力こそパワー
まさか呼び出しがそんなにすぐだとは思ってもいなかった。焦るが時間は勝手に過ぎていき、本日は辺境伯のご令嬢に会いに行く日だ。
以前乗った魔法協会の馬車より豪華な馬車を協会から借りて、辺境伯の屋敷に向かう。
もうここまで来たらどうしようもないので、ドリーと共に馬車から外を眺めて楽しんでいる。
門らしきものを潜り馬車は進んでいくが、馬車は止まる気配がない。どれだけ敷地が広いんだろうかと思っていると、ようやく馬車が止まった。
「着きましたね。行きましょうエド、ドリー」
「「はい」」
エマ師匠を見るといつもより着飾っている。流石にエマ師匠も気合いが入っているようだ。
出迎えてくれたメイドさんに名前を確認された後、広い屋敷をメイドさんに先導され、ある部屋の中へと案内される。
椅子に座って待つように言われた。言われた通りに俺たちは座る。
まだ時間があるようなので、礼儀作法をメイドさんに尋ねると「細かく気にする必要はないです」と言った後に基礎的な事を教えてくれる。
メイドさんに礼儀作法を教わった後、エマ師匠が最初に対応すると言う。
「エド、ドリー最初は私が対応します。二人には自己紹介だけ振りますので、後は聞いていて下さい」
「分かりました」「うん!」
少し待っていると、誰か来たようでドアが開けられる。入ってきたのは髪はストロベリーブロンドの赤髪に近く、年齢は俺とほぼ同じだと予想できる女の子だ。
令嬢だと察して、メイドさんに教わった通りに対応すると、相手が話しかけてくる。
「初めまして。エリザベス・フォン・リング・メガロケロスですわ」
「お初にお目にかかります、エマと申します。二人は私の弟子でエドワードとドロシー」
「エドワードです」
「ドロシーです」
「お三方、呼び出したのはこちらですわ。楽にして頂いて問題ありませんわ」
エリザベス様は聞いていたより全然まともな様子だ。エマ師匠もそう思ったのか緊張が緩んだように見える。
エマ師匠は今回の頼み事を断る可能性があると説明し始めた。
「ありがとうございます。今回、二人をエリザベス様のご学友として呼ばれましたが、二人とエリザベス様との相性が悪い場合もあります。もし相性が悪いようなら、お断りする可能性もあることをご承知ください」
「分かっておりますわ、魔法を覚える気のない私に怒ったお母様たちが計画したことですわ。お母様が御三方に理不尽に怒りを向けないよう私からも注意いたしますわ」
エリザベス様は話に聞いていたより全然まともな様子だ。だが自分から魔法は覚える気がないと言い切っている。エマ師匠も同じことに気付いたようで、何故覚える気がないのか聞いている。
「失礼ですが、エリザベス様は何故魔法を覚える気がないのですか?」
「私は、お父様である辺境伯のような立派な戦士になりたいのですわ」
「魔法を使う戦士ではダメなのですか」
「力こそが至上なのです。だからまずは力を極めたいのですわ」
貴族の令嬢が言う言葉でないのは地球の知識なんてなくても分かる。エマ師匠が固まり、ドリーまで固まっている。周囲にいるメイドさんは頭を抱えている。
エマ師匠は衝撃から復活したようで、困惑した様子だが質問している。
「力を極めたら魔法を覚えて頂けるのでしょうか?」
「そうですわね。ただ力を極めると言うのは遠い道のりだと自覚しておりますわ」
「つまり?」
「しばらくは魔法は無理。ということですわ」
何でそこまで力至上主義なのだろうか? というか力って何? 筋力ってことなのか?
エマ師匠はエリザベス様になんとか食いついて行こうと話しかけている。徐々にエマ師匠のエリザベス様への対応が雑になってきている。だが周りのメイドさんは止めもしない。
「魔法使いと言われる最低限の鍛錬だけでも出来ませんか? 三ヶ月程度で終わりますので」
「無理ですわ、一日の休息は、三日の遅れですわ」
「魔法を覚える訓練は、一日一時間もかかりませんから」
「一時間の休息は、三時間の遅れですわ」
「はぁ」
ダメだエマ師匠が諦めた。正直俺もエリザベスが何を言っているのか、訳が分からない。だがエマ師匠の代わりに頑張ってみようと思う。失礼があってもメイドさん達は気にしなさそうだし。
「あの、エリザベス様」
「なんですの? エドワード」
「休息が遅れと言うなら、今はどうなんですか」
「私は辺境伯令嬢でありますから公務があることは自覚しておりますし、そう教えられておりますの」
「それなら魔法を覚える事も公務だと思って、習ってみては?」
「魔法を覚えることがリング王国が貴族に課している義務だとは習っておりませんわ」
一応、理論的には合っているのだろうが釈然としない。
なら、別の視点から説得できないだろうかと考え。
「力を極めるのに魔法が使えるならどうです?」
「どういうことですの?」
「エマ師匠は治癒流派の魔法使いなので、魔法での治療ができます。鍛錬で怪我をした時にも自力で治せます」
「私は辺境伯令嬢ですので、言えば治療して貰えますわ」
「魔法使いは必要な時に魔力を残しておくように節約しているので、断られる事もあるのでは?」
「え…初めて聞きましたわ」
「そうなのですか?」
エリザベスが何をどう教えられているかはわからない為に、周りのメイドさんに視線を向けると答えてくれる。
「エリザベスお嬢様は、魔法関連のお勉強は全て無視して鍛錬しておりますので、聞いていなかったかもしれません」
「あ、はい」
徹底の仕方が凄いというか、今まで怪我をして治療を断られたことがないんだろうか? 鍛錬を絡めれば説得できそうだ。
「エリザベス様、力の鍛錬の為に治癒魔法だけでも覚えませんか」
「そうですわね。断られたら何日も鍛錬を休む事になりますわ」
「どうでしょうか」
「分かりましたわ。魔法を覚えますわ」
「そうですか良かった」
俺が説得に成功して安堵していると、周囲にいたメイドさん達が大喜びしている。
「エマ、エドワード、ドロシー、私の事はベスと呼ぶことを許しますわ」
「ではベス、俺はエドと」
「ベス、ドリーはドリーって呼んで」
「はい、エド、ドリー」
ドリーの受け答えに心配になったが、ベスは気にした様子はない。嬉しげに俺とドリーの名前を呼んでくれる。
俺とドリーと違い、エマ師匠は心配そうにベスに尋ねる
「エリザベス様を愛称でお呼びしていいのですか?」
「私の師匠になるのです。問題ありませんわ」
「私が師匠になるのはいいのですが、今のエリザベス様の魔法を教えているエレンは…」
「エレンも勿論、私の師匠のままですわ」
「分かりました。それなら私もベスとお呼びさせていただきます」
エマ師匠の親戚は、エレンという名前らしい。
続けてエマ師匠が魔法の訓練を始めるのを、いつからにするか尋ねている。
「ベス、魔法の訓練はいつからにしますか?」
「そうですわね、魔法を使ったところで何か支障はないんですの?」
「お腹が空くくらいでしょうか」
「それだけですの?」
「はい、虚脱感などもありませんし、体調の変化は空腹になるくらいです」
「そうなんですの…では時間もありますから今日から始めますわ」
「分かりました」
話が順調に進み、今日から魔法の訓練を行う事になったらしい。メイドさん達が慌てて動き始めた、動きやすい服に着替えるとのことで、ベスは部屋を出て行った。俺たちはメイドさんに屋敷で魔法の訓練をしている場所へと案内される事になった。
メイドさんに案内されていると、エマ師匠と似た雰囲気を持った女性が、エマ師匠に声をかけている。
「エマ、助かりました」
「エレン、私も説得に失敗してしまいましたから…」
「それでもエマの弟子が説得してくれたおかげで、エリザベス様は魔法を覚える気になってくれました。本当に助かります」
「では、エドに感謝しておくべきですね」
「ええ」
どうやらエマ師匠と話している相手は、エマ師匠の親戚でエレンさんだったらしい。エレンさんが俺に話しかけてくる。
「エドワード君、本当にありがとう」
「いえ。偶然説得できただけで、運が良かったんだと思います」
「偶然でも何でも説得できただけ凄いの。今までどれだけの説得も聞いてくれなかったんですから」
「そんなに凄かったんですね」
エレンさんどころか、案内をしてくれているメイドさんまで頷き同意した。どう大変だったか教えてくれる。
エレンさんは魔法の教師として二人目で、最初に魔法を教えた魔法使いが問題だったらしい。
「ベスに最初に魔法を教えた魔法使いが、教え方以前の問題で性格が悪く自尊心が強い人物だったらしいのです。表面上は良い人だったので、皆が問題のある人物だと気づいた時には、エリザベス様は魔法に対して強情になってしまっていました。急ぎ魔法使いを解雇したのですが、エリザベス様は魔法を教わる気は無くなってしまっていました」
今回の説得が上手くいかなければ、エレンも辞めるつもりだったらしく、ベスの母親に相談していたらしい。
ベスが魔法を覚えると言った時に、メイドさん達までが大喜びした理由がよく分かった。
同時に今回の説得が無理なら、リング王国では珍しい魔法使いになりそうだったと教えてくれる。
「ベスはあのまま行くと、リング王国では珍しい他国が使う魔法の魔法使いになりそうでした」
「他国が使う魔法って同じ魔法じゃないんですか?」
「はい。国毎で魔法の特色は違うのです。ベスのように体を鍛えることで覚えられる魔法があります」
魔法使いは全員同じ方法で魔法を使っていると思っていたが違うようだ。
「アルバトロスにも他国の魔法使いが住んでいるので教えられますが、リング王国で使う魔法が使えなくなります」
「使えなくなるんですか?」
「両方使える人も居ますが基本は使えません。そうなると同じ魔法を使えるのもあり、嫁ぎ先の候補が他国になる可能性が高いので皆心配していたのです」
「他国に嫁ぐのはダメなんですか?」
「別の魔法を使う国は仲の良い国ではありますが、簡単には会えなくなりますからね」
確かに。仲がいい国と言っても、国内より距離は有るだろう。となると他国に嫁ぐとなれば簡単には会えなくなってしまう。確かにそれは親としては心配しそうだ。
「奥様にも良い報告ができます。エド困ったら相談してください、出来る限り助けますので」
「えっと、ありがとうございます。困った事があったら相談します」
下手に断れないくらい興奮しているので、気持ちを受け取っておく。相談するしないは、その時決めれば良いのだし。
魔法の訓練をする場所に着いてベスを待っていると、俺たちに少し遅れてベスがやってきた。ベスは先ほどはそのままにしていた髪を、邪魔にならないよう結い上げている。
エマ師匠とエレンさんが相談した結果。エマ師匠が教えてエレンさんは補助する事にしたらしい。
エマ師匠が魔法の説明を始める。
「まずは魔力と魔法を感じて貰います。魔法を発動させるので、私に触れていてください」
「分かりましたわ」
「ドリーも!」
ドリーはベスとの身分差が今一分かっていないのか、敢えてやっているのか分からないが、ベスとの距離を詰めていく。ベスもそんなドリーが嫌ではないようで。
「良いですわ、ドリーも一緒にエマを触りますわ」
「うん! にーちゃも!」
「俺も?」
「良かったらエドも一緒に触りますわ」
「分かりました。では失礼します」
何故かよく分からないが、三人でエマ師匠を触って魔法が発動されていく過程を感じていく。
数日ぶりに感じるそれは、以前感じた以上に魔力がどう動き、魔法がどう発動していくかが詳細に分かった。
「以上です。ベスどうでしたか」
「不思議な感じですわ」
「そうですね。今まで感じたことのない感覚でしょうから」
「確かに、その通りですわ」
その後に、最初の魔法は暴走する事や、全力で魔力を使って魔法を撃つこと、怪我の可能性がほぼ無い水の玉を作ることなど、俺とドリーが最初に聞いた注意を、エマ師匠はベスに教えていく。
「と言うことで、最初は危険なので水の玉を想像して魔法を発動してください」
「分かりましたわ」
「それでは魔法をと言いたいところですが、杖はお持ちで?」
「杖ですの?」
エレンさんが思い出したように声をかけてくる。
「杖は最初に作ったと聞いているので有るとは思うけれど」
メイドさんの一人が「探して参ります」と言って、屋敷に戻っていった。
「では、杖が来るまでエドとドリーに実演して貰いましょうか」
「エドとドリーは魔法が使えますの?」
「二人は次の段階で、魔力を分けて発動の訓練をしています」
「分けてですの?」
エレンさんが、俺とドリーが魔法を発動させて次の段階に行ってることを驚いたようで、エマ師匠に問いかける。
「すでに魔法が安定して発動できるのですか!」
「驚いた事にエドは三日目に、ドリーは四日目に成功しています。魔力を分けるのも昨日4分割に成功しました」
「それは随分と早い習得速度ですね」
ベスはどう早いのか、よく分からなかったようだ。エマ師匠に聞いている。
「どのくらい早いんですの?」
「普通は一ヶ月かかるところを、一週間程度で習得しています」
「確かに、随分と早いですわね」
ベスが納得したところで、エマ師匠は俺に魔法を使うように言ってくる。
「ではエド、魔法の訓練をしましょう」
「はい」
「分割数は細かくしても良いですし、昨日と同じでも問題ありません」
俺はどうするか考えていると思い出す。魔法を最初に使った後に、ドリーが全力で魔法を使った事が参考になった。その事をエマ師匠に伝える。
「最初に魔法を使った後に、ドリーが全力の魔法を使ったのを見たのが参考になったんです。俺とドリーでベスを間に挟んで全力の魔法を使ってみて良いですか?」
「そんな事があったのですか。魔法使いが同時に同じ師匠に弟子入りして習う事は珍しいですから、今まで知られていなかったかもしれませんね」
「どうでしょうか?」
エマ師匠は少し考えた後に、俺に許可をくれる。
「良いでしょう。二人の習得速度なら遅れとも言えませんし、普通の魔法使いだと魔力は残さないとダメなので、試すことも出来ません。そう考えると二人が適任ですね」
「確かにそうですね。習得が早くなる可能性があったとしても他で試せないなら、意味がないですかね」
「いえ。最初に魔法を使うのが苦手な人もいますし、暴走回数が減るのなら安全になります。今回の結果を発表すれば後は協会が考えるでしょう」
「なるほど」
「ではエド、全力で魔法を使ってください」
「はい」
俺は魔力を全部使って魔法を使うと、ベスが驚いている。
「凄いですわ。魔力が動いたのがはっきり分かりました」
「思った以上に効果がありそうですね。エドもう少し水の玉を維持してください」
自分は了承して魔法を維持していると、ある程度経ったところで魔法を消していいと言われたので魔法を消す。
「ベスが魔力を感じられたようで、良かったです」
「エマの魔法を感じた時以上に、はっきり感じられましたわ」
「最初だから魔力を感じるのが鈍いんですかね」
俺とベスの会話の内容に、エマ師匠とエレンさんが二人で意見を言い合っている。そんな中、杖を探しに行ったメイドさんが戻ってきた。
「杖が見つかりました。どうぞ」
「助かりますわ」
ベスは受け取ると杖を振っている。ベスの振り方が杖ぽくなく刃物ぽい振り方なのは、普段そういう物を振っているのだろうか?
エマ師匠も杖が来た事に気づいて、ベスにもう一度注意を話した上で魔法を使ってみるように促した。促されたベスは迷う事なく魔法を使おうとする。
「では、行きますわ」
促されたベスは魔力を徐々に動かし始めて全体が動くようになると、杖に一気に押し込むように魔力を動かして魔法を使った。
俺には一瞬魔法を制御できた気がするが、暴走してエマ師匠が魔法を消し去る。ベスは気絶はしなかったようだが、一瞬記憶が飛んだようで不思議そうにしている。
「あら?」
「ベス、今魔法が発動して暴走しました」
「魔力を動かして杖に押し込んだのは覚えていますわ。ですがそれ以降記憶がありませんわ」
「一瞬魔法を制御できたと私には見えました。ですがすぐに暴走してしまい、その衝撃で記憶が飛んだ可能性が高いです」
「記憶が飛ぶなんてことが起きるんですの?」
「魔法の訓練で魔法が暴走すると初期にはよくあることです。気にする必要はありません」
「分かりましたわ」
エマ師匠の説明に、ベスは魔法が暴走するとこうなるのかと納得した様子だ。
サブタイトルの力こそパワーって元ネタ知らないんですけど語感が好きです。
メイドに”さん”を付けるか付けないか迷って後から付けたのでついてない場所があるかも。
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