貧民街の片付け
俺とベスの婚約するかもしれないという話から、エマ師匠の失恋の話になるとは思いもしなかった。
「エマ師匠、大丈夫でしょうか?」
「エレンがうるさかっただけじゃろ。協会でエマは有名人じゃから、失恋なんてしていたら噂になっておると思うので、かなり前のことだと思うぞ」
確かにエマ師匠の知り合いは多いし、エマ師匠より年上のジョーやエレンさんが知らないのだから、かなり前のことなのか。
「ところでエドは明日はどうするつもりなんじゃ?」
「特に決めてないけど、ベスが流石にまだダンジョンに行けるほど暇じゃないと思うから、ベスの手伝いをするかな?」
「ダンジョンに行かないなら何か作ろうと誘おうと思ったんじゃが、無理そうじゃな」
「そうだね。というかジョーも忙しいんじゃないの?」
「そう言えばそうじゃな」
あれだけ貧民街が壊れてしまったのだから、協会としても動く事になるだろし、ジョーも暇にはならないだろう。皆、連日の疲れがあるので今日は早めに休む事にした。
次の日、協会にベスから連絡が来て、先にリオも連れて貧民街に行っているとの事だった。俺たちも向かう事にする。
「ベス」
「エド、兵士を連れて移動する事になったので一緒に行けませんでしたわ」
「構わないよ」
結婚の話をして昨日の今日で、皆から気づいていなかったのは俺だけと言われたのもあり、緊張する。昨日言われた距離感を確認すると確かに近い気もする。
「エドどうしましたの?」
「いや、実はさベスからの好意を気づいてなかったのは俺だけって言われて…」
「そんなに私は分かりやすかったですの?」
「みたいです」
ベスも流石に皆に気づかれているとは思っていなかったようで、流石に少し恥ずかしそうにしている。
「ですが、それなら今後も気にする必要もありませんわ」
そう言うとベスは距離をさらに縮めた。そういえばリオには説明してないんじゃって思ったら、ドリーが楽しそうにリオに報告しているのが聞こえてきた。
「だからベスがお姉ちゃんになるの!」
「良かったですね。ドリー」
リオは俺とベスの事を普通に受け入れている。もしかしてリオにも知られていたのか? 流石に怖くて聞けないので、俺たちは瓦礫の片付けをベスの指示を元に始めていく。
兵士や冒険者なども瓦礫の片付けに参加した結果、やはり瓦礫を運び出すのが問題になり、どうしようもないと、ベスは道を新たに作ることに決めたようで、レオン様に連絡した。
レオン様が到着すると、どう道を作るかレオン様や屋敷から家臣や役人が来て決めていく。
「道を作るのに、素直に立ち退いてくれると良いのだが。強制的に立ち退かせると貧民街が団結して大変な事になりそうだしな」
「レオン様、立ち退くって、家が無くなった人はどうするんですか?」
「アルバトロス全体の空き家を探し出している。すでに家が壊されてしまった者たちに家を用意しているので、新たな空き家が見つかるかが問題だ。しかし大きい道ができないと、片付けが進まないのは困ったものだ」
今ある細い道を使って瓦礫を運び出して、少しずつでも片付けていく。
「エド、すまないがベスと共にセオドアの元に行ってくれないか。立ち退きを手伝ってほしいと伝えてきて欲しい」
「レオン様、分かりました」
俺たちは貧民街から離れてエリザベス商会へと向かう。
「セオさん」
「エドさん、どうしました?」
俺はセオさんに貧民街で起こっている事を説明した。
「分かりました。私が動くのと、私の方から貧民街で雇っている者たちにも連絡をしておきます」
「お願いします。ですが、連絡するのに立ち退いてもらう場所がまだ決まっていないんです」
「それなら私も貧民街に向かいましょう」
セオさんを連れていく前に、俺が転生者である事と、俺とベスが結婚するかもしれないと伝えると、転生者である事には驚かれ、結婚については納得された。
「セオさんは知っていたんですか?」
「結婚については、少し聞いていましたね」
セオさんを連れてレオン様の元に戻ると、レオン様や他の人が話しているのに混じって相談を始めた。
「エド、これは酷いな」
「ライノ来たんだ」
「片付けの進みが遅いと報告を受けて、様子を見に来た。想像以上に家が壊れてしまっているのだな」
「だから瓦礫の量が多くて問題になってるよ。燃やせる物を燃やしたら火事になりそうだし、運び出すしかないんだけど道が細くて」
「そういうことか。冒険者を用意しすぎても無意味かもしれんな。エド、助かった、参考にする」
ライノに道を作る予定でレオン様たちが相談していると伝えると、冒険者ギルドも手伝えるかもしれないと、話し合いに参加しに行った。
できる場所の片付けを進めていると、道をどう作るか決まったようで、簡易的な地図を俺たちにも見せてくれた。貧民街なので、セオさんやライノが中心になって立ち退きを進めていく事になったようだ。
立ち退きに同意してくれた家を順番に壊しながら作業を進めていく、一日では終わらないので、何日も掛かりながら作業を進めていくと道が開通して、片付けが一気に終わる。
「終わりましたわ」
「流石に長かったね。一ヶ月近くかかったよ」
「それでも早かった方だと思いますわ。おかげで貧民街もかなり綺麗になりましたし、このまま貧民街の区画整備もしてしまうか、という話にもなっているらしいですわ」
「流石に壊すだけじゃないし、難しくない?」
「それが好景気もあって無理ではないかもしれないとの事ですわ。空き家がほぼ無くなったことで、流石に今回のような速度では出来ないでしょうが、家を建てながらアルバトロス全体の整備をするという計画を考えているらしいですわ」
ベスはどこまで本気かは分からないとも言うが、実現可能なくらいには計画を作り込んでいるようだ。
「後、この空いた土地には、エリザベス商会の倉庫と工場を作る事になったようですわ」
「え? この広い土地で工場って何作るの?」
「工場は衣類を作るようですが、エドが何か考えれば後から追加するようですわ」
「こんなに広い土地要る?」
「エリザベス商会で、手に余るようでしたら貸し出すのも手ですわ。放置しておいたら家を建てられそうですから、エリザベス商会の工場を作るらしいですわ」
確かに放置しておいたら壊れる前の貧民街がもう一度出来上がるだけだろう。だったら雇用が発生する工場を作ってしまえば良いのか。
「工場に関しては人手が足りないのもあって、時間がかかる予定らしいですわ。森の近くに集落を作っているのもあって、建築できる人の残りが少ないらしいですわ」
「そっちもあったね」
「そういえばエドは魔道具が完成して配置され始めたと聞いていますの?」
「ジョーが完成したとは言ってた気がする」
この一ヶ月俺もジョーも忙しくあまり会えなかったが、会った時に、参考にしたいと意見を聞かれて答えていた。なので、金属を探知して知らせる魔道具が完成した事は聞いていた。
「明日は魔道具の確認と、ガーちゃんに話をする事になりますわ」
「分かった」
ガーちゃんに川の水量などを伝えてないので、フレッドと共に行って話をするべきだろう。
貧民街の片付けが終わったのを確認に来ていたライノにも、森に行かないかと誘うと、今後の仕事はそちらになりそうだと、見にくるようだ。ベスが集落を作っている位置を教え、明日はそこで待ち合わせる事になった。
協会に戻ってからジョーにも伝えると、ガーちゃんとメガロケロスをもう一度見たいと、一緒に見にく事になった。
「ライノ、もう来ていたのか」
「ああ、先に集落の様子を見たかったんだ。かなり工事は進んでいるな」
「みたいだね。ちょっと前は兵士が休憩する場所しかなかったのに」
ライノの言う通り森の隣には集落が形になってきている。かなりの数の家を建てるようで、すでにターブ村より家の数が多そうだ。
「川の流れも我々で決めているのもあって、人はかなりの人数住めそうだと計算している」
「レオン様、治水工事までしているんですか?」
「どちらかと言えば治水工事を優先しているな。水を好きに使えれば、食事さえ用意すれば好きに人を出しても問題がなくなるのでな」
そうか元々この場所は水がなくて人が住んでいなかったのだった。森が近いので地面を掘れば水は出てくるだろうが、飲めるかどうかは分からないのだし、飲み水となる川があれば水を持ってくる必要もないし、人と食事を運ぶだけで良いのか。
「森の奥に行く前に、エドたちは魔道具の確認だな」
「レオン様はもう確認しているのですか?」
「配置すると決定した時に見にきた」
レオン様を待たせる事になるので、魔道具をジョーに説明してもらいながら確認すると、しっかりと動作するのを確認した。俺も協力したが、ジョーたち協会の魔法使いは、作る時に魔力を少なく、材料も簡単で、長期間運用できるように魔道具を作り出したようだ。
「ジョー、前回も伝えたが、よくぞ短期間でここまでの魔道具を作り出した」
「前回は他にも人がいたのもあって伝えませんでしたが、この魔道具はエドの発想に助けられたんじゃ」
「転生者の知恵かなるほどな」
「転生者?」
忘れていた。ライノにはまだ転生者だと伝えていなかった。
「ライノ、俺は転生者なんだ」
「エドは双子だったのか?」
「違うよ」
ライノもギルド職員だから転生者が双子であることを知っていたようだ。
「エド、すまない伝えるのを忘れていた。ターブ村の住人に尋ねたところ、エドはやはり双子ではなかったようだ。生まれた時に診察しているし、助産師もアルバトロスに移動してきているので、間違いがないと言われた」
生まれた子供を診察するとなるとオジジだろう。子供を産むのに一人ではないと思っていたが、もしかしたら俺以外の子供がいて、捨てられているのかと思って心配だったのだが、そうではなかったようだ。
「双子でない転生者なんて居るのですか?」
「エドがそうなのだ。私も聞いたことがない数少ない例外なのだろう」
「そんな例外が居るのですね」
俺が転生者だとライノが納得したところで、メガロケロスを呼んで森の中に入る事にする。メガロケロスやドラゴンの事を詳しく知らなかったライノが、驚きながらも喜んでメガロケロスに乗って森の中を移動してく。
「これは…」
初めてガーちゃんたちが住んでいる森の奥まできたライノは、森の光景に驚いている。俺がライノに事情を説明すると納得をしてくれ、何故森の周辺に大量の魔道具を設置したか納得したと言った。
「フレッド、すまないが通訳を頼めるか」
「レオン殿、承知致した」
レオン様とフレッドがガーちゃんに水量を確認して、問題がない範囲で水量を増やす事にしたようだ。
ジョーとライノはドラゴンやメガロケロスに乗って喜んでいる。ドリーがガーちゃんから何か貰ったようで手に持っている。
「ドリー、何を貰ったんだ?」
「ガーちゃんが鱗くれたの」
「鱗? 初めてもらうな」
「うん」
今までそんな物は貰ったことがないので、不思議に思ってガーちゃんにに何故くれたのか確認をすると、ドリーがダンジョンのゴブリン以降の階層に行ってる事を知って、装備にすると良いと以前に剥がれた鱗をくれたとフレッドが通訳してくれた。
「ジョーに何が作れるか聞いてみるか」
「うん!」
ジョーにガーちゃんの鱗が何に使えるかと尋ねると、ジョー、ライノ、レオン様に驚かれる。
「ドラゴンの鱗じゃと!」
「手に入らない貴重品だぞ。ドラゴンは脱皮したりすると脱皮した皮などを食べてしまうことが多いからな」
「その通りじゃ。ドラゴンの鱗となれば武器、防具、杖にでも大半の装備に使えるぞ」
ガーちゃんの鱗は凄いものだったらしい。メガロケロスもツノが落ちて生え変わるのだが、そちらも貴重品なのだろうか?
「ジョー、メガロケロスのツノはどうなの?」
「そちらも凄いぞ。形にもよるが上手く切り出せれば、そのまま杖になったりするんじゃ」
ライノがメガロケロスからツノが落ちる時期は、森にツノを求めて冒険者が入っていくと教えてくれる。大きい物ほど高額で取引されるらしい。
「それだったら時期になったら貰いにこようかな」
「ワシも分けて欲しいんじゃ」
「ジョーにはもちろん分けるよ。片方だけでも凄い大きさだし、作り方を聞く事になるしね」
さらにガーちゃんとメガロケロスから苔と薬草を分けてもらって、ドリーにしか今は作れない、魔法薬の作り方を研究する事にする。
ドリーとガーちゃんが気が済むまで遊んだところで、俺たちは森の外に出る事にする。
「ライノ」
「何だ?」
「俺とベスの事なんだけど」
レオン様とベスに許可を取って、ライノに俺とベスが結婚するかもしれないことを伝えると、功績を考えると叙爵もできるし、転生者だからかと納得される。
この話と関係ないのですが、誤字報告で(一人でなく複数の方から)辺境伯を辺境伯様と訂正が時々来て直していたのですが、改めて考えると爵位+様が個人的に違和感あると思って、様なしの辺境伯で行こうと思います。
爵位への敬称って正解が分からないので、調べたら閣下が正解ってのもあったんですが、辺境伯閣下は仰々し過ぎる気がします…
誤字報告で適用してしまっているので、修正したつもりですが辺境伯様が残っているかもしれません。
辺境伯様が変なら”王太子妃様”とか”メイドさん”も変かと思うんですが、とりあえずそっちはそのままで…
追記
王太子妃様 → 王太子妃殿下 に変更。
王族へは殿下を使うようです。名前呼びの時も殿下のようですが、ルーシー様のままで行きます(今後変えるかも)。
ベスやトリスは王族であることを隠していたので、様のままにします。
誤字報告は本当に助かっています。誤字でない報告についても、適用したり、修正時の参考にしております。
追記2
爵位に様は思ったより浸透しているのようですね。
様は基本的に個人に使う敬称ですので、爵位に様をつけるのは誤用が広まった結果だと考えています。
上記にも書きましたが、調べると爵位に更に敬称を付けるなら閣下が正解のようです(爵位の上下で言い方が変わるようですが下からは閣下のようです)。
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