予想外の頼まれごと
二日後、魔力をさらに細かくした魔法も、俺とドリーは成功させた。
エマ師匠に褒められた後に、今日の予定を話してくれる。
「今日の仕事は連れて行けるのが、ドリーだけになるの、ドリーどうしますか?」
ドリーは不安そうに俺を見ているので、俺はドリーにどうしたいか尋ねる。
「ドリーはどうしたい?」
「にーちゃ」
完全に迷ってしまったようでドリーは困っている。俺は理由があれば行けるようになるかも知れないと、考えてみる。
「ドリー、もしエマ師匠と一緒に行くなら、後でエマ師匠の治療の様子を教えてくれるか?」
ドリーは迷っていたが、俺の言葉でどちらにするか決まった様子で、返事をしてくれる。
「にーちゃ、ドリーいってくる」
「そうか、エマ師匠の言うことを聞くんだぞ」
「うん!」
ドリーはエマ師匠と一緒に向かうことに決めたので、エマ師匠にドリーのことを頼む。
「エマ師匠、ドリーを頼みます」
「はい。安心してください、しっかり見ていますので」
エマ師匠とドリーが魔法協会を出ていくと、俺は部屋で服を縫い始める。
作業時間が少ないため、ドリーの服のようにすぐ出来なかったが、もう少しで出来そうだ。二人が帰ってくる前に仕上げてしまいたい。
集中して服を作り上げると、二人が帰ってくる前に無事作り終わったので、どうしようか迷っていると、部屋にドリーとエマ師匠が入ってくる。
「ただいま!」
「おかえりドリー、エマ師匠」
「はい、ただいまエド」
帰ってきたドリーは、俺にエマ師匠の治療が、どう言う風だったかを詳しく教えてくれる、それを相槌を打ちながら聞いていく、話終わるとドリーにお礼を言う。
「ありがとう、ドリーよく分かったよ」
「うん!」
俺が居なくてもドリーは問題なかったようで安心した。エマ師匠に改めてお礼を言っておくべきだと思い、お礼を言う。
「エマ師匠、ありがとうございました」
「いえ…」
何故かエマ師匠は若干気まずそうに、返事をしたのが気になり、聞いてみる。
「どうかしましたか?」
「それがエド、少し困ったことになりました」
「何かあったんですか」
「治療先で親戚の魔法使いに会ったのですが、頼まれごとをされまして」
エマ師匠が長期間の仕事に行かなければならない、とかだろうか。
「エマ師匠にどういう頼み事をしたんですか?」
「それが私ではなく、エドとドリーに頼みたいと」
「俺とドリーですか?」
「ええ」
俺とドリーはまだ魔法使いと名乗れるような技術はないので、シャンプーやトリートメントなどの薬師としての仕事だろうか。
「それは薬師としての仕事か、シャンプーかトリートメントについてですか?」
「シャンプーやトリートメントを渡した所なので、頼み事は違うの」
「そうすると、俺とドリーが役立てそうなことは思いつきませんが」
思い浮かんだ考えを出したが、どちらもエマ師匠は違うという。他に思いつかないので、エマ師匠が教えてくれるのを待つ。
「魔法使いとしての仕事というか、一緒に魔法を覚えるようにお願いしたいと」
「え?」
エマ師匠の説明が理解ができず混乱していると、エマ師匠が詳しく教えてくれる。
「エドと同じくらいの年齢で、魔法使いの才能がある子が居るのだけれど、魔法を覚える気がないようで困っているらしいの」
「魔法を覚える気がない?」
「そう」
俺としては信じられないのだが、何か事情があるのだろうか。
「目指しているものがあるとか、事情があるんですか?」
「目指しているものは、聞いた限りなくは無いみたいだけど、正直私も話を聞いただけでは、よく分からなかったの」
「目指すものに魔法はいらない、ということですか」
「おそらくだけど、その通りだと思うんだけど…」
エマ師匠もこんなことは珍しいのか、歯切れが悪くなかなか要領をえない。
とりあえず会ってみないと分からないだろうし、一度会ってから一緒に魔法を覚えるのか決めれば良いのでは。会って相性が悪そうなら断れば良いだけだろう。
「一度会って、俺とドリーが相手との相性が悪そうなら断れるんですかね?」
「そうね、一度会ってからでも断れるわ」
「それでは一度会いませんか、相手は協会にいるんですか?」
「いえ、協会には居ないから、その子の家に向かうことになるわ」
「居ないんですか、俺と同じくらいの年齢なら親元ですか」
俺と同じくらいの年齢なら、協会の寮に普通は住みはしないだろうと納得していると、エマ師匠がとんでもない事を言い始める。
「それで、その子の家なのだけれど、辺境伯の屋敷なの」
「は?」
エマ師匠が言った事が信じられなく、俺は固まった後に、慌てて質問する。
「辺境伯って、あの辺境伯ですか?」
「そう、メガロケロス地方を治める、メガロケロス辺境伯よ」
「メガロケロス辺境伯ですか。アルバトロスではなく」
「アルバトロスは、メガロケロス地方にある一つの都市ね」
「なるほど」
勝手にアルバトロス辺境伯だとばかり思っていたが、メガロケロス辺境伯だったらしい、思わず聞いた事がなかったので聞いてしまったが、辺境伯の家の子ってつまり…。
「その、メガロケロス辺境伯の家の子って、つまりその…」
「辺境伯の子供よ」
「やっぱり、そうですよね」
「ええ」
辺境伯の子供が、何かを目指しているから魔法を覚えないというのは、立派な辺境伯を目指しているとか、そういう事だろうか。
「辺境伯の子供が魔法を覚えたくないというのは、立派な辺境伯を目指しているから、とかですか」
「違うらしいの、辺境伯のような立派な戦士になりたいと」
「え?戦士?」
「戦士よ、後言ってなかったけど女の子よ」
「ええ!女の子!」
もう意味が分からない、エマ師匠の歯切れが悪かった理由が分かったが、俺は困惑するしかない。
「とりあえず、一度会ってどうするか決めるべきだと思うの。話を聞いただけで断るのは流石に失礼すぎますし」
「はい」
「親戚の魔法使いも、私に泣きつくくらいには限界みたいで、手伝えるなら手伝ってあげたいの」
「分かりました」
「エドとドリーとの相性もあるだろうから、無理だったら無理って言って、断って良いと相手からも言われているから」
「断っても問題ないと相手から言われているなら安心です。では一度会ってみようと思います」
「そうして貰えると私の親戚も喜ぶと思うわ」
「はい」
エマ師匠の話を聞いていて思ったが、エマ師匠の親戚は辺境伯の子供に魔法を教える立場ということで、魔法使いの一家という事なのだろうか。俺とドリーのように魔法使いは偶然生まれるだけかと思っていたが、違うのだろうか。
「ところでエマ師匠の親戚も魔法使いなんですね」
「そうですね、魔法使い同士が子供を作ると魔法使いが生まれやすいのです」
「そうなんですか、知りませんでした」
「貴族は自然と魔法使いが殆どとなっていますし、リング王国の貴族は意図的に魔法使いにしていますね」
魔法使い同士が子供を作ると魔法使いとなるのなら、貴族の大半が魔法使いというのもなんとなくわかる。
戦争が起きて活躍するのはどう考えても魔法使いだろうし、ターブ村で勉強を教えるのが協会だった事を考えると、魔法使いは知識階級に相当するのだろう。
そう考えると、リング王国の貴族が魔法使いを意図的に作り出そうとするのも理解できる。魔法を使う才能があれば魔法使いには絶対成れるし、切っ掛けがあれば貴族にだってなれる可能性がありそうだ。
「魔法使いが生まれやすいのなら意図的にやろうとする意味も理解できます」
「うまく行かない場合もありますし、エドやドリーのように突然生まれてくることもあるので、私は無理にまで魔法使い同士である必要はないとは思いますがね」
「確かに、俺とドリーは魔法使いではない親の下に生まれましたから、兄弟で魔法使いは珍しいんですかね」
「そうですね、一人だけならありますが、二人となるとかなり珍しいかと」
俺は神に能力を貰っているはずだが、ドリーは偶然なのか地球の知識で言うと隔世遺伝とかになるんだろうか。ただ俺は親しか知らないので、祖先に魔法使いでもいたかは分からない。
そう考えると、エマ師匠は魔法使い同士で生まれてきた家系なのだろうか。さっきの話を聞くにエマ師匠には拘りがないみたいだが、失礼かもと思いながら興味が捨てきれず聞いてしまう。
「エマ師匠は親戚も魔法使いだし、そういう家系なんですか」
「私はどちらもですね、親戚は騎士なのです」
「ということは、エマ師匠も騎士なんですか?」
「私は違います。曽祖父が同じ人なので、祖父の代から貴族ではなくなりました」
「家を継いだ人が親戚のお祖父さんで、エマ師匠のお祖父さんは家を継がなかったという事ですか」
「その通りです。ちなみに騎士は貴族と言っても微妙な立場なので、魔法使いを維持し優秀な魔法使いを輩出しようと努力していますね」
「ということは、辺境伯の娘さんに教えているのだから、エマ師匠の親戚はかなり優秀なんでしょうね」
「そうですね。比べるのが難しいですが、私以上の魔力に技術があるので、魔法使いとしてかなり優秀かと」
「すごい人なんですね」
「そうでないと、辺境伯の子供に魔法を教える事になんて、ならないでしょうから」
「確かに」
エマ師匠の説明で、辺境伯の子供に魔法を教えている、親戚の優秀さがなんとなく理解できた。
だがそんな人物が泣きの入った状態でエマ師匠に助けを求めるとは、どんな状態なのだろうと怖くなる。
結構エマ師匠と話していたが、ドリーは何も言う事なく聞いていたのだが、理解できただろうかと心配になる。
「ドリー、話分かった?」
「んー、なんとなく?」
「そうか」
正直俺も分かっているのかと言われたら分からない事が多いので、ドリーが理解できないのも分かる。辺境伯の娘がドリーと相性が悪いようならその時点で断るしかないので、会ってみるしかないのだろう。
「ドリーは、辺境伯の子供に会いに行くのは大丈夫?」
「会ってみたい!」
「そうか、なら会いに行こうな」
「うん!」
ドリーはすっかり会いに行くつもりのようで楽しそうにしている、そんなドリーを見ていて気づく、そう言えば貴族に会いに行くのだから服装はどうすれば良いのだろうか。
「エマ師匠、あの服ってどうすれば良いですか」
「服ですか、協会の制服を着ればいいと言いたいですが、残念ながら二人の分はまだ作っていませんでしたね」
「そう言えば、制服なんてありましたね」
「そうなんですが制服を着る事が滅多にないので、成長することも考えてまだ要らないと思って作らなかったのですが、注文しておくべきでしたね」
「流石にこんな事、予想できないから仕方ないかと」
「そうなのですが、ドリーは新しい服で良いですが、エドが問題ですね」
そう言えば新しい服ができたことを言っていない事を思い出し、伝える事にする。
「そう言えばさっきですが、新しい服作り終えました」
「それは丁度良いですね」
「問題ないか見てもらえますか」
「はい」
エマ師匠に見てもらって判断するため、新しく作った服に着替えてエマ師匠に見せる。
「よく似合っていますよ、エド」
「ありがとうございます」
「正式な場でもないですし、魔法の訓練ですから、その服で問題ないと思います」
「そうですか、良かった」
エマ師匠との話が終わるのを待っていたのか、ドリーが褒めてくれる。
「にーちゃ、かっこいい!」
「ありがとう、ドリー」
ドリーとお揃いにした、フード付きのポンチョを着て見せると、ドリーは喜ぶ。
「おそろい!」
「ああ、ドリーとお揃いの上着にしてみた」
ドリーも上着を着て俺の隣に立って見せると、エマ師匠が褒めてくれる。
「二人とも、よく似合っていますよ」
「えへへ、ありがとう!」「ありがとうございます」
見せるのも終わったし、汚れるといけないので、新しい服から元の服に着替え畳んでいて気づく。新しい服は一枚しかない、魔法の訓練を一緒にやるのなら複数枚要るのではないか。
「エマ師匠、あの服がこれ一枚しかないので、魔法の訓練を一緒にやるのなら、毎日行く事になりますか?」
「そうですね、気付きませんでしたが、一枚では足りないですね」
「はい」
「何枚か服を用意して、協会の制服も作ってしまいましょう」
「制服もですか?」
「もし辺境伯の子供と一緒に魔法を訓練するとなると、辺境伯か、もしくは辺境伯の親族に挨拶する事になるかもしれません」
地球の知識でも貴族と会った事などないし、礼儀作法もわからないので流石に緊張する。
「その、俺で大丈夫ですか? 礼儀作法も知らないですし」
「学友を探しているのは辺境伯側なので、エドとドリーが気にする必要はありません、必要なら教えてくれるでしょう。ですが魔法協会としての準備は必要になります。呼び出されて制服がなくても、エドとドリーが最近協会に入ったから制服がまだ製作中で有りません、っと言い訳ができますし」
協会の説明を受けた時に、そう言えば辺境伯から援助してもらっていると聞いたので、協会としては、援助者に格好だけでも整えておく必要があるのかもしれない。
「普通の服は辺境伯の屋敷に行った帰りにでも古着を買いに行くとして、制服を仕立てましょう」
「仕立てるんですか?」
「協会に緊急用の予備などが有りますが、エドとドリーの体の大きさだと仕立てるしか有りません」
「分かりました、けどどうやって?」
「仕立て屋を呼びます」
「呼ぶんですか、高く有りませんか、払えるかな」
「協会の制服は支給品なので、代金は協会が払うので気にしなくて良いですよ」
「支給品なんですか」
「はい、制服を作っている店は決まっているので、使いを出しますので少し部屋を離れます」
そう言ってエマ師匠は仕立て屋を呼ぶ。仕立て屋はすぐきて俺とドリーの採寸をした後に、仕立て屋に事情を説明して必要な物を洗い出していく。
仕立て屋が帰ると、エマ師匠はお茶を入れてくれ三人で飲んでいると、俺は辺境伯の屋敷に訪ねる日を聞いていない事に気づく。
「エマ師匠、そう言えば辺境伯の屋敷に行く日は決まっているんですか」
「そう言えば言い忘れていました、明日です」
「え!明日!」
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