7 湖畔にて
途中のコンビニで、お互いおにぎり二個と飲み物を買って、湖畔に到着したのは古書店を出て約30分後だった。
坂を登ってきたこともあって、ダウンジャケットの前は大きく開いている。
それでも汗をかいてしまった。
「湖って言うほどの大きさじゃないよね」
岸辺の砂利に自転車を止めて七巳が言う。
「そうだね。なんとか大池って名前のほうがしっくり来るよね」
僕もそばに自転車を止めて対岸を眺めてみる。
500メートルくらい先の岸辺は、水面近くまで木々が生い茂りぐるっと見渡しても道路に面している部分はなかった。
「あれかな?」
七巳が指差す方を見た。湖の真ん中よりも右寄りに微かに島影が見えた。
島というほどの存在感はない。
ほんの少し水面から地面が顔を出している程度だから、何気なく眺めているとそこに島があるとは気づかないだろう。
木が一本生えているようにも見えるけど、遠いし背景の森に溶け込む形でよくわからない。
「双眼鏡でも借りてくればよかったね。右の方に回ってみようか」
七巳は古地図の探索に積極的だな。
僕の方はどうせなにもないと思っているから、探索には乗り気じゃなくなっていた。
それよりも、この胸の中に揺れる気持ちをどう伝えるか、それが今の僕の最重要事項なのだから。
七巳が遊歩道を歩いていく。遊歩道は自転車禁止ではなさそうだったけど、距離も近いし、歩いたほうが話もできる。だから僕も自転車は置いて歩き始める。
汗をかいた身体が急に冷えてきて、くしゃみが出た。
「ああ、自転車おりたらすぐチャック上げなきゃ駄目だよ。知らず知らずと体温下がるんだから、風邪引くよ」
振り向いた七巳が僕のダウンジャケットのチャックを引き上げてくれた。
あ、ありがとうと吃ってしまう僕。うん、青春漫画だな。
このまま、僕はキミが好きなんだ! と告白したらどうだろう。
その後の展開を少し想像して、首を振った。
いや、やっぱり駄目だよな。それは約束が違う気がする。
だいたい、彼女のことを好きになった僕が、なぜ彼女に会いに行かずに、次の大会の試合であたるまで待っていたのか。
彼女の実力なら、僕が試合で負けない限り必ず当たることになるはずだったし、それにもう一つ、彼女に告白する時は、彼女に勝ったときだと心に決めていたからなのだ。
そして問題がもう一つ。彼女が普通の男女関係しか受け付けない人だったら、僕は最初から対象外になるのだ。心が男でも、身体は女だから。
さっき僕があっさり村先を追っ払った言葉、あんたは対象外だから、この言葉を今度は僕が言われることになるのだ。
七巳からその言葉は聞きたくない。それを聞くくらいなら、このまま友達、いや終生のライバルとしておいたほうがいいのかもしれない。
うつむきがちに七巳を追いながら、そんな事を考えていると、彼女の歓声が聞こえた。
「ほら、あれ見て。木が生えているよ。松の木かな?」
七巳に促されてみてみると、さっきよりはっきりと島影が見えた。
確かに湖面から浮き出した地面に一本の木が生えている。
反射的にその上空を見つめてみる。
「でも、なにもないよね、あのマークに関係するようなもの」
七巳の言う通り、どんなに目を凝らしてみても、そこには透明な空気しかなかった。あのマーク自身が意味不明だったしな。




