新しい仲間
フレッドへのアルバトロスの詳しい説明が終わって、魔法を見せてくれると魔法協会の訓練場に移動する。訓練場に着くとフレッドとトニーさんが準備運動をした後に、ツヴィ王国の魔法を使い始めるようだ。
「それでは始めますか、フレッド殿準備は?」
「拙者も準備でき申した」
準備ができたようで二人の魔力が動き出す。リング王国の魔力は外に出す為に魔力が動くと体からはみ出て見えるが、ツヴィ王国の魔法は体内に押し込むようで、魔力が小さくなって行き魔力が見え辛く、魔法使いではないような見た目になっていく。
「「参ります」」
二人がそう言うと凄い勢いで動き、お互いに攻撃し合っているようだ。正直俺には二人を見るのも大変なほど凄い速度で動き回っている。
組手だからか、ツヴィ王国の魔法使い同士だからこうなるのか分からないが、結構長い時間二人は戦っていた。
「フレッド殿の年齢でその強さとは」
「いえ、トニー殿の強さは凄いですな」
「組手は年齢の差が出ますからな。しかしフレッド殿は装備はどうしました?」
「実家に置いて来ました」
「それは…」
俺は疑問に思ってトニーさんに聞いてみる。
「トニーさん、フレッドの装備ってどう言うことですか?」
「今の組手で得意な装備が分かったのですが、持っている様子がないので疑問に思いましてな」
「なるほど」
どうやらトニーさんは組手でフレッドの戦闘方法を察したのか、装備が無いことを妙に思ったようだ。
フレッドに装備が何なのか聞いてみる。
「フレッド、聞いて良いかい?」
「エド殿、拙者が答えられることなら答えますな」
「装備は何を使ってたんだ?」
「それは盾と剣ですな」
魔法使いが盾と剣?
「盾と剣?」
「肉体を強化して盾で防ぎ剣で止めを指す、それが拙者の戦い方なのです」
「なるほど?」
トニーさんが補足してくれる。
「ツヴィ王国の魔法使いは肉体を強化する関係上、大半が近接戦闘を得意とします」
「そう言えば今も組手をしていましたし、魔法使いが近接で戦うんですか」
「リング王国の魔法使いからすると不思議でしょうね」
「えっと、はい」
トニーさんに同意はしたが、俺の中ではベスという例外がいるので少し戸惑う。と言うかこれがベスが覚えかけていた魔法では?
俺は組手の見学について来ていた、エマ師匠とエレンさんに視線を向けると、顔を逸らされた。
「エド殿とドリー殿も試しにツヴィ王国の魔法を使ってみますか?」
「俺とドリーはリング王国の魔法使いだから使えないのでは?」
「例外も居ますから試してみると良いですよ」
「分かりました」「わかった!」
トニーさんとフレッドからツヴィ王国の魔法を教えられたが、擬音だらけで覚えれる気がしない。ツヴィ王国の魔法を覚えられないのは、擬音だらけなのが覚えられない理由じゃないよな?
「そこでグッと、ググっではありません」
「シュッと。シュシュではなく」
トニーさんとフレッドの説明に俺とドリーは困惑である。この説明では絶対に無理だ、エマ師匠にどうすれば良いのかと顔を向ける。
「トニーとフレッドは完全に感覚型ですね」
「ツヴィ王国でも理論型は居るんですかね」
「私も会ったことは有りませんが、人伝に理論を聞いたことはありますよ」
「エマ師匠教えてください、今のままじゃ無理です」
「魔力を圧縮して、体内に流し込み血液のように循環させると聞きました。後は杖や魔道具に魔力を流すのに近いとも」
「試してみます」
エマ師匠の説明と、地球の知識を混ぜて、魔力を操っていると徐々に体内に魔力が流れ始めた。
「できました」
「にーちゃ、すごーい!」
魔力の量を増やしたりして調整するが中々安定しない。
「難しいですね安定しません」
トニーさんが俺の言ったことを否定する。
「いえ、それだけ最初から出来れば十分です」
「そうなんですか?」
「リング王国の魔法使いのように、失敗しても暴走することはありませんが、代わりに制御に慣れるまでの期間がかなり長いです」
「なるほど、訓練ではなく修行と言った意味が分かります」
暴走はしないと言われて安心する。俺はそのまま魔力を体内に押し込んでいるが、リング王国の魔法と違って制御を手放して良いのか分からず、トニーさんに聞くことに。
「これって制御手放したらどうなるんですか?」
「体内から出て来ますね」
「それで消えるってことですか」
「いえ、ツヴィ王国の魔法は半分くらいは戻ってきます」
「そうなんですか、試してみます」
「ええ」
魔力の制御を手放すと確かに魔力の減りが少ない。
「確かに使った魔力の割に、魔力の減りが少ないですね」
「ですからツヴィ王国の魔法使いは、長時間の戦闘が得意ですね」
ダンジョンでの戦闘に使えそうだなと考えながら、成功した時の感覚を思い出していると。
「できた!」
何とドリーも成功したようだ。
「ドリー殿も成功するとは凄いですね」
「んー、むずかしいっ」
ドリーもやはり制御に苦労しているようで安定しない、色々試して挑戦していたようだが諦めて制御を手放したようだ。
「ドリー殿、両方使えるだけでも凄いですよ」
「トニーさんまたおしえて」
「ええ、分かりました」
ドリーのお願いにトニーさんが了承しているので、俺もお願いしてみる。
「トニーさん、俺も教えて貰って良いですか?」
「ええ、もちろん」
ところで先ほどからツヴィ王国の魔法だと言っているが、何か流派的な言い方は無いのだろうか。
「トニーさん、ツヴィ王国の魔法って、流派のような言い方はないんですか?」
「実はツヴィ王国では無いんですよ、ツヴィ王国の魔法使いは皆この魔法を使うので。ツヴィ王国ではリング王国の魔法が、リング王国の魔法とそのまま呼ばれていますし、お互い呼び方がないです」
お互いの常識だから、これといった呼び名がないのか。だがトニーさんがリング王国ではツヴィ王国の魔法は別の呼び方があると教えてくれる。
「ちなみにリング王国ではツヴィ王国の魔法は、魔法格闘術と呼ばれています」
「リング王国では呼び方があるんですね」
「リング王国では使い手も居ないので、あまり知られていませんが」
魔法格闘術、確かにそれっぽい呼び名だ。格闘術なんて言われてるが、魔道具と魔法薬はどうやって作るのだろうか?
「なるほど。でもツヴィ王国の魔法って魔道具とか魔法薬はどうしてるんです?」
「作り方が少し違い効率が悪い場合もありますが、ツヴィ王国にもリング王国と同じように各流派は有って、同じような事はできますよ」
「そうなんだ」
基礎となっている魔力の使い方が違うだけで、魔法としては同じような事はできるのか。
魔法格闘術を見せてもらったし、俺とドリーが使えることが分かったのでフレッドの部屋へと案内することになった。
「これが拙者の部屋ですな」
「エドとドリーの部屋に近い場所にしたから、年齢も近いのだし色々相談するといいわ」
「それはエド殿に悪くありませぬか?」
フレッドの部屋が俺とドリーの部屋に近いのは、エマ師匠が考えたことだったようだ。フレッドが悪いのではと聞くが、俺は問題ない。
「問題ないよフレッド、俺とドリーもアルバトロスに数ヶ月前に来たところだから知り合いが少ないんだ」
「そうか、それならばお願い申す」
「ああ、宜しくフレッド」
俺とドリーの、この後の用事はジョーの所に行くことなのだが、フレッドの装備がないことが気になる。
「エマ師匠、ジョーの所にフレッドを連れていきませんか?」
「そう言えば装備がないと言っていましたね」
「作るにしても、値段とかも聞いといた方がいいかなって」
「そうですね、ではフレッドが良ければ一緒に向かいますか」
フレッドにも聞いてみる。
「フレッド、俺とドリーが魔道具と魔法薬を教わっている人の所に行くんだけど、一緒に行かないか?装備を相談できると思うんだ」
「拙者も一緒でよろしいのですかな?」
「ジョーなら大丈夫じゃないかな」
「ふむ、なら一度お会いしたいですな」
トニーさんは用事があるとの事で別れ、エレンさんも用事があるようで別れ、俺たちはジョーの部屋へと向かう。
「ところでエマ師匠、何でフレッドの部屋はトニーさんの部屋の近くでなく、俺たちだったんですか?」
「ああ、トニーは結婚しているから、協会に居たり居なかったりなのよ」
「リング王国で結婚してるんですか?」
「ええ、トニーを拾って来た人がトニーと結婚しているわ」
少し聞いただけで、色々あったことが察せられる。
ジョーの部屋に着き声をかけると、中に入れと言われる。
「ん?一人多いんか?」
「さっき知り合ったんだ」
「拙者はフレデリックと申す、フレッドと呼んでほしいですな」
「ワシはジョゼフだ、ジョーとでも呼んでくれ」
「ジョー殿、宜しくお願い致す」
「ああ、ところでその喋り方はツヴィ王国の魔法使いか?」
「その通りですな」
ジョーはエマ師匠に確認している。
「エマ、トニーには報告したんか?」
「トニーと既に顔合わせは済みました、協会に部屋も用意しました」
「そうか」
ツヴィ王国の魔法使いだと分かると、皆同じ対応なのだなと感心した。
「それでワシに何の用じゃ?」
俺がフレッドの代わりにジョーの質問に答える。
「フレッドは実家に装備を置いて来たらしくて、ジョーに作って貰えないかなって」
「そう言うことか。必要な装備次第だが、何を使っていたんじゃ?」
「拙者は盾と剣で、盾の方が重要ですな」
「ツヴィ王国の盾と剣となると、安くするにしても高くなるぞ?」
「やはりそうですか…」
フレッドは困った様子なので、俺はフレッドにお金が無いんだと察する。
「フレッドが簡単に稼げそうなのは冒険者だけど、冒険者ギルドに登録は?」
「拙者はギルドには登録してないですな」
フレッドはギルドに登録すらしていなかったようだ。だったらフレッドが炊き出しで持ってきていた肉は何だったんだ?
「炊き出しで持ってた肉はどうしたんだ?」
「近くで狩っていましたな」
「え?」
やっている事は冒険者というか、猟師と言うか、随分野生的な生活をしていたようだ。
「とりあえず、ギルドに登録しないか?」
「登録した方がよろしいのですかな?」
「近くにダンジョンがあるから、簡単に獲物が狩れるよ」
「おお、それは良いですな」
と言うか、気付いたがフレッドは俺たちに足りない前衛だ、仲間として組むならフレッドが良いんじゃないか?
「フレッドもし良かったら一緒に組まないか?」
「組むとは?」
「ダンジョンに挑むのに仲間を探していたんだ」
「仲間を。しかし拙者で良いのですかな?」
「前衛が足りなくて、俺たちは皆魔法使いだから」
「リング王国の魔法使いだと前衛にはならないですな」
「そうなんだ」
フレッドは少し考えた後に答えを出したようだ。
「エド、拙者で良ければ仲間になろう」
「ああ、フレッド歓迎するよ」
「よろしく!」
俺とドリーが言うと、フレッドはドリーを見つめた後に確認してくる。
「もしやドリー殿もダンジョンへ?」
「うん!」
「そ、そうか」
ドリーがダンジョンへ行くと言って、フレッドは戸惑っているようだ。
「ドリーは基本遠距離でしか戦わないから安心して」
「そうか、それならば安心ですな?」
まだフレッドは戸惑っているようだが話を続ける。
「普段は俺ともう一人が前衛をしてるんだけど、家の事情でしばらくはダンジョンに行けないんだ」
「ふむ」
「三人でも前衛が足りないと思っていたから、二人だと危険かもってダンジョンに行くのを止めてたんだ」
「そう言う事ならば」
フレッドは俺の説明に納得したようだ、フレッドが仲間になったのなら装備はこちらで準備した方がお金は稼げそうだ。
「フレッド、もし良かったら装備を作ってしまわないか」
「お金はどうするつもりか?」
「俺が出すよ」
「流石にそれは悪いですな」
「すぐ返せると思うし、最初は安いのでも良いんじゃ」
「ふむ、安い盾か」
「俺とドリーがダンジョンに行きたい、ってのもあるんだけど」
「なるほど、それならアン殿は誘わぬのか?」
「アン?」
ダンジョンに行きたいと言ったら、フレッドから何故かアンの名前が出てくる。
「アン殿は戦えるであろう?」
「え?」
「ん?」
何故フレッドはアンが戦えると思ったのだろうか? アンは薬師であると訂正する。
「フレッド、アンは薬師だよ」
「そうであるのか?」
「うん」
不思議そうな顔のフレッドに、何故アンが戦えると思ったのか聞いてみる。
「何でアンが戦えると思ったんだ?」
「歩き方や重心の移動が戦えるものだったからだが…」
俺は人と組手など鍛錬を始めたのが最近なので分からないが、フレッドにはアンが戦えると思うくらいには動けると思ったのだろうか?
「今度アンに聞いてみる?」
「そうですな、拙者の勘違いかもしれぬ」
とりあえずフレッドの装備を考えることにする。
「それじゃフレッドの装備を考えよう」
「先ほども言いましたが、拙者は盾が重要な戦い方をしますな」
「まずは盾を考えようか」
ジョーに相談しながら盾を決めていくが素材の話になって思い出す、昨日狩った素材をジョーにまだ渡していない。
「ジョー忘れてた、昨日狩った素材を解体して貰ったんだった」
「ならそれも使うか?」
「そうしよう、魔獣も狩ったから以前言ったようにジョーが好きなの食べていいよ」
「おお、良いのか何を狩ったんじゃ?」
「大きいのだと小型のシカ、小さいのだと鳥かな、他にもあった気がするけど」
「おお、シカか!」
「ジョーはシカが好きなの?」
「好物じゃ」
「なら好きな時に食べてよ」
俺は部屋にある素材を取りに行くので、ジョーには冷蔵されている物を見に行ってもらう。
素材を持って戻ってくると、ジョーも冷蔵されたものを見て戻って来たようだった。ジョーから素材で作れる物を聞いて、今ある物で一番良い物を作ってもらう事になった。
作るものが決まったところでジョーにすぐ作るから一日待ってろと言われ、部屋を追い出された。
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