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今回はグロ描写は少な目です。

 3


 結論から述べると、先輩はヒトグイを捕まえることができなかった。あんなにも息巻いて、もし見つけようものならぶち殺してやろうと言わんばかりの気迫だったにもかかわらず、見事に取り逃がしてしまった。しかも行方不明の女性を遺体とはいえ発見したのだから先輩に手柄自体はあるものの、上層部はそれ以上に逃がしたことの責任を追及した。下された処分は減給と監視付きの謹慎。

阿保かと思う。そんな事させてる暇があるならさっさと現場に戻して、ヒトグイ探しの人員に当てる方が絶対効率的なのに、よりにもよって捜査員を人手不足に貶める愚行を犯すとは救いようがない。聞いたところによると、今の上層部は些細なやらかしをしただけの捜査員も容赦なく謹慎、あるいは懲戒処分しているという。

 捜査局長がヒトグイにやられたのが、いや、ヒトグイの警官にやられたのが、そんなにもトラウマなのだろうか。奴らはもう危険な場に出てくることはない身分なのだし、それくらいの緊張感は許容してほしいものなのだが。

「で、先輩はどうしますか」

 そして今。謹慎を喰らってから三日。子供の声でいっぱいの昼間の公園。謹慎を食らったが、先輩は相変わらずヒトグイを追いかけ続けている。一応形だけ監視はいるのだが、前述のとおり馬鹿みたいに現場は人手不足なので、無害そうな捜査員に観察に人を割くことなんて、本来はできないのだ。なので監視役の黒服は、最初の一日だけ監視してし、さっさと捜査に戻ってしまった。それもまた処分の対象なのだが、まあそんなの気にしていられないのだろう。ノルマを課されて追い込みをかけられすぎた社会人がやや冷静な判断に欠け、(この場合は捜査に戻ると首を切られる可能性があるので行かない方が良いのだが)奇行に走ってしまうのと同じだろうか。悪いのは上層部だが。

 先輩は難しい顔をしながら、スマホを片手に、コンビニのおにぎりを齧っている。相も変わらず私のことは無視してくる。そんなに嫌いだろうか。

 社会通念上の正義に忠実な人だ。

 先輩が時折ちらちらと見ているのは、数日前発生した例のさんま食いされた女性の件、どうやら樹海の近くに住む老人が犯行推定時刻に妙な影を目撃していたらしい。曰く、樹海の西の方、つまり私たちのいる公園方面に逃げていった、とのこと。

 まあこんな人がいっぱいの場所で、捕まったら解体ショー行きのヒトグイが人食いするわけなんてないのだから、先輩的には念のため変なのがいないか監視しているつもりなのだろう。   

さながら公園の守護者である。ずっと子供たちを見つめているから、不審者にも見える。

 先輩がこんな不毛なことをしているのも、ただ昼飯休憩がてら守護ってるわけではなく、もう途方に暮れてしまい、せめてまったく無駄な時間を過ごすことにだけはならないように、と監視に徹しているだけなのだ。

 ここ二日間に渡りありとあらゆる聞き込みをしたにも関わらず、何の収穫もなかったから。それについて詳しく説明すると、こそこそ捜査員に見つからないように嗅ぎまわっていた最中に、その捜査員が一切付近にいなかったことからもわかるとおり、公園方面にヒトグイが逃げてきた、というのがどうにもガセ臭いのだ。

 ヒトグイというのは、まあ人間にそっくり—————国家が人間扱いしてないだけで人間なのだが——————確かに普通にしていればそうとは分からないだろう。人食いしていないヒトグイ見分けられるのは、相応の訓練を受けた捜査員に限られる。ただ聞き込みしただけでは、ヒトグイは見つからない。彼ら、情報提供者が発するキーワードをつなぎ合わせ、ヒトグイの習性(人間の習性?)に繋がったら、それを黒と判断する。

 で、その上で何もなかったのだから、まあガセの可能性が高そうなのだ。多分彼らも何にも見つけられず、処分されるのを怯えながら帰路に就いたのだろう。

つまりは徒労だ。

 しかし或る意味、捜査員に謹慎中にも関わらず個人調査しているなんてばれて、ただでさえ生活費が馬鹿高騰してる昨今、いよいよ路頭に迷うという最悪のシナリオは避けられたのだし、或る意味運がいいのかもしれない。

 まあもうそろそろ、先輩にも帰路についてもらった方が良いだろう。こんなことを投げかけてみる。

「まあまあ先輩、一旦彼女さんに電話でもかけて、久々に慰めてもらったらどうです?」

 あの赤く髪を染めた、胸が異様にデカい大女。身長が高すぎてまともに容姿を見れたことがないが、この先輩と釣り合うくらいなのだし、どうせ美人なのだろう。身長と顔面だけはもう努力云々ではどうにもならない。天賦の才ってやつだ。

 で、私の言葉を受けたからなのかどうなのか知らないが、先輩は彼女さんに電話を掛けた。私には絶対に使わない猫なで声と、恋人間で決めている合言葉なのか何だか分からないが下品そうなことを口にしたのち、電話を切り、相変わらず憂鬱そうな顔をしてはいたが、気持ち上気した赤く火照った顔へと変わっていた。そんな先輩もかっこいい…………………嫌、駄目だ。欲情してる男は流石にキショい。てかこいつ、よく考えるとあんな現場目撃しておいて、よく女に抱かれる気になるな。

 やっぱりキショいかもしれない。先日のは私の幻覚だったのかも。

 

 4


さて、捜査員に見つからずに済んだのは良かった、とは言ったものの、私の誘導でもあったのだから言えたことではないが、彼女さんの家に向かったのは、先輩にとって大きな転換点、地獄の扉でもあったわけだ。 

 信じたくはなかっただろうし、そんなこと予想すらしていなかっただろう。

 自分の大切な彼女が、将来を誓い合った女が、ヒトグイだなんてそんなアンハッピーミラクル、先輩に想像できるはずがないのだから。


読んでいただき本当にありがとうございました。次回は「急」になります。

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