をしていると酔いが酷くなると言うのは、忙しく動いたり、海図を見て考え事をしたりして視線が下にでも行くのかもしれない。
「それなら船酔い用の薬を用意しておくよ」
「それは助かりますわ」
俺やドリーは外洋に出る船に乗るのが初めてなので、船酔いするかもしれないし量は多めに作っておこう。
「それとエマに付き添いをお願いした。新しく作り出した魔法をツヴィ王国に伝えるついでだがな」
「エドの理論を元に作り出した魔法ですか。ですが、ツヴィ王国の魔法使いも同じように治療の魔法を使えるんですの?」
「基本的に同じ魔法が使えるが、魔力の使い方が違うのもあって、リング王国の魔法使いと同じような効果になるかの確認も兼ねている」
俺がフレッドにツヴィ王国の魔法使いの治療について尋ねると、ツヴィ王国の魔法使いは怪我が多いので治癒の魔法は得意だが、病気の治療となると分野が違うので意外とできる人は少ないと言う。
「拙者も肉体的な傷なら治せますが、病気は苦手ですな」
「というか、人の病気や傷をどうやって治すの?」
「人に対して魔力を押し込みますな。武器や防具に魔力を使うのと同じですな。なので触れていないと魔法が使えませんな」
フレッドの説明に納得する。俺やドリーが魔法格闘術を使えるので試すことはできるが、純粋なツヴィ王国の魔法使いでは無いので、実際に現地で試してみるのが重要になりそうだ。
「エド、出発は二日後、もしくは数日以内としている。天候次第なので出航日の日程は変わるかもしれない」
「分かりました」
話し合いが終わり、俺は協会に戻る。
船旅になる事は聞いていたので、前から荷造りはしていた。新しく船酔いの薬を人数分より多めにドリーと一緒に作っておく。人数はエマ師匠を入れて五人分だ。フレッドはツヴィ王国に行くことができないし、アンは残ってエレンさんに教わって魔法使いとして勉強を続ける予定だ。
一緒に行くことを聞いたと伝えるために、俺はエマ師匠の部屋を訪ねる
「エマ師匠」
「エド、先ほどは会えませんでしたね」
「もしかしてエマ師匠もダンジョンに来ていたんですか?」
「私は外で待機していましたよ」
ダンジョンの外で治療するために協会の魔法使いが集まっていたのだが、エマ師匠もその中に居たようだ。
俺はエマ師匠にツヴィ王国に行く事を聞いたと伝えると、エマ師匠も行く事になるとは思っていなかったようだ。
「私がツヴィ王国に行く事になるとは思ってもいませんでした」
「俺もです。王都ではなく、メイオラニア辺境伯に会いに行くだけのようですけど、初めてリング王国から出るので楽しみです」
「そうですね…」
エマ師匠はあまり嬉しそうではなく不思議に思っていると、エマ師匠が話しかけてきた。
「エド、迷惑をかけるといけないので先に話しますが、私の失恋相手は現在のメイオラニア辺境伯なのです」
「え?」
「辺境伯になる前に出会ったのですが、国に戻って親を説得してくると言ったきり会っていません。それに結婚したと聞いています」
エマ師匠の失恋相手が想像以上に高位の貴族だったことに驚くし、エマ師匠がツヴィ王国に行って問題がないのだろうか?
「エマ師匠、それってツヴィ王国に行って問題ないんですか?」
「協会から派遣されたという形になっているので、問題はないと思います」
「それってレオン様かトリス様に相談はしたんですか?」
「いえ、辺境伯と顔を合わせるのも一度か二度でしょうから」
俺がベス経由でトリス様に相談しても良いかとエマ師匠に尋ねると、エマ師匠は同意してくれた。
まだ日暮れ前だと俺は慌ててベスの元に行く。ベスに事情を説明すると、ベスも慌ててトリス様に連絡を取った。トリス様からすぐに部屋に来るようにと言われて俺たちは部屋を移動する。
「エド、今伝え聞いたエマの話は本当ですか?」
「エマ師匠が嘘を言うとは思えないので、本当なんだと思います」
「そうですか。ですがメイオラニア辺境伯が再婚しない理由がなんとなくですが分かりました」
「え? 再婚?」
「メイオラニア辺境伯の結婚した相手はすでに亡くなっています。結婚して割とすぐに亡くなっているので、子供も居なくメイオラニア辺境伯は養子を取っています」
トリス様は予想だがと言ってから、事情を話してくれた。メイオラニア辺境伯の母親に当たる人が問題があると有名で、何かしらの理由でエマ師匠との結婚を反対した可能性が高いようだ。
「予想ですがおおよそ外れてはいないでしょう。私も現メイオラニア辺境伯には何回か会っていますが、遊び歩くような性格とは真逆の性格をしていましたから」
「トリス様もメイオラニア辺境伯に会っているんですか」
「私が嫁いできた少し後に、メイオラニア辺境伯は遊学のため、アルバトロスに来ていましたから。ツヴィ王国の魔法使いにしては珍しく学者のような人ですよ」
ツヴィ王国の魔法使いで出会った人は数が少ないが、ルーシー様でさえ鍛えていたので、学者と言われると確かに珍しい気がする。
「ところでエマ師匠とメイオラニア辺境伯が結婚ってできるんですか?」
「エマは魔法使いですし、できますよ。結婚する場合はエマがメガロケロス辺境伯の養子になっていたでしょう。結婚する場合の抜け道の一つですね。メガロケロス辺境伯としても損はないですから」
「なるほど」
俺が納得していると、トリス様はドリーの教育をしているアビゲイルさんを呼んだ。
「アビゲイル、急で申し訳ないのだけど、エドたちと一緒に行ってくれるかしら?」
「承りました」
「ステュアートも一緒に行ければ安心なのだけど、年齢的に船旅は厳しそうです。変わりに随行予定の者たちに話しておきましょう」
船旅にアビゲイルさんが同行してくれる事になったようだ。ベスとリオがいるとはいえ、俺たちで対処できるか不安だったので心強い。俺も対処するために、問題のあるメイオラニア辺境伯の母親という人の話を聞いておきたいと、トリス様に尋ねると驚きの返事が返ってくる。
「昨年に亡くなっていますよ。これも予想ですが、メイオラニア辺境伯は母親が亡くなるまで、領地を離れられなかったのかもしれません。家臣が止めるとは思いますが、領地を離れると何をされるか分かりませんからね」
何をされるか分からないってそんなに凄い人だったのか…
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