再び製作依頼
昨日は魔法の訓練に行ったのに、何故か服の製作依頼を受けて帰ってきたが、今日は流石にそのような事はないだろうと、辺境伯の屋敷に向かう馬車から外を眺めていると、エマ師匠が話しかけてくる。
「そう言えば昨日言い忘れましたが、ベスとの魔法の訓練は魔法協会からの依頼になります、なのでお金が出ます」
「エマ師匠は教えるから分かりますが、俺は訓練なのにお金が出るんですか?」
「それだけ困難な依頼だったと言う事です」
「確かに」
思わず同意してしまったが、辺境伯の令嬢であるベスが努力する方向性だけは、普通ではなかったので分からなくもない、しかしベスが求める力とは何なんだろう、未だに俺には謎だ。
「申し訳ないですが、暫くはベスの魔法習得速度に付き合って下さい」
「はい、ベスは友人だと思っているし、放っておけないので気にしないでください」
「ベスが放っておけないのも有りますが、協会にも報告書を出したいので手伝ってほしいのです」
「そう言えば、そんな事も昨日言ってましたね」
「はい、今後の参考になるようにしたいのです」
「分かりました」
エマ師匠はドリーに聞くと、ドリーも同意してくれたので、ベスの習得速度に合わせることになりそうだ。
エマ師匠はドリーとベスの相性が心配になったようで、ドリーに尋ねる。
「ドリーは、ベスと一緒にいるのは楽しいですか?」
「ドリーはベスだいすき、楽しいよ!」
「それならベスと色々と、話しましょうね」
「うん!」
そう言えばドリーはベスには人見知りをしていないことを思い出す、相性が良かったのか、アルバトロスに来て色々な人に会って、ドリーも成長して来たのだろうか。
そんな話をしていると屋敷に着いたようで、馬車を降りるとメイドさんが来て、今日は魔法の訓練を先にして、その後に部屋で話をすると言うので、必要な物を準備する。
ドリーが弓をベスに見せたいと持って来たので、持ち込んでいいかメイドさんに聞くと、一度預けて貰えれば問題ないと言われたので預けておく。
俺たちが訓練をする場所に着くと、ベスもすぐに来た。
お互いに挨拶した後に、ベスがエマ師匠に声をかける。
「本日もよろしくお願いしますわ」
「はい、ベスよろしくお願いします」
「今日はどのようにしますの?」
「昨日と同じ順番で魔法を使う予定です。魔法習得に全力で魔法を使うことを、見る事が効率的であるか、確認したいと思っております」
「エドとドリーの訓練が、遅れてしまうのではなくて?」
「二人には事前に確認しておきました、なので問題ありません」
「それならば良いですわ」
ベスも納得した様子なので、エマ師匠は俺に魔法を使うように言ってくる。
「ではエド、魔法を使って下さい」
「はい」
俺は魔法を使い慣れて来たこともあって、魔法を発動させるまでの動作が早くなっていると感じたので、ベスに見せるようにゆっくり丁寧に、魔法を使うように意識する。
魔法で水の玉ができると、エマ師匠が昨日と同じように維持するように言われ、少しすると消して良いと言われた。
「意識してゆっくりと魔法を使いましたが、どうでしたか?」
「確かに分かりやすかったですわ」
「それなら良かった」
どの程度意味があるかは分からないが、ベスが分かりやすかったと言ってくれたので、成功と言えるかもしれない。
エマ師匠が、ベスに魔法を使えるか声をかける。
「ベス、準備ができたら魔法を使って下さい」
「はい、それでは行きますわ」
そう言うとベスは、魔法を発動させようと魔力を動かし始める。初めて魔法を使った昨日と違い魔力が動かしやすそうだ。
魔法が使われるとベスは辛そうにしながらも、暴走させないようにと耐えているが、魔法が暴走しそうになって行き耐えられなくなって、暴走してしまうかと思った瞬間に、エマ師匠が魔法を消してしまう。
「魔法を発動させて、かなりの時間持たせられましたね」
「それでも暴走してしまいましたわ」
「暴走については魔法を覚える時には絶対に通る道になりますので、暴走するまでの時間を延ばしていくのが重要になってきます」
「そう言うことですの」
「はい、それに今日は記憶が飛んでいないのでは?」
「確かにそうですわね、最初から最後まで記憶がありますわ」
「昨日よりは確実に成長しておりますし、魔法の習得速度はかなり速いです」
「そうなんですの」
確かにベスの魔法を覚える修得速度は、早いと言われている俺やドリーとも、そう変わらないように感じる。
エマ師匠は次に、ドリーに声をかける。
「次は、ドリーが魔法を使いましょう」
「うん!」
ドリーが魔法を使うと、ベスが何かに気づいた様子で呟く。
「何か分かった気がしますわ」
ベスは何か魔法についての切っ掛けを掴んだようだ、俺やドリーにも有ったことがベスにも起きたようだ。
エマ師匠はドリーに魔法を消すよう言って、消えたことを確認するとベスに確認する。
「ベス、何か掴んだようですね」
「理解ができた気がしますわ、言葉にするのは難しいのですが」
「魔力と魔法を使うことは個人差がありますから、無理に言語化する必要はありませんよ」
「そう言うことですの。それで詳しい説明をしないで、すぐ実践だったのですね」
「その通りです、下手なことを教えると覚えるのに邪魔になりますので」
ベスが説明に納得したところで、今日の魔法の訓練は終了となった。
終わったところで、ドリーがベスに話しかけている。
「ドリーは、弓もってきたの」
「あら、昨日言っていたものですの?」
「うん、あずけてるの」
そう言うとメイドが弓を預かっていることをベスに報告すると、ベスは弓を持ってくるように言う。
弓を受け取ったドリーがベスに見せていると、ドリーがベスは弓を使わないのかと尋ねる。
「私は、弓はそこまで上手ではないですわ」
「そうなんだ」
「せっかくですから、一緒に練習しますか?」
「うん!」
ドリーの返事にベスはメイドさんに、自分の弓を持って来るように言う。メイドさんは取りに戻って、弓と昨日と同じように女性の騎士を連れて戻ってきた。
「テレサ、弓を二人と練習しますわ」
「分かりました、必要であれば助言します」
「お願いしますわ」
女性の騎士はテレサさんというらしい、教えて貰うのだから名乗っておいた方がいいだろう。
「エドワードと言います、よろしくお願いします」
「ドリーは、ドロシーなの」
「テレサと言います、エリザベスお嬢様の護衛と指導をしております」
自己紹介が済んだところで弓を構えると、テレサさんが気づく。
「お二人は冒険者か猟師に、弓を教わりましたか?」
「はい、元冒険者で今は猟師をしている人に教わりました」
「そうですか、騎士が使う弓と、一部の冒険者などが使う弓は、構え方や弓が違うのです」
「そうなんですか?」
「騎士などは横一列で射ったりしますので、隣と当たらないように縦に構えますが、冒険者などは横向きに構えるものもいます」
「確かに、俺は横向きに教わりました」
俺が納得していると、テレサさんは迷った後に提案してくる。
「騎士が使う弓を用意するので試してみますか?」
「良いんですか?」
「感覚が違うので、試してみて自分に合っている方を練習すると良いですよ」
「確かに感覚が違いそうです、試してみても良いですか?」
「ええ、予備の弓を持って来させます」
テレサさんはそう言うと、近くにいたメイドさんに弓を持って来るようにお願いしている。
弓が来るのを待っている間に俺の弓をベスに貸して、横で構える弓の射ち方を教えると面白そうにしている。
メイドさんが弓を持って帰ってくると、俺とドリーに渡して、構え方を教えてくれる。テレサに教わって弓を楽しんだ後に疑問を質問する。
「何故、弓は縦と横で違うんですか」
「何を相手にするかの違いと言われていますが、弓は効率を無視すれば構え方はどちらでも良いのです」
「どういうことです?」
「弓を魔道具化するのです、弓の価格は高くなりますが、威力は上がり魔物が狩りやすくなります」
「狩りやすくとは、普通の弓ではダメなんですか」
「牽制にはなりますが、普通の弓では止めを刺すには威力が足りません。弓を魔道具化しても一定以上の相手には厳しいので、冒険者でも弓以外の武器を持つのが普通だと聞いたことがあります」
「確かに、弓を教わった人も剣を持っていました」
「そうですか、剣は教わらなかったのですか?」
「いえ、棒の振り方なら教わりましたが」
「少し振ってみて下さい」
そう言うと木剣のようなものを渡されたので、振ってみると。
「それは剣の振り方ですね、騎士の剣とは違いますが、剣を買えば十分使える技量があると思います」
「獲物に止めを刺す時に、撲殺できるようにと教わったんですが、剣の振り方だったんですね」
ケネスおじさんは、俺とドリーに色々と教えてくれていたが、剣の振り方まで教えていてくれたらしい。
俺の質問が終わったので、一度汗を流そうと言う話になって、別れて風呂に入ることになる。
ちなみに着替えの服はお礼の意味も込めて用意してくれたようで、そのまま貰ってくれと言われてしまい、断るのも失礼かとありがたく貰っておく。
風呂から出ると、部屋に案内されて皆を待っていると、皆が部屋に入ってくる。
「服とかありがとう、ベス」
「エド、気にしなくて問題ありませんわ、注文した服は少し時間がかかるようですの」
「服楽しみにしてるよ」
「ええ、楽しみにしておいて下さいませ」
メイドさんがお茶を淹れてくれたので飲んでいると、ベスがシャンプーとトリートメントについて話してくる。
「シャンプーとトリートメントを使ってみたのですが良いですわね、試した者に聞いても評判が良いですわ」
「それは良かった」
「なので追加で欲しいのですが、用意できますの?」
「数によるかな」
「昨日頂いた数の同じか、それ以上欲しいのですわ」
「そんなに?」
「無理ですの?」
「俺とドリーで作ってるから、一日でそこまで大量に作れないんだ」
「そうなんですの」
エマ師匠が知り合いに配り始めた時点で、俺とドリーだけで作ろうと思ったのが無理があったのかも知れない、どこかに相談すべきだろう。
「薬師組合で揃う素材で作れるから、誰かに依頼して作って貰うかな」
「それならばメガロケロスからの依頼だと言えば、作り方が簡単に漏れることはなくなりますわ」
「メガロケロスの名前を使って良いの?」
「私にも多少の裁量がありますが、後で小言を貰わないために、お母様にも連絡しておきますわ」
そう言うとメイドさんに、母親への言伝と、実物を持って行くことを、ベスは頼んでいる。
俺が最初から依頼して量産体制を取らなかったのは、特許や著作権のようなものが存在していないと、エマ師匠から聞いているためだ。
だが、貴族であるメガロケロスの名前を使えるなら、作り方が漏れることはそうそう無くなるだろう、薬師組合のグレゴリーさんに相談してみても良いかも知れない。
「もし許可が出るのなら、薬師組合の知り合いに相談してみようと思う」
「お母様の返事次第ですが、量を作れるようになったら定期的に買いますわ」
「分かった、でもそんなに量が要るの?」
「先ほどのテレサも試して気に入りましたし、私の周りの者は欲しがっておりますわ」
「確かに、それは凄い量必要かも知れない」
これは俺とドリーが作るだけでは絶対に間に合う量ではないので、メガロケロスの名前が使えなくても、作り方を売ってでも量産して貰うべきだろう。
やることが増えるが、量産するなら香りをいくつか用意しても良いかも知れない。
「ちなみに、ベスはどういう香りが好き?」
「匂いですの?」
「シャンプーとトリートメントに匂いがしたと思うんだけど、あれはエマ師匠とドリーの好みで付けた香りなんだ」
「そういうことですの」
「好きな精油だとか、花の香りだとか、基本的に精油の香りは付けれるかな。具体的でなくても甘い匂いだとか、すっきりした香りとかでもいいよ」
「それでしたら私は、甘すぎない香りがいいですわ」
メイドさんがベスの好きな精油があると言うので、持ってきて貰うことにする。
持ってきて貰った精油の匂いを嗅いで、メイドさんがどう配合しているかも知っていたので、そこからどう調整すればいいか、ベスの意見を聞きながら考えていく。
おおよそ、どう調整がまとまって、実際に作ったものを今度持ってくると言っていると。
ベスの言伝を頼んだメイドさんが帰って来て、ベスに手紙を渡す、ベスは手紙を読むと。
「お母様から、メガロケロスの名前を使う許可が出ましたわ」
「そうですか、良かった」
「手紙を用意したので、薬師組合のものに渡すようにと」
そう言うと、ベスが読んでいた手紙とは別の封がされたままの手紙を渡される。
「これを渡せばいいんだね」
「渡せば情報は守られる、とのことですわ」
「助かるよ」
「頼んだのはこちらですもの、気にしなくていいですわ」
俺が安堵していると、ベスが続けて驚くことを言ってくる。
「それでお母様も試してみてから量は決めるらしいですが、欲しいらしいですわ」
「え?」
「エドが今してくれたように、お母様のところで香りの調整をした方がいいでしょう」
「俺が?」
「そうです」
俺は固まりつつ、服がないことを思い出す。
「ベス、着て行く服がないんだけど」
「そう言われると確かにお母様と会うには年齢的に許される気はしなくもないですが、ちょっと難しいかも知れません。協会の制服はないんですの?」
「作って貰ってるけど、まだ出来てないと思う」
「ならエドとドリーの事情を説明することを許してもらえるかしら、そうすれば問題ないと思うわ」
俺は辺境伯の依頼でターブ村が調べられているし、隠したところで意味がないと思っているが、エマ師匠にも話しても問題ないか尋ねると。
辺境伯の奥様なら問題ないと言ってくれたので、ベスに問題ないと伝える。
「アルバトロスに来た事情を話すことは問題ないよ」
「分かりました、お母様に話しておきますわ。会うのは明日以降になるので、決まり次第お伝えしますわ」
「分かった」
今日は何事もなく帰れると思っていたら、また想定外の製作依頼を貰ってしまった。
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