第二話
私には、生まれた時の記憶がある。
正確に言えば、生まれ変わった時の記憶。
前世で事故に遭い、意識が途切れた後。
次に目を覚ますと、赤ん坊になっていた。
しかも、最悪なことに──とてつもなく寒かった。
赤ん坊だから、上手く体も動かせないし、視界もぼやけていた。
目の前で、何が起きているのかすらも分からない状態。
しいといえば、雪が降っていることだけは確かだった。
私は泣くことしかできず、ぎゃあぎゃあと泣き続けた。
(寒い)
(お腹が空いた)
(誰か助けて……)
ひたすら、助けを求めた。
そしてついに──足音が聞こえた。
ザクッ。
ザクッ。
雪を踏む音が。
ぼんやりと視界の中、一人の影が見えた。
長い銀髪。
金色の瞳。
黒色のローブを身に纏っていた。
その正体は、アランさんだった。
けれど、当時の私はアランさんのことを知らなかったため、必死に泣いた。
助けてほしいがままに。
アランさんは立ち止まり、私を見た。
「……捨て子か」
第一声がそれだった。
今思えば、酷い第一声だ。
大丈夫か、とか可哀想にとかじゃない。
「捨て子か」って、少し苛立ちを覚えた。
しかし、アランさんらしいとも思う。
この時のアランさんは、感情表現が不器用かつ、コミュニケーションが最悪だったのだ。
私を見下ろしたまま、アランさんは小さく息を吐いた。
「放っておけば死ぬな」
私は絶望した。
おい待て。
行くな。
帰るな。
助けろ。
そう思った。
勿論、赤ん坊なので、言葉にはならない。
「ぎゃああああああああ!!」
だから、全力で泣いた。
人生最大級に泣き続けた。
すると、離れていった足音が止まった。
「……面倒だ」
ため息を吐き、そう言いながら、私を抱き上げた。
温かかった。
驚くほどに、温かかった。
寒さも、恐怖も、少しずつ消えていく。
安心した私は、気づけば泣き止んでいた。
「静かになったな」
アランさんが呟く。
私は小さな手を伸ばし、アランさんの頬に触れた。
その瞬間だった。
彼が僅かに目を見開いた。
後から聞いた話だが、アランさんはその時、本当に私を拾うつもりはなかったらしい。
食べ物を与え、街へ連れて行くつもりだったそうだ。
だが、結局できなかった。
ある時、理由を聞いたことがあった。
「どうして、私を育てたんですか?」
すると、アランさんは少し考えた後……。
「分からない」
そう答えた。
アランさんらしい返事だった。
けれど今なら思う。
ただ言葉にしない。
五百年という長い時間を生きてきた彼は、その時すでに疲れ切っていた。
一人でいることに対し、嫌気を差していたのだと。
──コンコン
編み物をしている最中、不意に窓を叩かれ、私は現実に引き戻された。
「ルナ」
窓の外には、アランさんがいた。
「……何してるんですか」
「ルナが静かだから、心配になった」
「ただ編み物しながら、昔のことを思い出していただけです」
「そうか」
アランさんは少し安心した表情を見せた。
「ルナ」
「何ですか?」
「昼食が出来た。外に出てこい」
「それを先に言ってください!」
私は椅子から飛び降り、外へ向かった。
アランさんの元へたどり着くと、小さく笑っていた。
その笑顔を見ながら思った。
あの日、雪の中で死ななくて良かった。
あの日、アランさんに拾われて良かったと。
(まぁ、本人には言わないけどね)
そんなことを思いながら、席に着き、アランさんお手製のおにぎりを頬張った。




