薬師組合で相談と依頼
ベスと色々話した後帰ることになり、辺境伯の屋敷から帰る途中に、薬師組合に寄る事にしようとエマ師匠に相談すると、同意してくれたので馬車の御者に、行き先を薬師組合でと伝える。
組合に着くとグレゴリーさんを呼んで、個室で話がしたいと言うと、部屋を用意してくれ互いに座ると話を切り出す。
「グレゴリーさん、俺とドリーが作った物を欲しい人が多すぎて、組合で作って欲しいんですが可能ですか?」
「可能ですが、作り方が流出してしまいますよ?」
「それなんですが、メガロケロス辺境伯の奥方から手紙が」
「は?」
グレゴリーさんは俺が言ったことが予想外だったらしく、唖然とした後に顔を引き攣らせている、俺もなんでこんな事になったのか分からないが、渡された手紙をグレゴリーさんに差し出す。
グレゴリーさんは血の気が引いた顔で、手紙を受け取って読むと。
「メガロケロス辺境伯が支援するのは理解しましたが、聞いてもいいでしょうか、何故こんな事になったんです、二人はアルバトロスに来て間もないと言うのに」
「最初はエマ師匠が気に入ったのが始まりですかね。知り合いに配ったりしていたので、将来的には誰かに作って貰えないかと思っていましたが、事情が変わりました」
「事情が、メガロケロス辺境伯なのですね」
「正確には、メガロケロス辺境伯の娘であるベスに手土産で渡したところ、気に入られまして」
「ベスとはもしやメガロケロス辺境伯の令嬢エリザベス様ですか。どう繋がりができたのか気になりますが流石に聞けませんね。エリザベス様一人で使うのならそう数は必要ないのでは?」
どう繋がりができたのかは言っていいか分からないため、エマ師匠に尋ねる。
「ベスとの繋がりについては、言っていいんですかね?」
「そうですね、繋がりが強いと認識された方が外に流れる可能性は減りそうですし、確かに言えないこともありますので、でしたら私から説明しましょう」
エマ師匠の返答に、まさか聞けると思わなかったグレゴリーさんが驚いて、聞き返してくる。
「いいのですか?」
「はい」
エマ師匠は、ベスが力の鍛錬をしたいので魔法を講師が辞めるほど、サボっていたという特殊な事実を、上手く隠して説明してくれるようだ。
「私の親戚がエリザベス様の魔法を教えていて、エドとドリーが年齢が近いことや、習得速度が似ているので、一緒に魔法の訓練をしようという事になりました」
「つまり二人は、エリザベス様の兄弟弟子のような存在だと?」
「そう言えば私もエリザベス様に魔法を教える事になったので、本当に兄弟弟子と言えるかも知れません」
「それは…驚きです」
グレゴリーさんに言われて気づいたが、エマ師匠も同意したように、確かに兄弟弟子と言えるかも知れない、田舎の村出身で村を追い出された俺が、何でこんな事になっているんだろうか?
「エリザベス様と兄弟弟子なのは分かりましたが、製作を依頼する物は何故作り方を公開してまで量を、作る必要があるのですか」
「ベスに渡したら、確認のために使ったメイドさんや、護衛の騎士様も欲しいと言われてしまって、それで完全に二人で作れる量を超えてしまいました」
「メガロケロス辺境伯の使用人が使うとなれば人数が多いので、確かに量が必要になりますね」
「しかもベスのお母様まで、注文すると言われて」
「エリザベス様のお母様と言えば、辺境伯の奥方ではありませんか!」
「そういう事になります」
できる男な見た目をしているグレゴリーさんが、大きく取り乱した後に、真剣な顔で。
「分かりました、信頼できる薬師に頼みましょう」
「助かりますが薬師でなくても問題ないと思いますよ、薬じゃないので」
「薬ではない?」
「髪を洗うための液体の石鹸シャンプーと、髪を整えるための液体トリートメントなんです、材料と作り方はこれです」
「液体の石鹸と、整える物ですか」
作り方をメモした紙をグレゴリーさんに渡すと確認してくれる。
「以前大量に買っていた物で作るのですね、この材料で石鹸ができるのですか」
「はい、流石にあの量を買えば分かりますよね」
「普通、買わない組み合わせでしたからね」
「ですよね、尋ねてくるかと思いました」
「薬師が作り方を秘匿しているのは当たり前なので、組合の職員は何か事情がなければ聞きませんよ」
確かに特許のない世界だから、薬師は秘密主義で簡単に技術を教えることはないだろう。
ターブ村のオジジが教えてくれたのは俺とドリーに同情したのと、ドリーに薬師としての才能があったからだと思っている。
グレゴリーさんは、俺が渡した作り方のメモを再び見た後、俺を見て。
「作り方を教える人を選ばないといけません。辺境伯が関わっているとは言え、情報を漏らす可能性がある者には教えられませんし、計量が必要になってくるのであまりに素人だと、すぐ作れるようになるのは厳しいかも知れません」
「確かに普通の石鹸に比べたら、材料の種類が多いかも知れません」
「となると、薬師見習いなども作業可能な仕事として出すべきかも知れません」
「薬師組合からの仕事の依頼と言うことですか?」
「いえ違いますが…もしかしてエドワード様は、辺境伯の奥方からの手紙の内容を知りませんか?」
「ベス経由で、メガロケロスの名前を使っていいとは聞いていますが?」
「それに加えて、依頼料など全てメガロケロス辺境伯が持つと書いてあります」
俺とドリーには資金がそうないため、出せる範囲の量を組合に依頼して、メガロケロス家が必要な分を買ってもらうつもりだった。
だがグレゴリーさんが言った通りに、メガロケロス家が全ての資金を出すのなら話が変わってくる。
ベスはそのような事を言ってなかったが、ベスへの手紙とグレゴリーさんに渡した手紙で、内容が違ったのだろうか?
「ベスからは聞いてないです」
「そうですか」
グレゴリーさんは、少し考え込んだ様子の後に。
「確認ですが、継続的に生産して行くつもりですか」
「継続的と言うよりは資金の問題もあるので、必要な量を都度たのむ予定でした」
「では改めてメガロケロス家に確認すべきかも知れませんね。依頼で薬師組合が毎回采配するより、資金に問題がないのですから、継続して生産して行くべきでしょう」
「その通りですね、ベスにどちらが良いか聞いてみます」
グレゴリーさんが頷き、更に継続して生産する場合の対処方法を教えてくれる。
「継続して生産する場合はエドワード様が商会を立ち上げて、工場を作った方がいいかも知れません」
「俺が商会ですか、薬屋でなく?」
「薬屋でも良いのですが、石鹸は薬屋に売ってはいますが、商店で買う人が大半です」
グレゴリーさんに石鹸が売っているかどうか説明されるが、石鹸をアルバトロスに来てから買っていないので知らなかった。
「石鹸は商店で買うんですか、買ったことがなかったので知りませんでした」
「エドワード様はアルバトロスに来たばかりですし、自作もしているようなので知らなくても仕方がないかと」
「そう言ってもらえると、助かります」
「それで、商会にしておけば店を開くときに、石鹸は商店で、薬は薬屋を、と別で出せるようになります」
「そういう事ですか。商会を立ち上げても俺に経営できると思えないので、商会を立ち上げるかはベスに相談してみます」
「そうですねエドワード様は魔法使いでもありますし、相談した方がいいと思われます」
グレゴリーさんも同意してくれたが、俺が商会を立ち上げて経営ができると思えないので、ベスに相談しなければならないだろう。
それに商会を立ち上げてもすぐ動ける訳では無いだろうし、今足りない分のシャンプーとトリートメントを発注しないと不味そうだ。
「今足りない分のシャンプーとトリートメントの製作をお願いしたいんですが」
「そうですね、それについては組合で良さそうな人材を探しておきます」
「ありがとうございます」
足りない分の製作を頼めそうで安心する、香りが違うのはまだ出来ていないので出来上がってから相談すべきだろう。
それで精油が必要なことを思い出して組合でも売っていたので、グレゴリーさんにお願いして用意してもらう事にする。
「グレゴリーさん、シャンプーとトリートメントの香り付けに使う精油が欲しいのですが」
「香り付けに精油ですか?」
「はい、グレゴリーさんに渡した作り方は、エマ師匠とドリーの好みで作ってあるので、ベス用の調合とベスのお母様用に準備したいのです、香りの確認なので量はそう要らないのですが、代わりに種類が欲しいんですが」
「そういう事ですか、組合に有るものを持って来させるので、少々お待ちください」
そう言うとグレゴリーさんは一度外に出て、すぐに戻ってきた。
「持ってくるように言いましたので、今準備をしています」
「ありがとうございます」
「しかし辺境伯の奥方や令嬢が使われるのなら、もっと種類が必要かも知れませんね。薬師組合にある精油は種類が少ないので」
「そうなんですか」
「はい、精油の専門店があるので、そちらにも見に行った方がいいかと」
「分かりました、場所を教えてもらえますか」
「はい」
グレゴリーさんは店の場所を教えてくれるが、俺はアルバトロスの地理が分からず、エマ師匠に尋ねると分かると言うので、グレゴリーさんは場所をメモして渡してくれる。
「ありがとうございます」
「いえ、しかし話が大きくなりそうですね、石鹸も匂いが付けられますが、品質によってまちまちですから」
「石鹸も手作りしていたから分かります、組合みたいな品質の良い素材があれば良いものを作れますが、普通だと難しいかも」
「そうですね、だから高級な石鹸は専門の業者が作ってるのが大半ですね」
「そうなりますよね、一定以上の品質の素材が必要だから」
「はい」
話をしていると、ドアがノックされ人が入ってきて、精油を置いていく。
「組合で使われる精油は、これが全てです」
「グレゴリーさんの言う通り、意外と少ないんですね」
「そうですね、薬効があるとなると少ないですし、匂い付けで使うものも、どれを使うか決まっているので」
「確かに、薬に匂いをつけることはあまり無いですね」
「はい」
「それで、お金はいくらになりますか」
「辺境伯からの依頼と言うことで必要ありません、請求は手紙に書かれていた通りに致しますので」
「精油も良いんですか」
「そうですね、製作依頼の範囲内かと」
「分かりました、ありがとうございます」
ドリーは精油に興味を持ったようで匂いを嗅いでいる、そんなドリーを見ているとグレゴリーさんが。
「ところでシャンプーとトリートメントは、どの程度必要になると思いますか」
「正直分からないんです、今度ベスのお母様にも会う事になりそうなんですが」
「エリザベス様経由ではなく、直接お会いするのですか」
「そういう話になってしまいました」
「それは想像以上に量が必要になるかも知れませんね」
「今でも結構な量になりそうですが」
「今は辺境伯家だけで考えていましたが、もし貴族として動かれるなら大量に必要になりそうです」
「それは…」
「組合としても、出せる人材を選定しておきます」
「良いんですか?」
「先に動いた方が混乱が少なくなるでしょうから、選定だけなので、必要がなければ動かす必要もありませんから」
経験の差なのだろうか、非常に頼りになるグレゴリーさんに感謝する。
そしてドリーのために作ったものが、こんなに欲しがられる物になるとは、作った時は思いもしなかった。
必要な事や、する事を、再度グレゴリーさんと確認すると、今日組合でする予定は無くなった。
「では、エドワード様本日のご用件は以上ですか?」
「はい、グレゴリーさん、シャンプーとトリートメントの件は申し訳ないのですが、よろしくお願いします」
「辺境伯からの依頼ですから、薬師組合としてもしっかり対応致しますので」
手紙が効きすぎている気がするが、まだ続きそうな混乱の予定が、少しでも消化できたことが嬉しい。
精油を見に行くので組合を出る事にして、グレゴリーさんに挨拶をした後、馬車に乗って移動する。
その後は、精油の専門店で買い物をして、魔法協会に戻る。
自室に戻ると俺とドリーは、精油を組み合わせて、ベスが甘すぎない方がいいと言った香りや、他にも見本になる香りを作って行く。
一日中精油の匂いを嗅いでいると鼻がダメになってくる、ドリーはこう言う作業も得意なので楽しそうに調整している。
「ドリー、調子はどうだい」
「んー、いいのは少し」
そう言って俺にドリーは精油を調整したものを渡して来て、俺は嗅いでみると良い香りだと感じる。
「ドリー、いい香りだね」
「うん!」
「俺が作ったのも確認してみて」
そう言って数個作った物をドリーに渡すと、ドリーは。
「いい香り!」
「そうか、良かった」
「これ、ベスがいいかも」
「そうかい?」
「うん」
ベス用にと色々作っていた中の一つを、ドリーは選んで良いと言ってくれた、ドリーにそう言われたことで作った香りに自信が持てる。
「にーちゃ」
「ん、なにドリー」
「ポンチョは?」
「え、ポンチョ?」
「ベスの」
「あ」
そう言えば作りかけだ。連日注文依頼を受けたことで、今日依頼されたシャンプーとトリートメントに気を取られて忘れていた。
「にーちゃ、あとはドリーやる」
「良いのかい?」
「まかせて!」
「それじゃ、お願いします」
「うん!」
精油の作りをドリーに任せて、俺はポンチョを急ぎつつも丁寧に作っていく。
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