辺境伯の帰還
朝起きて思い出す、昨日のシカは美味しかった。というか今気づいたが、あのシカって魔獣だから素材にできたのでは?
ジョーに上げたものだから、使うのは違うかと一人で勝手に納得していると、部屋がノックされる。
「エド殿、起きておりますかな」
「起きてるよ、今開ける」
フレッドを部屋に招き入れ、今日はどうするかという話になる。
「拙者、装備を実践で試してみたいですな」
「それならダンジョンかな」
「アン殿もお誘いしたいが、昨日の今日では無理ですかな?」
「確かに誘いたいけど、難しいかも。だけど聞くだけ聞いてみようか」
「そうですな」
聞いてダメだったらフレッドの装備を試すだけにすれば良いのだし、聞くだけ聞いてみよう。
「それじゃ、朝食にしよう」
「拙者久しぶりに魔力の減りを気にしないで使っているせいか、昨日あれだけ食べたのに、朝起きたらまた空腹でしてな」
「俺も魔法使いになってから、魔力使うとお腹減るから大変だな」
「ですな」
慣れてきたが、魔力を全部使うと食べたのに気づいたら空腹になっていたりする。
フレッドが空腹だと言うし、ドリーを連れてエマ師匠を誘って食堂へと向かう。
「アルバトロスの料理は美味しいですな」
「確かに美味しいけど、すごい量食べるな」
「すごーい」
フレッドはよく食べるなと思っていたが、まだ限界ではなかったようだ、凄いな。
「正直、拙者もこんなに食べれるとは思いませんでしたな」
「食べる量が増えたのか」
「みたいですな、太りそうだったら調整しますかな」
「魔法使いって太れるのか?」
「太った魔法使いを見た事はありませんな」
協会でも魔法使いで太っている人は見た事がないので、フレッドが太れたら逆に凄いかもしれない。
「俺とドリーも食べる量増えたけど、フレッドには負けるな」
「うん!」
食事を終わらせて、エマ師匠に今日の予定を伝え協会を出ることにする。
いつも通りに馬車を借りて出ようとすると、今は出れないと言われる。何故かと思って聞いてみると、辺境伯が帰ってくるので交通規制をしているらしい。通る時間を聞くと、もうすぐだと言うので見てみることに。
「道が通れないらしいから、辺境伯帰ってくるの見てみない?」
「ドリー、みてみたい!」
「拙者も構いませぬ」
ドリーとフレッドと共に辺境伯が通るのを待っていると、馬車の列が通り過ぎていく。
「意外と地味だね」
「うん」
「いや、おかしいですな」
「「え?」」
「辺境伯の紋章しか見えませんでしたな。エド殿が話した通りなら客人の紋章があるはずですな」
俺とは違うところをフレッドは確認していたようだ、正直そんなところ見ていなかったので分からない。
「紋章とか見てなかったよ、そうなのか?」
「分かりやすいので、見間違いではないと思いますな」
「そうなると、どう言うことなんだろ?」
貴族の知識は習っているが始めたばかりなので想像がつかない、フレッドが答えてくれる。
「そもそも屋敷に来客があると知らせるのが遅すぎますな。普通はもっと早く知らせるものですが、それが出来なかった事情があるとみるべきでしょうな」
「つまり、本当に厄介事?」
「可能性が高いですな。屋敷には呼ばれるまでは行かぬ方が良さそうですな」
「分かった」
「お母さん…」
フレッドに聞く限りは、結構な厄介事のようだ注意をしておいた方がいいが、ドリーは寂しそうだ。
「ドリー、トリス様はすぐに呼ぶって言ってたから待ってよ」
「うん…」
トリス様はドリーを気に入っているので、時間がかかりそうならドリーだけ内緒で呼び出しそうだ。
ドリーの気分を誤魔化すのに、トリス様に何かお土産を用意しようと誘う。
「ドリー、トリス様にお土産を探そう」
「おみやげ?」
「そう」
「わかった!」
フレッドが申し訳なさそうに謝ってくる。
「ドリー殿を不安にさせてしまいましたな。申し訳ありませぬ」
「フレッドいいの、ドリーはお母さんを待つの」
「ドリー殿、直ぐに会えるようになりますな。今代のメガロケロス辺境伯は、リング王国内でも特に立場が強いと聞いた事がありますな」
「それなら、ドリーはおみやげ探す!」
「拙者もお手伝い致す」
フレッドはどうも辺境伯の噂なども聞いた事があるようだ、聞いてみたいがドリーがやる気になっているので今は止めておく。トリス様へのお土産が何が良いかドリーと考えながら、通れるようになった道を馬車に乗って、アンを訪ねにバーバラさんの薬屋へと向かう事にする
「アン、居ますか?」
「エド、来たんですか」
「昨日の今日ですが、ダンジョンに行ってみませんか?」
「分かりました」
アンは何故かあっさりと了承した、俺は思わず聞き返してしまう。
「あれ、良いの?」
「はい、昨日セオドアさんが送ってくれた後にバーバラさんと話した結果、色々見てみるべきだと言われました」
アンは自身がどう思っているかは分からないが、バーバラさんの言う事を聞いてダンジョンへ付いてくるようだ。
「分かった、とりあえず一回行ってみようか」
「はい」
「ところでアンは冒険者ギルド登録してる?」
「私はしてませんね」
「ならギルドに登録しに行こうか」
「分かりました」
馬車に乗ってギルドに向かう事にする。
「ライノすいません、また登録をお願いしたいんですが」
「ああ。良いが、ちょっと待ってくれ」
「はい」
やはり今日もギルドは忙しそうだ。
「すまん待たせたな、騒がしいから部屋を用意した」
「ありがとう御座います」
部屋に入ると喧騒が少しはマシになった。
「それで登録か?」
「ええ、もう一人仲間に加わりそうな候補がいて」
「もしかしてまた魔法使いか?」
「いや、今回は違うよ」
「そうか」
確かに、これだけ魔法使いだらけで組んでるのも珍しいだろう。
アンをライノに紹介する。
「彼女は薬師のアン」
「初めまして薬師のアンです」
「冒険者ギルド職員のライノだ、ライノと呼び捨てで構わない」
「ライノ、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼むアン。しかし薬師?」
「はい、今は薬師です」
「今は?」
アンは事情をライノに話すつもりのようだ。
「以前は貧民街で盗みをやっていました」
「だが今は薬師と言うことは、かなり小さい頃か」
「はい、ある組織に気づいた頃から居ました、盗みは命令されてやっていました」
「組織?」
「最近潰された組織を知っていますか?」
「あー、あれか。ふむ」
ライノはアンに詳しく聞きたいと、当時の状況や組織にいた人の特徴をアンから聞いた。俺はライノが詳しく聞くので、アンがギルドに登録するのは無理なのかと心配になり、ライノとアンの話が途切れたところで聞いてみる。
「ライノ、アンがギルドに登録するのは無理なのか?」
「いや、出来るぞ」
「詳しく聞くから無理なのかと思ったけど、違うのか」
「ああ、ちょっとな…」
俺の質問にライノは少し迷った様子で言い淀み、少し事情を話してくれる。
「これだけ聞いて不審に思うだろうから言うが、あの組織については箝口令が出ていて喋る事ができないんだ」
「え?」
「エドたちもなるべく喋らないでくれ」
「分かったけど、何でギルドが箝口令なんて?」
「潰れた時にギルドも関わっているんだ。後は、箝口令を言い出したのはギルドじゃないぞ」
ギルドが箝口令を敷いているので無いなら、他に命令できたのはトリス様くらいだ。となるとエマ師匠とエレンさんも、トリス様から言わないようにと言われていたのだろう。
「聞きたいのなら、エドならそのうち聞けるだろう」
「何となくですが、理解しました」
「それで良い」
俺が納得したところで、アンは逆に不思議だったのか質問している。
「ライノ、聞きたいのだけれど盗みを働いてた者をギルドに入れていいの?」
「難しい問題だな、本当はダメなんだがな」
「ダメなのに入れているの?」
ライノは迷った様子だが、冒険者について話してくれる。
「職員から見ると冒険者は何種類かに分けれるんだが、ダンジョンに潜る者、依頼を受ける者、だとかな。その中で犯罪してる者ってのも居るわけだ。犯罪してる者は、見つけたら犯罪しなくても食べていけるように手助けしたりしている」
「犯罪してる者を見つけたらクビではないの?」
「相手次第だな、盗みは子供が食うに困ってが多いんだ。殺人と遊ぶ金欲しさにだと一発でクビで、尚且つ衛兵に突き出すな」
「子供が困っているの…貧民街と同じなのね」
「冒険者は貧民街の子供も多いからな」
アンは納得したようだ。
俺が受けた街中の依頼はそう言う子供のために用意されていたのだろう。ギルドとしてもクビにした方が早いだろうが、そうすると子供が餓死するか、徐々に犯罪の種類を凶悪にしていくのが想像できる。
子供を守る為、そして将来的な犯罪を減らす為にトリス様は、貧民街でシャンプーとトリートメントを作ることを許可したのだろう。想像でしかないが色々話が繋がってくる。
アンの書類を作ったライノは、ギルド証を作ってくると部屋を出ていった。
「私が知らなかっただけで、貧民街の子供を助けようとする人は居たんですね」
「エリザベス商会も、その一環ではあるしね」
「そうでしたね」
そう言った後にアンは黙り込んだ。
ライノが戻ってきてアンにギルド証を渡す。
「これがギルド証だ」
「ありがとう御座います」
アンにギルド証を渡した後、ライノが俺に話しかけてくる。
「ギルドについての説明は、申し訳ないがエドに頼む」
「分かった」
ライノは俺に謝った後、アンにも謝っている。
「アン申し訳ない。ギルドが忙しすぎてな、エドに聞いて分からない事があれば、後日私に聞いてくれれば良いから」
「はい、エドに聞いて分からなければ聞きにきます」
「すまない」
ギルドは本当に忙しそうだ、辺境伯が帰ってきたからだろうか?
「ギルドは忙しそうだね、辺境伯が帰ってきたから?」
「その通りでギルド証を作っている時に知ったんだが、辺境伯にギルドはなるべく早くに屋敷に来て欲しいと言われて、私も行く事になりそうなんだ」
「それは大変だ、俺たちは出ていくよ」
「すまんな」
ライノは辺境伯から呼びされていたようだ、邪魔したら悪いと俺たちはギルドを出た。
「思った以上に早く終わったからダンジョン行けそうだな」
「そうですな」
「今日はフレッドの装備の確認とアンのお試しだから、短時間だろうし行ってみようか」
「はい」
アンが同意したのでダンジョンに行く事にして、馬車をダンジョンへ向かってもらう。馬車の中でギルドについての説明などをアンにしていると、ダンジョンに着いたようだ。
「まず、アンには予備の弓と矢を渡しておくよ」
「ありがとう御座います」
「短剣はアンの手持ちが無いようだったら、今日は申し訳ないんだけど、俺の魔道具の短剣を使って貰うことになるんだけど」
「短剣は薬師で使っている物を持ってきました」
「今日はそれで良いかな」
「はい、足りなそうなら借ります」
「うん、そうして」
今日はフレッドの装備を試す場所にしか行かないので、危険はそう無いだろう。
「それじゃ行くよ」
「はい」
アンは気合を入れた様子でダンジョンへと向かう。
ダンジョン内に入ると出入り口は何も無いので、アンは拍子抜けという表情をしている。
「ここらは出入り口で、子供でも狩れるウサギしか出ないから、注意はそう必要ないよ」
「人としかすれ違わないので不思議でしたが、そう言うことですか」
緊張感もなく進んでいくと、小さい子供が勝てないような敵が出るようになり、冒険者が苦労しながら戦っている横を俺たちは通り過ぎていく。
そんな冒険者を何人か通り過ぎた後に、アンが聞いてくる。
「冒険者って、こんな感じなんですか?」
「此処はまだ敵が弱いところだから、戦闘経験がないとか、訓練したことが無い人たちらしいよ」
「ダンジョンは不思議なところですね、強さが徐々に上がっていくのですか」
「確かにそうだね、俺はアルバトロスのダンジョンしか知らないから。何処でもそうなのかは分からないけど」
俺とアンの疑問にフレッドが答えてくれる。
「リスポーンする敵やダンジョンの作りは違いますが、ダンジョンの敵が徐々に強くなっていくのは、何処も同じですな」
「そうなんだ。フレッドはダンジョンいくつか行ってるの?」
「そうですな。三箇所ほど回りましたな」
「三箇所も?」
「ツヴィ王国の魔法使いがする本来の修行で、違う種類の敵と戦うようにしていますな」
「なるほど」
リング王国の魔法使いとは訓練方法が全然違うみたいだ。
「ツヴィ王国は魔法を使う前からダンジョンに潜り、鍛えることで魔法が発動するようになるのですな」
「え? 俺が教わった方法と違わない?」
「あれは武術の鍛錬はすれど、ダンジョンに行かない場合に覚える方法ですな」
「だから、擬音だらけの教え方だったのか」
「拙者もダンジョンで魔法が発動するようになったので、言語化するのは苦手でしてな」
「魔法ってそう言う感じだから分かるけど、ツヴィ王国大変そうだな」
「ダンジョンが苦手な人は大変らしいですな」
どうやらフレッドはダンジョンを苦にはしなかったようだ。
しかしツヴィ王国の魔法使いは、あの擬音だらけの教え方で魔法が使えるようになっているのかと思っていたが、違ったのか…
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