12 ビデオ映像を調べる
「さてと、まずは気を落ち着けて、ビデオを見てみるか」
左端に座った池水さんが七巳の膝の上においたモニターを操作した。
僕と七巳が並んで座る両脇に池水さんと楽々浦がくっついた形だ。
皆でモニターを見るためにくっついている。
僕の鼻先に七巳の髪の毛がするりと来ていい匂いを浴びせる。
悔しいなあ、なんでこんなに好きなんだろう。
「あ、そこちょっと止めてください」
僕の右の楽々浦がモニターを指さして言った。
「その、木の枝みたいな細いもの、巻物みたいに見えませんか?」
楽々浦が言うのは、僕もちょっと気になっていた箇所だった。
島の上空から見下ろした草の原に、細くて黒い枝みたいなのが何本か落ちているのが見えている。
「きっと、古地図の巻物よ。この町に散らばる古地図は、本物はカラスが持ってきたものだったとか」
七巳も彼らの不思議好きに調子を合わせるように言う。
バカバカしいという思いは、今は感じなかった。
確かにドローンは消えて、別の何処かの場所の映像を送ってきたのだから。
映像が進んで、今度はその別の場所に切り替わる。
島の状況は雪に覆われていて、それ以外はどこか違うところが有るのか無いのかわからなかった。
しかし、カメラの向きが変わって岸辺を移した時、僕らの今いる遊歩道はそこには映っていないのだ。
二分の一倍速でゆっくり再生していると、ライブ映像では気づかなかった人影が映っているのが見えた。
「あ、ここ誰か居るよ」七巳がモニターを指差す。
一時停止になった映像を皆でじっくり観察してみた。
全身黒ずくめの人物が立っているのが映っていた。
そこだけ林が途切れて空地になっていたのだ。
しかしモニターの中では二センチくらいの人影だから詳細はわからない。
スロー再生に切り替わると、その人物がゆっくりと横を向いた。
そして、その横顔には黒光りするくちばしが付いているのが見えた。
なにかのお面を被っているのかな?
うーむ、と深呼吸をした池水さんが唸った。
「これは島に渡って調査する必要があるな。ボートを用意するから、楽々浦くん行ってきてくれ」
池水さんはそう言って立ち上がり、スマホを取り出してどこかに電話をかけ始めた。
「ここって、ボート置いてあるの?」
七巳が聞くと、
「確か常設のボートはあるはずだよ。救難用とかで」
楽々浦が答える。自転車デートの後はドライブで、今度は船旅か、今日は盛り沢山だな。
ふと時計を見ると、もうすぐ午後二時になるところだった。
「よし、話がついたぞ。行くぞ」
ドローンを片付けた池水さんが先に立って、遊歩道をさらに奥まで進んだ。
少し歩くと、屋根付きの船着き場があって、手漕ぎボートが留めてあった。
ボートを繋いだ番号式ワイヤーロックを池水さんが外す。
楽々浦が乗り込んで、七巳が続いた。すぐに僕も乗り込む。
「池水さんは来ないんですか?」楽々浦が問うが、
「いやあ、私は重度の船酔い体質でね。10メートルも乗ったらゲロゲロなんだよ」
わかりましたよ、そう言って楽々浦が漕ぎ出した。
小さな湖だからほとんど波もない。光を反射した水面は氷原みたいに見えた。
水はきれいだけど、水草が多くて湖底までは見えなかった。
ゆっくりとボートは進む。次第に島影が近くなる。
僕の前に面と向かってボートを漕ぐ楽々浦、そして楽々浦の後ろに七巳という位置だから、三人とも無言でボートは進んでいった。




