ダンジョンの秘密
昨日はケネスおじさんやオジジと会えて良かった。今日はダンジョンの更に奥まで進もうと思う。
「今日は行けるとこまで進もうと思うけど良いかな?」
「オオカミやウシで余裕でしたから問題ありませんわ」
「拙者もそう思いますな」
「私もダンジョンの奥に興味が出て来ました。ウシも美味しかったですし」
「ドリーも奥に行きたい!」
「僕も行ってみたいです」
皆が同意してくれたので奥に進むことにする。
「それじゃ奥まで進んでみよう」
俺たちはダンジョンを進んでいく。草原までの相手は気づかれない限りは相手しないで、進んでいく。
「戦わず歩いてくるだけなら、草原まで意外と近いんだね」
「そうですわね。今日は採取も採掘もしませんでしたわ」
「それも有ったね」
草原は探さないと敵とほぼ合わないので、洞窟内より敵を避けなくて良いので楽なくらいだ。偶然居合わせた敵と戦ったりもしたが、昨日進んだ場所まで移動する。
「鳥の魔獣は草原では一番厄介かも、ドリーとリオが気づかなかったら危なかった」
「今まで見なかったので居ないかと思っていましたわ」
「リスポーンで偶然出会ったのかな?」
「かもしれませんわ」
俺たちは更に奥まで草原を突き進んでいくと、不思議な空間が広がる場所に辿り着く。見た目はまた洞窟に近いが、かなり広い空間なっている。中は湖のようになっていて、湖の中心には島がある。
「この空間は?」
「ここまで来ましたか…もっと時間がかかると思っていましたわ」
「ベスは何か知ってるの?」
「ええ。貴族と一部の冒険者ギルド職員、そしてここまで辿り着けた冒険者は知っていますわ。奥に行く前に少し話をしますわ」
ベスに言われて移動する前に話を聞く事になった。
「この奥の事についてまずはお話ししますわ。この先に出てくる魔獣は今まで以上に強くなりますわ。だから引き返すなら今しかありません、冒険者でもこの先に向かう人は少ないと聞きましたわ」
「引き返すほどに魔獣が強くなるの?」
「そうですわ。この湖はネズミ返しのように強い魔獣がダンジョンから出てこない仕組みになってるのですわ」
「え? ダンジョンから魔獣は出てこないんじゃなかったの?」
「正確には出てこないように作られているのですわ。奥の魔物は好きに徘徊していますわ」
以前聞いた話と違うし、作られている? ダンジョンは誰かが作った物なのか?
「ベス、ダンジョンは誰かが作った物なのか?」
「そこまでは分かりませんわ。ただ、ダンジョンは操作ができると貴族には伝えられていますわ」
「操作ができる?」
「そうですわ。昔、ダンジョンから魔獣が溢れた時、世界中でダンジョンを操作しようと人々がダンジョンに挑みましたわ。そして無事に辿り着いた人がダンジョンを操作して、階層毎に魔獣が出てこないような仕組みを作り上げて行きましたわ」
「昔にダンジョンから魔獣が溢れているのか」
「ダンジョンから魔獣が溢れた時に事態を収めようとした国が、リング王国であり、ツヴィ王国ですわ」
リング王国とツヴィ王国の貴族がダンジョンに潜ることを推奨していたのは、ダンジョンから魔獣が溢れさせないように管理する事を考えて行動しているのか。
リング王国とツヴィ王国は戦力が豊富なのに侵略をしないのは、ダンジョンを軽視しないようにと、侵略を控えているのかもしれない。
「だから貴族はダンジョンに潜るのか」
「貴族の後継ぎ以外は一度はダンジョンに挑む事になりますわ」
「後継ぎはダンジョンに行かないの?」
「基本的に行きませんわ。ダンジョンに行ったとしても、この場所の奥には連れて行きませんわ。伝承として後世に伝えて行くため、緊急時以外は後継ぎはダンジョンに連れて行くことはありませんわ」
俺とベスの会話に、フレッドが参加してくる。
「リング王国ではそうですが、ツヴィ王国では後継ぎもダンジョンに修行のために行きますな。この魔獣を止めているネズミ返しの先については、リング王国と同じように後継ぎは入らないようにしておりますな」
「微妙にリング王国とツヴィ王国は違うんだね」
「ツヴィ王国は魔獣が溢れた混乱後期に、リング王国は魔獣が溢れた混乱より前に国が出来たと言われておりますな。それが若干の違いを生んだと言われていますな」
「伝承して伝えて行く重要性をリング王国は体験しているって事か」
「ツヴィ王国は進むことを重要視していた訳ですな。魔獣が溢れるのが終わってからリング王国を真似たと教えられましたな」
以前にリング王国と似たような目的の国は元々は多かったと教わったが、伝承が途切れたか、国自体がなくなってしまったのかもしれない。
しかしこんな重要な事を何故隠しているのだろうか?
「ベス、なんでダンジョンから魔物が溢れた事を隠しているんだ?」
「理由はいくつかありますが、忘れられた事が一番大きいですわ。邪心を持ってダンジョンの奥まで行ける人はそう居ないので、私としてはそこまで秘密にする必要はないとは思っていましたわ」
「それなら何故伝えないの?」
「改めて事情を聞いたところ、ダンジョンがある事が前提で成り立っている街が多いらしいですわ。住民を無意味に怖がらせない目的もあるらしいですわ」
アルバトロスは街の外にダンジョンがあって、ダンジョンがなくても存続できるように街づくりをしているが、一部の街では街の中にダンジョンがあって、ダンジョン中心に発展している場所もあるとベスは教えてくれる。
それに今のところダンジョンは管理されていて、魔獣が溢れることはないらしい。溢れそうになれば予兆があるらしく、貴族にはその予兆もどのような物か伝わっているらしい。
そういえば貴族といえば、今のところ冒険者ギルドで貴族の冒険者に会ってないが、実際に冒険者に貴族はどの程度いるのだろうか?
「貴族は一度はダンジョンに挑むって言うけど、ライノは貴族が何人か居るって言ってたけど、実際のところはどうなの?」
「最近だと冒険者を雇ったり、騎士に守られて一度だけダンジョンに潜るといった貴族も居ますわ。逆に魔力を求めてダンジョンに通ってる人もいますし、貴族も色々ですわ」
「守られてダンジョンに行くっていうのは、伝統だからダンジョンに行く貴族もいるのか」
「高位の貴族であればある程ダンジョンの重要性は分かっているので、一度はダンジョンに行きますわ。ですが男性は好きでダンジョンに行く人もいますが、女性だと少ないですわ」
「ベスは珍しいってこと?」
「私は例外ですわ」
自分で例外とはっきり言い切ってしまった。やはりベスは貴族でも珍しい存在なのか。
「女性貴族は協会で研究者をする場合が多いですが、テレサのように騎士を目指す場合もありますわ。私の場合は末席とは言え王族なので騎士になるのは難しいですわ」
「そういう理由もあるのか」
「私は騎士になる気はありませんでしたが、なりたいと言っても無理だった可能性が高いですわ」
気にしてないようだが、ベスの選択肢は最初から削られていたようだ。
「話が逸れましたわ。エド、この先に進みますの?」
「俺は進もうと思うけど、魔獣は何が出てくるか聞いても?」
「最初はゴブリンだと聞いていますわ」
「ゴブリンか」
前世の知識だと雑魚というゲームなどの知識が多いが、この世界では意外と危険な相手だ、道具を使う知能があり、尚且つ狡猾でずる賢い筋力も侮れる物ではない、しかもゴブリンは大半が魔獣なので魔法が使える。
「ゴブリンか。出会ったら逃げるようにと教えられたよ」
「ダンジョンの外に居るゴブリンは、ダンジョンが溢れた時に外に出た魔獣の一部なので、ダンジョン内のゴブリンより頭が良く狡猾だと言われていますわ。そのようなダンジョンから溢れた魔獣を倒して回るのも貴族の役目ですわ」
「ダンジョンが溢れた時にでた魔獣と、以前から居た魔獣は差があるの?」
「凶暴性が違うと言われておりますわ。ガーちゃんとメガロケロスは怒らない限りは大人しいので、溢れる前から居た魔獣だと思いますわ」
「そんな差があるのか」
ゴブリンとは戦ったことがないのでどうなるかは分からないが、逃げられない事は無いと思う。油断するつもりはないが、外のゴブリンより弱いというのなら、一度戦ってみるべきだろう。
「ベス、ゴブリンと戦ってみないか?」
「そうですわね」
俺たちは湖に近づく。湖の真ん中にある島まで泳いで渡るのだろうか?
「ベス、これはどうやって渡るんだ?」
「渡る方法はダンジョンの仕組みを使うと教えられましたが、私も使った事がないので教えられた通りにやってみますわ」
湖の周辺に石柱のようなものがあり、それをベスが触ると船が現れる。
「出ましたわ。これに乗って奥に進みますわ」
「急に現れたね」
「ええ。私も初めてなので驚きましたわ」
驚きつつも俺たちが船に乗ると、ベスが全員乗ったのを確認したとに操作をすると、船は自動的に動き出た。
「エド、島には基本何も居ないのですが、ゴブリンが稀にですが下の層から登ってくることがあると聞いています。注意して欲しいですわ」
「分かった。注意しよう」
島まで船がたどり着くと、皆で警戒しながら島を回るがゴブリンは居る様子がない。
「ゴブリンは居なさそうだね」
「良かったですわ。船から降りるところを狙われたら大変でしたわ」
「確かに降りたところをゴブリンに狙われるのは怖いな」
改めて島を見回すと、大きさはそれほどない。奥に進むには、今までのダンジョンの大きさを考えると小さな入口で、今まで無かった下りの階段だ。
「入口が小さいね」
「人間が通るのと、ゴブリン以外が出てこないように考えられていると聞いていますわ」
「なるほど。人間とゴブリンしか通れないような大きさだ」
「オークの小柄な個体であれば、頑張れば通れてしまうかもしれませんわ」
オークは人間の大きさに似た個体も居るとは聞いた事があるので、ベスの言う通り通れそうではある。
島の中に石柱があるので帰り方もなんとなく分かるが、ベスに聞いてみる。
「ベス、帰り方はさっきと同じ?」
「そうですわ」
しかし、この仕掛けだとゴブリンも利用できそうだがどうしているのだろうか?
「これってゴブリンが使って島から渡っていかないの?」
「船に魔獣が同乗することは可能なので注意はするようにと言われましたが、船を出す仕掛けを魔獣は使えないと聞いていますわ」
「便利にできてるんだね」
「そうやってダンジョンを操作していると言うことですわ」
そう言えば、ダンジョンは人間が操作しているんだった。ダンジョンが人間に都合の良い場所だと感じていたのは、操作した結果だったのか。
ここから先に進むには、階段を降りてゴブリンのいる場所まで歩いて行くことになるが、ドリーとリオが飛ぶような高さはないので、歩いていかないとダメだろう。
「ドリー、リオ、この階段は飛んで降りれないから歩いて移動する事になるから注意して欲しい」
「うん!」
「分かりました」
階段は狭いので一列になって歩くのでフレッドを先頭にして階段を降りていくと、階段を降り切った場所はある程度の広さがあるのが視界に入る。フレッドが階段を降り切ったところで盾を右側に振り切った。
「ゴブリンは狡猾と聞きましたが、確かに狡猾ですな。まだゴブリンが居ますな」
フレッドが盾を振った場所を覗くと、ゴブリンが倒れている。どうやらゴブリンは、階段を降り切った場所の視界に入らない所で待ち伏せしていたようだ。俺は階段から皆が降りれるように、倒れているゴブリンの方に移動した。ゴブリンに剣を刺して死んでいるか確認する。
「突っ込んで来てくれれば楽なんですがな。どうやらそうも行かないようですな」
「みたいだね」
ゴブリンが魔法を使おうとしているので、魔法の制御を奪おうと邪魔をする。ゴブリンは簡単な魔法しか使っていないようなので、魔法の制御を奪えたのでゴブリンに魔法を叩きつける。
「ゴブリンの魔法は単純なようだ。簡単に奪えたよ」
「それは良いですな。拙者には難しいので徐々に前に詰めて行きますな」
「頼んだよ」
フレッドは階段の近くから徐々に進んでいく、俺もそれについて進んでいくと、皆が階段から降りたようだ。アンが弓で攻撃したり、ドリー、リオ、ベスがゴブリンの魔法の制御を奪っていく。フレッドがゴブリンに接近する前に、ゴブリンは全滅した。
「拙者が戦う前に終わりましたな」
「階段降りた直後の奇襲を阻止してくれてるじゃないか」
「そんなこともありましたな」
階段を降りた直後に待ち伏せしているとは思わなかったので、あれはフレッドが先頭でなければ正直厳しかった気もする。
「ゴブリンは想像以上に頭が良いようですな」
「みたいだね。魔法に関してはそこまでだったけど」
「魔法を使う相手との経験が少ないのかもしれませんな」
「それはあるかもな」
外に居る魔獣が頭が良くて狡猾なのは、そういう経験の差なのかもしれない。
変更(間違えてた):リング王国は魔獣が溢れた混乱初期に国が出来た → 混乱より前に国が出来た
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