装備の慣らしと採掘
ダンジョンで先に戦っている冒険者を避けながら、フレッドに丁度良い敵は居ないかと探していると、以前戦ったヤギと出会う。
「これは良さそうですな」
「ヤギは以前も放置されてたよ。場所的に強すぎるのかな?」
「そうかもしれませんな」
フレッドは俺たちに手を出さないようにと言って、盾を構えてヤギに向かって進んでいく。フレッドが進むとヤギが気づいて突っ込んでくる、それをフレッドは盾で受け止めたようだ。
「慣らすには丁度良いですな」
そんな事を言った後にフレッドは動く事なく、ヤギの攻撃を盾で受け止め続けている。
「大分良くなってきましたな」
フレッドはそう言うと、ヤギの突進に合わせて盾を突き出したようだ。
「こんな感じですかな。エド殿、ドリー殿、アン殿終わりましたので近づいても問題ありませぬ」
そう言われて俺たちはヤギを確認すると、ヤギは息絶えていた。
「凄いな。剣を使わないのか」
「この位なら盾だけで十分ですな」
「それで剣は適当で良いって言ってたのか」
「止めを刺す時にしか基本は使いませんな」
フレッドの戦い方は独特だった、盾だけで戦う武術らしい。盾の重さで敵からの攻撃を防ぎ、重さで威力を上げているのだろうか?
「盾を持った時に軽いと言っていたけど、重さが重要な武術なのか?」
「そうですな。盾が重い方が安定しますな」
「なるほど」
「それに魔法格闘術は身体能力を大幅に上げるので、軽すぎると体が泳いでしまいますな」
「重すぎて体が泳ぐんじゃなくて、軽すぎて体が泳ぐって凄いな」
「そう言われると、そうかも知れませんな」
今の盾だと体が泳ぐのをフレッドが技術で止めているのだろうが、変な癖がつかないように長いこと使うべきでは無さそうだ、フレッドの為に金属を探しておくべきだろう。
「となると次の盾を作る準備をした方が良さそうだね」
「この盾を作ったばかりですから、本来は作った方がいいのでしょうが迷いますな」
「俺は変な癖が付く前に作った方が良いと思うな」
「癖ですか、確かにあるかも知れませんな」
「素材はダンジョンで手に入れて、ジョーに聞きながら俺が作っても良いし」
「それならばお願い致す。拙者も魔道具製作は少し出来ますので、力の必要な作業は手伝い申す」
「決まりだ。素材を集めないとな」
俺とフレッドの会話を聞いていた、アンが声をかけてくる。
「ならば金属も回収すれば良いのではないですか?」
「金属?」
「はい、先ほどから金属を採掘できる場所を何回か見ています」
「そうなのか。俺は精錬後なら多少は金属が分かるけど、鉱石状態は知らないんだ」
「なら、私が案内します」
「お願いします」
アンは鉱石で金属が分かるらしい、薬師なのにどうやって知ったのだろうか。
「アンは何で鉱石に詳しいんです?」
「犯罪組織に居た時に偵察をさせられるのに覚えされられました」
「アン、すまない余計な事を聞いてしまった」
「気にしません。薬師になった後にも役には立った知識なので」
「確かに薬師にも金属の知識は必要だが」
アンは気にしていないと言うが、もう少し気を付けて聞くべきだった失敗した。凹んでいる俺を気にする様子もなく、アンはある場所を指差した。
「あそこに鉱石があります」
「あんな近くにあったのか。気付かなかった」
「壁の上の方にも有りましたが、採掘する人はいるんでしょうか?」
「流石に無理じゃないかな?」
「なら後で私が採掘しに行きましょう」
「どうやって?」
「壁を登れるのです」
「登れる?」
「見て頂いた方が早いので後でお見せします」
アンがそう言うので、とりあえずはヤギを回収して近くの鉱石を掘りにいく事になった。
「実際の坑道で採掘をしたことは無いですが、ダンジョンの鉱石は違和感がすごいですね。鉱石は一部だけな上に、掘りやすそうです」
「そう言えば薬草もそんな感じだね、大量に群生しないで一箇所の株が少ない」
「そう言うものだと思うしかないのかも知れませんね」
「かもね、ところで採掘する道具はあるの?」
「採掘用ではないですが、この鉱石なら短剣で十分かと」
鉱石を短剣で掘れるのかと思うが、アンは鉱石の隙間に差し込み捻ると鉱石が取れる。
「掘りやすそうだとは思いましが、掘ると言うより取れましたね」
「本当だね、掘れないかと思ってたよ」
「流石に全部は掘れ無さそうですが、短剣で取れるものだけ回収しましょう」
「分かった」
鉱石は残っているが短剣では掘れそうにないので、取れた分だけ収納の魔道具に入れて次の場所に移動していく。
歩いて敵や鉱石を探しているとアンが発見する。
「ありました」
「どこだろ?」
俺には全然分からないがアンには分かるらしい。
「上です」
「上?」
見上げると壁が一部違う場所があり、あれかと納得する。
「でもあんな上の鉱石を、どうやって掘るんです?」
「見てて下さい」
そう言うとアンは壁を登り始めた、壁は洞窟のようになっているので凹凸がある。なので凹凸を使えば俺も登れなくはないだろうが、アンは壁を登っていると思えない程に安定して登っていく。アンは鉱石の近くまで登り切ると、片腕で体を維持して短剣を取り出した。
「鉱石が落ちると思うので近くには居ないでください」
アンの指示通りに俺たちは鉱石が落ちてきそうな範囲から離れた、それを確認したアンは鉱石を掘り始める。アンの体勢は普通なら不安定そうに見えるのに、アンは安定して掘り続けている。
「短剣で取れるものは取ったので降ります」
アンはそう言うと降りてくる。
「アン聞いてもいい?」
「聞きたい事は分かっています。何故上の方でも安定しているかですね」
「そうなんだけど、何故?」
「以前、自己紹介でヤモリに近い特性を持った獣人だと言ったのは覚えていますか?」
「聞いた気がする」
「私は手足で壁に吸着することができます」
「それであんなに安定していたのか」
「はい」
ヤモリに近い特性を利用されて盗みをさせられていたと、言っていた事を思い出す。どう言うことか見たことで理解できた、これはかなり特殊な能力だ。
「此処は足場になる凹凸が有ったので靴は脱ぎませんでしたが、靴を脱げば垂直の建物にも登れます」
「すごいね」
「アン、すごーい!」
垂直の建物にも登れるとは驚きだ、ドリーも驚いている。
ドリーはアンに手を見せてもらっている。
「アン、手みせて!」
「良いですよ」
「ドリーより、やわらかいかも?」
「あまり人と比べた事はないので分かりません」
「ドリーも、アンみたいに出来るようになるかな?」
「流石に無理ですね。私のような能力は獣人でも珍しいと思いますので」
「残念、ならエマししょーみたいに飛ぶしかないね!」
「飛ぶ?」
そう言えばすっかり忘れていたが、エマ師匠は初めて会った時に飛んでいた。結局飛び方を習っていないがどうやるのだろうか?
「そう飛ぶの!」
「人間は飛べませんよね?」
「エマししょーは飛べるの!」
ドリーの説明にアンは混乱しているようなので、俺がエマ師匠が飛べる理由を説明する。
「エマ師匠は魔法で飛べるみたいなんだ、飛び方を習ってないから俺とドリーは飛べないけど」
「魔法って飛べるのね」
「やり方は分からないけど、飛べるみたい」
俺の説明にフレッドが補足してくれる。
「確か大型の杖を使うか、専用の魔道具があれば飛べますな」
「そうなんだ」
「ツヴィ王国では覚えている人は少なかったですが、使える人も居ましたな」
「魔法を外に出さないでも使えるんだ」
「魔道具が必要ですが、出来ますな」
魔道具があれば飛べるのなら、ジョーに作り方を教えて貰えば良いだろう。
アンが採掘してくれた鉱石を回収してダンジョンを歩いていく。
「アレは鳥の魔獣かな」
「そうですな」
以前倒した鳥の魔獣がダンジョンを飛んでいる、ヤギと同じように鳥は倒しにくいので放置されているのかも知れない。俺はアンに弓で倒してみるか聞いてみる。
「アン、弓で倒してみる?」
「良いのですか?」
「鳥じゃフレッドの相手にはならないから」
「それはそうですね。分かりました」
「拙者が前に出るので安心して打ってくだされ」
アンは倒す気になったようで弓を用意する、そしてフレッドがアンの前で盾を構える。
「では行きます」
そう言うとアンは鳥に向かって弓を射る、矢は一撃で鳥に当たり地面に落ちる。
「当たりました」
「上手いですね」「上手いですな」「うまーい!」
「いえ」
俺たちが褒めるとアンは照れた様子だ。今の感じだとアンの弓の腕は、俺とドリーより上だろう。俺の予備の弓で一撃で倒しているし、獣人の身体能力か弓の張りが弱そうだ、もう少し強めの弓を用意した方が良さそうだ。
「アンにはしっかりした弓を買うか作った方が良いかも、貸したのだと張りが弱いんじゃないか?」
「確かに、もう少し強い弓でも扱えそうです」
「アンさえ良ければ魔道具にするんだが、嫌なら何処かで買ってきてもいいよ」
「それなら魔道具をお願いしても良いですか?」
「良いの?」
アンが魔道具を頼んでくると思わなかったので思わず聞き返してしまった。
「ギルドで話を聞いて少し気が変わりました」
「ライノがしてくれたギルドの子供達への支援か」
「ええ、それにフレッドの強さをみると、中途半端な強さでは付いていくのも難しそうです」
「フレッドは、俺たちの中では飛び抜けて強いと思うよ」
「私には魔法がありませんから道具で解決するしかありません」
「分かった。色々準備しておくよ」
「ありがとう御座います」
アンが魔道具を使うと言ってくれ安堵する。死ぬ可能性を少しでも減らすのならやはり魔道具を使うべきだろう。
俺とフレッドで、無理に連れてきてしまった自覚があるので、魔道具を使えば問題ないと思っていたが、俺が魔道具の値段を勘違いしていたのが大分問題だった。アンが魔道具を使うようになれば、アンの危険が減るので俺の気分的に楽になる。
ダンジョンに来ておいて少し違うのかも知れないが、俺は危険を楽しみたい訳ではない、普通なら体験できない冒険がしたいだけなのだ。だから準備はできるだけ万端で行きたいし、危険だと思ったら下がる判断も重要だと思っている。
そんな事を考えていると、フレッドが俺の発言を訂正してくる。
「エド殿、拙者が飛び抜けて強いと言うのは間違いですな。エド殿とドリー殿も強いですな」
「フレッドほどは強くないと思うけど?」
「拙者これでも魔力量には自信があったのですが、エド殿とドリー殿はほぼ同じ量ですから魔法使いとして優秀ですよ」
「多いとは言われたけど、今は居ないベスも同じ量だったからそこまでだと思ってた」
「今まで拙者は兄と、もう一人しか、拙者と同じような魔力量を持った魔法使いは見た事がないですな」
「そうなんだ。そう考えると、魔力量が多い魔法使いがアルバトロスに集まってしまってるんだね」
「そう言われるとそうですな」
魔力量だけで魔法使いの強さが決まる訳ではないが、少なくとも回数は多く魔法が使えるので、そう言う意味では強いのは強いだろう。
話していて忘れていたが鳥を回収して収納の魔道具に入れようとしようとして、そろそろ昼頃だし昼食用に取っておくことにする。
「鳥は収納の魔道具に入れないのですかな?」
「そろそろ昼だし、昼食用に焼こうかと」
「おお、良いですな」
「四人だと足りないから、もう少し欲しいね」
「それなら、もう少し狩りをしますかな」
フレッドが賛成してくれたので、獲物を求めてダンジョンを歩いていく。
「こんなものですかな」
「こんなに食べれる?」
「拙者、食欲が止まりませんので申し訳ないですな」
「良いけどさ、捌くのは手伝ってよ?」
「無論、手伝いますな」
フレッドが魔法を使って色々試しているので、お腹が減るのは分かるが、流石に食べれるのか不安になる量を狩って食べると言っている。
「あのフレッド、貧民街での炊き出しは足りていませんでしたか?」
「いや、アン殿あの時は魔法をほぼ使っていなかったので、あの量で十分だったのですがな」
「魔法を使うのと、食べる量が関係あるんですか?」
「アン殿は知りませんか、魔力を使うとお腹が減るのですな」
「それは太りませんか?」
「不思議な事に太りませんな、太った魔法使いを見た事がありませぬ」
「そうなんですか」
アンはフレッドの太らないと聞いても気にした様子はない、貧民街で暮らしているからだろうか? 気にしないなら良いかと、俺は捌くのに時間がかかりそうなので移動を提案する。
「それじゃ、捌ける場所まで移動しよう」
「了解致した」
「はい」
少し時間はかかったがアンとフレッドが手伝ってくれたので結構早く下処理は終わった。外に出ると調理道具を出して料理をしていく、アンも手慣れた様子で料理を手伝ってくれる。
「アンは炊き出しをしてるからか料理が手慣れてるね」
「いえ。実は料理は得意ではなく、炊き出しを始めてから上手くなりました」
「あれ? そうなんだ」
「はい、量を作るので慣れてきました」
「なるほど」
俺が味付けに薬草を使うとアンが驚く。
「薬草を使うんですか?」
「苦味が無いものを選んで使ってる」
「美味しいんです?」
「俺とドリーは好きだけどな」
「ドリー、好き。おいしいよ!」
「そうなんですか」
出来上がった料理をアンが恐る恐る食べると。
「驚きです。薬草なのに美味しいですね」
「良かった」
そんな会話中も、フレッドが大量の肉を黙々と食べ続けていった。
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