過去の記憶
ベスの耳が変わったことが衝撃的で、魔力を回復させるために交代で寝るのを忘れてしまった。慌てて交代で寝る順番を決める。
「寝るのは短時間で、魔力を全部回復するのではなく戦える状態に持っていこう」
「分かりましたわ」
俺、ドリー、リオがまず寝る事にする。エマ師匠が以前していたように、魔法薬で体力を回復させつつ寝る事にする。反動が怖いが、生きて帰るのに今は少しでも魔力を回復させたい。
俺は眠りにつくと、以前にショッツと会話をした続きを夢で見る事になった。
『それもそうだ。頼み事はダンジョンの奥に辿り着くことさ』
『ダンジョンなんてあるのか?』
『冒険にダンジョンは、お約束だろ?』
『そうかもしれないが、何でダンジョンをクリアさせたいんだ?』
『ダンジョンの管理をして欲しいんだ』
『ダンジョンの管理? 俺が?』
『その言い方は嫌がっているね? 安心して欲しい、君じゃなくても良いんだ。君は双子として生まれるから、双子と一緒にダンジョンをクリアすれば、双子の兄弟がダンジョンを管理してくれるさ』
『一緒にダンジョンをクリアしろって事か、でも足手纏いじゃ邪魔になる』
『双子も優秀にしておくから安心してくれ。それにダンジョンの奥とは言ったけど、まだ続いているからさ』
『ダンジョンのクリア後にさらに奥があるのか、それは良いな。頼みを引き受けるよ』
『助かるよ。ある程度地位のある人物の子供に転生させるから、さらに仲間を増やしやすいようにしておく。ダンジョンもクリアしてくれると嬉しいが、まずは転生後の新しい人生を楽しんでくれ。それではダンジョンの奥で君を待っているよ』
『わかった』
『うん。それじゃ、転生させるよ。まずは転生先の人を選んで…転送させるのがこうで…』
『なんだか慣れてなさそうだが大丈夫か?』
『実は初めてなんだよね。前任からやり方は聞いているから安心して。ここが…こうで…こうか。よし、転送と。ん? え? 嘘だろ! 失敗した! キャンセル! 止まったけど戻ってはこない、そうなると転送させないと不味い! キャンセルのキャンセルして転送実行!』
『しっぱ…い…って………』
俺は飛び起きる。今見た夢は夢ではなく、過去の記憶だ。
「エド、どうしましたの?」
「実は…」
俺は今見た過去の記憶をベスに伝える。
「エドが普通の転生者ではない理由が分かりましたわ。双子でないのも転生を失敗していたからかもしれませんわ」
「そうかも」
でも何を失敗したんだろか? 俺の親は普通の農民だったから、地位のある人物の子供にするのを失敗したのか? でも地位のある人物の子供に転生を失敗させたとしても、あんなに慌てるんだろか? 俺は疑問をベスに伝えた。
「エド、実はお母様から聞いていることがあるのですが、話す前にドリーは寝ているか確認して欲しいですわ」
「うん?」
ベスに言われるまま俺はドリーが寝ているか確認する。ドリーは熟睡しているようで起きる様子はない。
「ドリーはよく寝ているよ」
「では、お話ししますわ。エドの実の父は村長ですわ」
「え?」
ベスは続けてトリス様に聞いたという話をしてくれた。俺たちがターブ村に行っていた間に、アルバトロスで何が起きていたかを説明してくれた。
「そんなことが。トリス様たちに迷惑をずいぶんかけたみたいだ」
「お母様は気にしませんわ。エドにまで秘密にして申し訳なかったですわ」
「気にしないで。でも色んな意味でわかったよ」
ベスやトリス様がドリーに話を聞かせないようにしたことも正解だと思う。
村長が本当の親だったことに思うことが無いわけではないが、俺としては村を追い出された理由がはっきりした。田舎の小さな村でそんな事をすれば白い目で見られるのは確実で、知られれば村長では居られなくなる。なのに俺とドリーを残せと村の薬師と猟師が言うのだ、無理矢理にでも追い出そうとするだろう。
オジジもケネスおじさんも知っている様子は無かったし、知っているのは村長と俺の両親だと思っていた二人だけだったのかもしれない。父親が隠していたのが不思議だ。
兄と俺が本当の意味で兄弟でないことを、もしかしたら兄は知っていたかもしれない。だとしたら兄が俺やドリーに対して当たりが強かったのも理解できる。
そして何よりショッツとの会話で失敗したと言った理由が理解できた。どのように転生させるかは分からないが、人物を選んだ上で操作をしていたから村長は確認したが、母親まで確認していなかったのだろう。
「エド、大丈夫ですの?」
「ん? ああ、色々と考え込んでいた。小さな村でよく知られずにそんな事ができたなって」
「隠し切るのは、ある意味有能ですわ。ですが他の部分に才能を発揮して欲しかったですわ」
ベスは更に詳しい話を聞きたいなら帰ってからにしようと言う。俺は必要があれば聞くとベスに答えた。
俺は交代で魔力を回復させるのにベスとフレッドが寝るように進める。
「変に目が覚めたから二人が寝て、俺は少しだけ魔力が回復したから」
「分かりましたわ」
「エド殿、承知致した」
アンと一緒に俺は周囲を警戒していると、アンが話しかけてくる。
「エド、さっきの話を聞いてしまって申し訳ないです」
「良いよ。聞いたところで愉快な話では無かったけど、アンも無関係だった訳じゃ無いし聞く権利はあるよ」
「エドは過酷な人生を送っていますね」
「アンも過酷な人生を送ってる気がするけどね」
子供の頃から犯罪組織で生きていて、抜け出せたとはいえ大変だっただろう。アンはバーバラさんに拾われたから今は幸せだと言う。
「話を聞いていて思ったのですが、双子の兄弟は本来ドリーだったのでは無いですか?」
「え? あー…」
確かにドリーはとても優秀で、両親のどちらも使えなかった魔法まで使える。以前にトリス様が魔法はダンジョンの管理に必要だと言っていたし、ドリーは全ての条件に当てはまっている。
「そう言われると確かにそうかもしれないけど、ドリーとの年齢差が離れすぎじゃ?」
「それに関しては不思議ですが、それも失敗と関係があるのでは?」
「途中で転生を止めていたから年齢がズレたかもしれないのか」
アンと話していくと、ドリーと俺が本来は双子であった可能性が高い気がしてきた。
「私が話し始めた事ですが、エドとドリーが今は歳の離れた兄弟であることが事実ですから、気にする必要はないと思います」
「それもそうだね。でもドリーが本来双子だったのなら、ドリーの薬師としてや魔法使いとして優秀なのが説明できるな」
「同じ薬師としては、ドリーは優秀という言葉で済ませないくらいには優秀ですからね。天才といって差し支えないでしょう」
アンの意見に同意する。薬師として以外ででもイフリートと戦った時に、窒素を凍らせるという会話だけで理解して魔法を使っていた。
アンと雑談をしていると、ドリーとリオが起きてきた。
「にーちゃ」
「まだ寝てて良いぞ。朝までここに居ることになると思うし」
「うん。喉乾いたの」
「それもあったな。水筒の水を少しずつ飲んでいるけど、ドリーの魔力はどの程度回復した?」
「少し回復したの。魔力を全部使わなくても水なら作れると思うの」
「わかった」
俺たちは水筒の水を飲んだ後に、ドリーとリオが水筒に魔法で水を入れておく。ドリーとリオが少し起きていたいというので、俺が再び眠りにつく。
何か騒がしいと思って起きると、皆が戦っている。
「どうした!」
「サソリがリスポーンしましたわ。倒したので問題ありませんわ」
「そうか。これだけ長時間居ればリスポーンするのか」
「急に現れたので驚きましたわ」
幸いなことに毒は使われる前に倒しきったようだ。
「ワームが目の前でリスポーンしなくて良かったですわ」
「それは怖いな」
サソリでなくワームがリスポーンしていたら大変なことになっていただろう。俺たちはリスポーンを警戒しながら交代で寝て、魔力を回復させていく。
朝になると皆起き始めて、お互いの魔力量や調子を確認する。
「魔力が半分以上回復しましたわ」
「これだけ魔力があれば帰れそうだけど、出口が分かるかだな」
「それですが、イフリートが進んできた道の奥に出口はあると思いますわ」
イフリートはダンジョンの奥にいる魔獣なので、砂漠まで上がってくるのにダンジョンを順番に上がってきているはずだと、ベスは言う。
「それなら凄い音がしたのが出口付近なのかな?」
「かもしれませんわ」
フレッドは杖どころか装備が全て無くなってしまった。なのでアンをドリーが、フレッドをリオが乗せて飛んで、途中で俺とベスに交代する事にして空を飛び始める。
「イフリートが歩いた場所は分かりやすいな」
「砂漠ですから、砂が舞って痕跡が消えるかと思っていましたわ」
「進んだ道が分かりやすいのは助かるよ。直線で移動して休憩できる岩棚を見つけよう」
「分かりましたわ」
予定通りに途中で交代しつつ砂漠を移動していくと、出口らしき洞窟を見つける。
「これが出口だろうけど、少し壊れてるね」
「音からすると、もっと壊れていると思いましたわ」
「確かにそうかも」
俺たちは洞窟を通って広い空間に出ると、本来天井にある光る鍾乳石のようなものが散乱している。湖を見ると、湖の水かさが明らかに少なく、イフリートが水の中に入ったのかもしれない。イフリートの高温で水の中に入れば水蒸気爆発を起こしそうだし、鍾乳石が散らばっているのは爆発によって破壊されたのかもしれない。
「酷いな」
「ええ。音の原因はこちらですわね。でも何が起きたのでしょうか?」
俺はベスや皆に水蒸気爆発について説明すると、皆は納得したようだ。
「エドの予想が当たっているなら、イフリートはもしかしてあれで弱っていた可能性があるんですの?」
「これだけ水が減っているんだから可能性はあるかも」
「化け物ですわ」
皆ベスに同意する。あれで弱っていたのなら、本来の強さを考えたくもないほどの強さと言う事になる。ダンジョンを踏破できるか心配になる強さだ。
「エド殿」
「フレッドどうした?」
「あれを」
フレッドが指差した先にあるのは湖中央にある島で、普通なら次の階層に行く祠のような岩の中に階段があるのだが、岩が完全に破壊されてしまっている。
「え?」
「これはすぐに帰れそうにありませんな」
「すぐっていうか、戻るしかないんじゃ?」
「ダンジョンの構造物は魔獣と同じようにリスポーンというか修復されますな」
「え? それじゃイフリートに壊された岩棚とかも元に戻るの?」
「戻りますな」
魔獣、薬草、鉱石だけリスポーンするのかと思っていたが、ダンジョンの構造物も修復されるのか…
「水が増えないと渡れませんし、修復されるまで休憩ですわ」
「休憩ってベス、そんなにすぐに修復されるの?」
「私もここまで破壊された状態だと分かりませんわ。ですが、魔獣とそう変わらないと思いますわ」
「それは随分と早いね…」
ここにはワームは入り込んでこないだろうと、俺たちは横になったり座り込み、休むことで魔力を回復させていく。洞窟内は砂漠と違って涼しく、ドリーとリオは寝てしまったようだ。
俺はリスポーンされたところも見れなかったので、ダンジョンが修復されるところが見たいと、半分眠ったような状態で湖を眺めている。
「エドは寝ませんの?」
「ダンジョンが修復されるのを見てみたくて、それに寝たら起きれなくなりそうで」
「確かに誰か起こす人が必要ですわ」
ベスが俺の隣に座って来たので、二人で湖を眺めていると、違和感を感じたと思ったら、湖の水が元あったであろう水量に変わって、湖の中心にある島も他の階層と同じようになっている。
「直った?」
「違和感を感じたと思ったら、気づいたら直っていましたわ」
「リスポーンもこういう感じなの?」
「もう少し違和感を感じる時間が長かったですわ」
「管理者が余裕を持たせてるのかな?」
「かもしれませんわ」
俺とベスで皆を起こして、湖を渡って島に降り立つ。
「前回と同じように階段がある岩の裏側に水晶があるのかな?」
「確認してみますわ」
岩の裏側を確認すると、水晶がついており触ると上りの階段が現れる。皆で触って階段を登り切る。階段を登り切ると、以前は一個だった水晶が二個に増えている。
「水晶の数が増えている。順番に増えていくのかな?」
「そうだと思いますわ」
「水晶の確認は今度にして、今はダンジョンを出よう」
皆が同意したので、俺たちは急ぎダンジョンを出る事にする。湖を渡って、草原に出ると緊張が解けていくのを感じ、ダンジョンを出る前に集中が途切れてしまうのはまずいと、集中しようとする。この状態で戦いたくはないと、戦いを避けてなんとかダンジョンの外に辿り着く。
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