魔法薬教室
ガーちゃんが住んでいる森の奥から、森の外にある建設中の集落に帰る道中で、ベスから貧民街の問題はベスの管轄ではなくなったようで、また休暇を与えられたと言われる。
「仕事がなくなりましたから、またダンジョンに行けますわ」
「まだ貧民街の工事は続きそうだけど良いの?」
「エドとの結婚を考えると、ダンジョンを踏破する必要がありますわ。ですから、少しでも進んでおくべきだと言われましたわ」
ベスと俺が結婚をするなら、ベスの言う通りダンジョンを踏破するか、ダンジョンを諦めて叙爵するかになる。ダンジョンに行っている間は婚約もできないのだから、俺とベスが早めに決断できるように考えてくれてるようだ。
「それならダンジョンに行くのを再開しようか。解毒薬を時間があるときに、ある程度の数は用意しておいたよ」
「助かりますわ。サソリとコカトリスが毒を使うのでしたね」
「サソリよりコカトリスの方が毒が強いってライノが言ってたから、下の階層にいるコカトリスまでに解毒薬の量を増やしておくよ」
「お願いしますわ」
森から出ると、レオン様がドリーの魔法薬作りを見たいというので、協会に素材を取りに帰ってから屋敷に向かう事になった。ライノとは森の外で分かれ、協会へと戻る。
協会で準備をして俺たちが屋敷に着くと、部屋に案内される。
「ドリーすまない、見学をしたい者が増えてしまったのだが良いだろうか?」
「うん! 良いよ!」
見学をする人たちを見ると、ルーシー様の周囲に居た魔法使いや薬師のようだ。王都にも作り方を伝えるために見学を許して欲しいと言われ、ドリーが問題ないようなので、魔法薬を作るための準備を手伝っていく。
「ここで苔に魔力を光るまで入れるの、それから…」
ドリーは人に説明するからと、なるべく分かりやすく説明しているようだ。前はドリーにしか分からない感覚で作業していたが、随分とドリーは成長したように感じる。
俺やジョーが補助しながらも魔法薬は完成した。
「ドリーは魔力量が多いので気にしないで作業をしているが、苔を光らせるには結構な魔力が必要なようなので、小分けにして作ると良いんじゃ」
ジョーが魔法薬が出来上がったところで、ドリーの説明を補足していってくれる。また魔法薬と普通の薬は分量など作り方が同じなので、普通の作り方をする場合も魔力をなしで作れば薬が出来上がるとジョーが説明してくれた。
レオン様がジョーと今後の魔法薬の製造について話し始めた。
「思ったより作り方がはっきり分かっているのだな」
「レオン様、作り方は分かっているのじゃが、魔法薬はドリーしか今のところ作ったことがないので、他の人でも作れるか確認したいんじゃ」
「そうなると誰がやるべきだ?」
「まずは薬を作ったことがあるエドじゃな。それと薬を作った事はないが、手伝った事があるワシが作ろうと思うんじゃ」
「最初はそれが良さそうだ。ドリーには全体を見てもらい、見学している魔法使いが補助すれば今後にも良さそうだな」
俺も一度作ってみたかったので作る事には同意するが、ジョーにドリーは薬を簡単に作っているが、実際にやるとかなり難しいと注意をする。
「エド、無茶苦茶難しいんじゃが!」
「だから事前に注意したじゃないか、ドリーみたいに簡単には作れないって」
「だとしてもこれは想定以上じゃ!」
俺はまだ一度作った事があるので薬の作りは分かるが、魔法薬は初めてなので周囲に補助されて何とか作り上げられた。ジョーは薬を作った事がなかったのでかなり苦戦して、ドリーに補助されてどうにか作り上げたようだ。
「エド、ドリーはなんであんなに簡単そうに作っておるんじゃ?」
「薬作りの才能はドリーの方が上としか言えないな」
「これは才能が上とかそういう問題じゃないじゃろ…」
「ジョーは薬単体で作った事がないし、最初から魔法薬を作らないで普通の薬を作ってみるべきだったかも」
「それでもドリーの補助がなければ失敗しそうなんじゃが?」
「俺も最初は失敗してるから」
ドリーは一回で成功させているとジョーに説明すると、唖然としている。素材は幸いにも手に入るようだし、難しいとはいえ練習すれば覚えられるとジョーは皆に伝える。
「すぐに持ってきたと聞いていたので、簡単に作れるのかと思っていたが違うのだな」
「そうですね。ドリーだから簡単に作れるだけですよ」
レオン様やジョーたちが、今後の魔法薬や普通の薬をどう作っていくか相談して、魔法薬を専門に作っている魔法使いに練習してもらう事になったようだ。
「確認をして正解だったな」
「ドリーが簡単に作るので、もう少し簡単だと思っていたんじゃ」
「実際、私もドリーが作るのを見ていると簡単に見えたからな」
まずは普通の薬を作れるようにするため、アルバトロスの魔法使いと薬師、王都から来た魔法使いと薬師で、ドリーが普通の薬を作ることから、教える事になったようだ。魔法使いは、専門が魔法薬の者を選んで教えることにした方がいいと、ジョーがレオン様に助言している。
「ジョーは魔法薬が専門じゃないし、薬を作るのに参加するの辞めるの?」
「ワシは今回は良いんじゃ。将来的には作りたいとは思っておるが、魔法薬を専門にやっているわけではないので、専門にやってる者に任せる事にしたぞ。難しすぎて、覚えるのに時間がかかりそうじゃ」
確かに、今作れるようになったら、周りに教えたり薬作りが大変な事になりそうだ。ジョーは魔法薬が専門ではないし、それで良いのだろう。
「しかしエドもしっかり魔法薬を作っておるし、ドリーと比べたら腕前が霞むのは仕方ないんじゃが、かなり優秀じゃな」
「そうなのかな?」
今まで比較対象がドリーだっために、俺は薬作りに関しては普通だと思えていなかったのだが、ジョーだけではなく魔法薬を作るのを手伝ってくれた魔法使いにも、優秀だと褒められた。
「それでは、ドリーに薬の作り方を教わる人選が決まったらまた連絡をする」
今日作った魔法薬についてはレオン様が管理して、現在使用期限が分かっていないので、使用期限を確認する事になったようだ。
俺は使用期限が分かったらエリザベス商会でも扱えないかとレオン様に尋ねる。
「エリザベス商会で取り扱いたいと言うのは聞いている。薬の量産がどの程度できるかという問題もあるので、今はセオドアから患者が出たらと報告を受けたら、薬を分ける事にする」
「レオン様、ありがとうございます」
「いや、むしろすまないな。薬の量産が思った以上に難しそうで、すぐにエリザベス商会で取り扱うことは難しそうだ」
今日のところは魔法薬作りを終わるようで解散する事になった。俺はレオン様と話したことをセオさんにも伝えるべきだと、エリザベス商会に向かう事にする。ベスとリオがどうするか尋ねると、ベスはセオさんと話したい事があると付いてくると言う。
「セオさん、店が忙しそうですね」
「冬になって服の売れ行きが良くなったのもありますが、王太子妃殿下が服を着たのも大きいですね」
「完成していたんですか」
「エドさんにも完成したと伝えようとしたんですが、お互い忙しくすれ違って伝えられませんでした。申し訳ないです」
「いえ、俺もセオさんも貧民街に居たのに、会うことが滅多にありませんでしたし」
俺以上にセオさんは忙しかっただろうし仕方がないというか、よく通常の業務も回せていたなと感心した。一ヶ月どうしていたのかと聞いてみると、実際仕事を回せていなかったようで、ルーシー様の服も渡しに行く段階で出来上がったと知って、慌てて渡しにいったようだ。
「エドさんに手伝ってもらおうにもエドさんも忙しかったですし、商会の従業員に頑張って貰いました」
「忙しかったら手伝うって言ったのに、すいません」
「エドさんが貧民街の問題から抜けても問題がありましたし、気にしないでください」
俺が貧民街の問題から抜けても、セオさんの負担は結局同じだったと説明され、確かにどっちもセオさんが担当しているのだし、それもそうかもしれないと納得する。
セオさんにレオン様とルーシー様を治した魔法薬を作ってきた事を報告して、思ったより難しいのですぐにはエリザベス商会に置けなさそうだと伝える。
「量産できれば置けるだろうと伝えられていましたが、違うのですか?」
「思った以上に作るのが難しかったらしく、量産は時間がかかりそうだと判断したようです」
「分かりました。今まで通りに薬が必要な患者が居る場合のみ、ドリーさんに相談します」
俺が話す事は終わったので、ベスとセオさんが話し始める。工場と倉庫をどの程度の大きさで作るか再確認したりと、色々と話している。
「では、そのように伝えておきますわ」
「お願い致します」
俺は工場が何に使われるか気になってセオさんに聞いてみることに。
「セオさん、工場ができたら何を作るんですか?」
「今のところは服ですね。今はポンチョは各家庭で作り、エリザベス商会で売っている服は、物件を何軒か買って作っているのですが、どちらも同じ場所で作るようにしたいのです」
「服だと布の在庫も必要だから結構場所が必要そうですね」
「そうなのです。倉庫に関してはシャンプーとトリートメントの在庫を置く事になると思います」
そんなに在庫が必要なのかと思ったら、水車の稼働量を増やして増産し続けているらしい。輸出することも可能な量までもう少しだと教えてくれる。今の量で輸出できそうだと思ったら、リング王国内で流通し始めて作っても在庫が消えていく状況らしい。
「後は、普通の豚で作る豚骨ラーメンの試作を始めたのですが、エドさんに助言を頂けますか?」
「俺は構わないですけど」
「なら今から見にいきましょう。試作した物ができていると思うので」
「セオさん、今からって忙しくないんですか?」
「店は忙しいですが、私が動くことは減ったので問題ありません」
一ヶ月の間にセオさんがやっていた作業を従業員ができるようになり、セオさんの負担が減ったようで、結果的には従業員の成長になったとセオさんは言う。
「本来は私が教えて成長させるべきなので、申し訳ないんですがね」
セオさんは申し訳なさそうにしながらも、空いた時間で豚骨ラーメンを試作している場所へと移動する。
「実はこちらも私とエドさんが忙しかったので、試作をしていてくれたようで、作っていると最近になって聞いたのですよ」
「確かに。最初は俺も参加して作るって言ってましたよね」
「はい。作り方は書いてあるのだから作れるだろうと、試していてくれたようです」
「なんか申し訳ないですね」
セオさんは俺に同意しつつも、試作してくれた貧民街の人たちに俺たちは感謝されているらしい。家は一時的に無くなった者もいたが、死者が出なかったと喜んでくれているようだ。
試作している店に着くと早速、試作している豚骨ラーメンを味見する事に。やはりオークほどの味ではないが、しっかりとした豚骨ラーメンになっている。ラーメンの上に乗せる具で作れそうなものをセオさんに伝えていく。
「できそうな物はやっていきましょう」
上に乗せるものを増やすと高くなるので注意をするようにと伝え、協会や辺境伯の屋敷でも試作してもらおうと、作れそうな物を書き留めていく。
「噂で聞いたのですが、オークが必要だと高値での買取が出たらしいですよ」
「今日ライノと一緒だったんですが、そんな事は聞かなかったんですが、本当ですか?」
「ライノさんは豚骨ラーメンって食べていますか?」
「あ、食べてませんね」
「今度オークでない豚骨ラーメンを試食して貰っておきます」
「お願いします。オークの骨は協会にも無くなってしまったから、手に入らないかと聞かれたんですよね。無理だと言ったので買い付けを始めたのかも」
セオさんは、それなら普通の豚で作る豚骨ラーメンの作り方を、協会と辺境伯の屋敷になら渡すと言ってくれた。俺が作った物だからと、試作をしてくれた人たちも作り方を渡すことに同意してくれた。貰うだけでは悪いので、改良したら教える事と、違うラーメンの作り方なども教えておいた。
俺は協会でも出す事になるならと、皆に試食をしてもらう。
「オークの豚骨ラーメンの方が美味しいんじゃが、魔獣と普通の豚の差を考えればかなりの美味しさじゃな」
「ジョー、これなら問題ないかな?」
「問題ないと思うが、今度は普通の豚が消えてなくなりそうじゃな」
「あー…」
やはり違うラーメンの試作が急務のようだ。海が近いのだし魚介系のラーメンを作ればいいのだろう。エリザベス商会の料理人にも頑張ってほしいが、協会と屋敷の料理人にも研究してもらった方がいいだろう。その事をジョーに伝えると協会の料理人を頼るのは賛成だが、まず鍋を増やすべきだと言う。
「鍋?」
「ここは普通の鍋でやっているようじゃし、魔道具の鍋で効率化したらどうじゃ」
ジョーに言われて気づくが普通の鍋でやっているので、作るのが大変だっただろう。エリザベス商会でお金を出すので協会に依頼して作ってもらう事になった。
鍋の仕様をジョーに書いてもらって、発注するのに事情を説明すれば早く作ってくれそうだとジョーが言う。なので試食が終わってから、俺が直接協会に発注に行く事にする。
協会に戻って注文するときに事情を説明すると、早めに作ると言ってくれた。こんなに簡単に魔道具の納期を縮められるとは。豚骨ラーメン品切れが続いているから皆欲しているのか……
誤字報告は本当に助かっています。誤字でない報告についても、適用したり、修正時の参考にしております。
王太子妃様 → 王太子妃殿下 に変更。
王族へは殿下を使うようです。名前呼びの時も殿下のようですが、ルーシー様のままで行きます(今後変えるかも)。
ベスやトリスは王族であることを隠していたので、様のままにします。
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