相談とギルド証
トリス様と話を終え部屋を出ると、鍛錬時の服にポンチョを着たベスと合流する。
ベスはお忍びで出かけるので、魔法協会の俺たちが乗ってきた馬車に一緒に乗ると、冒険者ギルドへと向かう。
ちなみにテレサさんは馬車の中にはエマ師匠がいるので、護衛は外の方が必要だとのことで馬に乗って外から護衛している。
久しぶりのギルドだなと思っていると、そう言えば思い出すライノに会ったのはケネスおじさんがアルバトロスを出て行って以来だ。
あの時困ったら頼れと言われたが、まさかベスを連れてくるとは思わないだろう。
申し訳なさが有りつつも俺にはどうしようもないんだと、心の中で言い訳をしてギルドに着いたので中に入っていく。
ライノは見当たらないので受付でライノを呼んで欲しいとお願いする。少しするとライノがやってくる。
「エマ様お久しぶりです、エドとドリーも元気だったか、それと…」
ライノは俺たち以外もいる事に気づいてベスの顔を見た瞬間固まる、ベスのことは知ってそうだ。
「ライノ元気だったよ。今日は相談したい事があって、部屋をお願いできますか?」
「分かった」
ライノは急いで部屋を取ってくれたようで、部屋に通される。
「エド、これはどう言うことか聞いてもいいか」
「今日はベスと、お忍びで話したい事があるって」
「話したい事があるって言ったって」
ライノがベスに顔を向けると、ベスが声をかける。
「ライノ、久しぶりですわね」
「エリザベス様、ご無沙汰しております」
「辺境伯の娘として動く必要がありまして、詳しくはエドに説明を任せますが、看板のようなものだと思ってくれて構いませんわ」
ベスに看板のようなものだと言われても返事ができるわけもなく、ライノは俺に質問してくる。
「エド、どう言うことだ?」
「そうだな、最後にライノに会った協会前で別れた後から話すよ」
「そう言えば随分前だな、すぐ依頼を受けにくるかと思っていたぞ?」
「あの後に手持ち無沙汰なのもあって、薬を作ろうってなって考えたんだけど、ドリーが薬を作るなら、昔ドリー用にと作った髪の毛を洗う専用の石鹸がまた作りたいって言うから、薬師組合で素材を買って作ったんだ」
元々はケネスおじさんが居なくなって、ドリーの悲しむ時間が減るように何かしようと考えただけだった筈だ。
「作った物をエマ師匠にも分けて一緒に使ったら、エマ師匠が気に入って知り合いに配りたいって言うから、作って渡していたんだけど、エマ師匠がある日親戚に相談されたらしく、ベスに会う事になったんだ」
急にベスとあって欲しいと言われた時は驚いたが、結果的には出会えて良かった。
「会いに行って色々あったんだけど、それは関係ないので省略するけど、手土産に作った石鹸を、髪を洗う石鹸の名前をシャンプー、整えるものがトリートメントって言うんだけど、渡したら喜ばれてもっと欲しいって事になって」
エマ師匠が配り始めた時点で、もう作る量は俺とドリーの限界近かったというか、実は既に超えていたのかもしれない。
「量が量だから作れないってなって、色々相談した結果、何故か更にトリス様も欲しいとなって、欲しいときに薬師組合に頼んだところで足りなくなるからって、継続的に作ろうってなり、辺境伯の後ろ盾で商会を始める事になったんだ」
ここからが、今日ライノに相談したかったことだ。
「それで物を作る場所を貧民街にして、多少でも仕事があれば救済できないかという案が出て、貧民街の水車が今は閉鎖中だから、商会で作る物に使おうってなったんだけど、治安が悪いから荷運びと護衛をギルドにお願いしたくて」
後、重要なことを言ってなかった。
「それと貧民街への救済として作る事が決定したので、商会の名前はエリザベス商会で、商会にはベスが名前を連ねる事になった、ベスが看板って言ったのはそういう意味だよ」
大雑把な俺の話を聞いたライノは頷く。
「うん、意味がわからん」
「どこら辺が?」
「全部と言いたいが、まずエドはなんでそうなった」
「何でって言われても、何でだろ?」
そう言えば、騎士見習いみたいな状態なことを思い出して、俺は言ってもいいと思うがエマ師匠とベスに言ってもいいか確認する。
「俺が見習いみたいな状態のこと言っていいと思いますか、エマ師匠、ベス」
「私はライノであれば言ってもいいと思います、ベスはどうですか」
「いいと思いますわ」
俺と同意見だったようなので、ライノに言う事にする。
「俺のことなんですが、将来はベスの騎士になる予定です」
「聞きたいことはそうではないが、おめでとう」
「ありがとうございます、それで出自をできるだけ秘密にしたくて」
「騎士になるからか、分かった」
ライノは俺をみて悩んだ様子の後に、脈絡なく俺を心配してくる。
「とりあえずエドが問題ないのなら、良い」
「問題はないです、ドリーなんかトリス様に懐いてお母さん呼びですし」
「…それはベアトリス様の事だよな、いいのか?」
「はい、トリス様喜んでいるので…」
「そうか…」
ライノはドリーを見ながら遠い目をして、少しすると視線が俺に戻ってくる。
「エドそれで何故、貧民街で作ろうと言う話になったんだ」
「ライノは貧民街近くの、バーバラという薬師を知っていますか?」
「知らないな、薬師は結構数がいるからな、流石に把握できていない」
「そうですか、その薬師が計量などの作業を任せようとした候補の一人で、普段から困った子供を拾っては、弟子にしてるような人らしく」
「それで、貧民街の救済に繋がるわけか」
「はい、俺が考えたわけではなく商会の運営を任せる人が思いついたんですが、トリス様も許可を出したので動き出しました」
「なるほどな」
ライノが理解してくれたようで安心する、ライノは難しそうに提案してくる。
「しかし、そうすると貧民街を知っていて、薬師を知っていたら尚いいが、素行がまず良くなければ任せられないな」
「冒険者にいますかね」
「バーバラという薬師に一度会ってみたいな、知り合いに任せられる冒険者がいるか聞いてみたい」
「この後に薬師組合で会う事になると思いますが、ライノも来ますか?」
「エリザベス様には申し訳ないが少し待って貰えるのなら、引き継ぎをすれば一緒に出られると思うぞ」
「分かりました」
相談することは以上かなと思っていると、ベスが声をかけてくる。
「ライノ」
「何でしょう、エリザベス様」
「待つのは問題ありませんが、それとは別に私は冒険者になりたいのです」
俺はトリス様の予想が当たっていた事に外れて欲しかったと、心の中で思いながらベスの後ろに実はしっかり護衛でそばにいた、テレサさんの様子を見ると驚愕して固まっている、ベスが着替えに出た時一緒に部屋を出たので、テレサさんはトリス様の話を聞いていないのでそれは驚くだろう。
テレサさんと同じようにライノは驚き困りつつ、何とか断ろうとする。
「あのエリザベス様、流石に冒険者は…」
「お忍び用の身分ですわ、偽名なら問題ありませんでしょ」
ライノは俺に助けを求めてくる。
「エド、どうにかしてくれ」
「あー」
俺はライノとテレサさんを気の毒そうに見ながら、トリス様の話を伝える。
「ベスの冒険者登録は偽名なら問題なしと、トリス様から聞いています」
「「「え!」」」
ライノとテレサさん、そしてベスまでが驚いている。
「ベスなら屋敷を勝手に抜け出してでも、必要になったら登録しに行くだろうからっと」
「流石、お母様ですわ」
トリス様は褒めてはないと思うんだが、ベスは感動している。
「ただ、依頼を受けるなら俺と一緒だと」
「分かりましたわ」
「俺はエマ師匠と魔法を覚えるまではダンジョンは行けませんので、街中のお使いのような依頼を受けますよ」
「私も街中は視察でしか回った事ないので、楽しみですわ」
ベスのやる気は変わらず、案外俺とベスのアルバトロスの地理感覚って似たり寄ったりなのではと思ったり、ただそうなると大変なのがテレサさんで様子を伺うと、いつも気の緩みのない姿勢でいるのが、姿勢だけはそのままに遠い目をしている。
ライノが諦めたような声で、話しかけてくる。
「それでエリザベス様、冒険者としての名前はどういたします」
「そうですね、違いすぎると呼ばれても分からなそうですので、ベスにしようと思いますわ」
「ベスですね、分かりました、私の引き継ぎと冒険者登録をしてきますので、少しお待ちを」
「分かりましたわ」
そう言うとライノさんは出ていく、普段は喋らないテレサさんが話しかけてくる。
「エド、本当にトリス様がギルド証を作っていいと?」
「勝手に作られる位ならまだ知っている状態の方がマシだと」
「そうか…」
流石に監視できるとまではベスの前で言いにくく濁したが、テレサさんは再び遠い目をしてしまって、心ここに在らずな状態だ。
ライノが戻ってくるまでベスやドリーと話をして待っていると、ライノが部屋に戻ってくる。
「お待たせ致しました、まずはエリザベス様のベス名義のギルド証です」
「助かります、お忍びの時はベスと呼んでください、服装が違いますので分かるとは思いますが、エドとドリーが一緒に居ると思いますわ」
「分かりました、ベス」
「ええ、ライノお願いしますわ」
ベスはギルド証を首に下げるための紐がないので、一時的に俺が預かり。
ライノは俺に質問する。
「エド、本当になんでこうなったんだ」
「ギルドに関してはどうしようもないけど、俺が今の状態なのはベスがベスだったからかな、俺だけが説得に成功したんだ」
「今回も説得できなかったのか」
「無理だね」
「無理か」
「うん」
俺がはっきりと無理だと言うと、ライノは大きくため息をついた後に、俺にベスのことを任せたと言われる。
「エドからベスに色々説明しておいてくれ」
「分かった、話しておく」
俺はライノに偽名で登録させてしまったが、問題ないか聞いておく。
「ベスを偽名で登録させてしまったけど、問題なかったの?」
「皆が本名を名乗っているわけではないし、貴族はよくあることだ」
「俺も出身地が誤魔化されているし、本名を名乗らないのが居るのは分からなくもないけど、貴族もそうなの?」
「三男以降は大貴族でもない限りは軍に入るか自力で生きていくしかない。貴族は魔法使いが多いから協会に所属するのが多いが、魔法が使えないのも居るから親に隠れて登録してそのまま冒険者にって、貴族は案外居るんだ」
「そうなんだ、意外だな」
「普通はそう思うかもしれない、だがエドも冒険者を続けるのならそのうち会うかもな、貴族の出身は読み書きできて武術もそこそこできるから、冒険者としても生きていくには十分な力量を持ってるのが多いぞ」
確かに冒険者としては武術が最初からできるのは大きいかもしれない、平民が一般的にどうやって武術を覚えているかは分からないし、更にアルバトロスのような大きい街だと読み書きだってどうやって教わるのだろうか、俺は協会で教わったが村と街では違いそうだ。
「あの、武術や読み書きって、冒険者はどうやって覚えるんですか」
「武術は自力か先輩に教わるかだな、読み書きはギルドでも教えているぞ、皆が皆覚えるわけではないがな」
「ギルドで教えてくれるんですね、俺は読み書きを協会で教わったので、アルバトロスだとやっぱり違うんですね」
「協会で?」
俺たちの会話を聞いているだけだったエマ師匠が答えてくれる。
「アルバトロスの協会でも教えて欲しいと言えば、教えますよ」
「そうなんですか、協会に習いにきてる人見たことないですが」
「協会の規約に書いてあるので来れば教えますが、協会自身は忙しい人が多いので宣伝はしていません。なので教わっている人は居ないと思います」
「確かに、アルバトロスの魔法使いは皆忙しそうですね」
「はい」
ライノが納得した様子で。
「そうだったのか、だが魔法使いに教わりに行く奴はアルバトロスでは少なそうだな」
「そうなんですか?」
「ギルドもそうだが教える所はそこそこあるからな、忙しく世話になっている魔法使いに教わりに行くのは躊躇いそうだ」
「なんか分かります」
エマ師匠に付いて治療に回っていると、ライノがいいたいことも分かる。
「話し込んでしまったが、私は組合に行けるように引き継ぎを済ませたので問題はないが、他にギルドですることはあるか?」
「ベス、何かある?」
「ありませんわ」
「なら組合に行こうか」
皆で馬車に乗ると、屋敷を出る前にトリス様に用意して貰った紐で、ギルド証を首に下げられるようにしてベスに渡そうとする。
「エド、首に下げてくださいませ」
「分かった」
ベスの首にギルド証をかけると、ベスは上機嫌に。
「エド、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「これからが楽しみですわね」
「そうだね、ベスも一緒に冒険をしよう」
「ええ、もちろんですわ」
ベスに何かあったらどうしようかと気は揉むが、何だかんだ俺はベスと一緒に冒険者ができることを楽しみにしている。
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