一ヶ月ぶりのダンジョン
協会の料理人と辺境伯の屋敷の料理人にも豚で作るラーメンの作り方や、違う種類を考えて貰うようにお願いすると、試作してみると言ってくれ、協力してくれる事になった。ラーメンに関してはすぐには完成しないので、次の日はダンジョンに向かう事にする。
朝起きると、解毒薬を忘れずに持ってダンジョンに向かう。
「ダンジョンは一ヶ月ぶりで、しかも新しい階層だから無理はしないようにしよう」
「確かに忙しすぎて、まともに鍛錬もできませんでしたから慎重に行きますわ」
ダンジョンをゆっくりと進み、多少戦って勘を取り戻しつつ進んでいく。
「そういえばリオが王都に戻るのは冬が終わってからになったの?」
「はい。急げば王都に帰れそうではあったんですが、エドが転生者だと分かりましたし、予定を変えると言われました」
「俺が転生者なのが関係あるの?」
「王家の人間は誰かをダンジョンに挑戦させる必要があり、僕が今のところは最有力の候補だったのです。なので簡単にダンジョンに挑戦することを許されたんです」
「そうだったのか」
普通はツヴィ王国の王族と一緒にダンジョンに向かうのだが、俺が転生者な事と、ゴブリンとオークの階層を超えたのもあって、このまま進む方が踏破できる可能性が高いと、王都へ帰還するのではなく、このままアルバトロスでダンジョンに挑む事になったとリオが話してくれた。
「一緒にダンジョンに行く予定だったツヴィ王国の王族は良いのか?」
「年齢的に誰と行くとは決まってなかったので、僕以外の誰かが候補になるだけだと思います。それに絶対に一緒でなければダメだということもないですし」
草原で体を慣らすのに数回戦った後に、湖まで移動する。湖の島に渡って階段の裏側に回って水晶に触ると、階段が出てきたので降りていく。
「ここから新しい階層だから皆に解毒薬を渡しておくよ」
俺は皆に解毒薬を配る。魔法薬と普通の解毒薬で、魔法薬に関しては飲んだ方が効果が長時間続くが、患部にかけても解毒効果があると説明する。
「今日はサソリだけの予定だから自分で処置できると思うけど、毒を使われたと思ったら俺、ドリー、アンの誰かが一緒に対処するから声をかけて欲しい」
「分かりましたわ。薬師が三人も居ると安心ですわ」
階段を降りてサソリが出る階層に入っていく。ゴブリンのように降りた場所で待ち伏せはしておらず、ダンジョンの奥に進んでいく。
「サソリが見当たらないね?」
「結構な距離歩きましたから一度は接敵しそうですが、確かにサソリは見当たりませんわ」
不思議に思いながら歩いて進んでいく。
「エド殿、もしかして我々以外に冒険者が居るのではないですかな?」
「そういうことか」
フレッドに言われて思い出す。一ヶ月前にライノからこの階層は冒険者が多いと聞いたし、サソリは群れていないと教わった気がする。こんなに出会わないということは、他の冒険者がサソリを狩ったからリスポーン待ちということか。
「直線で階段に行く道ではなくて、違う場所に行ってみる?」
「一度は戦ってみたいですし、その方が良さそうですな」
俺は迷子にならないように、もう一度地図を確認して進み始める。
「気づいたけど、この階層の地図は、直線で階段に行く以外の道も書いてあるから、冒険者はサソリを探して狩ってるのかもな」
「脇道に入ってもサソリが居ないということは、エド殿のいう通り探して狩っているようですな」
サソリを探して歩き回ると、やっと見つけることができた。
「色々試してみたいけど、毒を態々くらうのは馬鹿らしいね」
「拙者としては一度打撃の強さを確認したいですな。結構な大きさですからな」
「確かに。もっと小さいと思ったけど大きいな」
高さは無いが、ハサミの先から尻尾の先までは二メートル近い気がする。ハサミもかなりの大きさで、挟まれたら大変な事になりそうだ。
「毒よりハサミの方が怖い気がしてきた」
「普通は掴まれれば終わりなので、毒はそう使わないのかもしれませんな」
「そう言えばライノにハサミが怖いって説明をしてもらったかも」
「拙者も一ヶ月前となると記憶が怪しいですな」
フレッドはそんな事を言いながらもサソリに近づいていく。サソリがフレッドに襲いかかるが、フレッドは盾でいなしながらサソリの相手をしている。
「フレッド、魔法を試してみていいかな?」
「強さは分かったので、好きに打ち込んでみて欲しいですな」
俺たちは色々と魔法を打ち込んで弱点を探していく。どうやら熱や電気には強いようだ。関節が打撃には脆く、魔法にそこまでの強さがなくても当たれば部位が落ちる。
「生命力は凄いですが、ハサミを落としてしまえば怖くないですな」
「毒針は使い慣れてないのか動作が遅いね」
「ですな」
足が無くなり、動けないような状態でもサソリが生きているので、アンが弓でとどめを刺すことに。普通の矢を構えて射ると、硬そうな音を立てながらも頭に刺さった。
「刺さらないと思いましたが刺さりました」
「本当だね。オークと同じくらいの硬さか、柔らかいのかな?」
近づいて確認すると、見た目は矢が曲がっている様子がないので、オークよりは硬くなさそうだ。矢を抜いて確認してみると若干曲がっているので、もう一回は使えるかもしれないが、三回使うのは無理かもしれない。
「アン、矢はもう一回使えそうだよ」
「本当ですね。ところで気になったのですが、サソリは魔獣だったのですか?」
「魔獣だったけど、どうして?」
「魔法を使ってこなかったので不思議に思いまして」
アンに言われて気づく、確かに魔法を使ってこなかった。だがサソリは魔法は使っていた、なんの魔法を使っていたんだろうか?
「アン殿、ハサミで挟む時に拙者を逃さないように魔法を使っていましたな」
「フレッドに対して使っていたのですか」
「風か何かだと思うのですが、かなり独特な魔法でしたな」
フレッドが魔法について説明してくれる。風をまとわり付かせて、動きにくくしてきたようだ。魔法としては弱すぎる気がするので、本来なら砂漠で使って砂を舞い上げる魔法なのかもしれないと仮説を話す。
「エド殿の言う通りかもしれませんな。逃さないと言うよりは、目潰しが本来の目的だったのかもしれませぬ」
「でもここは洞窟だからあんまり意味はなかったと」
「砂漠で出会ったら怖いかもしれませぬ」
「確かに」
再びサソリを探して歩き回るが、サソリに出会うことなく時間だけが過ぎていく。
「サソリ居ないな」
「さっきの一匹は偶然だったんでしょうか?」
「そうかもしれない」
「歩いているだけなのも時間が過ぎるだけですし、採掘をしてみて良いですか?」
「そうしようか。俺も採取するよ」
あまりにもサソリに出会わないので、アンの提案に乗って採取や採掘をしていくことにする。
「変わった鉄鉱石が取れました」
アンが採掘した鉱石を俺に見せてくる。その鉄鉱石は鉄以外の鉱物が入っているようで、斑らになっている。
「鉄以外が鉱石に含まれているみたいだね」
「はい。ダンジョンの鉱石で違う種類だと分かるほど混じってるのが珍しいです。なのでこの鉱石が不思議なんです」
「確かに、ここまで分かりやすいのは初めてみたかも」
俺は鉱石を見ながら考えていると、アンは更に宝石の原石を渡してくる。
「後は宝石が上の階層と違って同じものしか出ないようです」
渡された宝石の原石を見ると、緑と赤の宝石だった。緑と赤の宝石と、鉄鉱石に含まれる何かが関連づけれる気がして考えていく。
「この鉱石と宝石に何かある気がするんだけど、今は考えつかないや。もう少し情報が欲しいな」
「ジョーに聞いてみたらどうですか?」
「そうするよ」
帰ってジョーに聞いてみる事にして、記憶から読み取ろうとするのは諦める。俺たちはサソリを探しつつ採掘や採取をしていく。
「サソリ全然居ないね」
「そうですな。むしろゴブリン以降の階層で冒険者に出会いませんでしたが、この階層で冒険者に会ったことが驚きでしたな」
歩いてサソリを探していると、サソリではなく冒険者を見つけて、相手が挨拶をしてきたので挨拶をして少し話をした。冒険者は砂漠を越えるのに装備が必要で、サソリやコカトリスを狩って資金を貯めていると教えてくれた。同じような冒険者が複数いるので、サソリやコカトリスは取り合いで中々出会わないとも言われた。
「ここまでサソリが居ないなら先に進むのも手なのかな」
「そうですな。砂漠で出会った時が怖いですが、群れないとライノ殿が言っていましたし、そこまでの怖さでないのかもしれませぬ」
「服は魔道具で温度管理も付いてるし、砂漠を越えるのに多少装備の追加は必要だから、サソリとコカトリスの対策を考えるより、砂漠の対策を考えた方が良さそうだね」
流石に一度はコカトリスと戦っておきたいが、ダンジョンを歩き回っているだけでは経験は積めないので、砂漠に行けるように装備を整える方がいいだろう。
「エド殿、今日はどうしますかな?」
「今日はこのまま採掘と採取をして、ジョーに装備の相談かな。明日もダンジョンに行けるようだったら、コカトリスを探して一度は狩りたいけどな。コカトリスを狩れたら砂漠を少し覗いてみようかな」
「一ヶ月ダンジョンに行っていなかったですが、オークをもう一度狩りたいとは思いませんからな」
「そうなんだよね」
鉱石が必要なら荒野に戻ってもいいが、オークと戦いに戻るのは流石に遠慮したい。サソリとコカトリスを狩っている冒険者も、俺たちと同じ考えだから荒野に戻らないで、サソリとコカトリスを居なくなるまで狩っているのだろう。
鉱石と薬草をある程度取ったら、長居してもサソリは居ないので帰ってしまうことにする。
「今までで一番戦わないで終わった気がする」
「確かに行きに数回戦ったのと、サソリ一匹ですわ。数が少ないですし、解体場どうしますの?」
「明日のコカトリスを狩ってからにしようか。コカトリスもそう狩れないみたいだし」
「分かりましたわ」
収納の魔道具に入れておけばすぐに腐らないので、今日のところは帰ってしまうことに。ベスとリオを屋敷に送って、協会へと戻る。
「ジョー、新しい鉱石持ってきたよ」
「おお、これは加工が難しいが良い鉄になる物じゃな」
「鉄に? 鉄と違う鉱石が含まれているみたいだけど」
「それは温度を上げると溶けるんじゃ」
詳しく聞いていくと、どうやら錆が出にくくなるので、鉄というよりステンレスに近いと感じる。ステンレスに必要な鉱物と言えばクロムで、クロムが宝石に含まれると緑や赤になる。ジョーにクロムとステンレスについて説明をする。
「だからクロムの比率を上げれば、もっと安定した合金になるかも」
「鉄を試作してもらっている、会合に試作を頼んでみるんじゃ」
クロムを含む宝石ということは、エメラルドやルビーの可能性が高く、ジョーに聞いてみると正解だというので、俺は綺麗に磨いてみることにする。
「綺麗だね」
「そうじゃろ。効果も強いし、装飾にもおすすめじゃぞ」
「ベスの腕輪に良さそうだ」
ベスの腕輪は、ジョーが作った腕輪以上の性能が欲しいと、試作を繰り返していて完成しなかったが、この宝石があれば性能も超えて見た目も良く完成しそうだ。
「ワシは試作を頼んでくるので腕輪を作ってると良いぞ」
「分かった」
ジョーにステンレスのことは任せて、俺はベスの腕輪を作っていく。アンやドリーも宝石の綺麗さに気づいて、一緒に宝石を磨き始めた。
「拙者も宝石で何か作りますかな」
「フレッドもですか? 宝石の数はありますし、あまり採掘されていないようでしたから明日も掘ってみます」
「アン殿が欲しい物を言ってくれれば作りますぞ」
「良いのですか?」
「エド殿やジョー殿ほど上手くはありませんが、魔道具なら作れますのでな」
アンはフレッドと相談して装飾品を作ることにしたようだ。俺はドリーにも何か欲しいかと尋ねると、欲しいというのでベスの腕輪が終わったら何か作ってあげよう。
「こんなに綺麗なのに採掘してる人居ないのかな」
「今までと違って下にも同じように鉱脈がありましたが、確かに採掘されている場所は少なかったですね」
お金を儲けるのなら鉱石を掘ったほうが早くお金が貯まりそうだが、鉱脈は放置されていた。
「もしかしたらサソリとコカトリスは、宝石を超えるほど高額なのかもしれませんね」
「解体場に行ったら尋ねてみるか」
「はい」
取ってきた宝石を磨いて腕輪に丁度良さそうなものを選別していく。
「戻ったぞ」
「おかえりジョー」
「エド、鉄の合金じゃができたらしいぞ」
「会合の人たちも一ヶ月忙しかっただろうによく作る暇あったね」
「本意でない物を作り続けた結果、やりたいことを始めたら歯止めが効かなくなったと言っておったな。それと豚骨ラーメンはまだかと言われたんじゃ」
合金ができたのは嬉しいのだが、豚骨ラーメンについてはオークを狩りたくはないので、豚で作るのを待って貰うしかないだろう。
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