メガロケロス辺境伯
昨日言った通り、エマ師匠は寝込んでいる。エマ師匠の知り合いに看病をお願いして、俺とドリーはジョーと共に辺境伯の屋敷へと向かう。
辺境伯の屋敷に着くと、今日もアビゲイルさんが待っていた。
「ベアトリス様の元へ参ります。その場にエリザベス様もお呼びいたします」
「分かりました」
トリス様が居る部屋へと案内される。
「エド、ドリー昨日は助かりました」
「王太子妃殿下はどうですか?」
「調子は随分と良くなったようです。ただ体が弱っているので、筋力などの回復をしなければなりませんが」
「どのくらい病気を患っていたか分かりませんが、確かにそれは必要そうですね」
魔法も無くなった筋力までは戻してくれないらしく、自力で鍛えるしかない。
トリス様はジョーに話しかけている。
「ジョゼフ、久しぶりですね」
「ご無沙汰しております。ベアトリス様」
「ジョゼフが来たと言うことは、エマもやはり寝込んでいますか」
「はい。なのでワシが代わりに来ましたぞ。エドとドリーの為と言うよりは、エマに話の内容を伝える為じゃが」
「そうですね。エマにも治療の状況は伝えた方が良いでしょう」
俺はトリス様がエマも寝込んでいますか、っと言ったのが気になる。
「トリス様、他にも誰か寝込んでいるのですか?」
「結構な人数が寝込んでいます。エドたちと関係がある人だと、エレンも寝込んでいます。エマと交代で同じように魔法を掛けていたので、王太子妃殿下の治療が終わったと伝えたら寝込みました」
エレンさんもエマ師匠と同じように、魔法薬で体力を回復させて魔力を回復させていたんだろう。
誰かが来たのか部屋の扉が開くと、ベスが部屋に入ってくる。
「お母様、参りました」
「ベス、来ましたか。話を始めたいですが、ベスはジョゼフと顔を合わせたことはありましたか?」
「いえ、ジョゼフとは腕輪を作ってくれた魔法使いですわよね?」
「そうです。エマの代わりに今日来ています」
ベスはいつもと違う人物に気づいたようだ。
「初めましてエリザベス・フォン・リング・メガロケロスですわ。腕輪や装備感謝しております。ベスと呼んで欲しいですわ」
「ワシはジョゼフじゃ。ジョーとでも呼んでくれ。ベス、装備は気にするなワシが勝手にやったことじゃ」
「ジョーそれでも感謝はしておりますわ」
ベスとジョーの挨拶が終わったところで、トリス様が話し始める。
「後でエドとドリーにも診察してもらいますが、王太子妃殿下の病状は伝えましたので。エドとドリーには、もう一度詳しく薬草を見つけ薬を作った状況を教えてください」
「はい」
ダンジョンでドリーが最初に宝箱を見つけたことなどを説明していく。ドリーがお土産だと宝箱をトリス様に渡す。
「お母さん、おみやげ!」
「あら、嬉しいけれど。ドリー、良いの?」
「うん!」
ドリーから宝箱をトリス様が受け取ると、メイドさんに預けた。トリス様は報酬の話を俺にする。
「報酬を払うのですが金銭が良いのか、違う物が良いのか聞いて来てください」
「分かりました」
トリス様の報酬を払うで思い出す、そう言えばまだ素材が余ってる。
「トリス様、まだ素材が余ってますがどうしますか?」
「メガロケロス家として買い取りたいですが、王家でも買い取ると思います。素材、薬、魔法薬どの状態で買い取るか、私が王家に聞いておきます」
「分かりました。ただ、魔法薬は現状ドリーしか作れませんよ」
「そう言えばそうでしたね」
トリス様はジョーに尋ねる。
「ジョゼフも魔法薬を作るのは無理ですか?」
「ワシでも無理じゃ。というか普通の薬も怪しいぞ、一度も作った事がないんじゃ」
「王都から連れてきた薬師も作った事がないと言っていましたね」
王都の薬師も作った事がないとは、ターブ村のオジジは作り方よく知ってたな。
「じゃろな。作り方を知っていても素材が手に入らん」
「だから以前にアルバトロスで薬が売っていたと辺境伯が伝えたところ、可能性があるならばと王太子妃殿下を運んできたのですが」
「そう言えば噂になったな薬が売っているぞと。ワシも覚えておるぞ」
「それを作ったのはエドとドリーの可能性が高いのですから、運んできたのは正解ですね」
「なんじゃと! そう言えば、エドとドリーが作った事があると言っていたがそれか!」
「時期的に同じ物の可能性が高いです」
そう言えばオジジも作った事はないと言っていたな。最初の作業はドリーがほとんどその時もしたのだ。
一通りに話が終わったのかトリス様が移動すると言う。
「それでは移動します」
「王太子妃殿下のところにですか?」
「いえ。辺境伯に会ってもらいます」
「え?」
ドリーは気にした様子がないが、俺とジョーは驚く。
「話は通してあったのですが、屋敷がこんな状態ですし。しばらく忙しいのは決まっています。なので先に会ってもらいます」
「分かりました」
トリス様に促されて俺たちは移動する。
執務室なのだろうか入ると俺は驚く、ライオンの獣人が居た、赤髪でかっこいい。
「トリス来たか」
「エドとドリーを連れて来ました」
「そうか」
トリス様を呼び捨てにしてると言うことは、ライオンの獣人が辺境伯らしい、驚いて固まっていると挨拶をされる。
「私はレオン・フォン・メガロケロス辺境伯だ」
「エドワードです」
「ドロシーなの」
「うむ、エドにドリーと聞いている。そのように呼ばせてもらう」
「はい」
「うん」
流石にドリーもいつもの挨拶ではなかった。
「私の事はお父さんでもレオンとでも呼んでくれ」
「お父さん?」
ドリーは戸惑っているようだが、お父さんとレオン様を呼ぶ。
「うむ、なんだドリー」
レオン様は聞き返しながらドリーを抱き上げる。
「お父さんはライオンなの?」
「そうだな。ライオンの獣人だ」
「すごーい」
ドリーは俺も気になっていた事を聞いている。レオン様は俺に好きに呼べばいいと言ってくれる。
「エドも好きに呼んでくれていいぞ」
「ではレオン様で」
「分かった」
と言うか、ベスが目指していたのって辺境伯であるレオン様だった筈だ。完全な獣人を目指していたのか…あれ? ベスも獣人なのか?
「ベスって獣人だったの?」
「そうですわ。瞳孔が若干違いますわ」
「そうだったんだ」
「弟はもっと獣人に近いですわ。今度紹介します」
「お願いします」
この場にベスの弟が居ない事情をレオン様が教えてくれる。
「帰りが強行軍だったから帰ってきたら倒れてしまってな」
「そんなに大変だったんですか」
「かなりな。私でも大変だったからな。王太子も来たいと言っていたが、人数の問題もあり急ぐので断って正解だった。しかし、リオは道中に役割を何も割り振っていないとはいえ、我慢強くよく持った」
王太子も一緒に来るつもりだったのか。しかし、大人の獣人が大変だと言うのだから、本当に大変だったのだろう。帰って来た時の列はそのように見えなかったが、疲れていないフリをしていたのだろか。
「エド、ドリー、薬は本当に助かった。王太子妃殿下をアルバトロスへ連れてくるのは賭けだったが、賭けに勝ったようだ」
「いえ、偶然で運が良かっただけです」
「だとしても十分以上の成果だ」
また移動するとトリス様が言う。
「それでは顔合わせも済んだので、次は王太子妃殿下の元へ行きますよ」
「はい」
俺たちは昨日診察した部屋と同じ部屋へと向かう。
「ルーシー起きていますか」
「ええ。トリス起きているわ」
王太子妃殿下は思った以上に元気そうに寝具の上で起き上がっている。
「エドとドリーを連れてきたわ」
「昨日の魔法と薬を作ってくれた子ね」
「ええ」
王太子妃殿下は俺とドリーに声をかけてくる。
「私は、ルシル・フォン・ツヴィ・リングよ」
「エドワードです」
「ドロシーなの」
「エドとドリーと呼ぶわ、私の事はルーシーと呼んで良いわ」
王太子妃殿下の自己紹介で気付く、ツヴィとリングが入っている。先ほどレオン様はリングがなかった。混乱しながらツヴィについて聞く。
「ルーシー様はツヴィ王国の出身なんですか?」
「ええ。ツヴィ王国の元王女よ。ツヴィ王国の魔法使いでもあるから、起き上がれるの」
「王女様だったんですか、なるほど。ツヴィ王国の魔法使いなら体の回復も早いかもしれませんね」
ルーシー様は俺がツヴィ王国の魔法使いを知っているとは思わなかったようだ。
「ツヴィ王国の魔法使いを知っているのね」
「はい、最近教わったら使えるようになって」
「もしかして両方使えるの? 珍しいわね」
「そうらしいですね。友人も両方使えると言ってましたが、後から覚えた方は難しいと言っていましたし」
ルーシー様は聞き返してくる。
「両方使える友人?」
「はい、ツヴィ王国の魔法使いなんですが」
「名前を聞いて良いかしら」
「フレデリック、俺はフレッドと呼んでいます」
ルーシー様は驚き、トリス様に確認する。
「トリス知っていましたか?」
「知りません。新しい仲間ができたとは聞きましたが」
「トリス、本人か確認して貰っても?」
「分かりました」
俺は二人が慌てているのが不思議で尋ねると、トリス様が答えてくれる。
「あのフレッドが何か?」
「ツヴィ王国から家を出たので、見つけたら保護をと言われています。まさかアルバトロスに居るとは」
「保護ってフレッドの家族が頼んでいるんですか?」
「それもありますが。基本的にツヴィ王国の魔法使いが家を出ると、リング王国には保護願いが出ます」
そう言えばトニーさんが精神的に不安定だと言っていたし、フレッドも同じことを言っていた。そう考えると保護は必要そうだ。
ルーシー様はまだ病気が治ったばかりで余計な公務などを考えるべきではない。なので今はルーシー様の診察をする
「フレッドの事は後でトリス様と話しますので、今はルーシー様の診察をします」
「分かりました」
俺とドリーで診察をする。ルーシー様は魔法で身体能力を上げているから起き上がっていられるが、普通だったら起き上がるのは無理な状態だ。
「やはり魔法で起き上がれては居ますが体の方は回復していませんね。休養をしっかり取って下さい」
「はい」
「後遺症が残っている場合がありますが、体の感覚はどうですか?」
「今のところ感じていません」
「後遺症はない可能性が高いですが経過を見ましょう」
自分以外にも薬師や魔法使いは居るので、ルーシー様の経過を聞いて今後の治療方法を確認する。他の薬師や魔法使いが考えた治療方法は、俺とドリーも問題がないと判断した。
「では、後は安静にして回復に努めて下さい」
「分かりました」
俺たちが長時間居ても負担になりそうなので退室する。
トリス様の部屋に戻ると、俺はベスとトリス様の名前にリングと有るのが疑問に思って聞く。
「ベスとトリス様にリングと付いてるのは何故です?」
レオン様は驚いた様子でトリス様に話しかけている。
「何だ言ってなかったのか?」
「ええ。距離を感じてしまうかと思って言っていませんでした」
「それもそうか」
「ルーシーの名前で察してしまうでしょうし。私は現国王の娘、王女です」
トリス様は驚いた事に王女だった。俺が驚いていると、ドリーも驚きトリス様にお姫様かと聞く。
「お母さんは、お姫様なの?」
「そうですね、身分的にはそうなります」
「すごーい!」
俺はベスも王女なのが不思議で聞いてみる。
「ベスも王女なんですか?」
「私の継承権が残っているので王族となります、ベスの継承権は低いですが王女です」
「トリス様は嫁いでいるのに継承権が残ってるんですか」
「私の兄が王太子なので私が女王になる予定はありませんが、現国王の子供は数が多くないので、継承権を破棄しないで欲しいと頼まれました。なので私は緊急時には王家に戻る事になります」
トリス様は緊急時に女王になっても問題ないように継承権を残したまま嫁いでいるのか。
ベスが黙っていた事を謝ってくる。
「エド黙っていて申し訳ありませんわ」
「いや、俺としてはベスが辺境伯の娘だろうと、王女だろうと、ベスがベスなのは変わらないから気にしないで」
「嬉しいですわ」
ベスがベスなのは変わらないし。そもそも王女も辺境伯の娘も、俺からするとどちらも自分から差がありすぎて逆に差がわからない。
俺とドリーの様子を見て、トリス様は安心したと言ってくれる。
「エドもドリーも気にしていないようで安心しました」
「お母さんは、お母さんだから!」
ドリーがそう言うと、トリス様は嬉しそうにドリーを抱きしめている。
そう言えば名前にツヴィと残っていたルーシー様は継承権が残っているのだろうか?
「レオン様、ルーシー様はツヴィって残ってたけど継承権があるんですか?」
「リング王国とツヴィ王国の王族が結婚すると、国名を残すのが伝統だ。継承権に関しては非常時に対応するため曖昧になっている。基本的には継承権は無いものと考えればいい」
「リング王国とツヴィ王国だけなんですか」
「他の国と結婚すると名乗らなくなるな」
リング王国とツヴィ王国は本当に仲がいい国同士のようだ。
トリス様がドリーを抱きしめるのをやめて、フレッドの事を聞いてくる。
「忘れるところでした。フレデリックですが、今どうしているのです?」
「フレッドは協会で暮らしています」
「定住していますか、一旦は安心できますね。今後はベスとも組む事になるのだし、尋ねたいことがあるので一度呼びましょう」
「それなら、もう一人組んでいる人が居ます」
「そちらも呼びましょう」
トリス様は手紙を書いて、トリス様はメイドさんに協会に手紙を届けるようにとお願いする。
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