噂とお願い、そして思いつき
セオさんは、辺境伯の屋敷に自分の馬車で来たと言うので、薬師組合までは別々の馬車に乗って、組合で合流することなった。
組合に着いて中に入ると、グレゴリーさんが近づいてくる。
「エマ様、エドワード様、ドロシー様、本日はどのような御用で?」
「今日は以前の相談の続きと、紹介したい人がいて、部屋をお願いできますか」
「分かりました、少々お待ちください」
グレゴリーさんは部屋を用意してくれ案内される。
席に座ると、まずはセオさんを紹介することにする。
「グレゴリーさん、紹介したいのはセオさんなんだ」
「商人のセオドアと申します」
「薬師組合のグレゴリーと申します、セオドア様よろしくお願いいたします」
「こちらこそグレゴリーさんよろしくお願いいたします。魔法使いではないので普通に呼んでいただいて問題ありません」
「分かりました、セオドアさん」
そう言えばグレゴリーさんが俺たちに最初に会った時は、エドワード様と呼んでいなかった気が?
グレゴリーさんが俺たちを様付けで呼ぶのは、魔法使いだったからだと初めて知った。
「グレゴリーさん、俺も普通に呼んで貰って問題ありませんよ?」
「魔法使いは組合のお得意様ですし、薬師は基本的に魔法使いを尊敬していますので」
セオさんが、グレゴリーさんの説明を補足してくれる。
「薬師が尊敬していると言うよりは、リング王国民なら尊敬していると言った方が、いいかもしれないですね。強大な魔物を倒し、病気や怪我を治してくれる存在ですから」
「そう言われると、魔法使いは凄い気がしますね」
「気がするのではなく、凄いのですよ」
ターブ村での生活だと実感したことが無かったが、一般的な視点だとどうやら違うようだ。
俺が納得していると、グレゴリーさんは俺に話しかけてくる。
「と言うことで、私がエドワード様と呼ぶことを許してください。薬師は最終的な目標として、魔法使いを目指していたりする人もいるので」
「魔法使いを目指しているんですか?」
「正確には、魔法薬を目指しているでしょうか」
「それは薬師として、ちょっと理解できます」
「そうですか、エドワード様も薬師ですね」
「なんとなくですが、分かりました。薬師の中で気にする人がいるって事なんですね」
「その通りです、組合職員としては対応が難しい所なのです。エドワード様は魔法使いになったばかりで、今までとの違いに戸惑うでしょうが、組合職員としてお願いします」
魔法使いになったことで生活が大きく良い方向に変わった。
その変化は、俺とドリーを普通以上の生活にしてくれている。
グレゴリーさんの話を聞いて、尊敬されている魔法使い達のように、俺もなりたいと思うようになった。
決意を新たにしてし、話の腰を折ってしまったことに気づいて謝る。
セオさんが気にすることはないと言ってくれる。
「すみません、話が逸れてしまいました」
「いえ、エドさんはこれから更に常識が分からない場所に立たされます。私に答えられることなら答えますので聞いてください」
「ありがとうございます」
話の仕方的に、どうやらセオさんは俺のことを結構聞いてるらしい。
組合に来る前にどのくらい聞いているのか、聞いておけば良かったかもしれない。
グレゴリーさんは、更に分からないことが商会のことだと思ったようだ。
「もしや常識が分からないと言うのは、商会のことでしょうか」
「それもありますが。エドさんはグレゴリーさんに、どこまで説明を?」
「すみませんセオさん、逆に質問で申し訳ないんですが、セオさんは俺とドリーの事をどこまで聞いていますか」
「そう言えば、言ってませんでしたね。ベアトリス様とテレサから出自のことだとか、エドさんの今後などは聞いて、協力するようにと言われています」
グレゴリーさんに聞こえない小語で、セオさんは説明してくれ、俺は納得する。
「それならグレゴリーさんは組合員になる時に、対応してくれた組合職員なので、俺の出自は知っています」
「それならば、協力をこのまま願う為に、エドさんの今後を話しましょう」
「良いんですかね?」
「グレゴリーさんにも、悪い話ではありませんから」
俺が騎士になる可能性があるのが、グレゴリーさんに悪い話ではないと言うのが理解できないが、口止めすれば話しても問題はないと思うので、話すことにする。
「グレゴリーさん、俺は騎士にならないかと話をされて、とりあえず貴族の知識だけは勉強することになったんです」
「エドワード様が騎士ですか!」
「俺もよく分からないままに、ベスの騎士候補になっています」
「なんと」
俺の説明不足や、俺も知らなかった事情をセオさんが補足してくれる。
「グレゴリーさん、私が少し補足をします」
「セオドアさん、お願いできますか」
「エドさんが騎士にならないかと言われたのは、エリザベス様の独特な問題があります。エリザベス様について噂は聞いたことは?」
「その…非常に活発な方だと」
「グレゴリーさん、エリザベス様の噂を知っているとは流石ですね、エリザベス様はその認識で合っています」
「それが何故エドワード様の騎士になることと関係が?」
「活発すぎて同年代の騎士候補がいないのです、大半の候補は辞退されてしまいました」
「名誉あることですが、辞退ですか?」
「護衛対象に負ける騎士は、辛くありませんか」
「それは…」
あれ、セオさんの説明だと俺もベスには負けるんだけど?
「あのセオさん、その説明だと俺もベスには負けますよ?」
「エリザベス様は勝ち負けで騎士を選ぶとは言っておりませんので、候補側が辞退しているだけですね」
「自尊心が保たないと言う話ですか」
「そうです、エドさんはあまり気にしていないでしょ?」
「ベスが凄いなとは思うけど、確かにそれに守るのと勝つのは別だと思うし」
「エドさんの年齢だと、普通そう理解するのが難しいという話ですね」
「なるほど」
「それとエリザベス様が、エドさんを気に入ってるのも大きいと、姉のテレサが言っていました」
ベスが俺を気に入っていると言うのは、少しだけそうかなとは思っていたが、付き合いの長いであろうテレサさんが、言うならそうなのだろう。
グレゴリーさんは、納得がいかない顔でセオさんに話しかけている。
「エドワード様が、エリザベス様の騎士候補であると言うのは分かりましたが、私に話をした理由が分かりません」
「グレゴリーさんは、エドさんとドリーさんの出自を知っていますね」
「はい、組合に登録時必要な情報だったので、知っておりますが」
「それを秘密にして頂きたい。手紙で残すのも不味いとの事で口頭ですが、ベアトリス様からの命令だと思って頂ければ」
「分かりました」
グレゴリーさんは顔を引き攣らせて了承する、そんなグレゴリーさんを見たセオさんは苦笑しながら落ち着かせる。
「貴族間で揉め事にならないためにする事で、出自をばら撒かなければ問題ありませんので」
「騎士となるなら、エドワード様の出自は問題になる可能性がありますね」
「ええ、なので薬師であるとか、魔法使いであるとかの問題なさそうな事は言っても問題ないので」
「分かりました、騎士候補というのも秘密に?」
「とりあえずは、グレゴリーさんだけの秘密にしておいてくれると嬉しいですね。徐々に噂にはなると思いますので、グレゴリーさんまで噂が流れてきた時に、事実だと認めて頂いて問題ありません」
「そういう事ですか」
「はい」
セオさんとグレゴリーさんが怪しい話をしている。
騎士候補だという噂をばら撒くのだろうと思うが、出自とかも同時に偽装するのかもしれない。
セオさんとグレゴリーさんの会話は続いていく。
「後は先ほど話題に出ましたが、商会を立ち上げるので手伝って頂きたいのですが、人材を選んでいるのはグレゴリーさんですよね?」
「人材を選んでいるのはその通り私ですが、やはり商会を立ち上げることになりましたか」
「ええ、立ち上げる商会としては、人材と材料の仕入れを組合からできるなら嬉しいですが、無理なら協会に頼むことになるかと」
「エドワード様とドロシー様が組合員なので、材料に関しては売ることは可能ですが、組合にも在庫が無限にあるわけではないので、量が問題になります」
「ちなみに、量が確保できないものは分かりますか?」
「セオさんも予想していると思いますが、魔法使いでないと用意できないものがあるので、それが一番問題になってきます」
やはり俺たちと同じ予想で、問題になるのは魔法使いが用意する素材のようだ。
セオさんは組合に来る前に話した内容を、グレゴリーさんに説明する
「やはりそこが問題ですか。一応解決策みたいなものは、エドさんたちが提案してくれたのですが」
「どういうものか、聞いても?」
「協会内でシャンプーとトリートメントを配っていたらしいのです」
「なるほど。欲しいなら素材を作るしかないと、交渉をするのですね」
「はい」
「それなら何とかなるかもしれませんね」
「ただそうすると売った場合に、どれだけの量が必要かが分からなくなりまして」
「確かに、それは困りますね」
「水車を一基借りられることにはなったので、当分は一基分で作れる量になります」
「となると協会に増産願いを出しつつ、作っていくのが良いかもしれません」
「分かりました、そうしましょう」
俺は口を挟むことなく、セオさんとグレゴリーさんが、量産について話を詰めてくれて非常に助かる。
セオさんはまだ続きがあったようで、グレゴリーさんに話しかける。
「後は、グレゴリーさん、商会に名前を貸してくれませんか」
「私の、ですか?」
「はい、お礼も兼ねてですが、ドリーさんが将来薬屋をやりたいと言っているので」
「それならば、私で力になれるのならば名前を貸しましょう」
「助かります」
グレゴリーさんが名前を貸してくれるらしく、組合との繋がりが強くできるので、商会としては安定しそうだと考えていると、グレゴリーさんが質問してくる。
「ところで、商会の名前は決まったのですか」
「「あー…」」
俺とセオさんは顔を合わせて、セオさんが仮だと強調して伝える。
「まだ仮なんですが、エリザベス商会と」
「え!」
「エリザベス様は許可を出したのですが、ベアトリス様の許可がまだなので。仮です仮」
「エリザベス様は許可してるって、ベアトリス様の許可が出たら、仮が外れるってことでは?」
「そうです」
「私が、そこに名前を?」
「はい」
俺の思い付きがグレゴリーさんを絶句させており申し訳なくなる、セオさんが投げやり気味に。
「元々が辺境伯が後ろ盾の商会ですから、ちょっと大袈裟になっただけですよ、ハハハ」
セオさんの感情のこもっていない笑い声が、部屋にこだまする。
二人が落ち着いたところで、二人に謝る。
「すみません、俺の思い付きで」
「エドワード様が謝られることではありません、ただ少し荷が重いだけですので」
「私としても、商人としては最適解ですので気にする必要はないですよ。私としても少々荷が重いだけなので」
「すみません」
ベスの名前を使った商会は思った以上に重みがあるようで、グレゴリーさんとセオさんは悟りを開いたような顔をしている。
「選んでいる人材ですが、もう一段厳しく厳選しようと思います」
「グレゴリーさん、申し訳ないです」
「元々かなり慎重に選んでいたので、問題はありませんよ」
「ありがとうございます」
「現在の候補の書類を見てみますか?」
「良いんですか?」
「ええ」
「ではお願いします」
「分かりました、少々お待ちください」
そう言ってグレゴリーさんは部屋を出た、書類を取りに行ってくれたようだ。
少しするとグレゴリーさんは、書類を手に戻ってくる。
「お待たせしました、話を受ける気があるものだけの書類です」
「ありがとうございます」
見ていくと大半が組合員だったり、組合員の弟子で見習いをしている人の書類が意外と多い。
「こんなに候補が居るんですね」
「アルバトロスは平時には薬師があまり気味ですからね。輸出用に作ったりしているので仕事に困るという事はないですが、緊急時には薬師が足りなくなるんです。難しい問題ですね」
「なるほど、それで多いんですか」
「ええ、気になった方など居ますか」
グレゴリーさんに尋ねられ、実は見ていた書類で気になった人がいる、薬師で弟子の人数も多いのに、何故か書類が混じっている人が。
「この弟子が多い方は、なんで参加しようとしているんですか」
「どなたでしょう」
「バーバラという方なんですが」
「ああ、バーバラさんですか」
「どういう人なんですか」
「アルバトロスにも治安がいい場所と悪い場所がありまして、バーバラは貧民街の近くで薬屋をやっている方ですね」
「儲からないからって事ですか?」
「いえ、困っている子供を拾ってきては、弟子にしているので余裕がないのです、今回の話を聞くとバーバラさん自身でも、弟子でもいいからと言われています」
「そうなんですか」
自分の境遇を考えると助けたくなる気持ちもあり、迷っているとセオさんが話に入ってくる。
「エリザベス様の名前を冠した商会が、貧民街の救済という意味でも良いかもしれませんね」
「ベスの迷惑になりませんか?」
「貧民街は消そうと思っても、アルバトロスでは中々消えるものではないので、辺境伯も苦慮していると、噂ですが聞いたことがあります」
「セオドアさんが言ったように、私も同じ噂を聞いたことがあります」
「グレゴリーさんもですか。治安の悪化を抑える意味もありますから、噂は本当なのかもしれません」
「それではセオドアさん、エドワード様、まずはバーバラを有力な候補として、残しておくのはどうでしょう」
「俺はそれで良いと思います」
「商会の名前の事もありますから、私の方から屋敷に戻って一度聞いておきます」
バーバラさんは有力候補として残し、セオさんがトリス様に尋ねに行ってくれるようだ。
本日できる相談は以上となって、解散することになった。
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