「ヴィネの憂鬱」〜鯱〜
――ZAZAZA――
『府警本部より全署員へ指令! 虎党がアレした。至急とんぼり川周辺に規制線を張り、着任した者は浮かれる大阪人を完膚無きまでに制圧せよ! これは府知事の命令である! コレを機に府政に逆らう者全てを殲滅しつつ虎とオリのパレードを合同にせしめるものである。尚、これより本件は【虎の檻作戦】と呼称する! 作戦の成功の有無で府政により君達の給与に反映される旨、心して挑むように! メディアと協力し府警に予算計上する為のアピールの場とせよ! パレード一回分の予算を奪い取れ!!』
――ZAZAZA――
な、何と言う腐った公権力の極み……
この原付きは薬中警官の物か?
閘門に隠した覚醒剤を取り出すのに音が鳴ってバレるのを気にしてか、外した無線機器をバイクのリアボックスに入れたままにするとは……
お陰で解せぬ外道の声を知れたが、とんぼり川に群がる人々を予期したあの光景は、虎のアレによるものであったか……
ん?
確か今宵はシズも、なんばへ試合終わりの直通バスで帰るからどうのと言っ……
――NYA!?――
まずいぞ!?
府警は公権力に物を言わせ、とんぼり川を人海戦術に警棒とガードシートで塞ぐつもりであろうが、それをされてはアレなる物に寄生されし者を川へ落とせなくなる。
漏れ出た苛性ソーダは大川の水量である程度薄まりつつアレなる物も駆逐するであろうが、元々汚い寝屋の川から中和剤となるクエン酸辺りを流し入れさせれば何とか出来よう。
さすれば東横堀に入る強アルカリも東横堀の閘門で、ラジアルゲートの上部から噴き出す踏切代わりの放水に中和剤を入れさせる程度で、とんぼり川への影響は無かろう……
だが、界面活性剤によるアレなる物の殲滅作戦が、税金を食い物にする公権力クズの圧政殺戮作戦のせいで不意になってしまう!
ええい、嵐で洪水を引き起こす我の力もアレなる物が居ては使えぬではニャいか!
「ヴィネ樣、車へ!」
――UNNNYA!――
エンジンを切れ!
とんぼり川界隈は試合終了前から虎のアレ成るを待つ人で埋まっていた筈、今や警察官を運ぶ車両で車道も埋まり、車では横付けも出来ぬであろう。
ハマゴーはココに残り、あの公権力クズ共に我の意を伝え奴等と寝屋川へ行き、東横堀の閘門管理者に連絡し、今より十五分の後に酸性素材を用いて強アルカリを中和させよ!
我はあの薬中警官を伴い、このバイクで戎の橋へ向かいアレなる物を駆逐に追い込む!
薬中に我を大事に扱えと己のスマホを翳せば、勝手に隠した覚醒剤を撒き捨てる様を撮られたと勘違いし、今後はハマゴーの全てに従うであろう!
――NYAAA!――
行け、ハマゴー!
「ははあ!」
――DOTADOTADOTADOTA――
ふむ、虎のアレなら頭パンチのおばちゃんや嗄れ声の姉ちゃんがいつもより早い夕刻前に現れた理由も肯けるニャ。
道楽屋も串カツ屋も何やら壁面で忙しなくしていたのは、アレなる物ではなく虎のアレ成るへの対策であったか!
それで店の早仕舞いにヨシオが……
ふむ、美味い刺身の義を返さねばな。
「うぅわ、ホンマに猫居るやん!」
――NNNAA!――
遅いわっ!
早うせえ薬中、行くぞ!!
――SUTTA!――
「いや、シャチホコやないねんから頭に乗るなや! ヘルメット被られへんやろ! リアボックスに詰めたろかっ!?」
ほおぉ、我をシュレディンガーの猫扱いにする気か?
「何やこの猫、頭の上で爪見して目ぇ細めてからに薄気味悪いなぁ、もうエエわ面倒臭い、このまま行ったれ! 猫がヘルメット代りや、落ちても知らんでえ!」
――NYA!――
行けっ!
――MIIIIIIIIII――
――CHIKAMOTO!――
――CHIKAMOTO!――
――NAKANO!――
――NAKANO!――
「アカン、虎ファンもう大阪城まで来てるやん、俺もうコレ行かんとこかなぁ」
――MORISHITA!――
――MORISHITA!――
いや……
――OHYAMA!――
――OHYAMA!――
歌って練り歩いておるだけではないか!
――TEーRUTERU!――
――TEーRUTERU!――
だんじりの方が余程……
――NANYAA!――
薬中のくせに怯えてないで、はよ行かぬか!
「頭を小突くな! 何やこの猫ホンマに、ウチのオカンやないねんから! 行くよ、行く! やめんさいや、走っとるやろー!」
――MIIIIIIIIII――
――NYA!――
止まれ、薬中!
「痛たたたっ! 髪を引くな! この、オカン猫!」
――KIIIIII――
誰がオカン猫じゃ!
――SUTTA!――
先ずは東横堀の閘門でサブマージブル・ラジアルゲート上部の放水による中和が成功するか確認せねば!
――SHELDON!――
――SHELDON!――
「何処行くねん、そこ等にマタタビでも生えとるんか?」
――SAKAMOTO!――
――SAKAMOTO!――
薬中、そこに居ると酸性物質がかかるぞ。
馬鹿めが!
――KINAMI!――
――KINAMI!――
「うわっ! 冷た!」
――SAIKI!――
――SAIKI!――
お、放水が始まったか。
――IWAZAKI!――
――IWAZAKI!――
ラジアルゲートが起き上がる前に中和されていれば……
――YOKOTA!――
――YOKOTA!――
――IWASADA!――
――IWASADA!――
さて、どうだ。
――UMENO――
――UMENO――
――MURAKAMI――
――MURAKAMI――
ふむ、薄っすらとだが塩が出ておる。
成功だ!
――ITOH――
――ITOH――
完全中和でなくとも構わぬ故。
――OHTAKE――
――OHTAKE――
ん?
ココでも綺麗綺麗を三缶も入れたか……
――NAAA!――
薬中はよせえ、戎の橋へ行くぞ!
「頭小突くなて! ホンマこの猫なんやねんなもう! 行く行く! やめろや、落ちても知らんでー!」
――MIIIIIIIIII――
――ITOHARA――
――ITOHARA――
「戎橋周辺は危険な状態です。車が通るので歩行者は退いて下さい。車の通行の邪魔です止まって下さい。自転車は降りて下さい。我々大阪府警は阪神タイガースよりも頑張っています。皆様の安全の為に頑張っています。道頓堀川付近には立ち寄らないで下さい!」
――KUMAGAI――
――KUMAGAI――
「こちら道頓堀川からスグの道から中継です。先程から阪神ファンが溢れかえり大変危険な状態でして、警察の方が懸命に呼び掛けをして・・・ええ、そうですね、韓国の事件を想起させる程の……」
――KIIIIII――
「アカン! お偉方が視察に来とるやん! 悪いがココまでや、ヘルメット被らな、ほれオカン、歩いてき! ほなな!」
――SUTTA!――
オカン・・・猫ですらなくなったか……
――MIIIIIIIIII――
それにしても……
――ISHII!――
――ISHII!――
猫の目線ですら、ここから戎橋まで見えるのだが……
――KIRISHIKI!――
――KIRISHIKI!――
虎ファンは歌って歩いておるだけで、道を塞ぎ騒いでおるのはメディアと警察の方ではニャいか!
――SHIMAMOTO!――
――SHIMAMOTO!――
これがメディア戦略か、道は開けておるのに闇深きものよのぉ……
――MIECHAN――
――MIECHAN――
して、アレなる物に寄生された者共は……
――SHIMADA!――
――SHIMADA!――
ほおぉ!
――OBATA――
――OBATA――
虎ファンの歌う熱気に己の蒸発の危機を感じたか、水を求めアレなる物が離解しておるではニャいか!
――OYOKAWA――
――OYOKAWA――
タイガースよくぞ勝った!
虎ファンも救われたぞ!
これなら我の旋風一吹きで川へ落とせる!!
――WOAAAOO――
ウォシムンレ
コリディオヌ!!
――NYAAUMU――
――FUHYUUUUuuu――
「うぉっ! 何や、風抜けて気持ちええな!」
「阪神旋風やがな」
――TYAPUTYAPUNN――
ふむ、アレなる物の殆どがとんぼり川に落ちよったわ。
――CHUPUCHAPUCHUPUCHAPUCHUPUCHAPU――
やはり外殻無き単細胞生物にとって界面活性剤の影響は計り知れぬものよ、核組織に相当なダメージを受け暴れ犇めいておるわ。
ん?
アレはアレなる物に寄生されたままの者か?
自らの寄生が離解せずそのまま川へと……
あ、飛び込みよった。
虎ファンでも無く、集りに寄生し暴れるだけのクズが、メディアに唆されて来るからアレなる物に寄生されるのだ!
――PUWOOOON――
ん、難波に直帰便が着いたか。
難波駅の方から六甲おろしが鳴り響……
――NYA!?――
シズが乗っておるバスか!?
ふぅ、何とか間に合ったわ。
それにしても……
甲子園からの直通バスが難波のバス停に着くのだから、虎ファンが戎橋周辺に増えるのは当然ではニャいか、メディアというのは印象操作が過ぎるの……
道頓堀川の歩道でメディアに絆され騒ぎを起こそうとする輩がまだ居るな。
――NNNYA!?――
あ、アレは……
ジェット風船にアレなる物が入っておるではないか!?
何故?
あ、あの馬鹿メディアのクズ共めが!!
印象操作にジェット風船にとんぼり川の水を入れ飛ばしておるのかっ!!
一つ仕置が必要か?
ふふん、嘘をばら撒くその大きな口に、アレなる物をくれてやるか。
「お、トラッキー居るやん!」
「おお! ホンマや!虎吉やないか!」
――AOYAGI――
――AOYAGI――
誰が虎吉だ!
――NISI――
――NISI――
我はライオン……
――HARAGUTI――
――HARAGUTI――
いや、猫ではあるが……
――OKADA!――
――OKADA!――
――OKADA!――
――OKADA!――
――OKADA!――
ん、我に何を?
――ROKKOUOROSINI――
「墨で縦縞入れたらエエん違うか?」
「それエエな!」
――FUNYAA!――
やめぇええいっ!
――SOUTENNKAKERU――
「ここにトラッキー居るでぇええ!」
――WUNYAAAAAAA!――
違ぁーーーーーーーーーう!
――PIIIIIIIIIIII――
――FUNYAA!?――
んんん!?
いや待て、あの方向は……
イカンっ!!
アレなる物が入るジェット風船が栗子の家の方へと飛んで行くではニャいか!
離せ!
離せと言うに!
これ、おどれ等!
我を何と……
虎吉なる者でも猫でもニャいぞ!
よせ、やめんか!
この、この……
――UNNYAAAAAaa――
続くV!!!
▶※注意※
※綺麗綺麗なる界面活性剤の河川投入はネタです。
まあ、実際の事は知りませんが……
※苛性ソーダに関してもネタではありますが、合流下水道になっている海に近い都市部の河川では、凡そ処理場を通して苛性ソーダを配合している可能性は高いと思います。
なので道頓堀川への飛び込みは、東京五輪で小池都知事がトライアスロンを実施させた折の東京湾と同じ程度の、危険な濃度の汚泥処理の出来ていない水質と思われますので危険ですし、飛び込むアレはタイガースファンではありません。
ただ先日の阪神アレ成る前まで雨が降っていないので、雨の降った東京五輪の東京湾よりはまだマシだったかもしれませんね。
※苛性ソーダは劇物なので、顆粒が水に触れ融けると水和熱を発生させ突沸しますので、肌に付けば強アルカリの薬剤火傷等を起こしますので危険です。
また強アルカリの為ガラスを融かします。更に亜鉛やアルミやスズ等を融かす折には水素ガスを発生させる事から、空気と混合して引火爆発する可能性もありますのでご注意下さい。





