コンパウンドボウ
ジョーの倉庫でアンに丁度いい弓を探していると
「この部屋とても大きいですし、此処に有る物は全部魔道具なんですか?」
「俺も詳しくは知らないけど、ジョーの部屋は大きい方だと思うよ。それと、此処に有るのは全部魔道具だね」
「凄い量ですね」
「以前アンに言っただろ、魔道具なら余ってるから持ってくるって」
「エドのように、魔道具の値段を知らずにこれだけの量を見ていれば、そう思ってしまうのも分かります」
一応整理はされているが、部屋の至る所に並べられているので、とんでもない量だ。アンが魔道具の量に驚くの無理はない。見ていても仕方ないのでアンに弓を試しに引いてもらう。
「アン、一度試して欲しい。順番に弦を張っていくから」
「分かりました」
色々試して気に入った弓が有ったらしく、それを持ち帰ることにする。アンの採掘した鉱石を、ジョーは喜んでいたので、多めに魔道具を持って行っても気にしないだろう。
「ジョーは鉱石を喜んでたから、他に欲しい物があれば持って行って良いと思うよ」
「そうは言っても、自分が何が欲しいかが分からないです」
「これだけあると迷うよね」
俺はアンの装備を見ていくと、防具があっても良いかも知れないと思い。
「それなら防具はどう?」
「確かに必要です」
「体に合いそうなもの探して持って行こうか」
「はい」
防具を探してアンに合いそうなものを探していく。
「こんな物かな?」
「そうですね。ところで、これらの魔道具としての効果は何が有るんですか?」
「防具系は防御力が上がるような効果だね。だけど弓は何だろ? 貫通力か威力だとは思うけど、ジョーに聞いてみよう」
「分かりました」
魔道具の効果は、物によって大体つける効果が決まっている。効果の強弱の差があるだけだ。
魔法を元に魔道具は作られているが、違う魔法を元にしていても結局は同じような効果になっている。魔法によって、作る時の素材や効率が違ってくるので、ジョーは似た様なものを量産して、効率が良いのを研究しているのだ。
「ジョー、弓が見つかったんだけど、これって効果なに?」
「何の魔法を元にしとるかまでは分からんが、その弓は形状的に威力じゃな」
「威力か。アンが気に入ったから、これを貰ってくよ」
「良いぞ。好きに使うんじゃ」
「後、防具も貰ってきたいんだけど良いかな?」
「好きに持ってくんじゃ」
ジョーが弓と防具を持っていく事に、許可を出してくれた。アンがジョーにお礼を言う。
「ジョー、弓と防具、ありがとう御座います」
「これだけ鉱石を使えるんじゃ。魔道具くらい好きなだけ持っていくんじゃ」
やはりジョーは珍しい鉱石が手に入って、防具を持って行っても気にもしていない。そんなことを考えていると、ジョーが話しかけてくる。
「それでエドが考えている弓じゃが、試作してみるか?」
「アンに協会の中の案内と、家まで送って行っても良いかな? ジョーと試作を始めると時間を忘れるから」
「おお、そうじゃな案内して送っていくと良い」
「少し時間が掛かるけど」
「分かった待っとる」
ジョーと魔道具を作り始めると、アンが帰れなくなってしまいそうなので、ジョーの許可も出たので、初めて協会に来たのだし案内と、ダンジョンで鉱石を採掘するのに汚れたし、協会のお風呂を使うと良いだろう。お風呂はドリーに案内して貰って入って行くと良いだろう。
後は送るついでに、炊き出しの準備をする場所に取り出す魔道具と、今日狩った獲物も渡してくる事にする。
「協会内はこんな感じだけど。ダンジョンで汚れただろうし、アン良かったらドリーと協会にある共同のお風呂に入っていかないか?」
「協会の施設を使って良いんですか?」
「問題ない。受付で使える施設は確認しておいた」
「それならドリーに案内して貰うわ。鉱石を掘ったからか砂ぽくて」
ドリーとアンが風呂から出ると、協会から馬車を借りて、まず炊き出しの準備をする場所へと向かう。
炊き出しを準備する場所に、収納の魔道具と取り出す魔道具を置いた後、アンをバーバラさんの薬屋に送り届ける。送っていく途中に、ダンジョンが終わった後に食べたパンについて、改めてフレッドがアンにお礼を言っている。
「アン殿、昼のパン助かり申した」
「いえ、私も食べたかったので気にしないでください」
「うむ、それでもお礼を言わせて欲しいですな。拙者、久しぶりに魔法を使う様になったら、自分でも驚くほどの食欲になってしまいましてな」
フレッドの言った事に、アンは笑っている。
笑いが収まるとアンはフレッドに話しかける。
「分かりました。それなら、明日もダンジョンに行く様なら持っていきますね」
「おお、感謝致す」
明日もダンジョンに行くならと言った、アンに俺は声をかける。
「アンが問題ないなら明日も行こうと思う。けど今日は結構頑張ってたから無理そうだったら止めとくよ」
「そう言われると、あそこまで動き回ったのは久しぶりかもしれません。体調は、明日にならないと分からないかも知れません」
「それなら治癒の魔法を掛けとくよ。明日それでも無理そうなら止めておこう」
「良いんですか?」
「今日はまだ魔力が余ってるし」
「それならお願いします」
俺が魔法を使おうとすると、ドリーがやると言い出す。
「ドリーが、アンに魔法つかう!」
「それじゃドリーに、お願いしようかな。アンはそれで問題ない?」
「ええ、ドリーお願いします」
「うん!」
ドリーが魔法を掛けると、アンは少し驚いている。
「思った以上に疲れていたのかもしれません。楽になりました」
「アン、元気になったのならよかった!」
「ドリー、ありがとう御座います」
アンは、楽になる位には疲れていたようだ。
無茶をさせないように、注意しないといけないかもしれない。
「アン、無理しないで欲しいから明日は休む?」
「そうですね…明日の様子を見てからでも良いでしょうか?」
「分かった。明日、無理そうだったら止めておこう」
「はい。お手数かけますが、お願いします」
「気にしないで、安全第一だから」
今日のダンジョンで、アンはかなり動き回っていたし、魔法が使えないので、疲れが予想以上に溜まってしまったのだろう。今日のような速度で採掘するのは、止めておいた方がいいかもしれない。
明日はアン次第だが、疲れを何か魔道具で解決できないかと考える。俺の様に、エマ師匠が作った筋肉痛が回復する布で、何か服を作っても良いかもしれない。壁を登ったりするし、ポンチョではなく違う形が良いだろう。
同時にフレッドにも同じ布で、何か服を作っても良いかもしれない。布の量が足りるか分からないので、確認してから作るものを決めよう。
そんなことを考えていると、バーバラさんの薬屋に到着したので、アンを送り出す。
アンと別れた後は、協会に戻ってジョーとコンパウンドボウの試作をする。
「ジョー、弓の試作を作ろうと思うんだけど、加工しやすい物って何があるかな」
「ふむ、金属でやるんじゃったか?」
「そうだけど、最初は加工しやすい方が良いかも」
「それなら木を加工した方が楽じゃな」
「分かった」
地球の知識から作り方を調べていくが、流石に詳しいことまでは知らなかったようで、形を元に作り上げていく。ジョーの助言を貰いつつ、結構時間は掛かったが作り上げた。
「出来た。けど、打てるかな?」
「変わった形じゃな」
「そうだね。作るのが難しかったけど滑車も付けたし」
「ふむ。弓としては使えそうじゃが、威力はあるんかの?」
「分からないから、試してみたいけど」
「訓練場に人が居ないんじゃったら、そこでやるか?」
「訓練場でって、弓なんて射って良いの?」
「攻撃魔法じゃないし、問題ないじゃろ。行くぞ」
良いのかなっと思いつつも、ジョーが行ってしまったのでついて行く。
訓練場には誰も居らず、ジョーは試す気になったようで、声をかけてくる。
「では、射ってみるんじゃ」
「分かったよ」
俺は迷いつつも止められそうにないので、作ったコンパウンドボウを構えて弦を引く。
弦を引いていくと、木製のコンパウンドボウ自体から嫌な音がし始める。
「ジョー、木で作ったから本体が持たないかも」
「そうみたいじゃな。強度はそんなに無い木材じゃしな」
「とりあえず、射ってみるよ」
「ああ」
そう言うと俺は、引き絞っていた弦から手を離すと、矢が凄い勢いで飛んでいく。
「おお、すごいの!」
「思った以上に威力がありそうだね」
「そうじゃな」
「金属で作ったら、もっと飛びそうだけど重さが問題かな」
「ふむ。軽い金属で、強度もそこそこには欲しそうじゃな」
「何かある?」
「思いつきはするんじゃが、金属を加工するところから始めるとなると、時間がかかりそうじゃ」
「確かに、時間は掛かりそうだね」
その後、何回かコンパウンドボウを射ってみたが、本体が壊れそうなので中止して部屋に戻った。
「面白そうじゃから、ワシも作りたいのう」
「頼んでるアンの採掘道具とかもあるから、大変じゃない?」
「うむ。直ぐには無理じゃな」
今、ジョーに頼んでいるのは、アン用の採掘道具だが使い潰しても問題ないと言われた借り物があるし。弓もさっき貰った物が有るので、急ぎではない。
「弓はさっき貰ったし、採掘道具は借りてるのが有るから急いではないけど」
「そう言われるとそうじゃな。と言うことは、多少時間が掛かっても問題はない訳じゃ」
ジョーはそう言って、納得した様子の後で、どう作っていくかを話してくれる。
「エドが居る時は弓の製作をして、居ない時は採掘道具を作ろうと思うんじゃ」
「それが良いかも」
「それでは決定じゃ」
ジョーと俺は意見を交わしながらコンパウンドボウを制作していく。コンパウンドボウの制作にはフレッドには力が必要な場所の手伝いをして貰っている。ドリーには今回の作業が少し重いので、魔法格闘術を使って身体能力を上げて作業する事になり、フレッドにドリーの様子を見てて貰っている。
「今日はこの位にしようかな」
「そうじゃな。明日もダンジョンに行くんじゃろ?」
「そのつもりだよ」
「なら休んでおいた方が良いじゃろ」
ジョーにも同意されたので、今日は終わりにした。
次の日、アンの元に向かい今日の調子を尋ねると。
「アン、今日の調子はどう?」
「行けそうです」
「分かった。それと今日は昨日より採掘の回数を減らそう」
「確かに弓も使いたいですし、昨日は私も張り切りすぎました」
「確かに、弓も試さないとな。それじゃ行こうか」
「はい」
今日もダンジョンへと向かう。アンの弓が問題ないか確認した後に、ダンジョンの草原がある場所まで移動する。
「此処はダンジョンですか?」
アンは初めて草原がある場所まで来た事で驚いている。
「初めてくると驚くよね。俺たちも驚いたよ、外に出たのかと」
「外ではないんですよね?」
「ここもダンジョンの中だよ」
「そうなんですか…」
フレッドは俺に、草原について話しかけてくる。
「エド殿、このダンジョンは一番近い場所に草原があるのですな。比較的、探索しやすい分類ですな」
「フレッドは慣れてるね。やっぱり他のダンジョンも似たような感じなの?」
「色々ですな、酷いのだと最初から砂漠とかありますな」
「それは大変そうだ」
「大変ですな。暑いし道は分からなくなるしで、出入りする冒険者が非常に少なかったですな」
「ダンジョンにも当たり外れがあるなんて知らなかったよ」
どうやらフレッドが以前、出てくる敵はダンジョンで違うと言っていたが、ダンジョンの構造まで違うようだ。最初から砂漠では確かにやる気は無くなりそうだ。
草原はアンも足跡を見つけたりすることが出来たので、俺とアンが足跡を探し、ドリーが飛んで獲物を見つけ出す。獲物を見つけると、フレッドを前衛にして狩っていく。
「効率が良いですな」
「確かに。俺たちは各自の役割が上手く機能してるみたいだ」
「そうですな。獲物をここまで早く見つけられるのは凄いのでしょうな」
「ドリーが空から探してくれるから、どのくらいの距離あるかも分かるのが助かるよ」
ドリーの空からの索敵はとても助かっている。足跡では距離まで分からないので、警戒しながら進むことで時間が掛かってしまうのだ。だが、フレッドは足跡が辿れるのが凄いという。
「それもありますが、足跡を辿れるのが凄いですな」
「ギルドでライノにも言われたけど冒険者では珍しいらしい、俺たちはドリーは飛んでるけど、三人も足跡を辿れるから」
「それは恵まれて居ますな」
それからも俺たちは草原で狩りを続け、狩った獲物が多いので早めに切り上げた。ダンジョンから帰るとジョーとコンパウンドボウを製作して行く。
それから二日は同じように狩りをしていた。
三日目に、ドリーがダンジョンの洞窟になっている場所を飛んでいると、何かを発見したようだ。
「にーちゃ、何かある」
「何処に?」
ドリーは俺には見えないところで、何かを見つけたようだ。
「上にあなが空いてるの」
「アン、見てきて貰っていいか?」
「分かりました」
アンが壁を登っていくと、ドリーが見つけた穴を、見つけたようだ。
「これは何でしょう? 穴の中に箱があるのですが動きません」
「アン殿! 無理に動かしてはなりませぬ!」
フレッドは何か知っているようで慌てている。アンはフレッドの大声に驚いたようだが聞き返している。
「フレッド、これが何か知っているのですか?」
「見えてないので確実にそうとは言えませぬが、それは宝箱だと思われますな」
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