イフリート
イフリートの攻撃を避けながら魔法が当たる距離まで近づくことができた。だが同時にイフリートの腕が届く範囲にもなってしまったようで、炎の光線以外の近距離攻撃もしてくるようになった。
俺たちへの攻撃に巻き込まれたワームや、焼けて死んだワームの死体がイフリートの周りに積み上がっている。
「剣だとやりにくいですわ。槍を持ってくるべきでしたわ」
「ベス、この巨体だと槍でも変わらない気がするよ」
「それはそうですわね」
剣で斬りつけようにもイフリートの体は燃えているので、これ以上近づけば火傷を負いそうだ。武器や防具が温度を調整していてくれるので、何とか今の距離でも耐えられるが、温度に対して対策していなければすでに火傷を負うか、熱で熱中症になって倒れ込んでいただろう。
「エド殿、これはきついですな。拙者も攻撃する手段がないですな」
「魔法を使うか弓を使うかか」
「そもそも炎の魔獣で矢が効くのですかな?」
「分からない」
アンが試してみると、魔道具の矢を使って弓を射ってみると、イフリートに刺さった。イフリートは怒ったのかアンを狙って攻撃してきた。フレッドがアンの前に出て攻撃を受け止めた。
「何回も受け止めるのはきつそうですな」
「フレッド、すみません」
「アン殿、これが拙者の戦い方ですから気にする事はないですな」
フレッドがイフリートの攻撃を受け止められるだけ凄いけど、フレッドでもきついとなると、俺やベスが攻撃を受けたら大変な事になりそうだ。
「イフリートの注意を逸らすのに俺とベスの距離を離れて攻撃してみよう。フレッドはアンと一緒に居て」
「分かりましたわ」
「了解致した」
俺とベスでイフリートに対して攻撃してみると、俺を狙ってイフリートは攻撃をして来たので、慌てて逃げる。イフリートを確認しながら逃げていると、ドリーとリオが上空から魔法で攻撃をしてくれたようで、俺に対するイフリートの攻撃が中断されてドリーとリオを狙った攻撃になる。
アンがイフリートを狙って弓を射ったので、俺も慌てて魔法を使って攻撃する。
「怒ってはいるようだけど、致命傷になるほど効いているように見えないな」
四方から攻撃して、誰かに攻撃を集中させないようにしているが、イフリートを倒せそうにない。イフリートをどう倒すべきか悩んでいると、イフリートが吠えたと思ったら飛び上がった。
「まずい!」
上空に居るドリーとリオが心配だが、イフリートの落下地点に自分が居ないかを確認して、砂が目に入らないように顔を伏せ体を小さくする。砂漠の砂が体に当たるのを感じながら、イフリートに攻撃されない事を祈りつつ、魔法格闘術で体を強化する。
砂が当たるのが止んだ事を確認して顔を上げると、イフリートはフレッドに攻撃をしていた。慌てて俺はイフリートに攻撃をしながらフレッドに近づいていく。
「フレッド!」
「エド殿、拙者はまだ平気ですが盾が持ちそうにないですな」
俺はアンを抱えてフレッドが攻撃を受けなくて済むように移動し始める。アンが離れたことで、フレッドは盾で受けることが減ったが、イフリートのフレッドへの攻撃は止まらない。
「エド」
「ベスも無事だったか良かった。フレッドへの攻撃を散らしたいけど、またイフリートが飛んだら対処ができない」
「エド、大規模魔法で勝負を付けますわ。イフリートを倒しきれなかった時が危険ですがやるしかありませんわ」
「分かった」
上空に居るドリーとリオも無事だったようで、呼び寄せて四人で大規模魔法を使うことを提案すると、リオが三人分の魔力でするべきだと提案してくる。
「それならばドリーだけは魔力を残して逃げれるようにすべきです。誰かがアルバトロスまで伝えに戻らなければなりません」
「リオはそれで良いのか?」
「戻るならドリーです。僕は王族として残らなければいけません。ドリーお願いできませんか?」
「リオ、にーちゃ…ドリーは残りたいけど、誰かが戻って伝えないとダメなのも分かるの。ドリーが伝えに戻るの、でも絶対に戻ってくるの」
戻ったら、ドリーだけが生き残ることに気づいているのだろう。それでもドリーが同意してくれたので、俺たちは誰が魔法を使うか話す。
「誰が魔法を使う?」
「魔力量を考えるとリオですが、エドが良いと思いますわ。転生者の知識で炎に強い何かを作り出せませんの?」
「炎に強いって、そもそもイフリートは普通の火なのかな?」
「矢が当たるのですから、物理的な攻撃も意味があるようです。なので水などより氷のような物の方が溶けても効果がありそうですわ」
ベスに言われて何が良いかと考える。水ではイフリートの炎は消えそうにないし、消火剤に使われるような物を思い出していく。魔法の法則として魔法が消えても元々あった物は残留するので、二酸化炭素か窒素が良さそうだが、問題は俺たちが呼吸した場合、どちらの気体も大量に発生させると非常に危険なことだ。
「ドリー、窒素を凍らせる。俺たちが呼吸できるように守ってほしい」
「うん!」
二酸化炭素の方が固体になる温度は高いので簡単そうだが、窒素の方が空気中に量があるので窒素を固体にする事にする。ベスとリオから魔力を貰って魔法を作ろうとしていると、イフリートがフレッドからこちらに目標を変えたのが見える。
「エド! まだかかりますの?」
「もう少し」
イフリートが息を吸い込むのが見える、まずいと思いながらも魔法の準備が出来上がらない。フレッドが俺の前に立って盾を構えると、イフリートが火を吹くのは同時だった。火でイフリートが見えないと思っていると、アンが弓を射ると火が俺たちからそれた。アンが続けて弓を射ち続けるとイフリートの目に当たった。
イフリートはのけぞるように頭を上げ、胸元が良く見える。俺はその胸元目掛けて固体の窒素を打ち込む。
「当たりましたわ!」
固体の窒素はイフリートに刺さり、イフリートの体が高温だったからか固体の窒素が爆発した。白い煙のようになりながら窒素が広がり、イフリートの顔が煙の中に隠れる。イフリートが呼吸をしたのか窒素の煙が薄くなった。するとイフリートが倒れた。
「倒れましたわ」
倒れ込んだイフリートをみると、胸元が大きく削れている。砕け散った窒素の上にイフリートが倒れたのか、イフリートの体の上に窒素が被さったようで、徐々にイフリートの炎が消えていく。
「やりましたわ」
俺たちが安堵した瞬間、アンが叫ぶ。
「フレッド!」
慌てて俺はフレッドを確認すると、フレッドは盾を構えていた体の前方がひどい火傷で大変な状態だ。
「ドリー!」
「うん!」
ドリーが全力で魔法を使うと、フレッドの火傷が良くなるかと思ったが、そうはならず焦っていると、フレッドの皮が捲れる。
「フレッド!」
皆慌てるが、皮が捲れた下には普通の皮膚があり俺は戸惑う。フレッドは脱皮するかのように皮を脱ぎ捨てて起き上がる。
「魔法格闘術で体内を守ったからか、上手くいきましたな。魔法で治療はしていたのですが、治りが遅くて流石に焦りましたがな。ドリー殿の魔法がなければ治療は間に合わなかった気がしますな」
「フレッド、魔法格闘術どうこうで、できる事じゃないと思うよ」
「拙者はできましたぞ?」
フレッドは魔法格闘術が使えれば、同じ事はできるとでも言うように言ったが、皮膚の下に治療済みの皮膚を用意はできない。そういえばガーちゃんも脱皮をするし、ドラゴン族だから脱皮ができるのか?
「フレッドは脱皮ができたりするの?」
「拙者も脱皮は流石にしたことがないですな。そもそも脱皮しなくても大きくなっていますぞ?」
「でも見た感じは脱皮だったけど」
「それは後で考えてほしいですな。エド殿悪いのですが服を貸してほしいですな」
フレッドを確認すると、焼け焦げていたので、服も無くなってしまっていた。俺は着ていた着丈の長い上着をフレッドに渡して着てもらう。流石に服の予備までは持って来てないので、フレッドは上着だけになってしまうが、裸よりは良いだろう。
「エド、フレッド、話は後にしてイフリートを回収した方がいいですわ」
「分かった」
俺は窒素が溜まっていると怖いので、風を起こして窒素を吹き飛ばしたいが魔力がない。
「ドリーは魔力を全部使った?」
「うん。フレッドの治療に全部使ったの」
「そうなると、窒素を吹き飛ばす魔力がないな。窒素が拡散されるのを待つしかないかな?」
回収しないで立ち去ることも考えたが、イフリートが周辺のワームは退治してしまったようだし、リスポーンまで時間があるだろうと、少し待ってから回収する事にした。回収した後の行動が問題で、魔力が皆無くなってしまって、危険な状態だ。
「進むのは絶対に無理だから、さっきまで居た岩棚に戻るしかないかな」
「岩棚が残っていると良いのですが」
「そうだね。イフリートの攻撃を受けたから消し飛んでないかが不安だ。無かったらイフリートが通った道を進むしかないな」
「それだけはやりたくないですわ」
やはり皆がイフリートが通った道は歩きたくないようで、岩棚が残っている事を祈るしかない。
窒素は固体や液体でなければ酸素よりは軽いので、砂漠が高温なのもあって、イフリートまで近づけるとは思うのだが、怖いので息を止めて進んで回収してしまう。
「回収できたし、岩棚まで行ってみよう」
岩棚があった方向は、イフリートが歩いてきた後の直線上にあるので、空を飛べなくてもイフリートが歩いた後ははっきりと分かるため、歩いた後から直線上に歩いていく。
「岩棚が残ってたみたいだ」
「少し削れていますが、休むには十分ですわ」
俺たちは岩棚に登って、昨日休んだように岩棚の中心で休む事にする。昨日と違って岩が抉れたために、日陰になっている。フレッドに上着を貸したので暑かったのが随分と楽になる。
「日陰で暑さが少しは楽になったよ」
「拙者に服を貸したからですな。すみませぬ」
「気にしないで、服が無かったら砂漠では大変な事になるし。フレッドが居なかったら俺は助かってなかったし」
フレッドが炎を受け止めていなかったら、俺だけじゃなくて皆死んでいた可能性がある。フレッドは皆のために全身の火傷を負いながらも守ってくれたのだ。だから服を貸すくらいなんともない。
「確かに日陰ですから、砂だらけなのを払いたいですわ」
「イフリートが飛び上がったから盛大に砂を浴びたもんね」
「ええ。また砂まみれですわ」
そう言いながらベスが上着のフードを取ると、俺はベスの耳を見て驚愕する。
「べ、ベス」
「なんですの?」
「耳が…」
「耳ですの?」
ベスは不安そうに自身の耳がある部分に手を当てると、耳がある部分に耳がなく不思議そうにしているので、俺は頭の上を指さす。ベスは手を頭の上に持っていくと、人の耳ではなく獣人としてのおそらくライオンの耳が生えている。
「耳ですわ」
「うん」
「触った感覚があるので、私の耳ですわ」
「うん」
ベスも混乱しているようで、頭の上にある耳を触り続けている。
「エド、どう言う事ですの?」
「俺にもさっぱり」
俺とベスが混乱していると、リオが声をかけてくる。
「あの、獣人化が進んだのでは? ダンジョンの奥に進むと魔力が増えますが、それ以外にも獣人化が進みます」
「あ! 忘れていましたわ」
「僕もここまではっきり獣人化が進んだ人を初めて見たので、絶対にそうだとは言えませんが」
「帰ってからお父様とお母様にも聞いてみますわ」
ベスは自分の耳が上に付いたのが衝撃的だったのか触り続けている。
「上に耳があるのは邪魔ですわね。お婆様、お父様、レーヴェはよく平気ですわ」
「元々上にあるから違和感がないだけじゃ?」
「そうかもしれませんわ」
ベスが耳を弄っていると、ライオンの耳が消えて、普通の耳が出てくる。
「「「「「「え?」」」」」」
俺は目の前で起きた光景に目を疑う。
「耳が耳に?」
ベスも混乱してよく分からない事を言っている。
「ベス、耳は平気なの?」
「問題ありませんわ。聞こえていますし、今まで通りの耳ですわ。邪魔なので元の耳が良いなっと考えていたら戻りましたわ」
「ライオンの耳が良いって思ったらライオンの耳になるの?」
「試してみますわ」
ベスがライオンの耳と唱えていると、耳が変わった。
「変わった」
「便利ですわ」
そういう問題なのだろうか? リオに獣人はこういうことが出来るか聞いてみても、聞いたことがないというので、ベスだけ特別に出来ることなのだろうか?
ベスは耳の違いを調べると、ライオンの耳の方が性能が良いようで、最終的にはライオンの耳を気に入ったようだ。
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