ターブ村がある理由
昨日、ドリーの友達がドラゴンだと発覚した。トリス様やレオン様に伝えるには少し遅い時間だったので、今日のルーシー様の診察をしてから話す事にする。エマ師匠が回復したのでジョーは協会に残って、エマ師匠が付いてきてくれている。
ルーシー様の経過は魔法格闘術を使えるからか順調で、少し歩けるようにもなってきた、現状は後遺症のような物も見当たらないので安心できる。
「ルーシー様の経過は順調ですね、後遺症も見当たらないですし」
「それは良かったわ」
ルーシー様に付いている薬師や魔法使いに更に話を聞くと、付ききりの為に俺とドリー以上に現在の病状を知っている。ルーシー様に付いている方々は、俺とドリーより経験が豊富なので完全に任せても問題ないと思うのだが、トリス様に言われて俺とドリーも一日一回、診察に来ている。
「それではルーシー様安静にして回復に努めてください」
「分かりました」
ルーシー様の診察が終わり部屋を出ると、トリス様から話があると言われる。
「エド、ドリー話があります。いつも使っている部屋に向かいます。ベスもそちらで待機しています」
「分かりました」
ドリーの友達の話をするのに丁度いいな。そう思っていたが部屋に入ってトリス様が話し始めた内容で驚き、それどころではなくなった。
「昨日、エドとドリーの生まれた村に向かった冒険者が帰ってきました」
「あれ? そう言えばターブ村を調べに行った冒険者は、まだ帰ってきてなかったんですか?」
「そうなのです。村長が調査に協力的ではなかったようで、領主である男爵の元まで行って話を聞いてきたようなのです」
調査に行った冒険者が帰ってきてなかったとは。村長が協力しなかったのも謎だが、依頼とはいえ冒険者が男爵の元まで話を聞きに行ったのも凄いな。
「俺はターブ村から出たことは無かったし、男爵が住んでいる場所は知りませんが、ターブ村から男爵が住んでいる場所まで結構あるんですか?」
「かなり距離があったようです。男爵に会いにいくのに移動に時間がかかってしまったと報告を聞きました」
「男爵領だと以前に教えて貰ったからそこまで広くはないと思っていました、結構広いんですね」
「そうなのです。そして、男爵領にしては広いのがターブ村が存在した理由でした。ターブ村を開拓できれば男爵は子爵への陞爵も可能性があり、男爵は代々魔獣が多く広げられない土地を維持していると説明したそうです」
ターブ村が広げられない理由は魔獣が襲ってくるからと聞いたが、土地を広げられなくても村を維持していたのは陞爵が理由だったのか。
「元々はターブ村の位置を男爵領最大の街にする計画だったそうなのですが、強力な魔獣の前に撤退したそうです。撤退以降は規模を縮小して、魔獣が居なくなるまで監視をする拠点として出来たのがターブ村だったそうです」
「魔獣が居なくなるって、倒したりしないんですか?」
「考えたそうですが男爵単独では無理で、王家に頼み込まないと倒せないと判断したようです」
「そんなに強い魔獣だったんですか?」
「ドラゴンの群れだそうで、今も住んでると猟師が言っていたと、冒険者は聞いてきました」
ドラゴンの群れ? 俺はドリーを見る。
「ガーちゃん?」
「ドリー、ガーちゃんとは?」
「ドリーのお友達」
あ! トリス様にドリーの友達がドラゴンだとまだ言ってなかった!
「エド、ガーちゃんとは何です?」
「ドリーの友達で、以前言った苔をくれた魔獣の名前なんですが、その、調べたらドラゴンでした」
「………」
トリス様は絶句してしまった。俺もドラゴンだと言われて驚いたしな、まさかドラゴンだとは思わない。
「エマ?」
「ベアトリス様、昨日メアリー様も一緒に調べましたが本当のようです。苔を主食にしているので、群れで生活しているため絶対に近づかないようにと」
「もう少し早く知りたかったですね」
早く知りたかった? トリス様の言葉が不思議だ。
「トリス様どう言う事です?」
「ターブ村は壊滅しました。冒険者が男爵に事情を聞きに行っている間に、どうやら踏み込んでいけない場所まで開拓した者がいたようです」
「そんな! 皆は無事なんですか!」
「家屋は壊滅状態ですが人への被害はほぼ無かったと報告を受けました。開拓した者は男爵が処刑してしまったようですが、村人の大半は男爵が引き取ったそうです」
人への被害がほぼないと言われて安堵するが、誰かが処刑されたと言われて誰だか気になる。
「トリス様、誰が処刑されたのか聞いても?」
「それに関しては私より詳しい人に聞きましょう」
トリス様はメイドさんに指示すると、誰かが入ってくる。
「エド、ドリー久しぶりだね」
「ウォルター協会長!」
「もう協会長じゃないさ、ウォルターとでも呼んでくれ」
「良かった。無事だったんですね」
「何とかね。あんな量のドラゴンが居るとは聞いてなかったから、流石に死んだかと思ったよ」
俺もドリーがガーちゃんと友達にならない限りは近づこうとは思わなかったし、体が大きいから正確な数は分からないが五十頭近い群れだった気がする。
「よく無事でしたね?」
「不思議と人は食べようとしていなかったから。薬師のオジジは何故か追いかけ回されていましたが」
「オジジが?」
「そうです。何故でしょうね?」
もしかしたらドリーの調合した薬の匂いでも覚えていたのだろうか?
「ドリーと同じ匂いでもしたんですかね?」
「何故ドリーが関係あるのです?」
「ドラゴンはドリーの友達なので」
「と、友達?」
ウォルター協会長、いやもう協会長じゃないのか、ウォルターさんはドラゴンがドリーの友達だとは知らなかったようだ。
「オジジとケネスおじさんは知ってる気がするんですが」
「私は聞いていませんが、二人ともアルバトロスに来ているので後で聞いてみます」
「え! オジジとケネスおじさんが来てるんですか?」
「私がアルバトロスへと誘いました。あの男爵領にいるよりは良いだろうと、一番近くて規模の大きい街としてアルバトロスへ移動してきました。私は元々王都を拠点としているのですが、王都に行くにしても違う場所に移動するにもアルバトロスは便利でしたし、調査をしていた冒険者も一緒に移動したので道中が安全でした」
どうやらオジジとケネスおじさんも無事だったようだ、安心した。
「ウォルター積もる話もあるでしょうが、今はエドにターブ村で起きたことの説明を」
「そうでした。まずはそうですね、私が協会長を辞めるため協会に代わりの魔法使いを派遣して貰ったところからですか。エドとドリーを弟子にするため私は任期の期間を延長していたのですが、エドとドリーが居なくなったので任期中ですが辞める事にしたんです」
ウォルターさんは俺たちのためにターブ村に残っていてくれたのか。
「俺たちのために、ウォルターさんすいません」
「気にしないでください私が決めたことですから。任期中に辞めることが許可されて、新しい協会長がターブ村に来たので引き継ぎをしていたのですが、問題のある魔法使いだったようで、覚えが悪く手こずっていたんです。新しい魔法使いはターブ村の協会長は本意では無かったようで、村人に気づかれないように秘密の畑を作っていたようです。ちなみに手伝っていたのはエドの兄でした」
普通任期中に辞めるのは難しいはずで、ウォルターさんは俺たちの事情を説明したのだろう。だから新しい協会長が派遣されたが、ターブ村がしでかした事を重くみた協会は、やる気のない魔法使いを派遣したのかもしれない。しかし、やる気のない魔法使いを兄が手伝うのは不思議だ。
「兄が秘密の畑? 何でそんなものを?」
「どうやら違法な植物を育てて売ろうとしたようで、耕した場所に植えられていた種子が二人から発見されて男爵は怒りに怒って、そのまま処刑してしまいました」
処刑? 兄は死んだのか? 実感がなさすぎて戸惑う。そもそも兄は家を継ぐのだから、村を広げられない理由を知っていた筈では?
「兄は何故そんなことを? 村を広げられない理由を知っていたのでは?」
「魔法使いに良いように操られたようですね。私も後で知ったのですが詐欺師として有名な魔法使いだったらしいのです」
「え?」
俺は今まで黙って聞いていたベスを見ると驚いている。ベスはウォルターさんに自己紹介した後、詐欺師として有名な魔法使いの特徴を聞くと、ベスに最初に魔法を教えた人物と同一人物だったようだ。
「そう、死んだんですの、一発くらい殴りたかったですわ。ウォルター、話が聞けて良かったですわ」
「エリザベス様、知り合いだったんですか?」
「最初に魔法を教えられましたわ」
「それは何というか、災難ですね」
「ドラゴンに襲われたウォルターほどではありませんわ」
「確かに。ドラゴンは本当に生きた心地がしませんでした」
ウォルターさんはドラゴンがよほど怖かったのか、顔を青白くしている。
しかし詐欺師の魔法使いは、何故違法薬物なんて育てようとしたんだろうか?
「ウォルターさん、詐欺師は何故違法薬物を?」
「詳しく調べる前に男爵が処刑してしまいました、何処かに流していたとは言っていましたが、単純にお金目的だった可能性が高いです」
「魔法使いを普通にしてれば、普通以上に稼げそうなのに」
「私もそう思います」
最近知った魔道具の値段を考えると、魔道具だけ作っていても十分以上にお金は稼げそうだった。
「そうだエド、伝えないといけない事があります」
「何ですかウォルターさん?」
「村長が逃亡しているので、見つけたら捕まえるようにと」
「村長は逃げてるんですか。でも何で?」
「責任者ですからね。流石にお咎めなしとは行かないので、村長も分かっていたから逃げているのかと」
そうか村長は監督責任があるのか、そう言えば俺とドリーの親はどうなったんだ?
「ウォルターさん、俺の親はどうなったんですか?」
「それが、ややこしくて。父親は男爵領に、母親は何故か村長と逃亡していたようです。ただ途中で村長と別れたのか母親だけ見つかっています」
「何で?」
「分かりません」
俺は意味が分からないが、ウォルターさんも分からないようだ。俺は悩んでいると、トリス様が声をかけてくる。
「エド、一度ターブ村を確認してきて欲しいのです」
「俺がですか?」
「ドラゴンがドリーの友達と聞かなければ頼みませんでしたが、男爵領はメガロケロスと一部接しているので安全を確認したいのです」
「分かりました。それなら俺とドリーで確認してきます」
「二人ではなく、ベスと仲間も連れて行きなさい。」
仲間かベス、フレッド、アン、そしてリオ。リオ?
「トリス様、リオもですか?」
「そうです。むしろリオを連れて行って欲しいのです」
「連れて行かないで欲しいではなく、連れて行って欲しいですか?」
「王家にも男爵領にある森の危険性を知って欲しいのです。ルーシーの病状は幸い良くなってきています、騎士が何人か抜けても問題ないでしょう」
「つまりリオは王家の代理として、ベスは辺境伯の代理として動くのですか?」
「そうです。護衛は用意するので心配はしないでください」
トリス様がベスに命令するように話しかける。
「エリザベス、辺境伯の代理として男爵領を視察しなさい」
「お母様、承知致しましたわ」
「ベス、無理はしないように、相手はドラゴンですから」
「分かっておりますわ、ドリーの友達に会いに行くだけですわ」
「そうね、友達、友達ですか」
ベスは楽しそうだが、トリス様はドリーの友達が衝撃的だったようだ。
俺の仲間はターブ村に行くのは決まっているが、他に付いてきてくれる人を聞いておきたい。
「トリス様、誰が護衛として付いてきてくれるのですか?」
「リオには王都の騎士と魔法使いを、ベスにはテレサとその部下を。後はエマに頼もうと思っているんですが、どうですか?」
「ベアトリス様、承知致しました」
「助かります。後はエレンにも話をしておきます。それと、ウォルター行ってもらえますか?」
「男爵と会った場合に顔を繋ぐ必要がありますね。承知致しました」
付いて来てくれるのはありがたいが、ドラゴンに恐怖を覚えているウォルターさんに悪いなと思ってしまう。
「ウォルターさん良いんですか?」
「男爵と会った事があり、ターブ村を知っているとなると、私以外だと冒険者と一緒に行動していた猟師のケネスですが、今は家族毎アルバトロスに避難して来ているので、無理をさせたくありません」
「ありがとうございます」
「いえ、ドリーが居て安全ならドラゴンを観察してみたいですしね」
「俺は攻撃されたりしたことは無いので安全だと思います」
「攻撃されないのであれば、楽しみですらありますね」
見た目からして強そうで格好良いので、ウォルターさんが言いたい事とは違うだろうが、俺もドリーの友達に会いに行くのは楽しみだった。
「しかし、そうなるとドリーが居れば村は開拓できた可能性が高いのですか?」
「どうだろ? 強い魔獣はまだ居たから、ドリーが居れば多少は広げられたかもしれないけど、開拓は無理じゃ無いですかね?」
「まだ強い魔獣が居るのですか?」
「ドラゴンが一番強かったとは思いますが、別で強い魔獣は居ますね」
「ターブ村の森は、そんな魔境だったんですか」
魔境だったのか、気付かなかった。ケネスおじさんに深くまで入るなとは言われていたが、俺とドリーは実は入ったことあるのだが確かに怖かった。
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