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ルーンゴースト  作者: ゆめあき千路


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34/81

033:七星華宮

 ライトアップされた庭園は真昼のように明るい。幾何学的に配置された木々は鮮やかな緑に映え、見渡す限りあでやかな夏の花が満開だ。


 ユニスと晶斗は一般観光客に交じり、見学コースの順路を進んだ。

 月の彫刻がある噴水前が終点だ。

 一般が入れるのは、ここまで。ここから先にも庭園はあるが、観光用とはガラリと変わった古風な(おもむき)の伝統庭園になる。さらに奥には森があり、その向こうは皇帝一族のプライベートゾーンへと続いていた。


 ユニスと晶斗は、木立の中でほの光る白い煉瓦の道を進んだ。鬱蒼うっそうと茂る森の中、空には星、足元を照らすのは道の端に設置された小さなライトだけ。

 歩くこと十五分。

 いきなり木々が開けた。

 高い鉄柵の門があった。門前に近衛騎士がひとり。金モールの白い制服と赤の肩章、上品な顔立ちの青年は、にこやかに会釈し、ユニスの手の指輪を確認すると門を開けて脇に退()いた。


 ユニスと晶斗の背後で、鉄柵が音もなく閉まる。


 夜の景色を切り抜いて現れたのは、処女雪のごとき白い壁だった。

 純白の壮麗(そうれい)な大邸宅だ。

 正面扉の上と床には北斗七星の意匠。

 帝国の宰相セプティリオン大公ことプリンスの、七星華宮の紋章だ。


 扉の前にプリンスがいた。凛凛(りりしい白の略礼服に、腰には宝石付の瀟洒しょうしゃな剣。雑誌などでおなじみのスタイルだ。


「七星華宮へようこそ。約束を守っていただいて何よりです」

プリンスは優雅にお辞儀した。


「あんたも元気そうで何よりだ。蹴砂の町じゃ世話になったな」

 軽口をきく晶斗をユニスは押しのけた。

「さあ、約束通り来たわよ。何がお茶会よ。親友のマユリカまで利用するなんて」

「おや、どうかしましたか?」

「訊くのはこっちよ。どうして列車の到着時間にマユリカが迎えに来たの? この指輪が取れなくなった理由を教えて」

「とにかく中へどうぞ。話はそれからです」

 プリンスが促した。

 晶斗が、どうする? とユニスに目で問うてくる。

 雇い主はユニスだ。


「いーわよ。行ってやろうじゃないの」

 二人でプリンスの後に連いて扉をくぐった。


 七星華宮邸は、外観から連想した通りの、豪奢な内装だった。


 シャンデリアの光明るい廊下をプリンスの後について進んでいると。

 突然、世界がぐらりと傾いたような奇妙な感覚に、ユニスは襲われた。慌てて軽く頭を振り、辺りを見回してみる。高い天井、艶やかな大理石の柱と長い廊下――――もしかしたら、この建物の雰囲気のせいで、空間の不安定な未踏破の遺跡に入った感覚を連想したのだろうかと、首を傾げる。

 心配になって晶斗を見たら、右手でガードベストの胸ポケットを押さえていた。そこにはトリエスター教授にもらった安定剤のピルケースが入っているはず。

 晶斗も気分が悪くなったのだろうか…………?。

 だが、奇妙な感覚は数歩のうちに消えた。

 晶斗は胸ポケットを押さえるのをやめたし、様子も変わりない。


 だから奇妙な感覚の原因について、ユニスはそれ以上考えなかった。

 

 廊下の突き当たりの階段を十段上ると、スポーツ競技場が入りそうなほど広いホールに出た。

 床は磨き抜かれた黒い大理石だ。左右の壁面にも黒大理石の、丸みを帯びた柱が立ち並ぶ。外にはバルコニーがあるのか、四角い窓は天井から床まで切り抜いたように大きく、今はすべて開け放してある。外の景色は真っ暗だった。


ホールの奥には巨大な祭壇があった。その中央の、一段と高い黒い壇上には、まばゆく輝く薄紫の炎が、淡い黄金色(きんいろ)のオーラを放ち、()けるものさながらにちらちらと(またた)いていた。

 

「あれが世界(ワールド)迷図(メイズ)。我らが祖神フェルギミウスが残したというご神体です」

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