060:迷宮透視行⑤
壁のすぐ外には、プリンスの後ろ姿。
隠れている敵の姿も、はっきり視えた。
ユニスから見て左方の横道に隠れて、白炎大佐が銃を構えている。その後ろに金髪のそっくり兄弟が座り込み、ひそひそ話をしている。
イラついているのは白炎大佐だけだ。
そっくり兄弟は壁にもたれて足を伸ばしている。
銃撃が途切れた。
プリンスが横道から走り出た。
あっと言う間に大きな通路の向こうへと消える。
その後を、白炎大佐たちが追って行った。
ユニスは一人になった。
ぎゅっと目を閉じてみる。
目蓋が作った暗闇に、ほのかに白い風景が浮かぶ。でも、それが何なのか、確証が持てない。
「さっきよりは空間が視やすくなった気がするけど……ここも一応、迷図の片隅だからかしら。空間の狭間って、よくわかんないわ。プリンスって器用過ぎ!」
ユニスは上下左右を見回した。
遺跡を構成する空間と、内側にある異次元空間の迷図の外郭が二重にブレたように視える。迷宮よりもさらに位相のずれた空間が、迷宮の中の迷宮『迷図』であるならば、ここは、遺跡と迷図が重なり合っている空間の端っこの隙間だ。
「これは……。つまり、迷宮と迷図が重なる、薄い透き間のような処に押し込まれたわけか」
この空間から迷図であるメイン空間に移動できれば、そのどこかに光珠がある。
それは遺跡と内部の迷宮を造りあげているエネルギーの源であり、遺跡の核たるもの。その性質は、迷図という異次元の一部だ。気配は空間に融け込んでいる。
「あっちみたいな気がするけど、やっぱりここからだと遠いんだわ。正確な在処は近くに行かないと、透視じゃ歪みの影響でぼやけちゃう……」
ここからラディウスまでの道のりには上も下もなく、重なり歪み、よじれた空間が横たわっている。
少し歩いて、ユニスはその場で軽く跳んでみた。
垂直跳びで三〇センチもない。
プールの中で水がまつわりつくように、体は軽いのに、妙に動きが重い。
「しかも、いつもの無重力状態とは勝手が違うし。いつもならひとっ飛び! で移動できるのに……」
ユニスは近道を探すことにした。プリンスがここに入れてくれたおかげで、迷図がある方向の見当はついた。だが、力を貸してくれたプリンスには悪いが、壁の中の複雑な空間を走るより、いったん外へ出て遺跡内の通路を移動する方が早く着ける気がする。
でも、問題もある。非常に動きにくいこの状況で、もう一度この空間に自力で入れるのかどうか、ユニスは自信がない。
「えーい、なんとかなるか!」
ユニスは思い切って、正面の壁から飛び出た。
灰緑色の薄闇が、一瞬で薄明に変わる。
明るさに目が眩んで、目を閉じた――ら、何かに真正面から体当たりした!




