ゴブリンの魔法
ベスとリオを屋敷に送った後に、魔法協会に戻ってくると、アンが採掘した鉱石や宝石ぽい物についてジョーに聞きにいく。
「ジョー、聞きたいことがあるんだけど」
「なんじゃ?」
「この中に入ってる、鉱石と宝石ぽい物が何なのか聞きたいんだけど」
ジョーに鉱石と、宝石ぽい物が入った収納の魔道具を手渡す。ジョーが中身を確認してくれる。
「おお、ここまで進んだのか。ゴブリンが出る場所で取れる物じゃな」
「ジョーは物で分かるのか」
「そうじゃな。ゴブリン周辺の鉱石は数は少ないが手に入れることは可能なんじゃ」
「あれ? そうなの?」
「何故売りに出るかまではワシも知らんのじゃ。知りたければ冒険者ギルドにでも聞いてみるんじゃ」
不思議だが草原までの鉱石の方が入手は難しいようだ。鉱石がある高さが全然違うので、背の高い人なら鉱石を掘れそうだが、ゴブリンと戦いに行く冒険者が鉱石を掘るのも不思議だ。ゴブリンが音に反応していたのが理由かもしれないが、詳しくはライノに聞いてみよう。
「それで、エドたちはゴブリンと戦って大丈夫じゃったか?」
「戦う前にベスから色々聞いたんだけど、意外と余裕だったよ」
「なら良いんじゃが。人型だと禁忌を感じる者もいるらしいんじゃ」
そう言えば、ゴブリンは初めて相手する二足歩行の人間に近い相手だったかもしれない。緊張もあっただろうが、階段を降りた直後に奇襲を受けたことで俺は意識する暇もなかった。
「俺はジョーに言われ今気づいたよ」
「なら問題なさそうじゃな」
「最初に奇襲されたから、それどころじゃ無かったからかもしれないけど」
「奇襲されたのか、大丈夫じゃったんか?」
「フレッドが先に気づいて対応して倒したよ」
フレッドがジョーに状況を詳しく説明すると、ジョーは納得したようだ。
「ダンジョンに鉱石を拾いに行ったことはあるんじゃが、ワシもゴブリンは戦ったことがないんじゃ。ゴブリンは思った以上に頭がいいんじゃな」
「魔法は簡単に奪えたけど、距離を取って戦ってたしな」
「そうなんじゃな」
手に入れられるなら詳しく知っていそうだと、俺は宝石ぽい物が何物なのかをジョーに尋ねてみる。
「ジョーところでこの宝石ぽい物はなんなの?」
「それは宝石じゃな。ダンジョンの宝石は魔道具に加工できるから少し値段が上がるぞ」
ジョーが宝石を加工して魔道具にしているところは見たことがあったが、ダンジョンから採掘された物だとは知らなかった。
「普通の宝石でも魔道具にできるんだと思ってた」
「実はできない事はないんじゃが。効率が悪いので普通は使わないんじゃ」
「そうなのか」
それからジョーに宝石の磨き方などを教わる。その後は、森の侵入者を発見する装置作りを手伝うことになって、ジョーと装置の構造について話し合った。
「魔道具で金属を分別できるようにと作った物を改良すれば出来そうなんじゃが、索敵する範囲の問題が解決しないんじゃ」
「大量に設置するのは、値段的にも製造するにも無理か」
「森が広いので、結局は大量に設置することにはなると思うんじゃ。なので減らせるなら減らしたいんじゃ」
「なら磁石とかを魔道具に入れたら?」
「磁石か。確かに使えそうじゃな。金属を分別する訳ではないのじゃから、反応すればいいだけじゃし。磁石で反応しない武器を持っているのは少ないじゃろ」
ジョーは何かを思いついたようだ。他の魔法使いと相談してみると言うので、俺たちはジョーの邪魔にならないように部屋を後にした。
「アン、宝石ぽい物は、本当に宝石だったみたいだ。曇っていたのを磨くと綺麗だね」
「そうですね」
「売ってもいいけど、せっかくだし何か魔道具を考えようか」
「エドからの贈り物ならベスも喜ぶと思いますよ」
「そうかな?」
「はい」
俺からの贈り物というか、そろそろ寒くなってきたので以前作った服がもう着れそうだが、屋敷に療養中のルーシー様が居るのもあって、着るためのお茶会などを開く暇も無さそうだ。
そうなると宝石として服に合う魔道具より、ダンジョンでも使える魔道具の方が良さそうだが、ベスの使っている槍には合わなさそうだし、杖の代わりにしている腕輪でも改良すれば良いかもしれない。
「ベスの腕輪でも改良しようかな。だけどジョーも忙しそうだから時間がかかりそうだ」
「今使っている腕輪もありますし、時間が掛かってもいいのでは?」
「それもそうか。考えてみるよ」
フレッドがアンを送っていくと言うので任せて、俺はドリーと腕輪について寝るまで考えていく。
翌日、ダンジョンに行く前にギルドへ向かう。遠回りになるがリオが行くとギルド職員が大変なことになりそうなので、道中アンを拾ってギルドに行く。
「ライノ、聞きたいことがあるんだけど」
「良いぞ」
「ゴブリンについて何だけど」
「エドたちは、ゴブリンを倒し始めたのか?」
「昨日から倒し始めたんだけど疑問があって、ゴブリンって普通の冒険者はどうやって倒してるの?」
ライノは俺の質問がよく分からなかったのか少し考えた様子の後に話しかけてくる。
「もしかして、エドたちは魔法使いが多いから近接する前に倒せるのか?」
「数が多ければ近接することになるけど、少ないと近接する事はないかも」
「それは凄いな。普通の冒険者は音を出してゴブリンを興奮状態にするんだ、そうすると魔法を使ってくることが減るからな」
やはり予想通りに、ゴブリンは音を出すと興奮状態になるようだ。
「鉱石の採掘をしてたら、ゴブリンが普通と違って接近してきたから不思議だったけど、あれはゴブリンの習性なのか」
「そうだな。ついでに鉱石を採掘するから、ゴブリンが出るところの鉱石はギルドでも取り扱ってるぞ」
そこまで予想通りとは思わなかった。
「でも魔法を使っては居たけど、普通の冒険者はどうしてるの?」
「魔法使いが居れば対応するし。居なくても実はゴブリンの魔法ならそんなに痛くはないんだ」
「獣人のライノだから痛くないだけじゃなくて?」
「以前組んでいた者もそう痛くないと言っていたし、魔法使いがしっかりみると魔法に使う魔力量が少なすぎて魔法として効果が薄いらしい」
緊張していたのか魔力量を確認していなかったが、魔法を簡単に奪えたのも魔力量の問題もありそうだ。魔法に対する魔力が少なければ、魔力を多く出しているこちらが、簡単に制御を奪えてしまうのも納得できる。
「だから簡単に魔法を奪えたのか」
「そう言う事は私には分からないが、一緒に組んでいた魔法使いも制御を奪うのは簡単だと言っていた気がするな」
「なるほど」
そう言えば、フレッドは魔法を受け止めたりもしていたが、魔法の強さは感じていたのだろうか?
「フレッドはゴブリンの魔法どうだった?」
「拙者もゴブリンの魔法はそう痛くないと言われて、思い出そうとしているのですが、盾と魔法格闘術を使っているのでどうだったか思い出せませんな。」
「確かに魔法格闘術を使って、更にフレッドが使っている盾だと分からなそうだ」
俺が納得していると、ライノが俺に質問してくる。
「エドはダンジョンについての説明を受けたか?」
「ベスから聞いてるけど、ギルドではまた違う説明があったりするの?」
「だいたい同じだとは思うが、貴族の説明と違うところはありそうだし、私からも説明しておく。部屋を用意する」
ライノが用意してくれた部屋で、ライノが説明してくれる。
説明された内容は、ベスから聞いた貴族についての話以外はほぼ同じで内容だ。違う話は、以前トリス様に聞いたダンジョンで魔法が使えるようになったり、獣人の部位が増えたりと言うのはゴブリン以降の話だとも教えられた。
「後はそうだな、そろそろダンジョンに泊まることも前提に考えた方が良いぞ」
「ダンジョンに泊まるって危なくないの?」
「危ないな。だから色々と道具を揃えないといけないぞ」
ダンジョンに泊まるか。ベスとリオがダンジョンに泊まるのを許されるかも問題だな。
「エドたちはゴブリンも余裕そうなので言ってしまうが、ある程度ダンジョンを進むと道中を短縮する方法もあるんだ。なのでダンジョンに泊まるのは一泊か二泊程度だな」
「短縮する方法なんてあるんだ。便利だね」
「便利なのは人が操作した結果だろうな。ただ短縮する方法はダンジョンを進まないと使えないのだ」
魔法もあるのだし、前世の知識にあるゲームのようにワープでもするのだろうか?
「それとゴブリンと次の地図を渡そう」
「地図は無いと思ってたけど、あるんだ」
「そこまで行く冒険者に死なれるとギルドとしても損失が大きいので、構造を書いたものを高額で買い取って地図にしている。取ってくるので少し待っていてくれ」
待っていると、ライノが地図らしき物を持って帰ってきた。
「これが地図だ」
渡された地図を確認すると、想像以上に詳しく書いてある。
「鉱石の位置とか、ゴブリンが待ってそうな位置まで書いてあるんですね」
「ゴブリンの位置は参考程度にして欲しい、違う場所にいる事もあるし、リスポーンした瞬間だと散らばっている場合もあるからな」
「リスポーンした瞬間とか、そう言う心配もあるのか」
「ゴブリン単体なら逆に弱いんだがな」
「それもそうか」
鉱石の位置に関してはゴブリンを興奮させるために書いてあると教えてくれた。
「ゴブリンの次って何が出てくるか聞いても?」
「次はオークだな。言い忘れていたが、ゴブリンの中に小柄なオークが混じっていたりもするから注意するんだぞ」
「小柄なオークなら通れそうな大きさだったけど、本当に通れるんだ。というか、ゴブリンとオークが一緒に行動してるの?」
「オークの配下にゴブリンが居るという感じだな」
ライノの言い方だとオークは少なそうだが、昨日はオークに出会わなかったので、オークの集団に出会う前に一度戦って強さを確認しておきたい。
「後、オークの次は荒野になっているんだが、そこには色々魔獣が住んでいる。ガーゴイルとナーガが強い魔獣だな。オークやゴブリンも居るし動物の魔獣なんかも住んでいる」
「以降はずっと洞窟のダンジョンかと思ってた」
「違うな。なので荒野の地図も作っては有るが、大雑把にしか書かれていないだろ」
確かに一枚だけ地図が簡易的に書かれている。目印と道だけ書いてあり分かりにくい。
「ちなみに荒野は薬草は少ないが、鉱石は色々採掘できる」
「それはジョーが喜びそうだ」
「そうだな。そう言えば、ジョーと挨拶したのは、エドたちがウシを辺境伯の屋敷で振舞ってくれたからだな。あの時も礼を言ったが、エド呼んでくれてありがとう」
「ライノにはお世話になってるから、当然だよ」
晩餐の時に教えて貰ったがリオのギルド証を用意したのはライノだったようで、俺たちと組んでいると説明すると納得した様子だった。
「そう言えばエドはケネスと会ったか?」
「短時間だったけど会えたよ」
「そうか、私は冒険者の依頼があったので、何が起きたのか事情を聞くのに数回あったきりだな。ドラゴンとメガロケロスが住み始めた森に移動することになるとは聞いていて、しばらくは会えそうにないな」
「ライノでも会えそうにないのか。ケネスおじさんもだけど、ターブ村を調べに行った冒険者ってどうなったの?」
ケネスおじさんもだが、冒険者もターブ村で起きたことを知っているので、ケネスおじさんと同じように大変な状況なのだろうか?
「あいつらも話し合いをした結果、ケネスと同じように森の近くに住むことになったようだな。元々依頼を受けて行動する冒険者だったが、長期の依頼で依頼主が辺境伯という好条件だからな」
「森は人が足りないから冒険者からも人を引き抜いているのか」
「そうだな。詳しい事情は聞いていないが、結構な人数が声をかけられている。更に追加も考えていると言われたしな」
レオン様も森の価値が上がったために、人数が足りないと冒険者も集めているようだ。最終的にはターブ村を超える人数の集落になってそうだ。
「ドラゴンとメガロケロスが森に住み着いたのは、詳しい事情を聞いたら巻き込まれそうで聞いていないんだが、エドは何か知っているのか?」
「結構詳しいこと知ってるけど。レオン様に許可を貰ってライノも聞く?」
「遠慮しておく、流石に問題が連続してギルド職員が限界だ。一つだけ聞きたいのだが、冒険者の引き抜きは増えそうか?」
「増えると思う」
「分かった。準備しておく」
立て続けに、大きな問題が起きているのでライノも疲れが見える。獣人のライノでも疲れが見えるのだから、他のギルド職員は大変そうだ。
ドリーがライノにいつものように遊んで貰った後に、俺たちはベスとリオを拾ってダンジョンへ向かう。
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