10話
笹薮から現れた大きな羆。叫びだしそうになりながらも、かろうじて声を出さずに留まれた。
(――な、な、本物、だよな、これ!?......ヤバい、殺される!!)
道民歴三十年で野生の羆を見た事三回。それら全ては、車の中からや遠くからで、いずれも危険が及ばない安全圏からの目撃だった。
けれど今、この至近距離はデンジャー以上のデンジャー。体が震えてきた。
(と、と、とと、とにかく逃げなきゃ......素早く猫を抱えて走らなきゃ)
って、バカー!走ったら死ぬだろ!!熊だぞ!?時速車くらいのスピードでるバケモンだぞ!?しかもこいつらあれだろ逃げるやつを本能的に追いかけちゃう寂しがり屋さんだろ!?
(......た、たしか、あれだ。ゆっくりと後退して......)
ふと猫が視界の端に映る。彼女はとことこと熊の元へ歩み寄り、「こんにちは」と挨拶した。
「......え?」
熊が「ぶふーっ、ふごふご」と鼻息を荒くさせ、猫の高さまで目線を落としていた。みようによっては猫にひれ伏す熊のような図になっていて面白い。
って、面白がってる場合か!!
「ね、猫......逃げるぞ、こっち来い」
「え、なんでですか......?」
「なんでって、そいつ熊だぞ!喰われるだろーが!」
怪訝な顔をする猫。いや、勿論猫の表情なんてわからないけど、そんな顔をしている気がした。雰囲気的に。
「アキはそんなことしませんよ」
「......アキ?」
「この子の名前です。アキは肉を食べませんよ」
その言葉に「ふごふご」と同調するようにアキと呼ばれる熊は鼻息を荒げる。
「なんでそんなことわかるんだよ。熊って雑食だろ......食うかもしれないだろ」
「いや食べませんてば......さっきから本人も言ってるじゃないですか」
「え、そうなの?」
「......ん?」
首をかしげた猫。つられて俺も首をかしげる。
「もしかして、この子の言葉わからないんですか?」
「......わかるわけ無いだろう」
逆になぜわかると思ったのか。
「ああ、なるほど。てっきり動物の言葉すべてが理解できる魔法なのだと思っていました」
「......たしかに。言われてみれば、そうだな......なんで猫の言葉だけわかるんだ」
どういう事なんだ?
考えていると熊がまたしても「ふがふが」と鼻息を荒らげ、猫がウンウンと頷いた。
「アキが何か条件があるんじゃないか?って言ってます」
「条件、か。まあ可能性はあるよな」
猫も人化したりするし、この魔法には不明な事が多い。
「......そーいや」
「?」
「もしかして、こいつに会わせたかったのか?猫は」
「ですです。実はお頼みしたいことがありまして」
頼み?ちらりと熊をみれば未だ伏せの状態で、まるで巨大な猫のようだった。
(てか、マジもんの熊なんだよな......すげえ)
リアルな迫力に気圧されしながらも俺は言葉を絞り出す。
「た、頼みって?」
「頼み......それはですね」
ちらりと猫が熊をみると、熊はごろんと寝転がり腹を見せた。
「体を洗ってあげてほしいんです」
「......お、おお、そうか」
熊、転がされた意味あるの?まあ、それは置いといて......体を洗ってほしいか。
「べつに洗うのは良いんだけど......川とかじゃ駄目なの?」
「川は臭いが落ちないので」
「ああ、なるほど。って、そもそも臭い落としていいの?獣的に」
「この子は綺麗好きなので大丈夫です」
「そういう問題なのか」
「ですです。よろしくお願いします」
猫が言うと、熊が起き上がりお願いするように頭を下げた。
良いけど、良いのか?縄張りとか色々困らないのかな。
「とりあえず一回家戻ろうか。洗うにしてもブラシとかいるだろ」
「はい!」
俺と猫は家に引き返し、車用のブラシとバケツ。ホースを車にぶちこみ近場のペットショップへ向かった。そこは車で十数分のところにあるペットショップで、田舎の店ではあるが品揃えも中々豊富と聞く。
連れて行くわけにはいかないので、猫を車内で留守番させ店へと入っていく。そして、店員さんに目的のモノの場所を聞き案内してもらう。
(あった。犬用シャンプー)
あれはどちらかというと猫っぽいけど、まあこれでいいだろ。俺は犬用シャンプーを三本購入した。足りないかもしれないけど。あの大きさだと。
車へと帰り「たでま」と言うと猫が「おかえりー」と尻尾を振る。そのまま熊の元へ車を走らせる。車でかかっている懐かし曲。
「わたし、この歌好きでした」「へえ」
結構昔の曲なんだけどな。どこかで聴いたことがあるのだろうか。
熊と出会った場所へ向かうと、その姿は無かった。
「あれ?いないけど」
「隠れてるんですよ。人が来たら驚かせてしまいますから......窓を開けてください」
ウィーンと猫の乗る助手席側のパワーウィンドウを開ける。
「アキー!来ましたよー!出てきてくださーい!」
猫が呼ぶと笹薮が激しく揺らぎ、熊が顔だけ出した。
「猫、この坂の上の方に公園あるだろ。そこの駐車場まで来てって伝えてくれ」
「駐車場ですか、りょーかい!アキ!上にある駐車場に来てください!」
熊はこくりと頷き、笹薮の中に戻った。まあ、道路走ったら目立つしな。賢い熊だ。
【とても重要なお願い】
もしよろしければ、本編の広告下にある
☆☆☆☆☆→★★★★★にして評価いただけると、とっても嬉しいです。モチベアップに繋がります!
勿論、評価なので皆様の感じたままに、★1でも大丈夫なので、よろしくお願いします!




