商会の名前
昨日は俺の思い付きで商会の名前をエリザベスにしようとして、皆に迷惑をかけたので申し訳なかった、今日は注意しないと。
朝の準備をして、辺境伯の屋敷へと馬車で向かう。
屋敷に着くと、俺、ドリー、ベスは一緒に魔法の訓練をする。
内容は昨日と同じ全力で魔法を使って消す事なので、三人とも上手くでき特に変わったことは無かった。
訓練が終わった後にエマ師匠が、俺とドリーがベスの鍛錬に付き合う前に、声をかけてくる。
「ベス、エド、ドリー全力での魔法の発動は今日までで、明日からは分割して魔法を使うことになります」
「「「はい」」」
「それで、エドとドリーはどうしますか、分割する魔法は同じなので、以前と同じ進行に戻りますか?」
「俺はせっかく一緒にやってきたので、ベスと一緒の訓練を続けたいです」
「ドリーも!」
「分かりました、明日からも同じ訓練をすることにします」
「「「はい」」」
俺とドリーの言ったことに、ベスも嬉しそうにしている。
エマ師匠とエレンさんが、ベスの魔法を覚えた速度について、研究成果として論文を書いたことを報告してくる。
「それと、ベスの魔法の覚える速度は、普通と比べ物にならない位に早かったので、研究結果を魔法協会へ私とエレンが作成した論文を渡して、他の魔法使いの見習いでも試し、審議するよう伝えます」
「三人の名前は共同研究者として書いてありますが、今回は研究の人数が少ないので、数を確認しないと協会からの報酬とかはないと思いますが、今後の実績と魔法使い育成に貢献した、名誉が手に入ります」
「エレンの言う通り、今回の研究内容だと、魔法使いの見習いはそこまで数が居ませんので、研究内容の確認作業に時間がかかり、現状だと名誉だけになる可能性が高いですね」
俺は魔法を使っていたら名前が論文に載っただけなので、実感がないので報酬についてはどちらでも良いかなと思う。
「俺は魔法を使っていただけなので、名誉で十分以上だと思います」
「ドリーはベスといっしょにいて、楽しかったの、それでいいの」
「私は早く魔法が覚えられたのですから、私にはそれが最高の報酬ですわ」
「分かりました」
俺たちがそう言うと、エマ師匠とエレンさんは同意した後に話は以上だと言う。
待っていたテレサさんが、俺たちの鍛錬を始める。
俺は鍛錬が終わる直前に気づく。前回は耐えられたと思っていたが違う、限界を見極めてテレサさんが調整していただけなのだ。
つまりこの鍛錬は徐々に量と質が増えていき、簡単には楽にならないことに気づいて絶望する。
絶望しながらお風呂に入って汗を流した後に、いつものように部屋に行くかと思ったらトリス様の元に今日は直接行くらしく案内される。
俺は案内されながら、商会の名前が不味かっただろうかと考えていた。
「エド、よく来ました」
部屋に入るとトリス様がもう居て声をかけてくる、椅子に座ると俺は先に心配事を片付けようと質問する。
「トリス様、あの商会の名前が不味かったですか?」
「直接呼んだから勘違いさせてしまいましたか。違いますよ、皆が揃ってから話しますが問題ありません」
「そうですか、良かった」
違ったらしく、安心する。
誰かが入ってきたので皆が入ってきたのかと思ったら、セオさんが入ってきた。
「ベアトリス様戻りました、エドさんが居たか」
「セオさんがなんで?」
「昨日の件でお使いをしていて、報告もあってね」
「昨日の件?」
俺が疑問に思って聞き返す、とトリス様が止める。
「セオドア、報告はエリザベスや他の者が揃ってから聞きます」
「分かりました」
皆を待っている間に、トリス様が好きだというお茶を貰ったりして、話をしていると皆が入ってきて、全員が座るとトリス様が話し始める。
「揃いましたね、商会の名前から話しましょう」
「はい」
「まず、エリザベス商会については許可します」
「ありがとうございます」
部屋に入った時に問題ないと言われたが、許可されたことで安心する。
俺が提案した時に、ベスが喜んでいた気がしたので尚更だ。
「ただ一つ条件があります。セオドアが話す内容によっては、エリザベスも運営に関わり名前を商会に連ねることです」
「え、ベスもですか?」
「私も最初は名前を貸すだけの予定でしたが、セオドアから話を聞いて気が変わりました」
「話ですか?」
「貧民街への対策とする雇用についてです」
「それは貧民街の薬師を雇うかどうか、という話のことですか」
ベスが名前を連ねることと、貧民街がどう関係してくるのだろうか?
セオさんとグレゴリーさんが聞いたという、辺境伯の貧民街への対策に苦慮している、という噂が関係しているのだろうか。
「それについて話す前に、セオドア返事は聞けましたか」
「ベアトリス様、確認して参りました」
「そうですか、では皆が分かるように最初から話してください」
「はい、商会で雇う人材を探している時に選考中の人物で、エドさんが気になる人を上げました。その方は貧民街近くで薬屋をやっている女性なのですが、困っている子供達を拾っては弟子にしている方です」
確かセオさんが貧民街の救済になるかもしれないと、言っていた人だ。
「私はその貧民街近くの薬師を雇うことで、貧民街の救済になるかもしれないと考え、ベアトリス様に考えを話すと薬師に直接尋ねて、貧民街の救済に自分が使われる事が問題ないかなどを聞いてくるようにと言われ、薬師と面識のある薬師組合のグレゴリーさんと共に今日訪ねてきました」
セオさんだけでなく、グレゴリーさんまで訪ねることになってしまったようだ。
「訪ね今回の事情を説明したところ、薬師が自分なら貧民街の対策に使われたとしても、子供が住みやすくなるのなら問題ないとの返答を頂きました、報告は以上です」
セオさんの報告が終わった後、トリス様が話し始める。
「同意が得られたのであれば、エリザベスは商会に名前を連ねるべきでしょう、貧民街は辺境伯としても、手を出すに出せなく困っているのです」
「トリス様、あの困っているって、どう言うことなんですか?」
「追い出したところで、場所が移動するだけで問題は解決しません。逆に放置すれば治安が悪化する、対応が非常に難しい地域なのです」
「今回の方法なら、悪い方向にはいかないと言うことですか」
「その通りです、失敗したところでシャンプーとトリートメントの生産が少し遅れる程度で、損害がほとんど発生しません。それに雇用を生み出そうとしているのですから、話がつけば上手くいく可能性があります」
「なるほど」
「それに貧民街には水車が何個かあるのだけれど、管理者が不正をするか、不正をしないと脅されるような事が、結構な頻度で有ったので、今は閉鎖しています」
「その閉鎖中の水車で、シャンプーとトリートメントを作ろうと言うことですか」
「そうしたいですが、今言ったように治安の問題があります」
「そうですね」
使ってない水車があるのなら、今使っている作業を止めないで新しい事業ができる。
良い考えだが治安の問題が立ちはだかる。どう解決すべきなんだろうかと思っていると、トリス様が俺に違うことを聞いてくる。
「セオドアから聞きましたが、エドとドリーは薬師組合に薬師として組合員として所属していたのですね。年齢的に見習いかと思っていました」
「トリス様すみません。組合に出入りしているのは言っていましたが、組合員であることを言い忘れていました」
「いえ、一人前の薬師と認められる技量があるエドとドリーは、シャンプーやトリートメントのようなものを作れたのですね」
「はい、他にも薬師として薬も作れます」
「そうですか、ところでエドは他にも所属していますね?」
「えっと、魔法協会と薬師組合は言ってると思うので、冒険者ギルドですかね」
「今回は、その冒険者ギルドも巻き込もうと思います」
「冒険者ギルドをですか?」
「表向きは力仕事を任せると言うことにして、薬師たちの護衛をしてもらいます」
確かに冒険者向きの仕事かもしれないが、護衛なら辺境伯の兵士などでもできるのに、何故冒険者ギルドなのだろうか。
「あの何故冒険者ギルドなんですか、兵士などでも良いのでは?」
「貧民街に兵士を入れると騒動になる可能性があります。水車の管理者として元兵士を出す予定ではありますが、必要最低限にします。貧民街から住民を追い出すわけではないので、刺激したくありません」
「そう言うことですか」
「それに、冒険者は貧民街出身の者が少なくない人数居ると報告を受けています」
「貧民街出身の者がいれば、地理や住民とも話を通りやすくなると言うことですか」
「貧民街近くの薬師と、貧民街の冒険者で話がつけられるのが理想ですが、無理でも薬師の護衛だけでも十分と考えています」
「分かりました」
俺が納得したところで、トリス様はベスに声をかける。
「エリザベス」
「はい、お母様」
「商会に名を連ねて、辺境伯の娘として仕事をするのです」
「お母様、承りましたわ」
「エリザベスに、必要があれば自由に屋敷を出る許可を出します」
「どのような形で、屋敷を出ればよろしいですの?」
「基本は身分が分からないように行動しなさい」
「はい、ではお忍びで薬師組合と冒険者ギルドに挨拶に行って参りますわ」
「そうしなさい」
トリス様は、ベスの後ろに控えていたテレサさんに護衛を頼む。
「テレサ、大変だと思いますがベスの護衛を頼みます」
「は!」
トリス様は再び俺の方を向いて声をかけてこようとし、俺は嫌な予感が。
「と言うことで、エドもベスをお願いしますね」
「えっと…?」
「エドには護衛というよりは、ベスを止める方を期待しています」
「はい、分かりました」
トリス様に返事をしたは良いが、俺にベスを止められるのだろうか不安だ。
「私からの話は以上ですが、何か聞きたいことなどありますか」
セオさんは質問があったようで、トリス様ではなくベスに話し始めた。
「エリザベス様に質問なのですが、薬師組合に行く日は決まっておりますでしょうか」
「私は、今日でも問題ありませんわ」
「今日ですか。貧民街近くの薬師にもお会いしてもらおうと思ったので、先に失礼して呼んで参ろうと思います」
「薬師の予定に合わせますわよ」
「いえ、薬師もそういう訳にはいかないと思いますので」
「分かりましたわ」
確かに辺境伯の令嬢に予定を合わせるとか言われても、普通の薬師は困ってしまうだろう。
セオさんはトリス様とベスに挨拶をして、慌てて部屋を出て行った。
俺は組合はセオさんが薬師を呼びに行く時間が必要なので、先にギルドに行くべきかと思って皆に聞く。
「セオさんが薬師を呼びに行ったから時間がかかると思うし、組合は後に行ったほうがいいのかな?」
「そうですわね」
「それじゃ、ギルドから行こうか」
「分かりました、私着替えてきますわ」
「うん」
そう言ってベスが部屋を退出していく。
ベスが部屋を出た後に、トリス様がベスのことについて言ってくる。
「ベスのことですが、エドに頼みたい事があります」
「はい」
「ベスは冒険者になりたい、などとギルドで言うと思いますが」
「え!言われてみれば、トリス様の言う通りベスなら有りそうです。どうすれば?」
「冒険者ギルドの職員には無理を言うことになりますが、偽名なら登録させて構いません」
「トリス様、本当にいいんですか?」
「ベスならそのうち必要になって、屋敷を許可なく抜け出して作ろうとする筈です」
確かに言われてみれば、鍛錬にダンジョンは最適だと言える、ベスが必要だと思えば行動するだろう。
「ない、とは言い切れません」
「なら、まだ知っている範囲で作ってくれた方が、監視がしやすいと言うものです」
「はい…」
ただ心配なのがベスが登録だけして満足するとは到底思えず、どうすれば良いか聞く。
「トリス様、あのベスが登録だけで満足すると思えないのですが」
「それについては話が少し変わってしまうのですが、エドは冒険者ギルドで仕事を受けたことは?」
「実はまだ登録しただけで、シャンプーとトリートメントの事で忙しくて、一度も仕事をしたことがないです」
「そうですか、どのような仕事をしているか、聞きたかったのですが」
「それなら、受ける仕事は決まっています。俺とドリーはエマ師匠から魔法を覚えるまではダンジョンは禁止で、街中のお使いのような仕事を受けるようにと言われています」
「それならばエドに迷惑をかけますが、街中の依頼であればエドが一緒なら問題ありません」
「良いんですか?」
「ダメだと言って止まるなら、ベスは違う育ち方をしています」
そう言われてしまうと何も言えない。ベスは常識はそこそこあるのに、決めたことは常識を知っていても、貴族としての決まりがないのであれば放棄するのは、短い付き合いだが理解している。
しかし、魔法を覚えていない時の街中の依頼ならまだいい。でも魔法を覚えた後はダンジョンに?
「トリス様、あの、魔法を覚えた後は?」
「…エド、迷惑をかけます」
「…」
トリス様が無念そうに俺に謝るようにベスのことを託してくる。
俺は絶句するしかない。俺はダンジョンを前にしたベスを止められる自信がない。トリス様も同じなのだろう。
ベスの騎士は大変すぎではないだろうか?
句読点の量を調整しています。
意識して減らしていたので少し量を増やしてみました。
次話を書くことを優先の為、投稿済みの話は徐々に修正して行こうかと思います。
作風が変わってしまったような違和感がありましたら、感想に書いて頂けると嬉しいです。
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